CGアニメ、今後の行方は?「アップルシード アルファ」荒牧伸志監督×水島精二監督対談【後編】

現在のCGアニメについて語っていただいた対談の後編をお届けする。お話は両作品から、さらに今後のCGアニメのあり方にまで及んだ。

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◆作り続けることで、大発明が起きるかも

――セルルック特有のタメやツメなどのアニメ的な表現は、実際の役者の動きをCGに移し替えるモーションキャプチャーでも考えるのですか?

荒牧:最初の頃はタメツメをかなりやっていたんです。ジャンプした時にゆっくりにしようとか。今回は役者の芝居中心です。アクションで時々使うくらいですね。役者を決めるためにオーディションをやるのですが、最近はこれが面白くて。いい役者さんを見つけると、彼に任せようという気持ちになる。絵の作り方も芝居中心です。

水島:『アップルシード アルファ』は『キャプテンハーロック』(*)に比べても圧倒的に実写っぽかった。荒野の感じとか「映画として勝負しよう」という絵作りになっている感じですよね。

*3『キャプテンハーロック』荒牧伸志監督、2013年公開


――現在、3DのCG作品にはお二方の作品だけではなく、例えば『シドニアの騎士』(以下、『シドニア』)のような様々なルックの作品があります。

水島:『シドニア』はポリゴン(ポリゴン・ピクチュアズ)さんのコストの考え方がすごく徹底していると思います。

荒牧:よくあの原作を見つけてきたなと思います。「クローン」「制服」「ヘルメット」。全てCGでやるための成功要素ですから。(笑)

水島:キャラクターのモデル数を少なくすませつつ、それが世界観に帰依していて、しかも宇宙船シドニアの中の集団だけ描けば成立する。モンスター(寄居子)が柔らかいのでその表現が難しいですけど、不定形だからモデルの転用とかできるはずです。企画を決める段階で勝算があるんですよね。

荒牧:しかもロボットが歩かない。宇宙しか飛ばないのは効率的です。

水島:シナリオ担当の村井(さだゆき)さんの話のまとめ方もうまいんですよね。あらゆる意味で、このタイミングであれが出て来たのはすごいなと思いましたね。


荒牧:ルックで言うと『楽園追放』でもっとCGぽい質感で作ろうとは思わなかった?できないことはなかったはずです。

水島:キャラクターはやはりセルルックから一気に表現を変えるとお人形が動いている感じがどうしても拭えないんですよ。アーハン(*)とかボディースーツはモデラーと一緒にこだわりましたね。とはいえそれもやり過ぎないよう気を遣いながらです。視聴者には急激な変化を見せるんじゃなくて、時間をかけて新しいルック・映像を知ってもらう。振り返ってみるとすごく進化していた、という形がいいんじゃないかなと思います。あるいは、ものすごい天才が新しい表現を大発見するしかない(笑)。

*アーハン 『楽園追放』に登場するロボットの名称

荒牧:僕は表現よりもフローの大発明をしたい。日本のアニメはコンテがないと何も始まらないけど、そのフローを変えられたらおもしろいなと思っています。先に演技とアクションがあって、それに対してカメラが動いていくみたいな。実写的だけど違う自由度につながる更におもしろいものがデジタルを使って作れそうな気がしています。それを作り続けると新しい才能が出たりするんじゃないかと思っているんですよね。

水島:3Dのアニメーターが演出的なノウハウを持っていて、一人一人がそれを元に新しい映像を作り始めると一番いい。それは本当にそう思います。

荒牧:
言い方は違うかも知れませんけど、3Dにおける金田伊功みたいな人が出てくるべきなんですよ。

*金田伊功 アニメーター。エフェクトやアクション表現の先駆者。

◆3DCGは長く続けるほど、クオリティもあがる

――2014年から2015年のCGアニメは、新たな動きを追う意味でどれも見逃せない作品ばかりですね。

水島:映像作品好きな人は、どれも見るといいと思います。特に海外と日本で方法論も明らかに変わってきています。もちろん海外と大きな差はありますが、そこと戦うための準備をしている状態だと思います。

荒牧:いまはテレビシリーズの数も多いしアニメーターも足りなくなってきています。その中で3Dが作られると、どこかで突然変異のようなおもしろいことが起きるんじゃないかとは期待しています。



水島:作品数を増やして少ない話数で作る、というのが今の方法論ですけど、本数が絞り込まれて一本単位の制作費が多くなれば、いろんなことができるようになります。やっぱりスタッフの熟練度を考えると、一作品13本じゃなくて26本。26本じゃなくて52本。
昔からあるアニメのフォーマットにいろんなものを盛り込んでファンに楽しんでもらえれば、業界全体で新しいおもしろいものが作れるかなと思います。

荒牧:確かに3DCGはシリーズが続けば、ストックが増えてどんどん効率が上がって本来の得意な部分が活かされて楽になるし、大変なシーンもできるようになる。いいサイクルにハマる可能性があるんですよ。

水島:アニメーターが共通で使えるモデルなどが多く持てるのでどんどん熟練していくのもありますよね。
『楽園追放』もモーションをライブラリー化して、他の時にそれを元にアレンジという効率化を図っていましたので、これは必要ですよね。そう考えると3DCGの方が長いシリーズに向いていますね。

荒牧:いまそれで一番成功しているのは『団地ともお』ですよ。最初見て、さらに半年後くらいに見たら、その間にすごいクオリティ上がっています。最先端の3DCGアニメですよ。

水島:そこまでですか(笑)。


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