【アナログゲーム決死圏】第5回:『枯山水』製作者インタビュー...ヒットの要因と今後の展開とは

ネットはもちろんラジオや新聞、TV等でも取り上げられ大きな話題となったボードゲーム『枯山水』。今回はそんな『枯山水』の発売元である「ニューゲームズオーダー」の開発・販売責任者の吉田恒平さんに、インタビューをしてまいりました。

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◆ボードゲームの製作過程




――『枯山水』を含め、ボードゲームとはどのように製作されていくものなのでしょうか?

吉田:必ずしも一般的な方法だとは思いませんが、「ニューゲームズオーダー」は元からやっているということもあって、基本的に海外の名作ボードゲームの翻訳版を出すという製作フローと同じようにやっており、最初のステップはルールを作ったゲームデザイナーと契約を結ぶというところです。

その契約を結ぶ判断基準は、どれくらいの収益が見込めるかを考えるのに合わせて、自分たちが面白いと思えるゲームか、お客さんに楽しんでもらえるものかというところでやっています。

次に、そのゲームを幾らで売り、何部刷るのかを考えます。もちろん製作の過程で修正は加えていきます。固定してしまうことで退路を断つのではなく、決めきらなくていいことは、出来る限り決めきらずに余裕を持たせることが制作上では有利ですからね。

そしてコンポーネントとかを考えていくわけですが、ボードゲーム作りはお弁当作りに似ていると思ってます。どちらも箱に入っていて、いろんな具材を入れるんですが、お弁当には味や栄養価もあれば食材の値段もあるように、ボードゲームでは喜んでもらえるポイントと値段のバランスを取ります。

ここで一番大事にするのは、箱を開けた時にいいなと思ってもらえるかどうか。コンポーネントがゲームとして必要であってアイテム自体としての魅力をなるべく持てるようにしなければなりません。ここが自分が担当する仕事で最重要なパートだと思っています。

パッケージやコンポーネントのイラストも作っていきます。日本にはイラストレーターがたくさんいますが、ボードゲームにおいてイラストはものすごく大事で目立つけど、主役はゲームで、脇役に回ってもらわなきゃいけないので、依頼をするのはちょっと気が引けますし、描ける人を探すのも結構大変です。


自分の絵を目立たせるのではなく、ゲームを面白くするために調和させられる人を選ぶのが大事になります。『枯山水』のイラストを担当したママダユースケさんはなんといっても、ご自身がボードゲームが大好きというのが大きかったですね。

画力とボードゲーム愛を兼ね備えた稀有な存在です。コンポーネントの遊ぶ上で見やすいかどうかやパッケージがゲーム内容との繋がりといった部分を気を配った絵を描いてくれるわけですよ。

それらデータが完成したら今度は製造です。ゲームマーケットに出店されているような同人ボードゲームだと「萬印堂」さんのようなボードゲーム・カードゲーム製作をやる印刷屋さんに全て任せて作ることが多いと思うのですが、商業ベースではコンポーネントのパーツ1個の素材から選び、それを作る工場を選ぶ必要が出てきます。

全部のパーツを厳選することで、全体を調和させられるようになることが重要だと思います。

――ちなみに、『枯山水』はどれくらいの人数で製作されたのですか?

吉田:「ニューゲームズオーダー」のメンバーと、ゲームデザインの山田さん、イラストのママダさんで6人ですね。

アナログゲームは一般の人でも作る気になれば極少人数で作れるところが凄いと思います。もちろん面白いものを作るのは大変ですが、新規参入しやすいというのは魅力ですね。大きなタイトルでも少人数なので、デジタルの開発現場に比べてより連携が取れるのは有利なところでもあるでしょう。

ちなみに、「ニューゲームズオーダー」には印刷を専門にしている西山もいるので、製造に関しては本当に細かな調整ができます。だから『枯山水』のようなゲームでも、皆さんから思われているよりもまともな作業量でちゃんとした収益をあげています。

採算度外視ではないわけです。ボードゲームを商業ベースに乗せるということに半生をかけてきましたから、すごく大事にしている部分です。

――そんな中、『枯山水』ではなぜ石膏製の石の手塗りを選んだんでしょうか?

吉田:それはまず、ゲームデザイナーの山田さんが『枯山水』を「東京ドイツゲーム賞」に出品する段階で、今販売している形にかなり近いものを持ってきたというところがあって、言ってしまえば製品はそれをママダさんのイラストでグレードアップさせて出している形です。

ボードゲーム・デザイナーにはルールだけ書く人と、人を魅了するコンポーネントも合わせてデザイン出来る人がいますが、山田さんは後者の才能の持ち主。そしてその才能が凄かった。

なので、作者が生み出した完成形のコンポーネントのデザインをいじるのは趣旨に反するし、危険だったので、その手作りのバージョンを下回らないものにすることに決めました。


そして、その再現度を高めるため石膏の素材や着色を工夫しようと試行錯誤は繰り返しましたが、幸いにしてメンバーがミニチュアゲームの経験から量産して塗る技術も持っていたので、手塗りという選択をしました(「ビーツーエフゲームズ」はミニチュアゲームも扱っています)。ミニチュアゲームがなかったら、『枯山水』は生まれなかったかもしれませんね。

『枯山水』とミニチュアゲームは、ルールとかを全く知らない人に対しても立体物として波及力があるのが、共通している部分だと思います。

◆ボードゲーム界隈の盛り上がりについて




――私は最近、日本でもボードゲームが結構盛り上がっていると感じるのですが、メーカーであり、問屋であり、小売店もやっている吉田さんから見て、現状をどう感じていらっしゃいますか?

吉田:ボードゲームはもっと一般向けになりうるものだったので、本来の立ち位置に行く雰囲気があってすごく嬉しいですね。

一般向けとは言いましたが、ボードゲームは必ずしも皆が好きになるものではなくて、好きな人がすごくハマっていくものだと捉えています。なので、そういう人が増えていけばそこに供給していきたいという感じです。

そういう人を増やす際に無理をしないことが大事です。そこで無理をしても、製品の質が下がったりして、結果としてプレイヤーの遊びの質が下がっていきます。我々はプレイヤーの遊びの質が上がるのを助けて、楽しく遊ぶ力をつけてもらうことを目標としているのです。

そして、現状ボードゲームが盛り上がっているのは、プレイヤーが面白く遊べるようになってきたからだと思います。全般としてアナログゲームは対戦形式のものであっても、共に楽しむという面では協力ゲームなんですよ。共に楽しむ力がついて、ボードゲームが面白く遊べる打率があがったというわけです。

この状況を見て、新しい人が面白そうだと入ってくる、そして人口が増えてきているというわけです。『枯山水』がSNSで広まったのも、なによりゲーマーの皆さんが面白く遊んでくれたからだと思いますね。

皆さんが一回一回楽しく遊んでくれることで、ボードゲームに限らずアナログゲームの価値は高まっていっているのです。逆に言えば、つまらなく遊んでしまったら下がってしまいます。アナログゲーマーは、エンドユーザーでありながら持っている裁量が大きいんです。これは本当に重要なことですよ。

SNSはその楽しく遊んでいるところを視覚可しやすくしたという部分も盛り上がりの一因でしょうね。あと、ボードゲームは楽しそうだからやってみようと思ったら、多少の障壁を超えれば簡単にやってみられるというところもありますね。

――それはもうボードゲームの魅力ですね

吉田:そうですね。あとはゲームの勝敗とワイワイ楽しむ感じを両立できるというのも魅力だと思います。『枯山水』は、そういう雰囲気を「東京ドイツゲーム賞」の審査の段階から引き出していましたね。
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《傭兵ペンギン》

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