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監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀。映画『心が叫びたがってるんだ。』はヒット作『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を手がけたスタッフが再集結するとして注目を浴びた。2015年9月に公開された本作は興行収入11.2億円の大ヒットとなった。その話題作が2016年3月30日にBlu‐rayとDVDになって発売される。
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それを機に成瀬順役の水瀬いのりさん、そしてチアリーダー部の優等生・仁藤菜月役を演じた雨宮天さんが再び集まっていただいた。本作の順の演技で第十回声優アワードを受賞した水瀬いのりさん、フレッシュな演技で俄然注目を浴びる雨宮天さんが『心が叫びたがってるんだ。』をじっくりと語った。
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――興行収入11.2億円という大ヒット、作品への高い評価と『心が叫びたがってるんだ。』は、2015年の大変な話題作となりました。そうしたなかで作品を振り返ってどう感じられていますか。
水瀬:舞台挨拶としては最後となった11月1日のTOHOシネマズ新宿で10億円突破の記念でくす玉を割ったんですよ!人生で初めてでした。
雨宮:そうだよね、割ることなんてそんなないよね。
水瀬:その場で長井龍雪監督に対して「おめでとうございます」と話しました。壇上でうれしそうにお話する長井監督の横顔を見て、すごくたくさんの方に愛された作品にヒロインとして関わることができた喜びを感じました。
雨宮:自分がお客さんとしても「ステキだな」と思った作品がたくさんの人に届いたんだなといううれしさでいっぱいです。
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――大ヒット作となりましたが、公開前と公開後でお二人のお気持ちに変化などはありましたか?
水瀬:最初はやはりプレッシャーがすごくありました。緊張感は自分が思っている以上でした。でもアフレコが終わった時にはそういう感情は消えていて、100パーセント自信を持って「いい作品に関われた」という気持ちになっていました。
雨宮:私が演じた仁藤菜月の気持ちがみなさんに伝わったらいいなって思っていました。責任感や不安はありました。ただ作品に対しての不安は全然なくて、私自身、完成したのを観て叫びたくなった、心を動かされた一人でした。多くの方が心を動かされたらいいなって思っていました。だからたくさんの人に作品が届いたのはすごくうれしかったですね。
――お二人は、坂上拓実、成瀬順、田崎大樹、仁藤菜月の4人の中ですと誰に近いですか?
水瀬:うーん……、私は拓実寄りですね。大樹ほど熱はないのですけど、ちゃんと自分の思いはある。順と拓実の間にいると思っています。
雨宮:難しいですね……いろんな感情に苛まれたり動かされたりして、でもうまく伝えられないところは順ちゃんに似てるんじゃないかなって思います。でも、周りの方からはホントに「菜月そのまんまだよね」って言われて(笑)。
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――オーディションはどのようなかたちで行われたのでしょうか。
水瀬:まずテープオーディションがありました。その後にスタジオオーディションの流れでした。たた順は資料を読んでもセリフを読んでもどうお芝居をしたらいいのかわからなくて。「喋るとお腹が痛くなる」という順の気持ちにどうしたらなれるのか迷いながらでした。やっていることが正しいのかわからないまま演じて、歌って、オーディション会場を後にして……。自信はなかったのですが、作品については「こんな映画を公開するんだ、楽しみ!」とわくわくしていました(笑)。
――雨宮さんはいかがでしたか?
雨宮:実は私も最初は順ちゃんを受けていたんです。ところがスタジオオーディションで順ちゃんをやった後に「菜月も受けてください」ってその場で言われて、資料やセリフを読ませてもらって、すぐに菜月を演じました。後から考えると、短い時間で「こういう子だ」と抱いた印象をパッとそのまま出せたのがよかったのかなって。
――アフレコの後、完成した本編をご覧になった際はどう感じましたか?
水瀬:拓実役の内山(昂輝)さんとの掛け合いですごく勉強させていただいたんです。内山さんはまるで自分自身がしゃべり出すかのように芝居をしておられて、その掛け合いの中で活き活きと順を演じられたと思います。掛け合うことで生まれる順の呼吸感がそこに残っていたので、ホッと安心しました。
――雨宮さんは菜月を演じられる時、どういうところを意識されていたのでしょうか。
雨宮:菜月は、すごく優等生で、女の子からも憧れられる存在だと思います。一方で気を遣って自分の気持ちを押し殺したりするんです。それが計算ではなくて自然にそうなってると感じていました。ですので「あざとさ」みたいなものは絶対に付けたくないと思って演じてました。
後半で、拓実に自分の気持ちをぶつけるシーンも、思いが漏れ出してぶつけてしまうんですが、ヒステリックにはなりたくないと思ったんです。私の中の菜月のイメージは「男らしさのある子」、優等生らしさは保ちつつも女っぽさはセーブするという気持ちでした。
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――本作はミュージカルシーンも印象的です。歌の収録はどう進んだのでしょうか。
雨宮:セリフを全部録り終えてから、ひとりずつ呼び出されて収録です(笑)。
水瀬:ひとりひとり消えていくんですよ。
雨宮:みんなで待ってて、「誰々さん入ってくださーい」って次々と呼ばれていくんです。
水瀬:終わった人は帰るので、少なくなるにつれて残った人はどんどん緊張して。
――アフレコではみんなで作品の空気感なども共有されたと思います。
雨宮:自分の意識の変化がありました。みなさん、本物の高校生みたいにすごく自然に言葉を発している気がしたので、私も自然にやりたいなって思えて。こういう空気感の作品なんだって、スタジオにいることで分かっていきました。
水瀬:みなさんすごく自然に声を出していましたね。雨宮さんの声も菜月の声のまんまだなって思うし、声をガラッと変えたりしない。それがすごく心地よくて。アフレコの休憩で、みんなでお昼食べようとなった時も、「学校のお昼休みってこういう感じだったな」って思い出したり。みんなと話をしたりした時間も、全てが作品に繋がっていてすごく新鮮で楽しかったです。
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――物語ではストーリーが進むにつれて人間関係が変化していきます。クライマックスまでの後半をお二人はどうご覧になりましたか?
水瀬:これが岡田さんの書くシナリオなんだな、現実でもきっとこういうことあるなと思いました。恋愛にかかわらず、人間関係の中では「絶対大丈夫」って思っていたことほど意外に最後で覆されたりします。そういう想像を心の中で膨らませるにふさわしいすばらしい展開だなと。
雨宮:作品は高校生のうまくいかなさがすごくたくさん描かれているんですよね。きらきらというよりはリアルな青春、たくさん悩んで泥臭いところもありながら、うまくいかない。でもそれは決して不幸せじゃなくて。高校生の時期のうまくいかなさと、何が起こるか分からない感じと。必死にもがいて生きている様がすごく現されていて、すごくいいなと思いました。
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――お父さんやお母さんの描かれ方をどう感じられましたか?
水瀬:すごくリアルだなあって。年齢を重ねて父とか母になってはいるけど、一人の人間としてはみんな同じ。
雨宮:子どもからしたら、お父さんとかお母さんって完成された存在に見えているんですよね。でも思うことや傷つくこともある。高校生とは違った人間らしさが描かれていて、どの人も人間らしさに溢れている人たちだなって思いました。
――言葉を伝える、思いを伝える作品のテーマとは声優のお仕事ともリンクしているかと思います。今回、“ここはうまく伝えられた”と思われたところがあれば教えてください。
雨宮:菜月が自分の気持ちを押し殺して笑顔で「応援する」って言うシーンをよかったと言っていただくことが多くて。私が、それまで菜月が経験したこととかモヤモヤをたくさんため込んで押し殺すようにして演じたシーンだったんです。特に菜月らしさが出ているシーンと思うので、そこが伝わったんだとうれしかったですね。
水瀬:私は作品の収録中、自分は水瀬いのりという存在を消して成瀬順になっていたんだなと思いました。本編を改めて見た時に「何を思ってこの声を出したんだろう」って明確に覚えてないシーンがあったんです。それはきっと理屈じゃなくて感情的に出た声だから覚えてないんだなと思ったんです。今まで体験したことのない貴重な経験をしたんだって実感しました。
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――ありがとうございます。それでは最後にパッケージのリリースと合わせてファンへのメッセージをお願いします。
雨宮:キャラクターそれぞれの行動や表情が細かく描かれている作品です。その表情ひとつひとつに理由があって、見返す時にいろいろな発見があると思います。まず一度目で『ここさけ』のストーリーを知っていただけたら、二回目以降、ひとりひとりにフォーカスを絞って観ていただきたいなと思います。
水瀬:お手元に作品を置いていただければとてもうれしいです。劇場ならではの大きなスクリーンはもちろんステキですけど、もうひとつ家で『ここさけ』が観られる空間があるというのもステキです。ぜひ楽しんでいただきたいです。
それから、今回パッケージの特典としてミュージカル楽曲の「順 ver.」が入ります。劇中では聞くことのできなかった順のまっすぐな歌をぜひ聞いてもらいたいなと思います。
[取材・構成:細川洋平]
『心が叫びたがってるんだ。』 公式サイト
http://www.kokosake.jp/
Blu-ray&DVD 2016年3月30日(水)発売決定