【CEDEC 2014】できるゲームクリエイターに共通するただ1つのこと、スクエニ塩川氏が明かす

スクウェア・エニックスで米国法人に勤務し、多数の海外のクリエイターと協業してきたという塩川洋介氏。日本・海外を問わず、"できる"クリエイターにはある共通点があると言います。

ゲームビジネス 人材
【CEDEC 2014】できるゲームクリエイターに共通するただ1つのこと、スクエニ塩川氏が明かす
【CEDEC 2014】できるゲームクリエイターに共通するただ1つのこと、スクエニ塩川氏が明かす 全 3 枚 拡大写真
スクウェア・エニックスで米国法人に勤務し、多数の海外のクリエイターと協業してきたという塩川洋介氏。日本・海外を問わず、"できる"クリエイターにはある共通点があると言います。

現在は本社でクリエイティブディレクターを務める塩川氏


塩川氏は2009年から今年3月まで米国シアトルにある現地法人に勤務。シアトルだけでなく、各地のスタジオ(主に元アイドス)のクリエイターとの協業を通じて得た気付きを、「海外の“できる”クリエイターたちが大切にしている、たった1つのこと ~日米両国でのディレクション経験を通じて得た、たくさんの気づき2014~」と題する講演で紹介しました。

"できる"と感じられるクリエイターが大切にしているものはズバリ「こだわる」ということ。しかし、やみくもな「こだわり」ではなく、3つの観点が重要だと塩川氏は語りました。

■ハイレベルゴール=上位の目標を意識する

1つ目は「ハイレベルゴール」(High Level Goal)という概念で、この言葉は日本では全く使われておらず、塩川氏も現地に言ってから始めて触れたそうです。これは、優先して達成すべき、上位階層(=High Level)の目標を指します。

例えば、サバイバルホラーを作ることになり「超怖いゲーム」をテーマに掲げた場合、最も上位階層の目標は「超怖いゲーム」となります。ゲームは様々な要素から成り立っていますが、あらゆる過程で、このハイレベルゴールを貢献することを再優先で動けるということが塩川氏が"できる"と感じるクリエイターには共通していたそうです。

例えば、メニューの制作を任されたとします。当然、メニューというパーツにおいても「超怖いゲーム」に貢献するべきです。それを実現するメニューとはいかなるものかを考える事になります。ここでは時間を止めないように、3D空間内にメニューを配置する事を選択したとします。具体的な実装としてホログラフィを使う事にしましょう。この場合、

超怖いゲーム→メニューを開いてゲームを止めることがない→3D空間内にメニューを作る→ホログラフィで実装

という風に階層的な思考が行われています。常に上位の階層にある目標を下層に継承していく、これがハイレベルゴールを意識した仕事です。ここで、カッコいいからホログラフィでメニューを作ろう、という思考になってしまうと結果は同じでも、仕事に対する姿勢が全く異なるわけです。

ハイレベルゴールの概念


■資産に対する"こだわり"

続いては「資産」です。

シアトルのスタジオには「バトルのことならあいつに聞け」という評判の凄い奴がいたそうです。ある時、塩川氏がなぜそんなに詳しいのかと聞いたら「ずっとやってるからだよ」という返事。確かに経歴を見ると、ずっとバトルの開発に携わり、様々な新しい手法を試してきた経験があったそうです。こういう個人に蓄積された「資産」は重要です。

また、海外のスタジオで仕事をしていると、具体的な映画やゲームを指して「ああいうシーンを作ろう」というような会話が頻繁に聞かれるそうです。こういうセオリーも広い意味での「資産」と言えないこともないでしょう。あるいは、スタジオ単位で精通しているジャンルがあればそれも「資産」です。業界全体の「資産」も当然あります。

自分、スタジオ、業界の資産を活用し、失敗確率を下げていく。これも"できる"クリエイターの共通項だと言います。

■クオリティに対する"こだわり"

最後はクオリティに対するこだわりです。"できる"クリエイターは「尋常じゃないレベルでクオリティにこだわっている」と塩川氏は言います。

そうした人は、一番できるのに一番働いたり、凄い人になると、休暇なのにバカンス先に機材を持ち込んで実機チェックをしていた人もいるそうです。しかもそれでいて、最新のゲームや映画を欠かさずチェックしているような化け物のような人もいたとか。

塩川氏は「ある意味安心しました」と振り返ります。"できる"クリエイターは一面では"ただ頑張っているだけ"とも言えます。であれば追い付く余地もあろうというものです。ただ、ひたすら没頭できるのは、凄い作品を作りたいという強い思いや、その職務に対する強い責任感の表れとも言え、その境地に達せられるかは、個人の能力の部分なのかもしれません。



■海外に対するコンプレックスは意味ない

塩川氏は以上3点の"できるクリエイター"の共通点を紹介しながら、これは別に米国に限ったものではなく、国や環境は関係なく、どこにいても共通であると言いました。「海外に対するコンプレックスを目にする事もありますが、両方の開発現場を経験して思うのは、国籍が何であれ、出来る人は出来るし、出来ない人は出来ないということです」

そして、3つの事柄を意識しながら今日から出来ることとして次のように述べました。「まず、自分が蓄積してきたことって何だろうと考えます。そして、これから最低10年は打ち込めるもの、資産に出来るものを考えます。それを自分の仕事のハイレベルゴールとして位置付け、クオリティにこだわった仕事をしていく。私はこれをやっていこうと思います」

優れたクリエイターには何か天才的な部分があると思われがちですが、本講演で語られたのは、それらの人々に共通するのは物事に対する姿勢や思考であるという事です。

大目標と小目標に対して一貫した姿勢を保つこと、自分の経験や過去から強みを理解すること、そして仕事に対する打ち込み方、こうした事を実践するために何か特別なものが求められるわけではありません。立ち見が続出する大盛況なセッションでしたが、聴講者は多くを持ち帰ったように思えました。

《土本学》

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]

特集

関連ニュース