【hideのゲーム音楽伝道記】第42回:『ゴースト トリック』 ― “死”から始まる、スリルと謎に満ちた一夜の追跡劇を彩る音楽

インサイドをご覧の皆さま、ごきげんいかがでしょうか。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第42回がやってまいりました。

その他 音楽
【hideのゲーム音楽伝道記】第42回:『ゴースト トリック』 ― “死”から始まる、スリルと謎に満ちた一夜の追跡劇を彩る音楽
【hideのゲーム音楽伝道記】第42回:『ゴースト トリック』 ― “死”から始まる、スリルと謎に満ちた一夜の追跡劇を彩る音楽 全 2 枚 拡大写真
インサイドをご覧の皆さま、ごきげんいかがでしょうか。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第42回がやってまいりました。

んっ? 第42回?

42……しに……“死に”!! わーっ、なんとエンギの悪い数字!! でも、そんなエンギの悪い“死”という単語にぴったりなゲームがあるんです。ということで、今回は“死”から物語が始まるゲーム、『ゴースト トリック』をご紹介いたしましょう。


『ゴースト トリック』は、2010年6月19日にカプコンからニンテンドーDS向けに発売されたアドベンチャーゲームです。同年12月16日にはiOS版もリリースされました。

本作は『逆転裁判』シリーズの産みの親として知られる、巧舟(たくみ・しゅう)氏がディレクターとして制作に携わった作品です。


本作の主人公・「シセル」は、気が付くと死んでいました。ある夜、街の片隅で、シセルは何者かによって命を奪われてしまったのです。死んでタマシイとなって目覚めた彼は、命とともに、自分自身の記憶を失っていることに気づきます。自分はなぜ殺されたのか? そして、自分を殺した犯人の正体は……? 本作は、不遇の死を遂げてしまったシセルが、自らの死の真相を突きとめていくゲームです。

シセルのタマシイが消滅してしまうタイムリミットは、明日の朝。たった一夜で、ことの真相を探し出さなくてはなりません。手がかりは、シセルの死を目撃したと思われる、女性の新米刑事「リンネ」。しかし彼女は、謎の殺し屋「ジーゴ」に狙われていました。


死んでタマシイとなったシセルは、モノに“トリツク”ことと、とりついたモノを“アヤツル”という、不思議な「死者のチカラ」を得ていました。本作では、シセルのタマシイを操作して、マップの中にある様々なモノにとりつき、動かすことで、いろんな人の行動に干渉していきます。


たとえば、今まさにターゲットを仕留めようとしている殺し屋。踏切の遮断機にとりついた後、彼が持っているピストルめがけて遮断機を動かし、当てることで、ピストルをはね飛ばす――。そんな具合に周りの状況に干渉し、脅威に抗い、人々の死の運命を回避させながら、シセルは真実を探し求めてゆきます。


シセルのタマシイは、タッチペンを使い、モノからモノへととりつかせて目的のモノまで運ぶわけなのですが、タマシイが一度に移動できる距離には限界があります。たとえば自転車だとペダルにとりついてペダルをこいで移動させたり、折りたたみ式のハシゴにとりついてハシゴを開いたりすることで距離をかせぐわけです。複数のモノが連続して作動するギミックもあるので、『ピタゴラスイッチ』に近い味わいがある作品ですね。思いもよらないギミックを発見できた時は、パズルが解けた時のような驚きや嬉しさがありますよ! 操作も、タッチやスライドといった簡単な操作で楽しめるので、「最近ゲームを遊んでないなぁ」という方にもおすすめな作品です。

◆『ゴースト トリック』の世界を彩る音楽たち


さて、そんな本作における大きな魅力のひとつが音楽です。本作の音楽は、初代『逆転裁判』や、『ビューティフル ジョー』の音楽などを担当した、作曲家の杉森雅和氏が担当しました。ミステリアスかつ熱いサウンドで、ゲームを盛り上げてくれます! それでは、本作の楽曲で印象的なものをピックアップしてご紹介していきましょう。

●「GHOST TRICK」
本作のさまざまなシーンで流れるメインテーマ曲です。夜の闇を駆け抜けるようなアップテンポで奏でられる、緊張感と爽快感を併せ持ったテクノサウンドが、本作の世界観と見事にマッチしていて格好良いです。この曲は、うまくモノをアヤツって、死の運命を変えることができた直後など、「ここぞ!」という上手いタイミングで流れてきて、プレイヤーのテンションを幾度となく上げてくれます! リズムもメロディもしびれるほど格好良く、しかもゲーム中に流れる頻度も高いので、本作をプレイした方はきっと印象に残る1曲だと思いますね。

●「>」
死の危機に瀕している人々の運命を変えるため、シセルがモノにトリツいたりアヤツったり……と色々試行錯誤している際に流れる音楽です。刻一刻と死が迫りくる緊張感を、クールなサウンドで演出しています。個人的には、「ズーン……」と重々しく鳴り響く音色が死を連想させて印象深いですね。

●「COUNT DOWN」
シセルが試行錯誤している場面で、死の危機に瀕した人の死亡時刻が間近に迫った際の音楽です。曲の早さがアップテンポになり、プレイヤーの緊張感と焦りをさらに煽ってくれますよ! うまく死の運命を回避できるかは、プレイヤーの腕次第です。

●「リンネ~狙われた赤毛」
女性の新米刑事、リンネのテーマ曲です。本作のヒロインである彼女は明るいキャラクターなのですが、ゲーム中には何度も死の危機に瀕し、大変な思いをしてしまう人物なのです。そんな彼女の姿を演出するためか、明るさがありながら、少し切なさも帯びたような旋律なのが印象深いです。また、曲の後半に入ってくる勇壮さを感じさせる旋律は、彼女の刑事としての使命感や正義感を表現しているようにも感じられます。

●「クネリ~ひとすじの光」
シセルに「死者のチカラ」の使い方を教えてくれる、クネクネと動く謎の赤い電気スタンド、クネリのテーマ曲です。謎に包まれた存在である彼を演出する、ハードボイルドチックで重厚なサウンドがイカしてますよ。


●「ミサイル ~勇ましき小動物」
とあるマンションの一室で留守番をしている少女・カノンが飼っている、ポメラニアンの忠犬・ミサイルくんのテーマ曲です。独特なリズムで奏でられるかわいらしい旋律は、彼の愛らしさがよくにじみ出ていますね。ミサイルくんは、ご主人様に対して献身的かつ健気、そして熱いところが素晴らしいです! じつは彼、ゲーム中非常に重要な役割を果たすのですが、これはぜひ実際にプレイして確かめてみていただきたいですッ!

●終章 ~"夜"の終わり
本作のエンディングで流れる音楽です。メインテーマ「GHOST TRICK」のメロディが流れた後、曲調が一転。長く深い闇夜が明け、さしのぼる朝陽のように晴れやかで爽やかな旋律が響き、プレイヤーをやさしく包み込んでくれます。とても安心感のある旋律で、ゲームをクリアした喜びと達成感を音楽で演出してくれますよ。僕は本作を最後までプレイして初めてこの曲を聴いた時、この曲が生み出す深い余韻と心地よさに大きな感銘を受け、しばらく手を動かすことも忘れて聴き入っていたことを覚えています。この余韻と心地よさは、ぜひ最後までゲームをプレイして体験してみていただきたいですね。

◆ピコピコ音を加えて懐かしさを表現


『ゴースト トリック』の音楽で特筆すべき点としては、昔のファミコン時代を彷彿とさせる、PSG音源(俗に言う「ピコピコ音」)が効果的に使用されているということが挙げられます。

本作のゲーム画面は、横から見た断面図のようなステージ構成になっていて、昔のゲームのような雰囲気と味わいがあります。作曲者の杉森氏によると、本作のゲーム画面を初めて見た時に感じたのは「斬新さ」と「どこか懐かしい箱庭感」だったとのこと。それを踏まえて、新作のゲーム音楽にあえてレトロ調の響きを加えることで、「新しさ」と「懐かしさ」の両方を表現したのだそうです。本作はゲームシステムとしては非常に独特かつ斬新さがあるのですが、同時に昔懐かしい雰囲気を醸し出しているので、非常にユニークなプレイ感覚を味わえると思いますよ。

杉森氏の音楽は、本作にとって非常に重要な存在だと思います。死んでタマシイになってしまったシセルが自らの死の真実を追う、ミステリアスかつ緊張感あふれる物語を演出する楽曲の数々は、本作の世界観が見事に表現されており、ゲームを大いに盛り上げてくれます。本作をプレイされる際には、ぜひ杉森氏の音楽を堪能しながら楽しんでみてください。

なお、本作のシナリオを手掛けた巧氏が紡ぐ物語は、同氏ならではの独特のテンポのいいセリフ回しで、“巧節”が遺憾なく発揮されています。緻密に張り巡らされた伏線が、物語の終盤にあざやかに回収されていくのがとても気持ちいいですよ。ミステリー好きの方にオススメな作品です! “死”を題材にした作品ではありますが、けっして暗いゲームではありません。コミカルかつ個性的なキャラクターが多く、思わず笑ってしまう場面も多々あります。シリアス一辺倒ではなく、笑いも散りばめられた、エンターテインメント性豊かな楽しいゲームですよ。ひとりでも多くの方にプレイしてみてもらいたいです。

◆サウンドトラック情報



なお、本作のサウンドトラックCDについては、DS版発売当時にイーカプコン(カプコンのオフィシャルオンラインショップ)のみで販売された限定版の付属特典として生産されたのみで、一般販売はされていません。そのためか、現在はプレミアがついてしまっています。しかし! 2013年からはiTunes Musicで配信されていますので、音楽を楽しみたい方はこちらをご利用ください。


ちなみに、本作の発売3周年の際(2013年)には、巧氏が趣味で作詞・作曲・編曲すべてを自主制作したというオリジナルソング「ボクはミサイル」が公開されました。とってもかわいらしい歌なので、ご興味をお持ちの方はお聴きになってみてくださいね。

◆かなりの傑作ゲームだと思います


巧氏の作品といえば『逆転裁判』が非常に有名で、この『ゴースト トリック』はやや陰に隠れてしまいがちなのですが、僕はこのゲーム、かなりの傑作だと思います。(このゲームを埋もれさせてはいけない、と個人的には思っています!) スタイリッシュかつ味わい深いビジュアル。“トリツいて、アヤツル”という独特なシステム。ミステリアスで謎にあふれた展開と、最後に待つどんでん返しの物語。死の運命を変えていくスリルとドキドキ感。そして、この世界観を存分に盛り上げてくれる音楽……と、魅力あふれる作品です。僕は、ゲームの終盤に明かされる意外な真実に、「ええええ!? そうだったのか!?」と声をあげて驚いてしまいました。あなたもぜひ、『ゴースト トリック』の世界を味わってみてくださいね!

……ただ1点だけ忠告させていただきたいのは、ハマりすぎにご注意、ということですね! 僕は本作を初めてプレイした当時、ハマりすぎて、ふと気がついたら夜が明けていた……ということがありましたので(笑)。

個人的には、巧氏のシナリオと杉森氏の音楽のタッグは非常に相性がいいと思います。またいつか、このお2人が手掛けた新作をプレイしてみたいものです!

最後に……本連載では普段、ゲームの音楽面にスポットを当ててご紹介しているのですが、グラフィックに関することを1つだけ。このゲーム、キャラクターの動きがメチャクチャすごいです! ぬるぬる動きます! 特に、白いコートを羽織ったカバネラ警部のムダに動きすぎな動作や、刑務所の看守が踊る「テンテコの舞い」は面白すぎます(笑)。プレイの際にはぜひ注目してみてください。

■『ゴースト トリック』 公式プロモーションムービー

【筆者プロフィール】
 hide / 永芳 英敬

ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、ゲーム音楽関係の記事を執筆しています。先日ようやくPS4を買いました。気になっていたPS4のゲームをいろいろプレイしまくりますーッ!
[Twitter] @hide_gm [ブログ] Gamemusic Garden

(C)CAPCOM CO., LTD. 2010 ALL RIGHTS RESERVED.

《hide/永芳英敬》

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]

特集

関連ニュース