『クロスサマナー』でブレイクした「裏ワザ入力キャンペーン」はどこから生まれた?仕掛け人、柴田和紀氏インタビュー

スマホ史上最大級のド派手な奥義演出を誇る本格アクションRPG『クロスサマナー(クロサマ)』。本作はプロモーションの面でも注目される事が多い作品です。仕掛け人に話を聞きました。

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『クロスサマナー』でブレイクした「裏ワザ入力キャンペーン」はどこから生まれた?仕掛け人、柴田和紀氏インタビュー
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◆異業種から転職してきた「仕掛け人」

スマホ史上最大級のド派手な奥義演出を誇る本格アクションRPG『クロスサマナー(クロサマ)』。本作ではまた、事前登録キャンペーン「ファミコン世代集まれ!懐かしの裏ワザ入力キャンペーン」でも注目を集めました。ファミコン、スーパーファミコンの裏ワザを入力し、『クロサマ』の特典アイテムをゲットするという内容で、用意された裏ワザは全部で150種類。仕掛け人の柴田和紀氏に舞台裏について伺いました。

―――よろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

マーケティング事業部で副部長を務めている柴田和紀です。もともと広告代理店出身でいろいろな業種を担当、その後ソニー・ピクチャーズに移ってゲーム番組「ゲーム☆マニアックス」を電撃ゲームメディアさんと立ち上げ、そこから今年の4月に弊社に転職しました。自分が『クロサマ』のマーケティングを引き継いだのが6月下旬です。そこから仕掛け作りを突貫工事で進めて、なんとか8月頭のキャンペーンを開始できました。

ポケラボ マーケティング事業部 副部長の柴田和紀氏


―――月並みな質問ですが、ゲームのマーケッターというのはどんな仕事なのでしょうか? ユーザーアンケートとか、ヒアリング調査とか、常に数字とにらめっこされている印象がありますが・・・

なるほど、そんなイメージがあるのかもしれませんね。マーケティングというのは漠然としていますし、特にソーシャルゲームは数字がシビアに出ますからね。もちろん数字的なものもチェックはします。でも、それ以外にゲームを盛り上げるため、ありとあらゆることをやっています。「ウラ技入力キャンペーン」の企画なども、その一つですね。他にニコ生にでて宣伝したり、声優キャスティングをしたり、コラボ企画を仕掛けたり、Tシャツの制作までしちゃいます。今、着ているTシャツも手作りなんですよ。キャンペーンのWebサイトをキャプチャして、Photoshopで加工して発注しちゃいました。こんなバカっぽいことまで勢いでやってます。

―――おもしろいですね。

もともと広告代理店では、かなりニッチな分野を任されていて、一人で広告をとってこいと。飛び込み営業もしていました。ソニー・ピクチャーズに移って、やっと楽ができると思ったら、企画営業という部署に回されて、番組制作と広告営業を同時にやれと。しかもケーブルテレビなどの、有料チャンネルを中心に配信されるコンテンツの広告枠の販売です。どんな価値があるのか、売ってる側も良くわかってなかったりする商材です。そのため「ゲーム☆マニアックス」の立ち上げでは、社内外のいろんな方に協力してもらいました。そんな風に、とことん鍛えられましたね。肩書きはマーケッターですが、マーケティングと言わないことが多いです。

―――年末にユニークな試みもされるとか。

はい、現在、企画練っているところですが、年末、『クロサマ』でお世話になったいろんな方々をお呼びして、恩返しの気持ちも込めて、打ち上げ企画をやる予定です。ちょうど年末の仕事納めの日に当たりそうなので、24時間わっと騒いで、そのまま年末年始の休暇に突入できればと。ぜひご期待ください。

◆任天堂に直接電話して確認した

―――「裏ワザ入力キャンペーン」も、そんなノリで生まれたんでしょうか?

自分が入社した段階で、『クロサマ』の完成が近づいていたんですが、マーケティング的な施策はこれからという段階でした。自分に課せられたミッションはスタートダッシュを成功させること。業界ではドリコムさんの『フルボッコヒーローズ』で行われた「フライングゲットガチャ」という施策がブレイクしていて、みな後追いで同じようなことをされていました。でも、それでは『フルボッコヒーローズ』を抜けるわけがない。もっと新しくて、既存メディア以外の方々に取り上げてもらえる施策が必要だろうと。でなければ、お客様の層は拡大しないですからね。まずは、そういう問題意識がありました。

―――実際の企画はどのように生まれたのですか?

広告代理店に発注して、コンペをやりました。そこでバーグハンバーグバーグさんからご提案いただいたのが「ウラ技入力キャンペーン」です。企画書を見て、確かにニュース性は高いなと思いました。ただ自分自身「何か楽しいことをしたい!」という程度で、あんまり深く考えてなかったですね。「ゲームのユーザーであるファミコン&スーパーファミコン世代にマッチしていて、彼らはARPUも高く、情報処理能力や発信力にも長けていて・・・」などと後付けで分析されたりもしましたが、そんなもん何も考えてませんでした。

―――あれ、そうなんですか?

だって、よくよく考えてみたら、これかなりリスキーな企画ですよ。だいたい「ファミコン」「スーパーファミコン」って、任天堂さんの登録商標ですからね。それを第三者が広告で勝手に使って良いのかという。チーム内で議論しても答えが出なかったので、任天堂さんに聞きましたもん。代表の電話番号に電話して聞いたら、優しい声のお姉さんが出て「いいですよ~」と言っていただけました。

―――それは良い話ですね。

それに裏ワザって、仕込みもあるけど、バグだったりもするじゃないですか。それを大々的にキャンペーンで使って良いのかという。案の定、社内からは不満と不安の嵐でした。そうなることはわかっていたので、実は社内には内緒で進めちゃったという。実際、キャンペーンが始まるまで、企画内容を知っていたのは、ほんの一握りでした。ほら、自分が中途入社ですから。周りを説得するより、サクッとやっちゃった方が早いと。

―――蓋をあけてみれば大成功。

おかげさまで、キャンペーン期間中のPV数は420万PVに上りました。初日だけで50万PVで、弊社のサイトPV数からすれば桁違いの数字です。訪問者数は95万人で、実際にメールアドレスを登録してくれた数は48万回、ユニークユーザー数は20万人、ゲームをインストールして、シリアルコードを入力してくれた数が6万人にのぼります。もっともシリアルコードは11月末まで使用できるので、実際の数はもう少し上振れすると思います。だいたい3人に1人はゲームをダウンロードしてくれた勘定になりますね。

―――この数が多いのか少ないのか、もはやピンと来ません。

とりあえず他社さんに内緒で聞いてみたら「今までで一番良い数字」だと言っていただけました。スタートダッシュという意味では、良い結果が出たと思います。

PVもソーシャルの拡散も桁外れだった裏ワザキャンペーン


◆ユーザー体験の総合的な設計が重要

―――単にキャッチーさだけじゃなくて、いろいろ工夫もされていたと思います。

そうですね。「裏ワザを入力させる」というのは一部でしかなくて、全体的なコミュニケーションの設計がポイントでした。興味を持ってもらって、裏ワザを入力してもらって、それをネットで知り合いに伝えてもらって、最終的にゲームをダウンロードしてもらって・・・という、一連のユーザー体験が重要なわけです。そのためサイトの制作も難航しました。たとえば、あえて8ビット風のピコピコ音が鳴るようにしたのも、その一つです。うるさいから音は出さないほうがいいと反対されましたね。

―――確かに、あのサウンドとファミコン体験は切り離せませんよね。

だと思うんです。他にも裏ワザを入力して、それが正解だったとしても、あえてタイトル名は表示しないとか。たとえば「上、上、下、下、左、右、左、右、B、A」というコマンドを入力しても、あえて『グラディウス』というタイトル名は出さずに、「一番最初に入力してしまうほど誰でも知ってるやつですね」と表示して、クスッと思ってもらうとか。入力を3回以上間違えると「ggrks」「m9(^Д^)」などと表示して、あえてユーザーを煽ってみるとか。このメッセージだけで40種類以上用意しました。

―――自分のTwitterのタイムラインでも、一時期はその話題があふれていました。

いちばんビックリしたのは、初日で149問まで回答されちゃったことですね。ニコニコ生放送で8時間だか、10時間だかかけて、リアルタイムで実況しながら裏ワザを入力するような人まで現れました。

―――『クロサマ』ではゲームプレイを投稿できる「Everyplay」にも対応されていますね。

ユーザー間のコミュニケーションの手段の一つとして対応しました。ただ、これも何か一つ対応すれば良いというものではなくて、ユーザーにどういう体験を総合的にしてもらいたいか、考えた上でやる必要があります。今はいろんなソーシャルコミュニケーションの手段があって、敷居も下がっていますからね。できるだけいろんな人にいろんな立場で話題にして欲しい。そのためプレスリリースについても配慮しました。単に「コピペしてアップロードして終わり」じゃなくて、ライターの人にそれぞれの主観で書き直してもらうための材料を提供するようにしました。

―――コピペして使ってもらうためのリリースが多い中で、目を引きます。

そっちの方が楽ですからね。でも、あえてライターさんの判断にお任せしました。その結果「簡単すぎてつまらない」という記事から、「すごく難しい」「発動時間を考えてコンボを組み立てていくのがハマる」「音楽が良い」「キャラデザインがいい」「ストーリーが良い」など、いろんな記事がアップされました。それは狙っていたことで、すごく嬉しかったですね。

―――二次創作活動についても寛容ですね。

テーマソングを公開したら、ユーザーの方が好意でアレンジしてくれました。そこから歌詞がついて、ボーカロイドが歌うPVができたり、ユーザーさんが「歌ってみた」動画をアップしてくれたり、いろいろ波及しています。イラストについても同様で、4コマ漫画になったり。そもそも、どれだけヒットしているゲームでも、24時間の中でゲームをしていない時間の方が長いですからね。ゲームをしていないときでも『クロサマ』を楽しんで欲しい。そのためには、そういった活動を禁止する理由がありません。

―――そうしたユーザーコミュニティとの距離感について、計りかねている企業も多いのが事実です。

確かにビジネス面でいろんなリスクがあることも承知しています。企業として、ちょっと困るなっていう表現が出てくることもありますからね。でも、ユーザーさんが楽しいと思って、自発的にやられることは、止められないですし、その選別をどこでやるかって話にもなります。結果的にビジネスにもプラスになるわけですし。そのため、公式には二次創作活動を推奨するとは明言していません。ただし、素材は提供するよという。この微妙な距離感をうまく汲んでもらえればと。

真面目に楽しいことをやっているそう


◆アドネットワークとブースト頼みの施策は終焉する

―――ユーザー属性の分析などはされているのですか?

数字は取っていますし、参考にしますが、その程度ですね。たとえば『クロサマ』も30代男性のファミコン世代に向けたタイトルなどど言われますし、実際にそこを狙っていますが、でも30代男性って自分たちのことですよね。でも、みんな経歴も、好きなゲームも、見てるテレビ番組も、応援してるアイドルも違う。一括りにできないですよ。いろんな数字を参考にしつつも、最終的には自分が楽しいと思えるかを、一番大事にしています。

―――なるほど。

例えば自動販売機でジュースを買うとき、「今日はコーラを飲もう!」と決意して買う人はいません。殆どの人はボタンを押す瞬間に決めています。だからといってボタンのデザインやロゴを変えれば売り上げが変わるなんて、単純な話ではありません。当然そこには、これまでのブランドに対するイメージや、コーラを飲んで美味しかった時の思い出など、いろんな要素が組み合わさって、無意識のうちに影響を及ぼしているはずです。ABテストなどの結果も、その程度のものと思えばいいのではないでしょうか?

―――社内で反対されたりしませんか?

結局、みな自分なりの判断基準を持っていて、それが過去の成功体験に裏打ちされているので、新しいことには臆病になりますよね。なので、一つずつ成功事例を積み重ねていくしかありません。もちろん自分もいろんな失敗をしていますよ。ただ弊社で恵まれているのは、意思決定が速くて社内がフラットなこと。「裏ワザ入力キャンペーン」でも経営陣に目標数値を伝えて了承してもらい、具体的なやり方は一任してもらえました。

―――今後のスマホゲームのマーケティングはどうなりますか?

僕はもともとアニメやコンサートや映画やイベントの制作/プロモーションに関わってきたので、そう聞かれる方が不思議です。結局はスマホゲームもエンタメですから、エンタメのマーケティングやプロモーションと同じになるんじゃないでしょうか。その中でも個性豊かなプロデューサーがいて、その人ならではのやり方が出てきて、スマホゲームの世界を広げていく原動力になるのではないかと思います。これまでアドネットワークとブーストだけで成立してきたことの方が特殊だったんじゃないでしょうか。

―――あんまり作り手が表に出てくることがないですよね。

最近は変わってきていませんか? 『スマゲ☆革命』の安藤武博さん、『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』の柴貴正さん、『パズルアンドドラゴンズ』の山本大介さん、『モンスターストライク』の岡本吉起さん・・・なんだかコンソール出身の方ばかりですね。まあモバイル・ソーシャルゲーム系はIT業界から出てきた会社が多いので、社内組織的にそうなっていない場合もあります。受託中心でシステム開発を手がけてきた企業も多いですからね。ただ、これからもっといろんな人がでてくるんじゃないかとワクワクしています。

―――ありがとうございました。

《小野憲史》

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