【hideのゲーム音楽伝道記】第8回:遠く、儚く、愛しいもの…情感にあふれたサウンドノベル『街』の音楽

インサイドをご覧の皆さま、こんにちは。ゲーム音楽好きライターのhideです。ゲーム音楽の連載記事「hideのゲーム音楽伝道記」第8回目をお送りします。

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【hideのゲーム音楽伝道記】第8回:遠く、儚く、愛しいもの…情感にあふれたサウンドノベル『街』の音楽
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インサイドをご覧の皆さま、こんにちは。ゲーム音楽好きライターのhideです。ゲーム音楽の連載記事「hideのゲーム音楽伝道記」第8回目をお送りします。

今回は、1998年にチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)からセガサターンで発売されたサウンドノベル『街』について書いてみようと思います。『街』は、『弟切草』『かまいたちの夜』に続くサウンドノベルシリーズ第3弾として発売された作品です。 1999年にはプレイステーションに『街 ~運命の交差点~』というタイトルで移植され、2006年にはプレイステーション・ポータブルに『街 ~運命の交差点~ 特別篇』として移植されています。


『街』の舞台となるのは、東京の繁華街・渋谷。年齢も職業もそれぞれ全く異なる8人の主人公の物語を、選択肢を選びながら読み進めていきます。それぞれの物語は互いに関連・影響しあっており、ある主人公がとった行動によっては、別の主人公の物語がバッドエンドを迎えてしまうことも――。そんな時は、操作する主人公を切り替え、正しい行動を選んで物語を進めていきます。それぞれの人生が交差することで生まれる人間ドラマが楽しめる作品です。

この作品は実写グラフィックのゲームになっていて、登場する各キャラクターは、すべて本物の役者の皆さんが演じています。音声は入っていませんが、じつに表情豊かに演じられていて、迫力満点です。ちなみに、PS版・PSP版は実写モードのほかにシルエットモードが追加されており、人物のグラフィックをシルエット表示させることもできるので、実写が苦手な方でも大丈夫です。ただ、実写のほうが役者さんの熱演をじっくり味わえるので、僕としては実写モードをおすすめします。

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『街』の音楽を手掛けたのは、当時チュンソフトに音楽スタッフとして在籍していた加藤恒太氏(現・たくまる氏)、三俣千代子氏と、作曲家の難波弘之氏、林秀幸氏、森藤晶司氏、板倉真一氏の6名です。さすが“サウンド”ノベルというだけあって、音楽には非常に力が入っています。まず曲数が非常に多いです。その数なんと170曲!各シーンに合わせた楽曲が色々用意されており、曲数も膨大になっています。

ゲーマーの刑事が渋谷爆破予告の事件を追うシナリオ、平凡な大学生が“七曜会”という謎の組織の一員「金曜日」となり、他人を脅迫する面白さに目覚めていくシナリオ、サスペンス風のシナリオ、コミカルなシナリオなどなど各主人公の物語はバラエティに豊んでいて、ゲーム内容がとても濃いのですが、それに負けず劣らず濃い、非常に多彩な音楽が収録されています。

疾走感あふれる「オタク刑事、走る!」、恐怖感と狂気を感じさせる「B・O・D・Y」、妖しく神秘的な「氷の美女」、ドタバタ劇を演出する「どっちをとるの!?」などなど、渋谷という舞台で絡み合う不思議な人間ドラマを盛りあげてくれる楽曲ばかりですよ。全体的に、人間の感情の起伏をうまく表現している、情感にあふれた楽曲が多いです。

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僕が『街』の音楽で特に大好きなのは、シンガーソングライター・鈴木結女氏によって歌われたテーマソング2曲「夜明けのうた」「One and Only」ですね。どちらもすばらしいクオリティです。

オープニングテーマ「夜明けのうた」は、あらゆる人々の人生を受け入れる「街」という大きな存在と、そこで悩みながら、もがきながら、懸命に生きている人々がソウルフルに歌いあげられていて、『街』の世界観にぴったり合っていると思います。聴いていると元気が出てきますね。

エンディングテーマの「One and Only」は、ゲームクリア後のスタッフロールで流れるのですが、メイキング映像と共に流れる演出がなんとも粋です! 役者さんたちが楽しそうに撮影している様子が見られて、ほんわかしますね(笑)。歌詞も、前向きにそれぞれの人生を生きていこう、というメッセージが力強く歌いあげられている、さわやかで心地よい1曲です。

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そして、僕が『街』の中でもっとも印象深い音楽があります。それは、加藤恒太氏が手掛けた「遠く、儚く、愛しいもの」という楽曲です。

この楽曲は、ゲームクリア後に現れる「花火」という隠しシナリオの中で流れます。「花火」は、ゲーム中のとある人物の父親が主人公の物語なのですが、この楽曲がすさまじく情感にあふれていて、せつなくて……!沁みるんですよね。これ以上ないというくらいに、音楽で物語を盛り上げてくれます。僕が『街』をクリアしたのはもう何年も前になるのですが、クリア後何年経っても、この楽曲を聴いているだけで、せつなく、そしてあたたかい感情が込み上げてきて、胸が締めつけられるのです。

さらにこの楽曲の特筆すべき点としては、「楽曲の中に息子のテーマ曲が隠れている」ということです。作曲者の加藤氏は「交差したくても交わる事が出来なかった親子が、せめてメロディの中だけでも一緒にいられますように」という思いを込めたものだと語られていました。加藤氏の言葉を念頭に置いて聴くと、またじーんときますね……。音楽単体で聴いても素晴らしいのですが、ゲームをプレイしながら聴くと、より深く心に沁みると思いますので、できればゲームで聴いてみていただきたいです。

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『街』は、セガサターン版発売当時の売上は残念ながらあまり奮わなかったものの、ゲーム情報誌の「読者が選ぶTOP20」ランキングに発売後10年近くにわたって毎号ずっとランクインし続けるという、非常に根強い人気を誇っている作品です。ゲーム中の一部には、暴力的な描写や、エロティックな描写といった刺激の強いシーンも含まれますので、万人にはオススメしづらい部分があり、合う・合わないがはっきり分かれる作品だと思います。しかし、この作品にしかない独特で味わい深い世界観があり、合う人はどっぷりと『街』の世界にハマりこめるはずです。ご興味をお持ちの方は、プレイしてみてくださいね。

ちなみに、オリジナル版の発売は今から17年も前で、携帯電話がまだ一般的に普及していない時代でしたから、ポケベルが普通に出てきます(笑)。今の若い世代の子がプレイしたら、ちょっと違和感を覚えるかもしれませんが、「こういう時代があったんだな」と割り切って楽しむのがいいと思います。



これからプレイをお考えの方は、現在もダウンロード配信が行われているPSP版が最もプレイしやすいかと思います。秘蔵シナリオ2本が追加されており、さらにサウンドプレイヤーも追加されているのでお得ですよ。このサウンドプレイヤーにはたっぷり130曲が収録されているので、僕も時々PSPを起動して音楽を楽しんでいます(笑)。

■『街 ~運命の交差点~ 特別篇』(PSP版)紹介ページ
http://www.jp.playstation.com/software/title/jp0365npjh50598_000000000000000000.html

【筆者プロフィール】
 hide / 永芳 英敬

ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、主にゲーム音楽関係の記事を執筆しています。最近「しそわかめ」ふりかけにハマり中!

[Twitter] @hide_gm
[ブログ] Gamemusic Garden

《hide/永芳英敬》

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