カプコン人気クリエイターが語る『モンスターハンタークロス』流ゲーム開発術

ヒューマンアカデミーは人気アクションゲーム『モンスターハンタークロス』のプロデューサーをつとめたカプコン小嶋慎太郎氏と、ディレクターの一瀬泰範氏を迎え、ゲーム業界志望者向けセミナーを東京校と大阪校で開催しました。

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カプコン人気クリエイターが語る『モンスターハンタークロス』流ゲーム開発術
カプコン人気クリエイターが語る『モンスターハンタークロス』流ゲーム開発術 全 13 枚 拡大写真
ヒューマンアカデミーは人気アクションゲーム『モンスターハンタークロス(以下、MHX)』のプロデューサーをつとめたカプコン小嶋慎太郎氏と、ディレクターの一瀬泰範氏を迎え、ゲーム業界志望者向けセミナーを東京校と大阪校で開催しました。5月22日に開催された東京校でのイベントでは、同校の学生に加えてゲーム業界志望の学生が多数参加。講演終了後も活発な質疑応答が行われました。


■『モンスターハンタークロス』開発の流れ


『モンスターハンター』にはじまり、『ストリートファイター』『バイオハザード』『戦国BASARA』『逆転裁判』など、多数の人気IPを数えるカプコン。ゲーム開発のスタイルもチームによって異なるといいます。小嶋氏は「あくまで『MHX』の例」とことわって、ゲーム開発の流れを解説していきました。

3DS」「新しいモンハン」「お祭り感」という3つのキーワードをもとにスタートした『MHX』の開発。始めに行われたのが、ディレクターの一瀬氏をはじめ、企画・プログラマー・デザイナーといったコアメンバーの編成です。その後コアメンバーをもとにアイディア会議が行われます。このチームでは、スピード感を重視してネタ出しは手書で行うことが多いです。


プロデューサーの小嶋慎太郎氏


ディレクターの一瀬泰範氏

「企画会議ではキーワードに沿って、さまざまなアイディアを出していきます。みんなで共感できる『キラめく何か』を生み出せるかが重要なポイントになりますね」と一瀬氏。

今作のウリとして考えたのが「プレイヤーアクション」で、これまで以上にハンターの個性を打ち出す方向性を採用。ここから「狩技」「狩猟スタイル」「14の武器種」を組み合わせて、自分ならではのハンティングスタイルを生み出していくという、本作ならではのアクションコンセプトが生まれてきました。

企画がある程度固まり、会社の承認を受けたら、実際の開発がスタートします。開発チームはゲームの方向性を決定する「コアメンバー」、ゲームの具体的な内容を考え、仕様書を作成したり、シナリオやテキストデータを作成する「企画セクション」、プログラマー・デザイナー・サウンドなどで構成される「開発メンバー」に分かれます。

また、これ以外に、進行管理を担当する「プロジェクトマネージャ」、ムービーやアイテムの3DCGデータなどを制作する「外部制作会社」、内容チェックやデバッグなどを行う「品質管理部」、マニュアルやウェブなどの制作を担当するチームなど、さまざまなセクションが存在。開発だけでも100名近くのスタッフが開発に参加し、約3年間の開発期間が費やされたとのことでした。


セミナーで披露された資料


開発チームはより細かいセクションに分割され、それぞれにセクションリーダーやサブリーダーが設置されるなど、階層構造を取ります。コアメンバーで決定された内容が、それぞれのリーダーを通して、各チームに伝達されていくのです。セクション間のやりとりは担当者同士で行われるほか、企画セクションが間を取り持つ場合もあります。

【1】プレイヤー担当
移動・攻撃・回避など、ハンターのさまざまなアクション制作を担当します。企画マン(ゲームデザイナー)、プログラマー・デザイナー・アニメーター(モーションデザイナー)・モデルマン(3Dモデラー)・サウンドデザイナーやエフェクトデザイナーなど様々なセクションが集まり構成されています。『モンハン』における遊びの中心を作るセクションです。

【2】モンスター担当
敵キャラクター制作を担当するセクション。モンスターのデザインやパラメーター、アクションや生態など、遊びの組み立てを担当します。プレイヤー担当と同じく、さまざまな職種のクリエイターが一丸となって作業を進めていきます。タイトルの顔となるモンスターはゲームの売上にも直結するため、何ヶ月もかけて修正を繰り返します。

【3】ステージ担当
ハンターやモンスターが戦闘を行うためのフィールドの設計を行います。外観だけでなく、各フィールドの特色や、アイテム採取ポイント、エリア移動ポイント、さらには戦闘中の地形変化など、さまざまなアイディアを盛り込んでいきます。企画マン・背景デザイナー・エフェクトデザイナー・サウンドデザイナーなどで構成されます。


【4】オトモ担当
クエスト中のオトモアイルーの思考ルーチンを組み立てたり、アクションのシステムを構築します。本作ではオトモアイルーを操作してプレイする「ニャンター」モードが新たに加わり、本来ならばプレイヤー担当が行う作業なのですが、システム的に合わせて作業を行った方がいろいろと都合がよかったため、オトモの担当が合わせて作業を行いました。

【5】村・進行担当
村全体のデザインや施設の配置、アイテムショップや鍛冶屋など、各施設の具体的な仕様を作成します。クエストを進めていくことで、どのようにストーリーが進行していくか、フラグ管理なども担当します。

【6】テキスト担当
NPCの会話や武具・アイテムの説明・チュートリアルなどに必要なテキストデータを作成します。また世界観やゲームの操作説明などに必要なテキストも制作します。限られた文字数で多数のアイテム説明を行うなど、ゲームならではの文才が必要とされます。

【7】データ担当
クエストのデータ入力・武具のパラメータ・ステージにおけるアイテム入手の確率など、さまざまなデータの作成・入力・調整などを担当します。『MHX』は現在、扱うデータ量も過去作のモンハンよりも大きくなり、攻略本のサイズも徐々に厚みを増していっています。

【8】UI担当
体力ゲージや状態異常を示すアイコン、メニューウィンドウなどのデザインや、表示のさせ方などを作成します。視認性や操作性だけでなく、世界観も含めたデザインが求められ、ゲームの遊びやすさにも直結する大事なところになります。

【9】通信担当
多人数で遊ぶための設計を行うセクションです。プレイヤー、モンスター、クエストなど、さまざまな分野に関係するセクションです。

【10】映像担当
ゲームのオープニングムービーやイベントムービーなどを制作し、ストーリーや世界観をプレイヤーに的確に伝えるためのセクションです。『MHX』では、オープニングムービーなどの映像制作は外部の制作会社に発注を行い、その制作管理がメインとなります。


■ゲームの遊びネタ・モンスター・ステージデザイン


講演の後半では、実際にゲームシステムやモンスターがどのように決定されていったのか、企画書と共に具体例が示されました。

冒頭でも紹介されたとおり、本作では「プレイヤーアクション」のバリエーション増加と、それにともなう遊びの進化が掲げられています。もっとも、そのための手段は無数にあります。試行錯誤の結果、「狩技」「狩猟スタイル」「14の武器種」を組み合わせて、自分ならではのハンティングスタイルを極めていくという内容に落ち着きました。


一瀬氏は「新武器の追加を検討していた時期もあった」とあかしました。ただし武器を1つ増やすよりも、今までの武器種の遊びを掘り下げることで、『MHX』としての「お祭り」感を演出できないか?というところからプレイヤーの方針を決めました。

「職業ネタ」はその一つで、フィールドに種を蒔いて特別な効果を発する植物を育てる「植物師」、多数の虫を操って攻撃力や防御力などをアップする「蟲使い」といったアイディアなども当初はありました。

こうした様々なアイディアをもとに、現在の「狩技」「狩猟スタイル」「14の武器種」を組み合わせるやり方が生まれました。


4大メインモンスターの一つ、ディノバルドのデザインコンセプトは、もともと「戦車+大剣」だったこともあかされました。熱線や火球を放ち、大剣のような尻尾でも攻撃してくるという、非常に強力・凶暴なモンスターです。常に炎の息を吐き、自らの熱で甲殻が炎のように変形しているという設定も、当初から存在しています。

この他、鼻息から出る炎でファイアーボールのように突進する、怒ると尻尾の装甲がはがれ、するどい大剣となって攻撃する、といったアイディアもありました。こうしたネタを元に実際のゲームに必要な要素を抜出し精査していくこととなります。

最終的に巨大な尻尾を振り回しながら戦うモンスターという要素を軸にすることになりました。火球を吐く遊びについても、喉に火球を溜めて攻撃をおこなうといった要素に落とし込んだりしています。また「外見だけではなく、モンスターの個性を遊びの中にからめることが大事」(一瀬氏)と説明されました。


ステージのデザイン画についても紹介されました。崖から水平に広がる中二階のようなステージで、崖の上から飛び降りたり、蔦を伝って昇降できます。ステージの下には巨大なシダが生い茂り、飛び降りることも可能です。モンスターとのバトルで巨大な岩が崩れると、となりのステージにも移動できるようになるアイディアも盛り込まれています。

なお講演資料として紹介されたイラストはすべて、一瀬氏や他の企画マンの手によるもの。シンプルながら特徴がうまく記されており、イメージが広がります。一瀬氏は「絵があると格段にイメージが伝わりやすくなる。テキストに絵を織り交ぜることで、内容を文字で読んで理解するから、絵を見て理解できるのでとても便利」と言います。

もっとも一瀬氏は「絵が描けなければ企画マンになれないというわけではない」と補足しました。参考になる写真を検索したり、画集をコピーして張り付けたりしてもOK。結局は、「“相手にどのようなことを伝えたいのか?”を指し示すことができればよいので。」とのこと。小嶋氏は「自分のアイディアをプロジェクト全体に理解してもらうことが大切」で、方法は色々あると話しました。

■質疑応答


講演では学生からさまざまな質問も飛び出しました。下記に主なやりとりを紹介します。

最初の質問は「就職活動の際、どんなポートフォリオが求められるか」というもの。小嶋氏は「ジャンルにもよるので、これという正解はない」としつつも、「自分の得意なジャンルやテーマをしっかりアピールして欲しい」と答えました。「何でもできる、何でもやりたいは、何もできないのと同義語です。自分の武器がしっかり説明できるようにしてください」

これに補足して、「普段から好きなもの、自分が得意なものをアピールしておくと、上の人からも使ってもらいやすい」とアドバイスされました。「クリエイティブな仕事をするのに、嫌いなものの悪口だけ言っていても仕方ありません。面白かったもの。ゲームでも漫画でも美味しかったご飯とか、何でも良いので好きなものを人に伝えたり、共有する事は大事です。コミュニケーション能力も上がります」(小嶋氏)


「カプコンで働く魅力やメリット」について、両者は「入社して以来20年近くカプコン一筋なので、他の会社を知らない」と前置きしつつも、「熱いゲームが作りたいなら、入社して損はない会社」だとしました。「基本的に、ゲーム開発でがんばっている面白い会社です。」(小嶋氏)。

これに対して一瀬氏も「ハードメーカーではないので、いろんなゲーム機のゲームが作れます。各セクションの意識も高く、より良いゲームが作れる環境が揃っています。」と回答しました。

「学校以外の授業で何かしていたこと」についての質問もありました。もっとも、これには二人とも「色々悪ふざけしていた。」「もっと勉強しておけば良かったとかは思います。」とのこと。「自分たちの新人時代はワープロ全盛期で、文字を打ち込んだものに手書きで絵をそえるみたいな時代だった。今の若い人達はツールの使い方などを良く知っていて、すごく優秀だと思う」(一瀬氏)。


小嶋氏は「学びも遊びもフルスイングでやれば自分の糧になります。大切なのは学校のせいにしないということ。特に専門学校は特定の業界に進みたい学生が集まっていて、趣味嗜好も似ているので、こうした環境をうまく利用して欲しい」とコメント。卒業することを目的とせずに、その先を見据えて今を過ごして欲しいとアドバイスしました。

「ゲーム作りは楽しいか?」という質問もありました。両者は「おもしろい」と即答。中でも小嶋氏は「『モンハン』シリーズが12年目に突入して、今なお作り続けられているのも、作り手が飽きていないから。少しずつ新しい要素を入れたり、いろいろなハードで出すなどして、進化を続けています。今後もそのつもりで作っていきたい」と言います。

ゲーム開発のうえで気をつけていることについて、一瀬氏は「人間関係の円滑化」をあげ、トラブルが起きないよう心掛けていますと答えました。トラブルが起きた際にも、できるだけ火が広がらないように対処できるかどうかも大事です。


小嶋氏も「いっちゃん(一瀬氏の愛称)はゲーム作りだけでなく、チームメンバーに配慮している。そうした積み重ねがあって、モンハンのような大作ゲームがスケジュール通りに発売できている。上の人だけでなく、チーム全体でそうした意識を持つようにすることが大事」と評価しました。

最後に一瀬氏は「今回参加された学生は東京在住の方が多いと思いますが、大阪も良いところですので、ぜひ応募してみてください」とコメント。小嶋氏も「クリエイティブな仕事がしたい人の背中を少しでも押せたらと思いつつ話しました。こうした機会はどんどん増やしていきたいですね」と締めくくりました。講演終了後はサイン会も行われ、長い行列ができていました。

《小野憲史》

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