カプコンは「ロスト プラネット 2 における新しい映像表現」と題した講演を行い、XSIとMTフレームワークを併用したゲーム制作の内幕、そして技術のみに頼ることなく迫力ある画面を生み出す、様々な工夫を披露しました。
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作業工程 |
講演の主役は『ロスト プラネット 2』を手がけたCS第一制作室の加治勇人氏。
巨大クリーチャーの背中に乗っての戦闘は前作からチャレンジしたかった課題だった、と語ります。最初はカプコン開発のMT Frameworkによるモデルを使用しましたが、クリーチャーが動くと見た目と実際の当たり判定にズレが生じるなどの問題が発生したため、オートデスクのXSIで当たり判定用のモデルを新たに作成したといいます。MT FrameworkによるクリーチャーにXSIによる当たり判定モデルを合成、見た目に違和感がないプレイが実現されました。
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関節構造の再現 |
六本足や逆関節など、人間と異なった体構造を持つ同作のクリーチャーですが、動きを作成する上では人間によるモーションキャプチャが大きく役立ったといいます。アクターたちが組体操のようにして六本足を再現するなど苦労の連続でしたが、XSI上で関節を加工するなどの処理を施すことで「コストを削減しつつの大量生産」(加治氏)が可能になったそうです。
加治氏は背景に関して「プレイヤーに臨場感を与える上で重要な要素」だと定義します。
前作のマップではプレイヤーが干渉できるのは一部だったものの、動くものに関節を設定するのではなくポリゴンを変形させることで「プレイヤーが通った後の草が揺れる」「着弾で水面にしぶきが上がる」「爆風で木々が揺れる」など臨場感ある画面を作り出すことに成功しています。
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バックグラウンド |
水の表現は普通に処理したのではリソースを消費してしまう厄介な題材。「手間をいかにかけないかが腕の見せ所」(加治氏)ということで、処理の軽減化が模索されました。水の全てを処理するのではなく、水面用のゆがみのフィルタ+水深を表現する垂直方向へのフォグフィルタを組み合わせることで、リソースを食いつぶすことなく自然な水が作り出されています。
「カプコンのゲームは“こんな技術があるから使おう”ではなく、“こんな遊びをしたい”ということから作られており、遊び心は大切です」と加治氏はいいます。その上では時にはアナログともいえる手法が使われるそうです。『ロスト プラネット 2』では列車に乗って戦うシチュエーション(「列車戦」)が登場します。巨大な列車が広大な空間を爆走する……といかにも処理が重そうですが、実は列車は固定されており、背景のみを後方へスライドさせることで疾走感が表現されています。
カプコンではこうした発想を「トンチ」と呼んでいるとのこと。「技術は進歩しましたが、遊びの本質は変わっていません。トンチ(アイデア)をひねり出すことで、アナログな手法と最新技術でゲームを成立させています。チームのこだわりと熱意を感じて下さい」と加治氏は語りました。
続いて登壇されたのは『ロスト プラネット 2』のプロデューサーである竹内潤氏。
「XSIとMT Frameworkを有機的に結合した開発環境を作り出せました。昨今のゲーム作りでは技術的な側面が注目されていますが、この会場に来られているデザイナーの方には、“技術のみによらず、自分たちのアイデアと努力でものを作れる環境が既にある”ということをご理解頂けたらと思います。映像やゲームを作られる方は、技術に偏重することのない作り方があるということをカプコンの事例からヒントを得て頂ければと思います」とデザイナーへエールを送り、講演を締めくくりました。
六本足のクリーチャーを作るのにアクターが組体操、列車の走行を表現するのに背景だけを動かす……と、様々な「トンチ」が明かされた60分ですが、クリエイティブの現場における発想力と熱意が印象的な講演となりました。