さて、独断と偏見で乙女ゲームについて語り尽くす「オトナの乙女ゲーム道」第8回では、PSPソフト「宵夜森ノ姫」について好き勝手にお話ししたいと思います。よろしくお付き合いください。
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本作は、ムービックの女性向けコンテンツブランド「エテルワール」の作品。自然豊かでのどかな国「シェーンヴァルド」が軍事国家「シュタール」の侵攻を受け、主人公・イルザの故郷の村「ブルーメ」が焼かれてしまうところから物語が始まります。
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命からがら逃げだしたイルザちゃんは、国境付近にある森「宵夜森(よいよもり)」にたどり着きますが、そこは一度入ると二度と出ることができないと周囲から恐れらる危険な場所。ついにイルザは力尽きてしまいますが、とある屋敷で目覚めます。
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ここに住んでいるのはシュタールを憎み、復讐の機会を伺う7人の男性。彼らはそれぞれ異なる事情で「傲慢」「怠惰」「憤怒」「強欲」「色欲」「暴食」「嫉妬」という大罪の呪いを受けており、呪いをかけられた感情がたかぶると悪魔のような姿「禍宵(まがよい)」へと変化。心を蝕む一方、人ならざる力も与えます。この呪いは死ぬまで解けず、それゆえ森から出ることも叶いません。
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最初こそイルザちゃんは少しずつ住人と打ち解け、戦争や呪いを意識することもなく穏やかな日々を過ごします。しかし平和な時間はそう長く続かず、宵夜森もシュタールの標的に。そしてイルザちゃんは自分自身と、呪いの真実を知ることとなります。
それでは、システム面もみていきましょう。個別イベントはあるものの3章中ほどまではおおむね共通で、それまでの選択肢によりキャラクターごとのシナリオへと分岐。さらに分岐後は「禁忌度」というパラメーターが出現し、この禁忌度によって大きくエンディングの傾向が変化します。
序盤でのイベントを起こさず個別ルートに入った場合は当たり障りのない終わり方になったり、あまりに振り切った選択をするとそれはそれで終了してしまったりするので、微妙なさじ加減が必要だなと思いました。私のように「これで、これで…終わり…?!」と愕然としないためにも、こまめに確認してベストエンドとアフターストーリーを楽しみましょう。
クイックセーブ・ロード、バックログ(ジャンプ)など、一通りの便利機能は揃っています。個人的には1回1回タイトルに戻るか聞かれるのがちょっと面倒だったので、セーブはあまり使用せずにクリアしました。ボイス・音声の設定も可能で、主人公の名前を「イルザ」にするとボイス付きで名前を呼ばれます。
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ちなみに、オープニング「惑いの月」とエンディング「眠る森の果て」の作曲などは『ニーア レプリカント/ニーア ゲシュタルト』などで知られるMONACAが手掛けています。綺麗だけど、どこか寂しさや切なさも感じられる素敵な曲ですよ。
■クラウス(CV:前野智昭)
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クラウスは、屋敷に住まう7人の実質的なリーダー。シュタールへの復讐の機会を狙い、さまざまな策略を巡らせています。とはいえ呪いの「傲慢」の通り、一方的に命令だと意見を押し付けたり、知る必要はないと突っぱねたり、独善的な行動が目立つので最初はものすごく腹が立ちます。ええもう。「ちょっとは優しいのかな?」と思ったら「全然そんなことなかったー!」みたいなこともありますが、めげたら負けです!
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冷血漢で自分のことは全然話そうとしないクラウスですが、何やら大きな秘密を抱えているんだな、ということはわりと序盤から感じます。ストーリーの根幹にもなる「呪い」やシュタールとの因果関係、クラウスの正体とイルザ…さまざまなことが明らかになるにつれ「そうか…そういうことか…」と、少しずつクラウスという人となりを理解できました。
そして後々になって見せるクラウスのデレというか、甘やかしっぷりというか。この威力たるや、イルザちゃんもびっくりしてましたが私も驚きました。この落差を際立たせるためのツンツンっぷりだと思えば納得ですし、アフターストーリーはほんっと、ほんっと甘い!甘いです!!あと、禍宵の濡羽色とでもいうような翼の生えたデザインがかーなーり好きですね。
■ランベルト(CV:杉田智和)
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ランベルトは、かつて「シュタールの凶犬」と謳われた凄腕の軍傭兵。ぶっきらぼうで口も目つきも悪く、威圧感も凄まじいためイルザちゃんにめちゃくちゃビビられます。しかし何だかんだと周囲の世話を焼く面倒見の良さも持ち合わせており、ハーロルト達に付きまとわれても本気で突き放したりはしません。その外見からは想像もつきませんが、料理が得意という意外な一面も。外面に囚われなければ、その実、頼りがいのある好青年でした。
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呪いは「怠惰」で、周囲に対しても無関心のように見えますが、周りを巻き込むことを恐れているランベルト。放っておけないのに、頼りにされたら、期待されてしまったら…と、過去との葛藤に苦しみます。そんな中、イルザちゃんだけは守るんだと決意するランベルトの、力だけはない強さには感動です。あと、吹っ切れたらわりと肉食系ですねこの人!
そしてシリアスな場面で登場する禍宵ですが、クマっぽいというか、肉球というか、つい「触ったらもふもふしてそうだな…」と思わずにはいられなくてごめんなさい。
■ハーロルト(CV:松岡禎丞)
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ハーロルトは、はっきり言って最初の出会いは最悪の部類かと思います。女は軟弱だのなんだのと言いたい放題ですし、性格も怒りっぽく短期なので顔を合わせれば喧嘩ばかり。とはいえ、これまで屋敷の家事を一手に引き受けていたのもハーロルトですし、何だかんだ面倒見も良いし手先は器用だし、イルザちゃんにやたらと突っかかりますが「女は弱っちい!」が「だから危ないことは男に任せろ!」と言いたいだけの不器用ちゃんだと分かったあたりで愛しくなりますね。選択肢次第ではイルザちゃんがガツンと言い返しちゃうこともできるんですが、これはちょっと可哀想でした…頑張れハーロルト。
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呪いは「憤怒」で、なかでも彼はシュタールに対して人一倍強い憎しみを抱いています。大切な人たちを奪ったエーレンフリートへ復讐を誓い、強くなるための努力を惜しみません。利用できるものは呪いさえも利用しようと、なりふり構わない危うさにはヒヤヒヤさせられました。
その分、自分の中の憎悪に決着をつけたハーロルトはとても格好良く成長したなと思いますね。いやもう、格好良くなりすぎて「?!?!」と言葉を失うくらい、禍宵とかどうでもいいくらいの…なんだこれは状態でした。こんな将来有望な若者をつかまえたイルザちゃんは大正解!!もうお幸せにとしか言えない!!という感じです。禍宵はコウモリっぽい羽根に西洋の鎧と、騎士+悪魔なのかなーというイメージでした。
■ルッツ(CV:岸尾だいすけ)
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ルッツは、屋敷に暮らす人物の中でも貴重なムードメーカー。寂しがりやでワガママな「ザ・末っ子!」という言動が目立つものの、年下のイルザちゃんやハーロルト、ウルリヒに対してはお兄ちゃんぶってみたり、決して役に立つとは言えないながらも手伝いを申し出たりと、どこか憎めない性格をしています。
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この屋敷に集ったのはシュタールに対しての憎しみは勿論、何らかの傷を抱えた人ばかり。ルッツも例外ではなく、シェーンヴァルドとの戦争で大好きだった家族を失っています。しかし、それでも「自分は幸せ」というルッツ。明るく振る舞うその姿は、自身に降りかかった不幸を認めたくないという強い反動。また、イルザちゃんとずっと一緒にいたい、それこそが幸せだと思い込んだルッツは独占欲にも似た感情で「強欲」の呪いに囚われていきます。
しかし周囲の仲間に諭され、ルッツは自分の幸せだけでなく「相手の幸せ」も考えらえるように。新たな道を踏み出す「おそろい」の2人は、とっても微笑ましいものがありました。禍宵はフードが子供っぽい部分を演出してていいなと思います。
■ミリヤム(CV:平川大輔)
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小説家のミリヤムは、もうパッと見た時点で「絶対呪いは色欲だ!」って思ったのですが案の定でした。全体的に距離の近い、肌色成分多めのスチルですのでご期待ください。
さて、彼は女性にとても優しく物腰も柔らかですが、内心は子供の頃の経験から「優しくしないと優しくしてもらえない」と、対価のない無償の愛を信じられない複雑な思いを抱えています。それゆえイルザちゃんの見返りを求めない健気さ、一途な思いに惹かれつつも「じゃあどうすれば愛してもらえるのか?」と悩む一面も。戦う力もなく、どうすればイルザちゃんを守れるのかと考え、ある行動にでるミリヤムはとても「らしい」と思いました。戦いに必要なのは、必ずしも武力だけではないのでしょうね。
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ハッピーエンド後も幸せの中にちょっと切なさもあり、中世とかにありそうな恋愛という感じでした。禍宵は骨のような羽こそあれ、おしゃれな人っぽさが強く残っていますね。その禁忌エンドは「ですよね!!」と、期待を裏切らない展開でした。大事なことなので最初と最後に言いましたが、色欲から連想される通りですのでお楽しみに。
■ウルリヒ(CV:岡本信彦)
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ウルリヒは、非常に強い力をもつ「コバル族」の少年。戦いに生きる彼らは「生物兵器」として、シュタールの起こした戦争に利用されています。とはいえウルリヒ自身は力を誇示することもなく、屋敷の中にいても周りとはほとんど関わろうとしません。その超人的な動きで徹底的にイルザちゃんたちを避けるので、姿を見るだけでも一苦労といった感じです。でも慣れてくれた後は、口数は少ないながらもツッコミやボケも発揮する可愛い子でした。結構容赦ない!
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コバル族は戦いこそが全てであり、それ以外に存在意義はないと考えます。戦いに身を置いていないウルリヒは、自分に価値を感じることができずにいました。しかしイルザちゃんやペットのような「ウリ坊」との出会いを通じ、戦いにだけではない別の生き方も模索しだすように。その想いはウルリヒだけでなく、コバル族の未来にも大きな変革をもたらします。
呪いは「暴食」。禍宵化すると昆虫のような羽が生え、戦いの邪魔にならないようなシンプルな姿になりますね。これに加え、もともとコバル族としての能力は凄まじいものがありますが、根はまだまだ少年。イルザちゃんと一緒にいたいのに、なかなか上手くいかないとめちゃくちゃ拗ねるなど、やっぱり終始可愛い子でした。
■ユリアン(CV:宮田幸季)
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ユリアンは、森に迷い込んだイルザちゃんを最初に見つけてくれた恩人。植物や動物が好きで、おっとりした雰囲気の心優しい青年です。どこか影を感じさせる言動もありますが一緒にいるとほっとする、いわゆる癒し系って感じでしょうか。
はい、ここまでが他のルートでみたユリアンです。個別ルートでは呪いの「嫉妬」全開の病みというか闇というか、そんな方向へ一直線。イルザちゃんに近づく者は誰が相手でも憎しみを募らせ、静かに、確実に周囲から切り離し、心に入り込んでいくユリアン。イルザちゃんが恐怖にかられ思考を止め、ただただ彼の機嫌を損ねず、助けすら拒絶するような態度を取る様は「これダメ男に引っかかるパターンだよ…イルザちゃん逃げて超逃げて…!」状態でした。
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呪いを受けることになった過去もかなり凄惨ですし、その身に受けたのは呪いだけではないのが、ユリアンの性格に大きな影響を及ぼしています。とはいえ、イルザちゃんへの態度はなかなか同情もしにくいですし、感情の持っていき場が!!ありませんよ!!個人的には、最後の最後の部分を救いと取るか逃げと取るかで好みも分かれそうだなと思いました。禍宵の、蝶のようであり蜘蛛の巣を思わせる翼は、ユリアンの心情によく似合っている気がします。
■エーレンフリート(CV:鈴木千尋)
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すべての呪い、そして戦争の元凶ともいえるシュタールの王子。それがエーレンフリートです。金髪碧眼、おとぎ話の王子様そのものといった容姿ですが、目的のためなら手段を選ばない苛烈で残忍な性格をしています。
クラウスを除く他のルートでは憎むべき敵として描かれるだけですが、ここではそもそも「呪い」とは何なのか?存在する理由は?エーレンフリートがイルザちゃんに異様な執着を見せるのは何故?などなど、物語の根幹となるさまざまな謎が明らかに。「早く!!最後まで!!読まねば!!」と、最も結末を急いだルートでした。
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色んな事は置いておいて、エーレンフリート自身だけをいうなら金持ち貴族にありがちなワガママ坊ちゃんという印象です。他のルートでは想像できない、年相応というよりも実際の年齢より少し幼く見える姿も披露されます。(まあ、他のキャラのときも明らかに詰めが甘いぞーっていうアホ可愛い部分もあるんですけど)
エンディングは、どんな結末だろうが絶対にイルザちゃんと離れようとしない部分に「そんなにイルザちゃんのこと好きか…」としみじみし、ちょっと応援してあげたくなりましたね。ちゃんと幸せを掴めるといいなあと、願わずにはいられませんでした。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
世界観を詳しく知りたいならクラウスとエーレンフリートなので、最初にやってしまうか後に取っておくかはお好みで。やや世界観にも絡んでくるのがランベルト、ウルリヒで、個人のストーリーを重視しているのがハーロルト、ミリヤム、ルッツ、ユリアンといった印象ですね。個人的に好きだったのはクラウス、ハーロルトのベストエンド、エーレンフリートの禁忌エンドした。
なお、8月9日にはメインキャストが勢揃いする単独イベント「宵夜森ノ姫 待宵月の円舞曲」が予定されています。オフィシャルHPの先行応募はまだ受け付けていますので、興味ある方はぜひ申し込みましょう!
(C)eterire