「徹底分析・データでみる 世界ゲーム市場の現状と未来図」は、エンターブレインでマーケティング情報を扱う、グローバルマーケティング局 コンサルティング事業推進部 部長のリッキー谷本氏と、IGDA日本(国際ゲーム開発者協会日本)代表の新清士氏の2人が演壇に立ちました。
■世界のゲーム市場の現状
まずはリッキー氏から貴重なデータを数多く引用しながら、世界のゲーム産業の現状が説明されました。まず最初の図は日米欧でのゲーム市場規模です。2007年から2008年にかけて、世界全体で3000億円拡大し、遂に5兆円市場となっています。しかし、米国が1000億円、欧州が3000億円それぞれ増加した一方で、日本は1000億円の減少という対照的な状態です。ちなみに世界のゲーム市場の85%は日米欧の3地域で占められているとのこと。
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世界のゲーム市場規模 |
続いて紹介されたのは、リーマンショック以降、ちらほら聞かれた「ゲームは不況に強い」という解説についてです。実際にリーマンショックの昨年9月以降、米国では小売市場が大幅にシュリンクする一方で、反比例するようにゲーム市場は伸びました。米国でも「巣ごもり消費」と言われるような現象が起きているそうです(現地ではStay-cation/Stay Vacationと呼ぶそうです)。
しかしながらこの活況は年明け以降には姿を変え、春先からはゲーム市場も厳しい状況になっています。大手量販店のWal-Mart、Targetといった企業の売上高が減少し、全米にチェーンを持つ大手ゲーム専門店GameStopも低迷しています。リッキー氏は、ちょうど大作タイトルのリリースがなかったことや、続編が増加してユーザーの飽きがあったという見方も紹介しながら、ゲーム市場も経済指標とある程度の相関性があるのではないかと言います。それを証明するように、欧州でのデータでは、住宅バブルの影響が少なかったドイツを除く各地域で前年割れをするような状況になっています。
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全米小売売上(ブロック)とゲーム売上(線) | しかし厳しい経済 | ゲームも調整期に |
また昨今の世界のゲーム市場として懸念されているのは中古ゲームの増加です。中古ゲームは日本でも一時期問題になりましたが、GameStopでは利益の半分が中古ゲームから上がっているというデータが決算で示されています。つまり、ゲーム市場は拡大しながら、ゲーム企業の収益は悪化するという現象です。その他の小売店も中古ゲームに力を入れ始めています。
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年明け以降は厳しい状況 | 欧州市場も同様 |
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中古ゲームが台頭 | デフレ化も進行 | GameStopの収益より |
また、リッキー氏は中国のオンラインゲーム市場が今年にも日本の家庭用ゲーム市場を超える規模になるという見方を示しました。また、ラテンアメリカなどの新興国でもゲーム市場が拡大しているということです。「これまでのように日本の家庭用ゲームだけでは勝負できない状況になりつつある。ただ、ゲーム人口は増えていてチャンスは広がっている」と総括しました。
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ゲーム機シェアは地域によって大きく異なる | 上手く海外展開できているのは任天堂だけ | 米国でのシェアも低下 |
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中国のオンラインゲームの台頭 | ラテンアメリカの拡大 | 多様化と多極化が進む |
■家庭用/携帯ゲームの市場はいつまで続くのか?
リッキー氏からバトンを渡された新氏は続いて「人口」というデータを持ち出します。
見落とされがちですが、人口はその国の経済規模をある程度きめる指標になります。超大国アメリカには3億人近い人口がいますし、ヨーロッパも大きな国は5000万人クラス、EU全体を考えれば5億人近い人口になります。今後発展が期待される中国、インド、ラテンアメリカ諸国も軒並み1億人を超えます。日本がここまでの経済規模を獲得したのは、基盤となる人口があったからという見方もできます。
また、人口ピラミッドはゲーム業界にとって決定的に重要です。日本の人口ピラミッドを見ると、いわゆる逆三角形で少子化が進んでいることが一目瞭然です。当然、ゲーム業界にとって良いものであるはずがありません。一方、アメリカを見ると、綺麗なピラミッドが描けています。アメリカでは今後も人口増加が続くと考えられています。それに連れてゲーム業界も自然と拡大を続けるでしょう。
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日本の人口ピラミッド | 米国の人口ピラミッド | 可処分所得の推移 |
さらに、可処分所得のデータを見れば、ファミコンがどのような時代背景で普及していったかが分かります。日本の二人以上の世帯における年間の可処分所得(生活に最低限必要な金額を除いた自由に使えるお金)は、70年には年間わずか10万円だったにも関わらず、急拡大する経済に合わせて増加し、ファミコン発売の84年には34万円にまでなっています。右肩上がりの成長が実感できた時代であり、多少高価なゲーム機を子供に買い与える余裕もあった時代です。可処分所得は98年をピークに徐々に減少しています。いわば右肩下がりの時代には心理的なハードルが大きくなります。
ゲーム業界が国の支援を殆ど受けることなく、自力でここまで大きくなった要因は、ちょうど子供が多い時期に誕生期を迎えたことが挙げられます。最初のユーザーが成長するに従って、業界も伸びていったことが分かります。彼らが年齢を重ねるのに合わせて、高性能化したゲーム機による豪華で映画的なゲームが主流になっていきました。昨今のノストラジックな8bitブームのようなものも同じ文脈で考えることができます。
しかしながらゲーム業界の成長の原動力となったこれらの前提条件はもはや存在しません。少子化は更に進み、多くの人がゲームを遊ばない状況が出来上がりつつあります。
新氏は言います「10年後の日本のゲーム市場は確実に縮小します。2/3になっても驚きません」。これこそが日本のゲーム企業がこぞって海外展開を急いでいる理由です。しかし任天堂を除く全てのメーカーは苦戦し、日本のタイトルが通用しなくなっているのを目の当たりにしています。「パッケージのビジネスモデルは壊れる一歩手前まできている」と新氏は集まった学生に認識を改める必要性を説きます。iPhoneゲームやソーシャルゲームなどノンパッケージゲームが台頭すると共に、日米欧以外の、インド、ロシア、ラテンアメリカといった市場が急成長し、産業構造自体が大きく変わる転換期にあります。
だからといって「ゲーム業界の未来は暗い」というのが本セッションの趣旨ではありません。
ゲーム業界を取り巻く技術革新は過去にないほどのスピードで進行しています。ムーアの法則に寄ることのできる、RAM容量、ハードディスク容量、インターネット回線バックボーンといったものは指数関数的に伸びています。2002年に600億円をかけて完成した地球シミュレーターの性能は2012年には10万円台のPCで補えるようになるという予測もありますし、現にiPhone(初期型)の性能は10年前の最新ゲームPCの性能に匹敵します。
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ハードの進化は続く | 例えばiPhone | ここ数年だけでも大きな技術革新 |
技術革新はこれからも継続します。それを「何に使うかが重要で、既存のゲーム市場を見ているだけでは分からない」可能性があるので、TwitterやSNSなど何でも新しいものは自分で確かめる姿勢がいいのではないかと新氏は述べていました。
そして、「大きな転換期にあるゲーム業界で、既存のゲームタイトルやブランドを見て、家庭用ゲームをやるつもりで"就社"するという意識であれば必ず失敗する」とアドバイス。激流の時代を生き残れる会社かどうか見極めるには、新しいチャレンジをどのように行っているか見るのがいいのではないか? と話していました。
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スクエニのニコッとタウン | うごメモ | ユードーの取り組み |
もちろん大企業に就職することを否定するわけではなく、大企業には大企業の良さがあるわけですが、いずれにせよ、会社に"食わせてもらう"という意識でいつまでも居られるような世界ではないことでしょう。