ソーシャルゲームの作り方のキモを開発者がレポート~mixiアプリ『サッカー★魂!』の実例

日本デザイナー学院九州校と、姉妹校の日本ビジネススクール九州校による文化祭で10月21日、ソル・エンタテインメントCEOの神江豊氏は「ソーシャルアプリ市場と最新ソーシャルアプリの事例」と題して講演を行いました。

ゲームビジネス 開発
ソーシャルゲームの作り方のキモを開発者がレポート~mixiアプリ『サッカー★魂!』の実例
ソーシャルゲームの作り方のキモを開発者がレポート~mixiアプリ『サッカー★魂!』の実例 全 19 枚 拡大写真
日本デザイナー学院九州校と、姉妹校の日本ビジネススクール九州校による文化祭で10月21日、ソル・エンタテインメントCEOの神江豊氏は「ソーシャルアプリ市場と最新ソーシャルアプリの事例」と題して講演を行いました。

神江氏は最新タイトル『サッカー★魂!byGMO for mixi mobile β』(以下サッカー★魂!)の開発事例について、開発中のスクリーンショットや資料と共に解説。ケータイ向けソーシャルアプリ市場はまだ黎明期で、少人数によるアイディア勝負のゲーム開発ができると、醍醐味を語りました。

『サッカー★魂!』は11月18日からmixiアプリモバイルでβ版配信が始まった、サッカーチームの育成が題材の、ケータイ向けソーシャルアプリです。正式タイトルからもわかるとおり、GMOインターネットグループが主催する「アプリやろうぜ!by GMO プロジェクト」から生まれたタイトルとなります。

日本デザイナー学院九州校は福岡市にあるデザイン系の専門学校で、テレビゲーム分野についても、ゲーム&CG科とゲームプログラム科の2コースが存在します。神江氏は元ナムコで『鉄拳』『ガンバレット』などの開発に携わり、2006年に起業。福岡市出身という縁もあり、今回の講演となりました。

ソル・エンタテインメントの神江豊氏文化祭は天神地区の商業施設で行われた開発事例が語られた『サッカー★魂!』


神江氏はまずソーシャルアプリ市場とゲームの特徴について解説しました。もっとも、ここはすでに多くの記事が存在するので、概要を紹介するだけに留めましょう。

まず国内市場的には、モバゲータウン、mixi、GREEという3つのプレイヤーが存在し、それぞれ2000万人強の会員数があること。iモードを筆頭に、フィーチャーフォンと呼ばれる国内向け携帯電話を主戦場としていること(mixiとモバゲーはPC向けもサービス)。三者三様の戦略で世界市場を伺っていること、などがあげられます。

一方でコンソールゲームとの違いとして、▽ハードがインターネット接続済みの端末▽膨大なSNSユーザーがプレイヤー母体▽プレイヤーに「人を誘う」習慣が定着している▽お金のない人とある人が混在している、などがあります。ビジネスモデルも基本プレイ無料のアイテム課金モデル。神江氏は「『ドラクエ』が遊びたいが、お金に余裕がないから、給料日(誕生日)まで待つなどの世界とは、根本的に異なる」と説明しました。

企画的にも、誰でも短時間で、手軽に遊べるわかりやすさが重要です。またプレイヤー同士のかかわりと、ゲームプレイが密接に絡んでいることが望ましいとのこと。いわゆる収集・カスタマイズ・育成・交換などの題材が上げられますが、神江氏はこのプレイ体験を「くすぐりあい」という言葉で表現しました。これを嫌な感じをさせずに提供して、インバイト効果を上げることが、ソーシャルアプリのキモというわけです。

またビジネス面では、SNSのインバイト効果で広がっていくため、大規模なプロモーション費用をかけなくても、ヒットが見込める点を強調。新作がリリースされると、一定期間サイトの新着コーナーなどに掲載されるので、これをきっかけにどこまで会員数と売り上げが伸ばせるかが重要だとしました。そのためにも、サーバが落ちたり、タイトルのインパクトが乏しいままでリリースをしてしまうと、大きな損失になると語ります。

モバイル・ソーシャルアプリの現状と企画面などのポイント


さて、そうしたソーシャルアプリは、どのように開発されるのでしょうか? 神江氏は当時まだ調整中だった「サッカー★魂!」を例に紹介しました。本作は初期開発期間が8ヶ月で、スタッフは全12名(プロデュース*1、企画:4、プログラム*3、デザイン*4)という、ケータイ向けソーシャルアプリとしては、かなり大規模なプロジェクトです。

企画も当初は低予算で世界市場を狙うため、シルエットキャラクターによるワンボタンアクションのサッカーゲームでした。しかし、企画ミーティングを繰り返した結果、まずは足下の日本市場に特化することが重要だと判断し、現在のような「キャラクター重視のパロディサッカー育成ゲーム」に路線変更されました。このように神江氏は、ゲーム開発では当初の企画通り開発が進むことは滅多になく、みんなでアイディアを出し合って練り上げていく傾向にあると語ります。

ロゴもラフデザインを6種類作成し、「見やすさ」「インパクト」「ゲーム内容との整合性」の観点から選択されました。これらは実際にテスト運用しながら、数値分析を元に最終決定される予定です。お客さんの反応が重要で、クリエイターのエゴに固執しても、意味がないというわけです。

題材は同じサッカーでも、大きく変わった開発コンセプト


テーマと方向性が決まれば、具体的な仕様書(遷移図)制作に進みます。具体的な画面デザインや、リンクの関係性、必要な機能などを決定していく、いわばゲームの設計図を作成するステップにあたります。ゲームのプレイ感に直結する部分だけに、開発チーム全員で議論するスタイルも見られますが、ソルでは「メインのゲームデザイナーが一人で、気合いで考えた」と語られました。またツールにはエクセルが用いられました。

仕様書ができあがると、それに基づいてグラフィックデータの量産を開始。その一方でサーバのプログラミングも進められていきます。なお本作ではゲーム中でFlashによるアニメーションイベントも含まれています。現状のケータイ向けソーシャルアプリでは、ゲームプレイがクリック中心になるため、こうしたアニメーションは見栄えに加えて、プレイにリズム感覚を作る上でも、重要な要素です。

もっともハードの限界で、絵コンテ通りにならないことも多いとか。理想と現実のせめぎ合いが如実に出るところですが、ここもかなりこだわりを持って作られたようです。ゲームデータについても、エクセルで表が作られ、1つずつ緻密に指定されていきます。

最後に神江氏はモバイル向けソーシャルアプリ開発のポイントとして、機種依存問題や使用キーの限定、画面サイズが小さいうえに、機種ごとにサイズが異なる、などの点を上げました。特に使用キーについては、決定キーと上下ボタンの3つで、できるだけ操作できるように整理することが重要だと語ります。特に左右キーを使うと、機種によっては画面が切り替わってしまうため、使用しない方がベターだとされました。
 
開発中のスクリーンショット。エクセルをベースに仕様がまとめられていく


ソーシャルアプリは世界中で流行していますが、ことフィーチャーフォン向けのアプリとなると、圧倒的に国内タイトルのシェアが高いのが現状です。これはPC向けに比べて、機種依存対応が大変で、海外企業に対する参入障壁になっているとのこと。国内企業の競争も激化しているものの、Facebookをはじめとした海外市場ほどではなく、まだまだ可能性がある分野だと語りました。

このほか学生向けの講演ということで、常に最新情報を入手するために、アンテナを高く上げておく必要性を強調。オススメのニュースサイトとして、「In the looop」「TechCrunch」を紹介しました。前者はソーシャルメディアの最新情報に強いブログサイトで、後者はインターネットサービスやIT系企業のニュースサイト。どちらも海外の最新事情をいち早く入手できます。

今年1年間で急速に成長した国内ソーシャルアプリ市場ですが、今後はiPhoneをはじめとしたスマートフォン対応と、海外市場への進出が新たな成長課題になりつつあります。本講演を聴いた学生が卒業し、社会に出る頃には、また新たな波が訪れていることでしょう。ケータイ向けソーシャルアプリ市場ならびに、ゲーム業界をめざす学生を取り巻く環境が、今後どのように変化していくのか、『サッカー★魂!』の展開と共に、注目していきたいところです。

『サッカー★魂!』のQRコード

《小野憲史》

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]

関連ニュース