冒頭で杉本氏は、改めて「ニコ動」の特徴を解説しました。動画サイトと見なされがちですが、実態は会員同士が動画をネタにコメントを介した非同期対話を楽しむ「コミュニケーション・プラットフォーム」。杉本氏も「ソーシャルという概念により近いサービス」と自己分析します。
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ニワンゴ代表取締役社長・杉本誠司氏 | 「ニコ動」はソーシャル性の強いサービスだ |
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総会員数は2200万人を数える | 20代を中心に若年層会員が多い |
会員数も2200万人弱を数え、国内で有数のネットサービスに成長。動画に留まらず、最近では静止画にコメントをつける「ニコニコ静画」など、全14のサービスが展開されています。もっともユーザーは多数のジャンルにクラスター化しており、一枚岩ではありません。杉本氏曰く「メディアではなく、『メディアっぽい』サービス」とのことです。
ビジネスモデルはプレミアム会員、広告、アフィリエイト、アイテム課金で、中でもアフィリエイトには興味深い現象があると言います。一方「ニコ動」自体がユーザーと一緒になって成長してきた経緯があり、単純な広告モデルはなじみにく、知恵の見せ所だと分析。アイテム課金はオンラインゲームに影響を受けた点もあると語りました。
杉本氏はこれらを踏まえた上で、4つのトピックについて解説していきました。以下、講演内容にもとづいて紹介していきましょう。
■コンテンツ・エコサイクルがマーケットのコア(核)であり、メディア・サイクルを動かす原動力である。
「ニコ動」の基盤が、会員間で構成される「コンテンツ・エコサイクル」です。ネタ投下役の「動画投稿者」、盛り上げ役の「コメント投稿者」、圧倒的多数の存在で、ランキング変動の鍵を握る「視聴ユーザー」という3種類の会員が、投稿と視聴を通して、お互いの存在を認識したり、評価しあいながら、互いの自己認証欲を充足。このサイクルを通して、さまざまなコンテンツが生まれ、消費されていく・・・。もっとも、これらの特徴は「ニコ動」のヘビーユーザーなら、今さら説明されるまでもないでしょう。
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3種類の会員が織りなすエコシステム | ボカロ曲がリアルな音楽シーンでも人気 |
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ニコ動から生まれた人気アーティスト | ニコニコ大会議はプラチナチケット化 |
興味深いのは、こうしたバーチャルプラットフォームで生まれたコンテンツが、リアルワールドにも影響を及ぼしている点です。その筆頭がボーカロイドで、オリジナルCDや「歌ってみた」CDがオリコンチャートの上位にランクイン。カラオケのJOYSOUNDでは総合ランキングで上位30曲中14曲が「ボカロ曲」となっています。ニコ動で人気のアーティストがメジャーデビューを果たす例も見られます。
こうしたムーブメントの頂点が「ニコニコ大会議」で、チケットが即時完売するほど。杉本氏は「ネットライブ(イベント)ビジネスにも成功の予感」と紹介し、7月に六本木でオープン予定のイベント施設「ニコファーレ」に繋がっていると説明しました。
■コミュニケーションのリアリティ追求が付加価値の増大につながり、連鎖的にマーケットを拡大させる。
「ニコ動」が今、力を入れているコンテンツが「ニコニコ生放送」です。当初はアニメ、ゲーム関係が中心でしたが、現在は政治、文化、スポーツ、企業コラボなどに拡大しています。きっかけとなったのが、2010年11月に開催された「小沢一郎ネット会見~みなさんの質問にすべて答えます!」で、累計視聴18万人、コメント総数11万件を達成。杉本氏は「ニコ生」の一般層への広がりを「付加価値多様化の時代」だと説明します。
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小沢氏の「ニコ生」登場が契機だった | フジテレビとタイアップしてニコ生を実施 |
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NHK「クローズアップ現代」にも登場した | 災害特別放送が同時配信される時代へ |
ここからテレビ番組との連動も行われました。第一弾が2010年11月に行われたフジテレビ「新・週間フジテレビ批評」で、第二弾が2011年3月に行われたNHK「クローズアップ現代」とのコラボレーション。共に前後の打ち合わせのみ「ニコ生」で放映し、番組部分はコメントのみという、2ちゃんねるの「実況板」と同じスタイルがとられましたが、コンテンツとして成立することを証明。地上波テレビ局とネット動画サービスが共同歩調という点で、画期的な出来事となりました。
こうした背景を経て、急遽実施されたのが東日本大震災に伴う報道特別番組の同時視聴です。NHK・フジテレビ・TBSニュースバード・IBS茨木放送・TBC東北放送の協力で、15日間で38番組が同時放送されました。その後も主要記者会見の生放送が続いています。
■情報を選べる時代だからこそ、情報(ソース)は圧倒的に量的過多な方向へ。
杉本氏はこうした状況について「ソーシャル(ネット)によるメディア構造の変革」が進行中と分析しましす。従来はテレビ局などの企業内で完結していた「コンテンツ・プラットフォーム・インストラクチャー」という役割が、「個人・ウェブサービス・インターネット」などと分離。既存のメディア構造との二重化が見られるというわけです。
その結果、情報ソースは圧倒的に量的過多の時代に突入しています。これが再び、「インタラクティブで視聴者に信頼感が得られやすいコンテンツプロバイダー」を招き、ポータルサイトなどを入り口に、インターネットで拡散するサイクルを創出。一方で地上波タイアップなどのように、既存メディアとの「相乗り」もさらなる進展が予測されます。
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ソーシャル化で情報過多がさらに推進 |
■マーケットの構造とニーズに合った思考によってこそ、ビジネスモデルは担保(継続)される。
こうした変革をビジネスにどのようにつなげていくか・・・。キーワードは「ソーシャル性」だと説明されました。
まず著作権面では、角川HDGと連携しての電子書籍サービス「Book★Walker」の推進や、エイベックスマーケティングなどレコード会社三社との原盤使用許諾などです。杉本氏はこうした新しい著作権の考え方を元に、ソーシャルリーディングやソーシャルリスニングなどの、新しいビジネスへと繋げていきたいと語ります。
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新しい時代の著作権について協議を推進 | アニメ公式コンテンツはVOD市場を凌駕 | コンテンツ・エコサイクルをビジネスに繋げる |
続いて「ニコ動」における「アニメ公式コンテンツ」の有料視聴と売上げが好調である様子が示されました。その拡大ぶりは「既存のVOD市場を超えるレベル」とのことです。ユニークなのは多くの視聴者が、コンテンツを既に何らかの形で視聴し、グッズ類も購入済みであると推測される点。これもまた「一緒に番組を楽しみたい」という、一種のネットオフ会のノリで消費しているのでは、と説明がありました。これらは、ソーシャルウォッチング・ビジネスの可能性を示す材料だと言えます。
このように杉本氏は「コンテンツ・エコサイクルの中にビジネスチャンスを組み込む」ことで、新しいビジネスモデルが生み出されると解説しました。一方でこのことは、ソーシャル化が進む中で、既存のビジネスモデルが未来永劫続く保証はない、という警鐘とも受け取れます。もっとも、「ニコ動」としても発展途上にあるのが事実。杉本氏からも「ぜひこうしたビジネスで成果を出して、みなさんのご報告できるように努力したい」とまとめられました。