【CEDEC 2016】カプコンに代々伝わる「あやしい美術解剖図」とは…『ストV』アートスタイルが決まるまで

8月24日から3日間にわたって開催されたゲーム開発者向け今ファンレンスCEDEC 2016にて、『ストリートファイターV』のアートデザインを解説するパネルセッションが開催されました。

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【CEDEC 2016】カプコンに代々伝わる「あやしい美術解剖図」とは…『ストV』アートスタイルが決まるまで
【CEDEC 2016】カプコンに代々伝わる「あやしい美術解剖図」とは…『ストV』アートスタイルが決まるまで 全 36 枚 拡大写真

8月24日から3日間にわたって開催されたゲーム開発者向け今ファンレンスCEDEC 2016にて、『ストリートファイターV』のアートデザインを解説するパネルセッション『Street Fighter V Art Direction~格闘ゲームのアートの役割~』が行われました。今パネルセッションに登壇したのは、『ストリートファイターIV』と『ストリートファイターV』でアートディレクターを担当したカプコンの亀井敏征氏。

『ストIV』リリース後からe-Sportsは爆発的な盛り上がりを見せるようになり、世界中でゲームプレイを通した感動が共有されるようになりました。それを踏まえ、『ストV』は企画当初からe-Sportsを視野に入れ開発が行われました。観客が見やすいバトルや対戦内容のわかりやすさも意識して作り上げていったと亀井氏は説明します。

■キャラクターの見やすさとわかりやすさ


『ストV』キャラクターは、一目で強そうだったり殴られたら痛そうなのがわかるなマッチョ体形で、顔の表情もオーバー気味に表現されています。これは、状況をプレイヤーにフィードバックしやすいようにキャラクターがデザインされているためで、格闘ゲームで重要となる、相手が今何をやっているか、自分が何をしているのかという情報が一瞬で伝えられるようになっています。


多くの格闘ゲームは、ユーザーが脳で判断しコントローラーに反映させるという動作の繰り返しとなりますが、その中でアートだけがフレームレベルの攻防をわかりやすく表現できるのだそうです。


プレイヤーにわかりやすくフィードバックでき、さらにかっこよさをキープしたシルエットを考えるうえで参考になったのは、ドット絵時代のキャラクターだったと語る亀井氏。ディフォルメした表現など、カプコンが長年蓄積したドット絵のノウハウが大いに役立ったとのこと。


カプコンに代々伝わり、今作でも参考にしたという美術本「あやしい美術解剖図」。実はこの本、かつてカプコンに所属していたあきまん氏をはじめとしたデザイナーやドッターによる同人誌。


『ヴァンパイア』など開発していたころの本で時代を感じる絵柄ではあるが、人体を描く上での重要な情報がまとまっている。


『ストV』のリュウの腕。筋肉の部位がわかりやすいデザインになっている。


腕をどうひねっているかがわかりやすく、プレイヤーも状況を理解しやすい。


試作段階で作成されたフォトリアル路線のリュウ。非常にリアルだが、状況を把握しづらくなったためボツに。

■正確さよりも見た目の恰好良さを


キャラクターの設定身長を必ずしも正確に再現してるわけではないと話す亀井氏。キャラクターはDCC上でグリッド単位で作られていますが、バトル中の印象優先で作られているために実際のサイズを無視したものになっているのだそうです。


ゲーム中のリュウとベガの対比。一見、設定どおりベガの背が高いように見えるが......


DCCツール上では身長差はほとんどない。


『ストII』時代から印象優先だった。



『ストV』の動作アニメーションは、一目でどの格闘技かわかるようにさまざまな工夫が施されている。


画面に向かってキャラクターの体を5度回すことで、視認性が大きく向上する。3Dゲームでは本来NGとなるアニメーションだが、格闘ゲームでは正解となる。


『ストV』では派手な演出の必殺技が登場しますが、亀井氏によるとこれら必殺技は言語化できる要素を意図的に入れて形容しやすくしているのだとか。言語化しやすい演出は、ユーザー同士で感動を共有する際に効果的であるとしています。


■キャラの視認性を大事にした背景


奥行きの観念がなかったために色で管理されていたドット絵時代。キャラクターは暗い色から明るい色まで使った鮮やかな色彩、背景は色のレンジが低いトーンダウンした彩色を使い、視認性を向上させていました。『ストV』でもUnreal Engine 4の機能を用いて同様の手法が取り入れられているのだと亀井氏は説明します。


正しい色合いだと視認性が低くなるため、UE4の機能「Multi Color Grading」を使いキャラと背景の色のレンジを調整している。


「Multi Color Grading」のバリエーション。3D空間上でも細かく色合いの調整ができる。

■カメラの画角


3Dは画面の端に行くほど形状がゆがむ特性を持ちますが、格闘ゲームでは支障がでてしまうために補正処理が行われています。「Fix Projection」という横方向の画角を無くすシェーダーを調整することで、画面端でも形状が歪まなくなります。


画角を無くし過ぎすと立体感も無くなってしまうので、『ストV』では「Fix Projection」のパラメーターを0.5に設定している。

■アートディレクションで個性を出す


最初の『ストリートファイター』からイラスト的なアートデザインであったこともあり、『ストV』でも同様のアプローチを取ることとなりました。また、このアプローチであれば、キャラクターや色彩などの誇張されたディフォルメ表現を活かすことができます。


最終的には油彩的なグラフィックとなった。


絵的な表現を実現する裏では、さまざまな工夫が凝らされている。



油彩風の筆のタッチ表現は、Normal Mapへ後付けする方法がとられた。



油彩風表現では、Photoshopのサードパーティ製プラグインソフト「SNAPart 4」が用いられた。


体の部位ごとに細かさを変えている。


見せたい部分の情報量を多く、その他の情報量をすくなくするというイラストの手法を応用して荒さと細かさを調整している。


エッジの強調はポストエフェクトを用いて表現。これにより視認性も向上する。



『ストV』では、イラストのような照り返しに色を入れる表現も盛り込んでいます。この作業は、UE4の標準機能とミドルウェアを用いてライティング工程の一番最後に実装。リアルではなく、絵的に色鮮やかに見えるライトとして配置されています。


間接光はアーティストと密に話をしながら決められていった。

■格闘ゲームにおけるアートのあり方

亀井氏は、ゲームの状況を一瞬でプレイヤーにフィードバックする唯一の要素がアートであると繰り返し強調します。アートディレクターはゲームの情景をわかりやすく伝えることを特に意識し、その上でビジュアルの個性化を実現するべきだとしています。格闘ゲームのトップランナーが語ったアートディレクション術に会場から惜しみない拍手が送られ、今パネルセッションは幕を閉じました。

《Daisuke Sato》

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