【レポート】VR版『クーロンズ・ゲート』は“空間”へのアプローチ…その始まりは「Second Life」だった

初代プレイステーションに登場したソフトラインナップは、大作のみならず、独創的なアイディアやチャレンジ精神が光るタイトルも数多くあり、今も展開を続ける名作も数多く生み出されました。

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◆VRは、「空間」へのアプローチ


左から吉岡氏、井上氏

──今回の体験イベントの発表をウチのサイトでも取り上げたのですが、かなりの注目度でした。参加希望の応募もかなり多かったようですね。

吉岡氏:実のところ、(これだけの応募があるとは)予想していなかったんですよ。僕らの予想では、午前と午後で合計30人くらいだと考えていて。でも蓋を開けてみたら、200人を超える方から公募がありました。

──かなりの高倍率ですね。ちなみに今回は、第2回と伺いましたが。

吉岡氏:はい。第1回は、ここの卒業展の時に出しました。その時はあまりプロモーションもしていなかったので、聞きつけたファンの方が来場されたくらいです。

──その時の反応はいかがでしたか?

吉岡氏:感動して号泣された方とかいましたね。そんな1回目と、今回の2回目(の応募数)を踏まえると、僕らが思っている以上に求めて下さっているのかなと感じています。第3回目の開催も、おそらくやるでしょうね(笑)。

──早速、嬉しいお話をありがとうどざいます。それでは、原点に立ち戻る質問になりますが、『クーロンズ・ゲート』とVRと繋げようと考えたそもそもの経緯を伺ってもよろしいでょうか?

吉岡氏:10年ほど前に『Second Life』というものが登場したんですが、ご存じですか?

──生活を楽しむ仮想空間で、今も稼働中ですよね。

吉岡氏:そうです。ネットワーク越しに多人数でコミュニケーションするとか、フル3Dの空間で楽しめるといった、『クーロンズ・ゲート』で出来なかったことを実現していたんですよ。(※PS版『クーロンズ・ゲート』はムービーなども併用されていたため、フルインタラクティブではありませんでした)

井上氏:『Second Life』は、「居住する」という空間を用意してくれるテーマパークだったんです。

吉岡氏:その世界でユーザーは、建物を建てたりできる「島」を買うこともできるんですが、「島」の購入には30万円ほどかかるので、一般のユーザーさんにはちょっと敷居が高かったんですよね。



井上氏:そこで我々は、マンションに一室を貸し出して、月々家賃をもらうような形を提供していました。1階は店舗用だったんですが、(借りた人は)自分たちの商品の価値を上げるために品揃えを良くしたり、イベントを実施したりしていました。春節の時はお祭りを、クーロンの記念日の時はセールを行うなどですね。そういったSNSでのユーザーコミュニケーションが評価され、「東京コンテンツマーケット TCMアワード2007」審査委員特別賞と、「Virtual World of the Year 2007」コミュニティ部門大賞 という二つの賞をいただきました。

当時からそういった形で人の循環が続いてまして、今も利益が取れている島なんです。(『Second Life』を)オワコンと言う方も多いんですが、決してそんなことはなく、“バーチャル空間の中で生きていく”という体験を面白がっている方々が定着しているんです。

吉岡氏:ちなみに、今年VRが盛り上がっていますが、これは3回目の波だと考えています。1回目はバーチャルボーイといったデバイスが登場した時で、2回目が『Second Life』ですね。ただ『Second Life』の日本展開は、広告代理店さんとかが島を買い上げたりしてしまったので、うまくいかなかったんですよね(笑)。ウチはまだ続いてますけど。

そして3回目として、(プレイステーションVRやOculusといった)没入型のゴーグルを個人が購入できるといった波が来ているのだと思います。ちなみに『Second Life』も数年前に、Oculus用のビューワがリリースされていたんです。ただ、未だに知らない人が多いようですね(笑)。

井上氏:Oculus用のビューワを使用すると、アバターの視点で楽しめるようになるんです。

吉岡氏:しかも、そこには相手の存在もある、という双方向の空間なんです。昨今のVRのコンテンツって、大半はひとりで体験するタイプのものなので、そこが(主流のVRコンテンツとは)異なるポイントのひとつですよね。

井上氏:我々は、まずそのポイントから入ろうと思ったんです。空間の中で、相手と話すというコミュニケーションを核にしようと。だから、他のゲームとは少し方向性が違っているのかもしれません。アクションやシューティングといったゲームライクなものではなく、新しい空間を提示するものをVRでやりたいなと始めたのがきっかけです。

──なるほど。当時の『クーロンズ・ゲート』で出来なかったことを実現していた『Second Life』での経験をもとに、ゲームライクではなくコミュニケーションを核としたVRへの取り組みに繋げ、その歩みのひとつが『クーロンズ・ゲート』VRという形になったんですね。

吉岡氏:仕事をしている中で様々な技術に触れる機会も多いんですが、「Unreal Engine綺麗だね」「Oculusに繋がるらしい」といった話が持ち上がり(笑)、Unreal Engineを使ってどこまでいけるのかトライするために作ったという背景もあります。

あと方向性に関しての補足ですが、現在のVRコンテンツはテンポが早いものが多いと感じていまして。井上が言った通りゲームライクで、スケールも大きい。そのため3D酔い、VR酔いの問題も指摘されており、長時間続けるのが難しい問題があります。そういった問題への対案ではありませんが、ゆっくり空間に浸れるVRの在り方はどうだろうという提案でもあるんです。

──快適に過ごせる空間の追求、なんですね。

井上氏:『Second Life』で実感した点なんですが、空間を提供すると勝手にゲームが起きるんですよ。オープンワールドタイプのゲームともまた少し違う、一歩進んだ「新しいエンターテイメントと呼ばれるようなもの」がそこにありそうなので、それを検証したいですね。

吉岡氏:今回のものは空間があるだけなんですけども、この先例えば、一回の体験で終わらず毎日5分ずつ持続的に楽しんでもらえるようなものとか、そういう形もいいのかなと思っています。

◆テーマパークに成り得る、VRが持つ可能性




──今回のVR体験でのポイントなどがあれば、少しお聞かせください。

吉岡氏:音ですかね。僕らも少なからずゲームを作ってきましたけど、ディスプレイ越しに楽しむゲームって大体BGMが鳴っている上に効果音や台詞が乗っている感じなんですよね。でも、今回のように奥行き感を持って音を作っていかないと、(VRでは)しっくり来ないんです。

井上氏:“どこから音が出ているのか”を、ちゃんと追求して(今回)作りました。

──発生原に音を置く、と?

井上氏:そうです。

吉岡氏:今回、歩いていくとBGMがかかったり止んだりしているんですが、このON/OFFをそんなに意識させず、換気扇や雨などの環境音が自然と聴こえてくる感じを意識しました。こういった演出などが、VRの肝なのかなと思います。

──確かに、その場に行かないと聴こえない音、近づくと聴こえてくる音などありました。

井上氏:空間とのコミュニケーションの仕方を考えないといけないなと思っています。(VRは)広い空間をただ歩かせればいいという訳ではなく、おそらくプレイヤーの方は色々と見渡しますよね。その時に気付いてもらえることを細かく仕込んでいければ、“空間の広さ”というのは意外と求められず、満足していただけるのではと考えています。

吉岡氏:これまでほかのVRコンテンツなども見てきているので、「同じものにしない方がいいよね」というのがあります。もちろん作ってみないことには何とも言えないので、そのアプローチとして生まれたもののひとつが、今回のVR体験です。

──拡がりよりも深み、作り込みを目指したんですね。

井上氏:そうですね。自分と相手が“いる”空間というのは、意外と狭くていいというのが分かりましたので。これが広くなり過ぎると、自分が歩いていくのとは違う体験に成らざるを得ないんですよ。例えば乗り物に乗ったりとか。歩いていくためには、リアルな空間、距離感を作らないと「違うな」と思われてしまうんじゃないかな。

また実験できる機会があるならば、次はソファーに座ったまま『クーロン』の空間を移動したり体験できるようなものもやってみたいですね。「自分が動いている感覚ではない」という体験も新しいと思うんですよ。

──人とのコミュニケーションに加え、空間とのコミュニケーションを考える。それが、VR体験における重要なポイントなんですね。

吉岡氏:JETMANの事業は6~7割くらいがユーザーインターフェイスのデザインや開発なんですよ。その中にはVR向けの案件もありまして、今後何かしら作っていかなくてはと思っていたんです。

井上氏:最近『クーロンズ・ゲート』という作品に大きな動きブがあり、「まずは『クーロン』作ってみようか」となりました。

吉岡氏:『Second Life』の時にも感じたのですが、テーマパークに成り得ると思うんですよ。その方向は、VRと相性がいいだろうなと。

──今後も『クーロン』と関連した形で発展されていくのでしょうか?

井上氏:来年で、『クーロン』誕生から20周年になるので、それに向けてちょっと面白い試みをしようかなと思っています。大人の事情で色々あるので今ハッキリとしたことは言えませんが(笑)、何らかしらを作る方向ではあります。これまでお話したような、ゲームではない新しい提案をしたいかなと。それを、みんなにやってもらえたらなと思っています。

吉岡氏:普通のゲームのやり方ではない形になると思いますし、クラウドファンディングも視野に入れているんです。『Second Life』で経験した「みんなで作り上げる」ということが、『クーロン』でも出来たらいいなと。

──制作においても、コミュニケーションがポイントになるわけですか。新しい展開があったら、『クーロン』のファンも本当に嬉しいと思います。文字通り、「次世代クーロンズゲートのための研究開発」なんですね。

井上氏:今回のことで、お客さんからのレスポンスが色々とあれば、更にリアルにできるかもしれませんね。新しい動きに関しては、時期が来たら改めてお知らせします。

──はい、今後の展開も楽しみにています。本日はありがとうございました!

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《臥待 弦》

楽する為に努力する雑食系ライター 臥待 弦

世間のブームとズレた時間差でファミコンにハマり、主だった家庭用ゲーム機を遊び続けてきたフリーライター。ゲームブックやTRPGなどの沼にもどっぷり浸かった。ゲームのシナリオや漫画原作などの文字書き仕事を経て、今はゲーム記事の執筆に邁進中。「隠れた名作を、隠れていない名作に」が、ゲームライターとしての目標。隙あらば、あまり知られていない作品にスポットを当てたがる。仕事は幅広く募集中。

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