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本作のタイトルが示すように、少女たちと共に活躍するもう一つの主役は「戦車」だ。戦艦や戦闘機が登場するアニメはいろいろあるが、戦車をフィーチャーした作品づくりはデジタル化の恩恵を受けたいまだからこそ成立したものと言えるかもしれない。
「美少女×メカニック」というオーソドックスな企画に対して、3DCGの新風を吹き込んだ本作。その立役者のひとりである3D監督の柳野啓一郎さんに、劇場版の制作エピソードを伺った。
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――TV放送から劇場公開まで3年がかりのプロジェクトになるわけですが、映画の準備はいつ頃からスタートしたのですか。
柳野:TVシリーズが終わって、その打ち上げ(2013年4月)の席で監督から構想を聞かされたのが最初ですね。でも次が劇場版なのかと思ってたら、OVA(『これが本当のアンツィオ戦です!』)を先にやることになりまして(笑)、そのあとすぐですね。OVAではあえてTVと同じアセットで制作しましたが、その間に劇場用としてほかのテストをしながら暖めていったという感じです。
――打ち上げで語られた構想というのは、どんなものだったんでしょう。
柳野:これが非常に明確で、「次の劇場版のオープニングはこうだ」という話がありました。まずダージリンとオレンジペコというキャラクターが、戦車の中で紅茶を飲んでいる。のんびりと紅茶を飲みながら格言を言っているところをカメラが引くと、まわりを戦車で囲まれてエライことになってるというのがやりたいと。ご覧いただくとおわかりのように、その通りの冒頭が出来上がりまして(笑)。
――パンフレットの監督のコメントによると、当初の80分から120分に上映時間が伸びたそうですが、やはり3DCGにも追加のリクエストがあったのでしょうか。
柳野:ある程度見えていた感じですが、急に増えたりとかは……ありましたね(笑)。たとえば「II号戦車が出る」というような。ただ、急遽ヤークトパンターも出したいとなったときはタイミング的に不可能だったので、TVの素材を仕方なく使ったりとか、いろいろやりました(笑)。
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――TVシリーズと劇場版ではどのような違いがありましたか。
柳野:2年間の思い出補正と大スクリーン分のバージョンアップです。戦車の動きと形というTVシリーズでの主軸を強化し、さらにエフェクトやキャラクター、3DBGも別個のフローを作り全体的な絵作りとしてより完成度をあげるようにしました。まず最初にとりかかったのは全登場戦車のブラッシュアップです。
――主人公の乗るIV号戦車なども新しいモデルということですか。
柳野:そうですね、大幅に改良を加えてあります。やはり劇場の大スクリーンにカクカクしたポリゴンを映してしまうのは、ちょっと耐えられないなと。あとテクスチャーが粗いというのもありまして、そこを一気にバージョンアップというか、多少(カメラが)寄っても大丈夫なように細密化しています。
それと並行して、ミリタリーの知識的に間違っているところの修正ですね。具体的に違っているのが後でわかったところもありますし、そこをなるべく直してしまおうという感じでした。
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――TVシリーズから戦車の完成度が高くて、劇場版はむしろシームレスというか、TVから自然につながっている印象がありました。そもそもTVの物量もすごかったですよね。
柳野:まあ、いろいろありましたけど(笑)、最初の設計としては2クール分を回せるような感じで、たとえば戦車のリグであったり、レンダリングした後のコンポジットであったり、それらを大幅に簡易化して、要は(担当者が)LOとモーション作業に時間が割けるように、TVのときはそこを絞ったんです。戦車の「形」と「動き」と言ってるんですけど、この二点で突破する。これだけなんとかすれば、この作品で3Dが担うところは十分TVシリーズとして達成できると思ってました。