【mobcastオープンカンファレンス】稲船敬二氏と水口哲也氏が語る「ソーシャルゲームの未来」
六本木のMercedes-Benz Connectionにて、モブキャストが主催する第1回「mobcastオープンカンファレンス」を開催。著名なゲームクリエイターである稲船敬二氏と水口哲也氏による「ソーシャルゲームの未来」と題された対談が行われました。
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対談 「ソーシャルゲームの未来」
稲船 敬二氏(株式会社comcept CEO/コンセプター)
水口 哲也(Mizuguchi Creative Office代表 / mobcast クリエイティブアドバイザー)
ご存知の方も多いとは思いますが、稲船氏は『ロックマン』『ロストプラネット』などのヒット作で知られる元カプコンのクリエイター。2010年に独立して、株式会社comceptを設立しました。一方、水口氏も自身で起こしたキューエンタテインメントの取締役を2012年に退任、現在は大学で教鞭をとりながら、Mizuguchi Creative Officeの代表として活躍されています。
稲船氏も水口氏も1965年生まれであり、アーケードからスマートフォンに至るまで、長い期間に渡りゲーム業界に従事しつつ、現在はスマートフォン向けのゲームを制作しています。このように共通点が多い両氏ですが、対談ではスマートフォンゲームの作り方からビジネスモデルなどについて語りました。
■アーケード、コンシューマ、スマートフォンと激変するゲーム業界
まずはアーケード時代からの経歴を振り返りつつ、現在のスマートフォンの時代にいかに対応するについて触れられました。稲船氏はソーシャルゲームやスマートフォンゲームに挑戦するも、まだまだ成果が上げられていないと述べています。しかしながら、先日リリースされたiPhoneアプリ『おっさん☆たまご』は、プロモーションをほとんど行わずともApp Storeのランキングに入るなど、確実な手応えを感じているといいます。
一方、水口氏は本カンファレンスに合わせて、モブキャストから3本のネイティブアプリをリリースすることを発表しています。まずは8月上旬に配信予定のRPG要素を取り入れたソーシャルゲームに立て続け、今年末には新感覚のパズルゲーム、来年にはカジュアルゲームをリリースするそうです。
このようにスマートフォンへと急激にシフトする現在のゲーム業界の激しい変化になんとか対応している両氏ですが、時代を振り返るとこのような変化は常にあったと述べています。稲船氏はアーケードからコンシューマへの以降も大きな変化であり、それらにうまく対応できたからこそ、現在の自身のキャリアがあると振り返っています。また水口氏からの「ずばり、comceptでは、スマートフォンに力を入れていますか?」という問いに対して、稲船氏はコンシューマゲームも好きだが、「将来的には一番力を入れて取り組んでいる」と応えました。
また水口氏は、これまでプラットフォームごとのユーザーに合わせてゲームを制作してきたに対して、現在のスマートフォンではそういったことを考えずに制作できる統一したプラットフォームが成立したと述べています。その一方で、汎用的なスマートフォンではゲームプレイがぶつ切りになるため、それに合わせたようなゲームデザインが必要であるとも指摘しました。
それに対して稲船氏は、これまでのコンシューマ機のゲームでは、「ゲームするための努力」が必要であり、その結果として制作者もユーザーも非常にモチベーションが高かったと振り返っています。そのため、ユーザーが行った努力を上手いタイミングで解放するゲームデザインが重要であったといいます。一方、スマートフォンではそういった努力が基本的に存在せず、生活の中に自然と入ってくるもの、すきま時間に楽しめるものを考えないといけないと指摘しました。そういった日常的な「オフの部分」に合わせたクリエイティビティがこれからのスマートフォンのゲームに求められるとまとめています。
■古くて新しいF2Pというビジネスモデル
次に水口氏は昨今のスマートフォンで常態化している基本プレイ無料(F2P)のビジネスモデルにも触れました。このようなゲームの課金システムの変化はもう戻れない「進化」として受け入れる他ないと考えているそうです。とはいえ、実際にはテレビ番組のようにゲーム以前からF2Pのようなビジネスモデルはあったことも指摘しました。
稲船氏もF2Pは時代の流れとして当然だと認めつつ、あるサービスが安くなったり、お金を払っている感覚がなくなったりすることは常にありうると指摘しました。例えば、携帯の使用料は、以前は高く感じたものの、現在では月々に一定額を払うことに抵抗感がある人は少ないと述べています。そのため、ソーシャルゲームのようなビジネスモデルでは、月々にある程度の課金を当然のように行うシステムを作っていく必要があると述べています。
また稲船氏はF2Pのビジネスモデルを「税金」と比較しました。同じ国に住んでいても税金の払う量が人によって異なるように、ソーシャルゲームにおいてもプレイヤーの課金は人によって異なります。課金しないプレイヤーでもゲームを楽しめるのは、課金ユーザーの存在のおかげだとも言えるわけで、その点ではソーシャルゲームは現実の社会構造と似ていると指摘しました。
■『パズル&ドラゴンズ』の大ヒットと独立系開発者
最後に話題は海外展開に移りました。稲船氏はカプコン時代から常にグローバルなマーケットを意識していたので、スマートフォンの時代も当然、世界を狙っていくと述べています。その点では、ハードウェアのシェアに縛られず、いつでも世界に攻めていける現代はクリエイターとしてはとても面白いものと映ります。
その一方、成功したゲームはすぐに他の市場でマネをされるため、ゲームのシステムやブランド、クリエイターの成長サイクルが非常に速くなっていると、水口氏は指摘しています。昨今の事例では、『パズル&ドラゴンズ』の大ヒットによって、大躍進したガンホーのような事例もあり、その点をどう考えているのか、稲船氏に問いかけました。
稲船氏は、ガンホーが『パズル&ドラゴンズ』をヒットさせたことは、本当に嬉しかったと述べています。理由は、もともとコンシューマで制作していた人たちがスマートフォンでもヒットを出せたことにあるといいます。そのようなゲーム会社がヒットを出したことは、独立した自分にとって非常に勇気づけられたと振り返っています。
また水口氏はスマートフォンのようなマーケットでは、インディペンデントな開発者でも大きなヒットを当てることができる可能性に期待しているそうです。稲船氏や水口氏のような独立したベテランクリエイターと若手クリエイターが同等な立場から勝負をできるという意味では、確かにスマートフォンは現在のゲーム業界においては非常に興味深いプラットフォームということができるでしょう。実際にベテランクリエイターである両氏が、スマートフォンという新しいプラットフォームで活躍していけるかどうか、今後も目が離せません。
《今井晋》
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