―――では早速、イベントの手応えはどうでしたか?

祖堅: 実は、最初に懸念していた事があるんですよ。今回のFAN FESTIVALはラスベガス、ロンドンから始まり、海外の方は感情表現がストレートで「ワーッ!」と来るんですが、日本のお客さんってシャイボーイ&シャイガールが多いイメージで(笑)。だから、ネットの方では「ワーッ!」となっていてもライブではどうなんだろう……って。バンドメンバーには、我々は主役ではなく、来られている方々の「ゲーム体験の思い出」が主役なので、会場は思っている程「ウワーッ」とはならないと思うけど、びっくりしないでね、と伝えていました。ゲームの追体験として、我々が演奏する音楽を聴いてゲームでの体験を思い出してくれる、そんなところに紐付けているわけですからね。「ただ曲を聴きに来ている」という単純なものでもないからあまりお客さんは騒いだりはしないかも知れないけれど、それでも普通の音楽ライブよりももっと色々思うところがあるかも知れないので、気にしないでね! と、ずーっと言い続けていたんです。それこそメンバーからは「もう分かった、うるさい」と言われるくらい(笑)。

でも、いざ蓋を開けてみたら東京のライブが一番盛り上がったっていう(笑)。びっくりしましたよ。一曲目、二曲目が終わった後に、メンバーから「祖堅くん、言ってる事ちがくねーか?」って言われて。もうむちゃくちゃ盛り上がっていましたね。お客さんの熱量がスゴかった。『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』はそれこそ世界各地にネットワークでつながっていますから、仲良しのグループって言っても物理的な距離があって、こんな一堂に会して一つの場所、時間に集まる事は難しいと思うんですよ。

ゲームサウンドはインタラクティブ性が高く、ユーザーさんはただ受動的に聴くだけではなく、ゲームを操作する事で音が反応し、常に自分を中心とした音を聴いている状態です。例えば車の中で音楽を聴くようなものとは感情移入の度合いが違うんですよね。「あそこで死んじゃったな、あそこから落ちちゃったな、あそこで成功したな」みたいな体験がセットになっていて、そういう「思い出」があるからこそ、一人でも来たいなっていう方も凄く多いと思うんですよね。音楽イベントだと友達を誘って行く傾向があるじゃないですか。でも今回はチケットが取り難い状況だったようで、2分だかで完売してしまったと。だから、「お友達を誘って」みたいな事は難しかったと思います。それでもこれ(録画したライブ画面を見ながら)ですから、「どうしちゃったの!?」みたいな。
―――もう全然想像と違っていたと?

祖堅: 「この人達は本当にゲームユーザーさんなのか!?」「間違ってフジロックに来たのかな?」みたいな(笑) だから嬉しかったですね! 音楽が単体ではなく、ゲームの一部として融和できているという事の現れなんだなと感じ、改めてまた頑張ろうって思いました。
―――一番盛り上がったところは?

祖堅: 一番最後のタイタン(「過重圧殺! ~蛮神タイタン討伐戦~」(Under the Weight))かな! アンコールで再度やったんですよ。それまでみんなどうしていいか分からない感じだったんですけど、「もういいや暴れちゃえー!」って感じに煽ったらみんな暴れてくれてました(笑)。
―――ライブ動画(ニコニコ)には例の空耳が(笑)

祖堅: ニコニコ動画でも盛り上がってもらっていましたね。空耳とか、もうなんでもいいんです。盛り上がってもらえさえすれば。「よしだああああああああああ」でもなんでも(笑)。 同じゲームで遊んでいる仲間ですから。同じ趣味の人間が一堂に会しているからこそテンションが上がる。「こいつも、コイツも、此奴もか!」って。アニメや映画を観ているだけだと一方的に受けるエンタメだと感じますが、ゲームはインタラクティブ性が高くて能動的なエンタメだと思っています。思い入れが強くなるんですよ。XIVの場合序盤は簡単でも後半は本当に難しくなるので、相当記憶に刻まれますからね。だって、俺もまだイケてないもん。
一同: (笑)。
祖堅: 盛り上がってくれるお客さん達の姿をみて、「ウチらが主役なんじゃなくてお客さんの追体験の記憶が主役なんだな」と改めて思いました。
―――社員の皆さんは、バンドメンバーに負けず歌えていましたか?

祖堅: みんなこれほど大勢の人の前で歌った事は無いので……って言うか俺もありませんけど(笑)。
端っこまでぎゅうぎゅう詰めでしたから。
―――ドロドロで、熱くて。現場は酸素が足りていましたか?
祖堅: 割とね、冬だったんで酸素は足りてました。新宿JAMみたいな大変な事にはなっていなかった(笑)。
―――みなさんイベント後に何かおっしゃっていましたか?

祖堅: イベントが終わった後は、別の仕事が……
その時はパッチ2.5の締め切り間近だったので、終わってすぐ撤収してさっさと仕事に戻りました。翌日からもみんな普通に仕事でしたね。別に感想云々とか、特に無く……と言うかまだ話すら出来てません(笑)。
……ちょっとここであの時の裏側を話しちゃうと――
開発スタッフとしては、「イベント準備をやってる場合じゃ無かった!」んですよ本当は!
ハッキリ言いますけど、
こんな事やってる場合じゃ無かった!
それくらいヤバかったんです!
一同: (爆笑)。
祖堅:ただでさえ開発状況が厳しい中、「この年末にイベントをぶつけて来るか!?」って感じでした。 もう次の仕事が立て続けに来ちゃってるんで。でも我々、本業はゲームを作る事ですから! そのおかげでこうやってライブできたから良かったです。
―――ステージで使用したイヤモニ、最初はUE18Proでしたが、UE Reference Monitorにされたんですよね。

祖堅: 最初は赤(UE18Pro)で行こうと思ったんですけど、フラットにしました。普段聴きするなら赤もいいかなーって思ったんですけど、そういうこっちゃねーからなー仕事だからなーと。
―――ライブにも付けられていたんですよね?
祖堅: もちろんです。でもね、これがさすがに凄い遮音性で(汗)、両方つけちゃうとバンドメンバーが何か言っていても聞こえないくらい。だから、お客さんとやり取りする時に受け答えできるように本番は片耳だけにしていました。
梅田: バッチリです。耳の形そのままですからね。外側のところもしっかり型を取っているんで、それで蓋のようにしっかり装着できるようになっています。
祖堅: 右を取るか左を取るかで悩んでいました。左を取るとハットの音が直で返ってきてリズムは取りやすいんだけど、自分のキャビネットは右側だから自分の音が聴きづらい。逆にするとハットが来ないからリズムが取れないどうしよう……って前日ゲネプロの時にやっていました。
―――私、左耳の神経がイッててハイハットが拾い辛いんですけど、生演奏だと聞こえるからマジスゲーって思います。

祖堅: 音って耳だけじゃないですからね、体で聴きますから。だからUEも実際に体験できる場所を作ればいいのに。
梅田: 秋葉原の「eイヤホン秋葉原店カスタムIEM専門店」に全モデルがあって、視聴できるようになっていますよ!
祖堅: じゃあそれを全部これ(メテオモデル)にしてもらって……。
一同:(爆笑)。
祖堅: 真面目な話、カナル型に慣れている人なら特にいいと思います。ノイズキャンセル機能ってカナル型だと無理だから、それならUEの方がね、物理的に遮音してくれますから。ただ、電車の中だと降りる時のアナウンスも電車の音も聞こえなくなるから気を付けましょう!
―――ライブで実際に使ってみて、また、普段使ってみてどうですか?

祖堅: UE18Proは個人的に欲しいですね。どうしようかなあ。聴く分には一番気持ち良く聞こえるんですよねえ。でもねえ、ライブは気持ち良く聴くものじゃないですからねえ。まあでもねえ、転がし(モニタースピーカー)と全然違いますからねえ。金額の事を考えると転がし一発買えちゃいますからね!
ラスベガスとロンドンのライブでは一般的な転がしと言われるモニターを使ったんですが、転がしの範囲から一歩横に出ると何も聞こえなくなってしまうのでその場に居るしか無かった。せっかく来てくださったお客さんに盛り上がっていただくためにも「うわぁぁ!」とかやりたいじゃないですか? でも動けないんだよ……「転がしの前から出れない!」という、そんな状況を無くすためにもこのイヤフォンはいいですね!
梅田: そうなんですよ、元々そう言った需要があって、自由に動くため、という事が元になっています。
祖堅: でも僕の場合、結局マイクがあるんで、マイクの前から動けません(笑)。 UEさんで開発してくださいよ! 自分が動いたら追っかけてくるマイクって奴を。
―――マクロスなどにありましたね。常に浮いてる、フロート型のマイク。
祖堅: それがいい! 常に浮いてるやつ! 作って!
―――次に買われるとしたら、もうUE18Pro決定ですか?
祖堅: もうお金があればすぐにでも(笑)。
梅田: 一回型を取るとカリフォルニアに二年間は保管されますので、次回の注文時には簡単ですよ!
祖堅: でもねえ、どれだけアルバムが売れようともゲームが売れようとも、我々お給料は据え置きなんですよね(笑)。
―――UEさんとして、今回のコラボで得られた事はありますか?

梅田: 当社としましては、以前からLogicool Gのゲーミングデバイスで『ファイナルファンタジーXIV』の推奨をいただいていたんですが、今回音楽でお話をいただいて、海外の約75%のミュージシャンや音響エンジニアが使用している信頼と実績の「アルティメット・イヤーズ」というブランドで協力できたのは、新鮮で楽しくやらせてもらいました。
祖堅: 私の方からも一つだけ言わせてもらうとですね……
「ロジクールさんは早く5.1chのスピーカーセットを 作 っ て く だ さ い 」
昔あったZ5500ですけど、ウチの部署みんな持ってるんですよ。あのね、早くあれの次のを出して! ウーファーはあれほど大きくなくていいんですけど、コンセプトが良かったんですよ。アナログを刺せるしオプティカルもいけたでしょ? 切り替えで5.1chを複数inputで手軽に切り替えてモニタ出来るんです。ああいうのやんないんですか? 待ってるんですけど。
梅田: 要望があれば、いつかやるとは思います……。
祖堅: PCだとほとんどクリエイティブさんが強いんですよね。ソニーさんもやっているんですが、PS3、PS4向けといいましょうか、家電AVの指向が強い。PCユーザーの方だと、ほぼクリエイティブさんのアナログ接続5.1chっていう環境しかないんで、是非。
梅田: この記事を読めば当社の製品担当も気が気じゃ無いと思うんで(笑)。 「祖堅さんがこう言ってますよ!」って。
梅田: 先日東京国際フォーラムと大阪オリックスホールでFFのオーケストラコンサートがあったんですけど、その時にUE BOOM(Bluetoothスピーカー)を会場の外で使用して頂きましたね。ペットボトルくらいの大きさのものなのですが、それを二本置くだけで爆音ですからね。
実は最近UE BOOMよりも一回り大きいUE MEGABOOMという製品も出ました! さらに爆音なんですよ。中規模の会議室であれば、40%くらいの音量で響きますから。
最近のUEはそっちがメインなんですよ。
祖堅: だから5.1chも出してってば(切願)
―――次のライブの予定はまったくありませんか?

祖堅: 今のところお知らせできる予定は無いですねー。でも、東京だけってのなんだかもったいないですよね。
なんか、もう一回くらいどっかでやれるといいなあと思っていますので、一回と言わず二回、三回とね、その機会があったら一緒に盛り上がってドロドロになりましょう!
次回があったらまたライブに来てください! メンバーも心待ちにしています!
―――イベントの後に、ファンからアルバムについて質問などありましたか?

祖堅: 「ファンフェスのライブを見て、アルバム欲しくなって買った」という方も多くいらっしゃいました。だからやって良かったですよ。ゲームサウンドで勢いだけでどうにかやり切るって、無いでしょ? とにかく勢いと気合いだけって珍しかったんだと思いますよ。でもね、自分ではそこがカッコいいかなって思っています。バンドって言ったら上手い下手じゃなくて「気合い」。全力でやるのがバンド!
―――「From Astral to Umbral」の反響はどうでしょう? 次の話なんか来ていたりしますか?
祖堅: アルバムは絶好調でした! ただ、これはゲームの楽曲、アレンジアルバムですから、バンド用の新曲を出しても意味が無いんです。望まれたところで、元になるゲームが無いといけないですから難しいところです(汗)
―――音響設備を揃えなきゃ! みたいな方もいらっしゃったようですね。
祖堅: 今回のアルバムには、バンドの他に、ピアノアレンジのアルバムも入っています。特にピアノなんかは96khz24bitの5.1chの非圧縮音源を収録しているので、ちゃんとした環境で聴くととんでもないものになり、びっくりされた方も沢山いらっしゃるようですね。僕も最初聴いた時はびっくりしました(笑)みなさんどうしても映像の機材の方にお金をかける傾向がありますが、音にかかるお金って「映像にかけたお金で貯まったポイント」を使って買えるくらいなので、「騙されたと思ってやってみたら?」って(笑)。いつもの環境に少しだけ手を加えるだけで5.1chを楽しめる時代……ですから、絶対とは言わないですが、一度チャレンジしてみて欲しいですね。
―――では最後に、ファンの方へメッセージを!

祖堅: みんなもUE買えばいいじゃん!
―――短い! 短すぎる!
梅田: このデザイン(メテオ)で出したら購入される方は多いと思いますよ。
祖堅: 実際欲しいって方も多いですよ。このモデルが欲しいって。
梅田: 実は最上級モデルで「パーソナルリファレンスモニター」というのがありまして、特殊な機械で高中低の音域を自ら調整できるんですよ。チューニングできてデザインも変えられるとなると、「祖堅さんのベストセッティングモデル」を作る事もできます。
祖堅: それはやめときましょーそういうのは(汗) 前田さん(バーニー・グランドマン・マスタリング TOKYO/サウンドトラックなどのマスがリングを行うエンジニア)あたりの本物の音楽屋が聴いたら、「なんだこれ」って言われちゃいそうだから!
一同:(爆笑)
―――本日はありがとうございました!




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いかがでしたか? セルフオフレコにした「株式会社ニーハイソックス」への野望も交えつつ、祖堅正慶さんにイベントとUEのお話しを伺った今回は、同氏のデスク周りもご紹介いただけるというファン垂涎のものとなっています。もし写ってはいけないものが写っていた場合、見なかった事にしていただけると幸いです。さて、筆者もUE18Proを買うためにお金貯めようかな……。