今どきゲーム事情■杉山淳一:もうすぐ夏休み。ゲームで社会科見学しませんか?〜『ぼくは航空管制官3』プレイインプレッション〜

■空港の展望デッキの眺めってみんな好きだよね

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今どきゲーム事情■杉山淳一:もうすぐ夏休み。ゲームで社会科見学しませんか?〜『ぼくは航空管制官3』プレイインプレッション〜
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■離陸した飛行機が、グルグルと旋回する理由

離陸した飛行機がすぐに目的地の方向に向かわず、グルグルと旋回しながら上昇していくことがあります。飛行機で窓側に座っていると、いつまでも空港が見えています。上昇なんて目的地に向いながらでもできそうですが、これも航空路で決められているからです。

まず、到着する飛行機たちは低高度で空港に接近します。万が一ゴーアラウンドした場合、そのまま低高度で空港エリアを脱出します。つまり、空港周辺の低空は到着機が優先です。出発機が低高度のまま方向を変えると、到着機とニアミスしてしまいます。したがって、出発する飛行機には、その場で急上昇し続けることが求められます。これがグルグルと旋回しながら上昇する理由です。

『ぼくは航空管制官3』にはノーマルモードとエキスパートモードがあり、エキスパートモードでは到着ルートと出発ルートを詳細に指示する必要があります。羽田空港版のノーマルモードでは出発ルートを指示する必要はありません。那覇空港版では西回りと東回りを指示するだけです。実際の飛行機も、出発ルートの選択は自動化が進んでいるそうです。方向よりも離陸する間隔が大切です。飛行機の速度によっては、先に出発した飛行機に後から出発した飛行機が追いついてしまうからです。離陸指示のタイミングに注意しましょう。離陸を待っている間に、他の出発機が追いついて誘導路に並んでしまいますが、安全のためには離陸を急いではいけません。こういう事情で、羽田空港は飛行機が離陸待ちで渋滞しているわけですね。理由がわかればイライラも静まるかもしれません。


離陸機と着陸機の交通整理に失敗するとニアミスになります


■でも『3』シリーズはちょっと難しいかも?

『ぼくは航空管制官』は1998年に第1シリーズが発売されました。2Dの俯瞰視点で、オモチャのような飛行機が登場し、メインパッケージと2つのパワーアップキットで国内12空港が再現されました。このスタイルはプレイステーションやケータイゲームでも蹈襲されています。その人気を受けて、2001年に第2シリーズの『ぼくは航空管制官2』が登場しました。グラフィックが3Dになり、航空会社は実在の会社になって、実際の空港風景に近くなりました。1空港が1タイトルとなって、12空港を再現。羽田は4タイトル、成田と関空は2タイトルあります。


初代『ぼくは航空管制官』

『ぼくは航空管制官2』


そしてさらなる進化を遂げたシリーズが2008年2月に発売された『ぼくは航空管制官3』です。改良された3Dグラフィックによって、飛行機はかなり実物に近くなり、空港も駐機場や誘導路が現実的になりました。現実に近づいたことで従来のファンにとっては、とても面白く満足度の高いゲームに進化しました。その反面、始めて遊ぶ人には敷居が高くなったように思います。登場する飛行機と駐機場が増えたことによって、操作が煩雑で、1つ1つの飛行機をじっくり追えなくなりました。また、「ぼくは航空管制官2」では最大5機程度の同時進行でしたが、『ぼくは航空管制官3』では同時に10機程度の動きを把握する必要があります。

初めて「ぼくは航空管制官」シリーズを遊ぶなら、1世代前の『ぼくは航空管制官2』から始めたほうが理解しやすいかもしれません。千歳、仙台、成田、羽田、小松、名古屋、セントレア、伊丹、関空、福岡、鹿児島、那覇、の各空港が発売されていますので、身近な空港でゲームを始めると親しみが湧くと思います。もちろん初代「ぼくは航空管制官」から遊んでも楽しいと思います。初代『ぼくは航空管制官』はパズル性が強く、その意味では現在も陳腐化していません。携帯電話用やニンテンドーDS版の『ぼくは航空管制官』は初代のシステムを採用しており、いまだに人気のタイトルです。PC版は店頭から見かけなくなりましたが、プレイステーション版、携帯電話版、ニンテンドーDS版は入手しやすいと思います。

「いや、どうしても最新の『ぼくは航空管制官3』シリーズから始めたい」という人は、最新作の「沖縄ブルーコリドー」から始めましょう。滑走路が1本だけなので、滑走路が3本の羽田よりは理解しやすいと言えそうです。

■パズルとシミュレーションのバランスがナイス

“ぼくは航空管制官”シリーズは、「航空管制を題材としたパズルゲーム」から、「航空管制シミュレータ」へと進化しているようです。ゲーム要素とシミュレーション要素のバランスを上手く保ちながら進化しています。シリーズに共通する要素としては、複数の管制業務を1人で担当するシステムです。ちなみに実際の航空管制業務は次のようになっています。

デリバリー 空港のスケジュール管理をします。飛行機に対して、フライトスケジュールに基づいて出発の許可を出します。
グランド 滑走路と駐機場を結ぶ誘導路の交通整理を行います。飛行機に対して、滑走路や駐機場までの誘導路を指示します。
タワー 滑走路の交通整理をします。飛行機に離陸や着陸の許可を出します。
デパーチャー 離陸した飛行機の交通整理をします。飛行機に対して高度と方向を指示します。
コントロール 広範囲の航空路の交通整理をします。飛行機に対して高度を指示したり、経由ポイントを指示します。
アプローチ 到着する飛行機の交通整理をします。飛行機に対して到着ルートや高度、滑走路を指示します。
 
 
実際の航空管制は管掌ごとに分担されています。ゲームでは、上記のうち「コントロール」以外の管制を1人で担当します。コントロールは空港と空港の間を担当するので引き継ぐだけです。これが実際の航空管制とゲームの最大の違いです。リアリティはなくなりますが、この設定のおかげで、プレイヤーは「飛来する飛行機が到着し、お客様の乗降を行い、再び飛び立っていくまでの流れを見守る」という一連の動きを楽しめるわけです。また、この仕様にしたため、飛行機の発着数やダイヤは架空の設定となり、本数が大幅に減っています。しかし、忙しいのでこれも気になりません。パズル要素とシミュレーションの要素がうまく融合しています。これ以上リアリティを求めると、たぶんゲームとしてはつまらなくなりそうです。

初代『ぼくは航空管制官』では、複数の管制を行うにもかかわらず、無線交信が常に1対1でした。航空路をすべて復唱するデリバリー管制が交信していると、他の飛行機への指示が一切出せません。つまり、パズル要素を重視していました。そのためゲームの仕組みはもっともカンタンですが、難易度はシリーズ中でもっとも高いとも言えました。『ぼくは航空管制官2』ではグラフィックが3Dになるとともに、無線の1対1の制限が無くなりました。管掌ごとに同時進行で無線指示が出せるようになりました。登場する飛行機が増えたのでシミュレーションな要素が強くなり、操作が忙しくなりました。しかし、パズルとしての難易度は下がりました。初めて遊ぶ人は2がオススメ、という理由はここにあります。

『ぼくは航空管制官3』は、2のファンの要望に応える形で作られた気がします。よりリアルな機体、リアルな空港を再現しています。グランド管制で誘導路の詳細な設定ができたり、指示の変更もできるようになりました。しかし、管制の管掌については画面の表示が分離していないため、航空管制について理解がないと、何をしたらいいのか迷ってしまいます。しかし、ファンの強い要望があった「リプレイモード」が搭載されました。管制をせずに飛行機を眺め続けるモードです。スクリーンセーバー代わりに、空港で飛行機を眺める気分を楽しめます。

■『ぼくは航空管制官3』はMOD対応の設計になっている

『ぼくは航空管制官2』以降、各パッケージには6本のシナリオが収録され、2つの難易度が設定されています。1本あたり数千円以上のソフトですから、シナリオ1本あたり1000円以上。高い難易度に挑戦したとしても500円以上になります。ちょっと割高な気がします。そんな不満を持ったユーザの中から、オリジナルの機体やシナリオを作る人が現れるようになりました。『ぼくは航空管制官2』では、ゲームの内容を解析し、飛行機の塗り分けを変更した機体を作ったり、シナリオを改造して公開しているユーザがいます。これらをダウンロードすると、もっとたくさんのシナリオを楽しめます。改造シナリオは製品のシナリオを上書きするためちょっと不便でしたが、なんと、上書き操作無しで遊べる「シナリオセレクター」を作った人もいます。「シナリオエディター」を作った人もいました。海外ゲームでは盛んなMODファイルの文化が、このゲームには生まれています。


ときどき登場する架空航空会社「テクノエア」。トラブルメーカーとして登場します


そうした動きを、メーカーのテクノブレインもよく理解していました。公式には推奨していませんが、『ぼくは航空管制官3』はシナリオの追加に対応した設計になっています。実際に、『ぼくは航空管制官3』の第2作目の沖縄編では、初回限定版で追加シナリオをダウンロード形式で提供しています。これは初回限定版のファンサービスというだけではなく「シナリオを追加できますよ」というメーカーからのメッセージです。実はMOD対応の仕様は、かなり早くから構想されていたようで、2年前に私が書いたコラムで、開発者の1人がこっそり教えてくれていました。今後、メーカーから公式なシナリオエディタや機体エディタがリリースされるかもしれませんね。

飛行機好きな人、空港が好きな人、旅行が好きな人、パズルが好きな人。「ぼくは航空管制官」シリーズは、そんなあなたが楽しめるゲームです。ぜひ遊んでみてください。

(C) 1998-2008 Copyright TechnoBrain CO.,LTD.
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《杉山淳一》

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