2023年3月末にSteamでリリースされて以降、圧倒的な好評を得ているインディゲーム『Pineapple On Pizza』。Majorariatto社から発表されたこのインディゲームが、ストリーマーやVTuberの間で、その内容とともに注目を集めています。
◆『Pineapple On Pizza』その内容とは？
『Pineapple On Pizza』のゲームシステムはおおよそ、「太陽が燦燦と降りそそぐ謎の島を歩き回る」という、至って単純な内容です。
背の高いヤシの木が生えた島の中で、大きな葉っぱで局部を隠す島民がニッコニコの笑顔を浮かべ、一様に踊り続けている――見ていると徐々に疑問に思う気持ちが強まり、プレイヤーは「いったい彼らは何なのか？」「むしろ何をするゲームなのか？」と自問しながらグルグルと島中を歩き回ることになります。
とうもろこしの畑、ニッコニコな笑顔を彫った銅像、ふわふわと浮かぶように飛ぶ鳥たち、島の真ん中には大きな火山があり、流れるのは陽気なBGM。南国風な木々と家などの細かなディティールこそしっかりしていますが、いまいち何をするのか分からないままゲームを進めていくことになります。
ゲームの詳しい内容に関してはここまでにしますが、実はとある行動をすると一気にゲームが進行し、呆気ないまでにエンディングを迎えるのです……。
ここで、プレイし終えたSteamプレイヤーの声を一部ご紹介しましょう。
「日頃くだらないことで戦争を起こしていることの幸せさを身に染みて味わえる」
「私たちの怒りを知れ。お前のやらかしたことはこれだけ罪深いのだ。」
「道徳の授業やビジネスマナー研修にも取り入れるべき名作。」
「ピザ食いてぇ」
ちなみに「Pineapple On Pizza」とは文字通り、パイナップルピザのことです。海外では熱狂的な支持者もいる一方、「そんなのありえない」と強烈な否定派もいるほど。SNS上では海外ユーザーを巻き込んでの激論がネットニュースになってしまうレベルの「触れてはいけない話題」のひとつと言えます。
2017年には、アイスランドのグズニ・ヨハンネソン現大統領が、「できることならピザにパイナップルを載せることを禁止したい」と発言し、英紙ガーディアン紙などが報じたことでこの件についての声明を発表する事態となったほどです。
日本流に言い換えれば、「唐揚げにレモン」「酢豚にパイナップル」「サラダにリンゴ」といったところでしょうか。「そんな食い合わせするなよ」という声の裏には、「余計な真似をしないでくれ」といったニュアンスが滲みます。
こういったことを知った上で本作のエンディングをみると、その意味合いがかなり深みをもって味わえるはずです。
◆少しずつ広がっていった高評価の波
そんな本作を、海外のゲーム配信者がピックアップして動画投稿。日本では「わいわいさん」や「のばまんゲームス」さん、「レトルト」さんなどが動画を投稿しました。
そこからVTuberシーンへと勢力が拡大し、個人VTuberとして活動する「名取さな」さんや「しぐれうい」さんらがプレイすることになります。そして、にじさんじでは大ブームに。4月12日に「神田笑一」さんが、4月18日に「フレン・E・ルスタリオ」さんがそれぞれプレイすると、4月下旬から5月上旬にかけて、日本・海外合わせて30人以上のメンバーが今作を楽しみ、ファンにも浸透していきました。
先に記したゲーム内容からピンとくるかと思いますが、実はこのゲームは10分から15分ほどでクリアできてしまいます。わいわいさんなどの事前収録・動画投稿に重きを置いている方は問題は少なそうですが、生配信で長時間のゲームプレイを得意とするストリーマーやVTuberにとって、「たった15分ほどで終わってしまうゲーム」は鬼門でしかないはず。
しかし、「ネタバレ注意／初見プレイ必須」「Steamでの好評価」「周囲がプレイしている」というウワサ話を耳にし、多くのプレイヤーが「なんか好評価みたいなんでやってみますね」と詳しい事情を知らぬままスタートした結果、その呆気ない幕切れとともに「え……！？これで終わり！？！？！」と声をあげてしまう事態に。
制作陣にそういった狙いはなかったでしょうが、かなりストリーマーや生配信者泣かせなゲームだと言えます。
◆「なんか好評価みたいなんでやってみますね」から始まる配信者力
幸いにも本作はたった15分ほどで終わるとはいえ、深みのあるエンディングや、ちょっとしたディティールから垣間見える島民同士の群像劇まで、さまざまな要素が盛り込まれているゲームです。
ゲーム内にはいくつかの実績解除があり、リスナーのコメントを参考にして実績解除に努めるプレイヤーがいれば、さまざまな島民の反応・動きを見て楽しむプレイヤーなど、こうも反応が違うものかと驚かされます。
あるプレイヤーは「あーーーーー！！！みんな！！！そんなことしてないで！！！ごめんなさい！！！そんなつもりじゃなかったんです！！！」と本気になって謝罪したり、「なんでこのゲームがここまで高評価なのか？」と気になってSteamのレビューを読み、そういうことか！と納得したり……。
にじさんじの「樋口楓」さんは、「なんかこのカメ、ちょっとずつ前に進んでない？」と気づき、カメが少しずつ進んでいることを確認すると「カメ待とう、雑談しよう普通に」と雑談パートをスタート。最近出かけたエピソードや「ぶっちゃけピザにパイナップルはあり？」など様々な話題を、約1時間40分に渡ってトークをし続け、カメが海に帰る様子を無事に見届けました。
ちなみに樋口さんのプレイ時間（配信時間）は約4時間13分。「カメ待ちプレイ」だけでなく、「石像登りチャレンジ」などもしているなど、楽しみ方が明らかに他のVTuberと異なります。さすがにじさんじの一期生といったところでしょう。
このように『Pineapple On Pizza』をライブ配信するということは、配信者当人がどのような反応を見せ、どのような見方を提示し、ファンを楽しませ続けることができるのか……いわば「配信者としてのスキル・センス・スタンスが現れる」配信タイトルへと変化しているのです。
配信者がこのゲームをプレイするときは、彼らがどんなリアクションや会話をしてくれるのかを楽しみにしてみましょう。
