∞(ノンストップ)クライマックスアクションを念願のアニメ化 「BAYONETTA Bloody Fate」木崎文智監督インタビュー
2013年11月23日より上映された劇場用アニメ『BAYONETTA Bloody Fate』。2009年に発売され、国内外に多くのファンを持つアクションゲーム『BAYONETTA』(以下『ベヨネッタ』)のアニメ化だ。
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「∞(ノンストップ)クライマックスアクション」と銘打つ名作ゲームを、ノンストップクライマックスアニメへと昇華させたのは『アフロサムライ』シリーズなどを手がけ、ハイディテールのビジュアルと、刺激的なアクション演出を得意とする木崎文智監督。人気ゲームのアニメ化に真っ向から取り組んだ、一大プロジェクトの内幕を聞いた。
[木崎文智(きざき・ふみのり)]
1969年生。福岡県出身。1980年代末よりアニメーターとして活躍し『バジリスク~甲賀忍法帖~』で初監督。切れ味の鋭いアクション演出は海外からの評価も高く、近作『アフロサムライ:レザレクション』はエミー賞へのノミネートも果たした。
(※崎の字は、本来は“たちさき”です。)
『BAYONETTA Bloody Fate』> http://www.bayonetta-movie.com/
■ 「このゲームは舐めちゃダメだ」
- まず本作を監督する経緯はどういったところから?
- 木崎文智(以下「木崎」)
プロデューサー側からの指名でしたね。まず原作ゲームを渡されて「こういう企画があるので触っておいてください」という感じでした。
- 木崎監督は普段ゲームはプレイされますか?
- 木崎
そこそこかな。『バイオハザード』や『HALO』みたいなアクションゲームが多いんですけど『ベヨネッタ』もちょうどその好きなタイプだったので、素直に面白かったですね。
でも最初は「これをアニメ化する気なんだ。大変だけど、どうするんだろう?」っていう……。
- わりと他人事な感じで(笑)。
- 木崎
まあ、アニメの企画ってなかなか決まらないことの方が多いので、最初はそれほど本気にしてなかったんですね。遊んだのはちょうど『アフロサムライ:レザレクション』の直後の2009年末ぐらいだったと思うんですが、いずれ企画が動くならそのときに考えよう、という感じでした。企画が動き出す前はそもそもなぜ、アニメ化を言い出したんだろうと。
『ベヨネッタ』という作品は、まずゲーム内にハイレベルなCGムービーがあるので、アニメ化する際の労力の重さは容易に想像できますよね。スタッフへの負荷はこれまでの作品と比べ物にはならないだろうし、僕も「このゲームは舐めちゃダメだよ」という意見でゴンゾの内藤プロデューサーと話し合ったんですが「それでもやるんだ」という強い要望があったので「じゃあなんとか実現に向けてやりましょう」ということで、監督を引き受けることになりました。
- 内藤プロデューサー
アニメ化に関しては「木崎さんにこそ監督をお願いしたい」という強い希望が関係各者からあったので、逆に木崎監督が降りることになっていたら、この企画は成立しなかったですね。
- なるほど。本格的に動き出したのはいつ頃ですか?
- 木崎
企画自体は原作ゲーム『ベヨネッタ』がリリースされた2009年から動いていたんですが、翌年の2010年に企画が固まって、まだ当時関わっていた『X-MEN』の作業を経てからシナリオやキャラクターの開発に着手しました。シナリオと並行でイメージボードを描き、絵コンテ作業に入ったのが2012年の10月でしたね。
- では2014年リリース予定の『ベヨネッタ2』に合わせたスケジュールではなくて、1作目当時から動いていたアニメ化が、結果的に『2』につながるタイミングになったということですね。
- 木崎
そうですね。
- アニメ化にあたっての全体の方針は?
- 木崎
実制作に入る前に、参考用にゲームのCGムービーをつないだ7時間ほどの映像を見たんですが、あらためてすごくて「これを編集して2時間にすればいいんじゃないの?」と思えるほどだったんです。それだけならゲームをプレイするのが作品にとって最善だと思うので、シナリオ開発初期には、ベヨネッタとジャンヌの過去などゲームで語られていない部分をアニメで描くアイデアもあったんですが、最終的にはプロデューサーサイドから「ストーリーを誰もが理解しているのではないので、アニメではゲームのストーリーをしっかり見せてほしい」というオーダーがありました。
それを受けて映画の90分という長さで『ベヨネッタ』という作品をちゃんと理解できるように構成し直して、なおかつキャラクターが記憶に残るような形を目指して、シナリオから絵コンテ作業に進めていった形です。基本的な流れは原作を踏襲しつつ、アニメならではの独自性を盛り込む方向になっています。
- シナリオと絵コンテでとくに大変だった点は?
- 木崎
ストーリー自体はそれほど複雑なわけではないんですが、ゲーム中では直接語られてない設定が多かったことですね。
自分が理解できないと絵コンテは切れないので、原作ゲームを開発されたプラチナゲームズさんにお邪魔して、ディレクターの神谷英樹さんやプロデューサーの橋本祐介さんに、ゲーム中では語られていない裏設定を確認させてもらいました。そのすべてではないんですが、一部は本作にも反映されています。
- 伏せられている部分は、もしかしたら制作中の『2』で描く予定かもしれないわけですね。
- 木崎
そうかもしれません。なので原作ゲームで語られていない部分は必要以上には触れずに、なんとか一本の映像作品として成立させようということですね。
- 原作の要素からの取捨選択の基準は?
- 木崎
全体のストーリーラインとして、ローサがベヨネッタに託したルージュが最終決戦につながるので、ここを主軸にしてドラマが盛り上がっていくように構成していきました。それと登場人物の行動原理ですよね。
世界観については語り始めると膨大にあるので、説明を冒頭に集約させてもらっています。ほかにも出したい天使とか、ラストには大天使軍団を出す構想もあったんですが、やむをえず絞っていまの形に収めています。
- 原作からのアレンジが大きい部分はどんなところですか?
- 木崎
大きい部分としてはルカという青年のキャラクターですかね。当初のシナリオだとルカがもっとおっちょこちょいで、原作ゲーム同様に女性好きな面が前面に出ていたんです。ただ彼のキャラクターを短い尺で中途半端に描いてしまうと、最愛の父の悲願を達成したいという思いや、ベヨネッタへの憎しみが軽く見えてしまう可能性があったので、そこは控えめになりましたね。
- ルカに限らず、全体的に原作に比べるとストイックな印象を受けます。
- 木崎
もうちょっと遊んでもいいかなという気はしたんですけれども、残念ながら90分の尺ではゲームの面白さの全てを盛り込む事はできないですからね。
シナリオ会議ではバカバカしいネタ出しで盛り上がったんですが、最低限、観客に提示しなければならないドラマとアクションを盛り込むのが精一杯で、本筋とは関係ないお遊びを入れ込む余裕はなかったですね。
そういった理由から原作のコミカルな部分は抑えて、アクションを盛り上げる為にベヨネッタとバルドル、ジャンヌのドラマに重きを置いています。
- セクシーな描写が問題になったりしませんでしたか?
- 木崎
いや、それはあまりなかったです。ありがたいことに全体の方向性が決まってから、絵コンテ以降の演出面の作業に関してはかなりこちらの裁量に任せてもらえました。原作サイドからの後半のオーダーは「ジャンヌの胸はあまり大きくしないで欲しい」というぐらいでしたね。
- ここはアニメならではの見せ方になったな、というシーンは?
- 木崎
冒頭の大聖堂での天使戦、中盤での車型天使のアイレニック戦、べヨネッタとセレッサの関係や、あとはローサとバルドルの関係といったところですかね。とくに後半、シバ対ジュベレウス戦はゲームでおなじみのトーチャーアクション(注)で決着するので、その辺はアニメオリジナルの見せ方になったと思います。
最後まで取っておいた要素ではあるので、ファンの方にも喜んでもらえたら嬉しいですね。あとはゲームでさらっと出す技もちゃんと段階を追って丁寧に見せるのには気をつけました。ゲームをプレイした人がなるべく違和感なく入り込めるよう、ゲームのムービーの構図をあえて活かした場面もありますね。
(注:原作ゲームで決め技として登場する、拷問具を使った攻撃)
- 絵コンテ以降の作業で大きな比重を占めたのは?
- 木崎
レイアウトチェックですね。パートによっては作画監督や原画マンにお任せしていますが、基本的にレイアウト作業まではほとんどのカットに自分が手を入れるようにしています。
『バジリスク』の頃からそうですね。レイアウトは現場が大変な状況に陥ったときの保険でもありますし、ここでの作業が最終フィルムの仕上がりに少なからず影響するので、まったく手は抜けませんでした。
後編に続く
《animeanime》
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