【特集】『オーバーウォッチ』日本語版はこうして生まれた…スクウェア・エニックス 西尾勇輝氏に聞く「ゲームローカライズ」とは

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【特集】『オーバーウォッチ』日本語版はこうして生まれた…スクウェア・エニックス 西尾勇輝氏に聞く「ゲームローカライズ」とは
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■膨大なテキスト量…『ライフ イズ ストレンジ』翻訳のキモ



――西尾さんがローカライズを手掛けた『ライフ イズ ストレンジ』について伺わせてください。今作のテキスト量は膨大でしたよね。

西尾: あのテキスト量はハンパじゃないです……。国内発売日は2016年3月3日なんですが、ローカライズを始めたのはだいたいエピソード3が出たころくらい。『オーバーウォッチ』と時期が被っていて大変でしたね。海外のオリジナル版がエピソード形式の配信でしたし、ゲームデザインも「日本で出すなら絶対吹き替え!」と思えるものでしたから、とことんクオリティーを追求して、時間だけはいただいて良いものにしたいと。そこで、海外ディスク版と併せて日本語版もリリースすることになりました。ローカライズ人生の中で最も苦労したのは、間違いなく『ライフ イズ ストレンジ』です。

――今作は「ティーンエイジャー的な言い回し」やスラングが多様されるダイアローグが印象的でしたが、そういったセリフの翻訳に当ってはどのようなことを意識しましたか。例えば「It's hella fun.(クソ面白いね)」とか。

西尾: 「クロエ」の喋り方ってだいぶオーバーに描かれてはいるんですけど、スラングを直訳するのはナンセンスですから、彼女の持つ雰囲気を重視しました。セリフそのものというより、担当声優のLynnさんにニュアンスを意識してもらう感じです。

――先ほどもおっしゃっていましたが、今作はエピソード毎の配信形式でした。エピソード2以降は「Previously on Life is Strange(前回までの『ライフ イズ ストレンジ)」といったように、前回の振り返りが挿入される導入パートもありましたが、今作のローカライズで「海外ドラマ感」は意識しましたか。

西尾: 海外ドラマは大好きなんですけど、基本的には英語で観てるんですよね。今作に関しては、いわゆる「吹き替えされている海外ドラマ」からは敢えて離れるようにはしていました。芝居がかった喋りかたを避けて、『ライフ イズ ストレンジ』の大きなテーマである「日常」らしさを意識したかったんですよね。マックスなんて、ゲームキャラにしてはかなりボソボソ喋るタイプじゃないですか。担当声優のたなか久美さんも、最終的には日常的にもボソボソした喋り方になってました。

――今作のフォントに対しては、どのようなこだわりがありましたか。

西尾: 海外版では手書き風のフォントを使っていたんですが、「マックスの日記」の雰囲気は崩したくなかったんですよ。彼女の「手書き風」というのはどんなものになるだろうといろいろ試したんですが、最終的には丸文字のフォントに落ち着きました。どこかで可読性を犠牲にする必要がありましたし、逆にゴシック体なんかを使うと『ライフイズストレンジ』の世界観を壊しかねませんし。彼女の「心の声」のフォントなんかも、開発元のDONTNOD Entertainmentと相談して決めました。

――フォント選びも本国の開発チームと相談していたのですね。

西尾: そうですね。海外版では3種類くらいのフォントを使っているんですが、日本語ではメモリ問題もありますし、とりあえず2つ選ぼうということに。そこに関してはDONTNODと何十通もメールをやりとりして決めました。

――海外ドラマがお好きとのことでしたが、ゲーム以外で特に好きな文化などはありますか。

西尾: 映画とドラマが好きで、たいてい英語のまま観ますね。勉強の一環としては、同じ作品を字幕/吹き替え両方で観たり。聞こえてくる英語を字幕と比べて、自分で訳しつつ視聴することもあります。「全然違うなぁ」とか思いながら。

――なるほど。「俺ならこう訳すのに!」みたいな。

西尾: そうですね。あまり良いクセとは言えないですが(笑)。

■洋ゲーを日本のゲーマーに届ける。西尾ディレクターが貫く「ゲームローカライズ」



――『オーバーウォッチ』のように、海外産のビッグタイトルが「世界同時発売」となり、日本のユーザーに向けてもスピーディーに届けられるようになってきましたが、ローカライズディレクターとして「海外ゲーム」と「日本人ゲーマー」の距離感に変化を感じますか。

西尾: 昔の日本のゲーマーにとっては「洋ゲ―はバタ臭い、難しい」というイメージもあったと思うのですが、その垣根はなくなりつつありますね。ローカライズだけが理由という話だけでなく、海外デベロッパーにとって「日本の市場に価値がある」と感じられてるのも、大きいかなと。『オーバーウォッチ』はSimship(全世界同時発売)となりましたが、開発側からのコミットメントも重要ですね。

――西尾さんが「ゲームローカライズ」を行う上で、最もこだわっている点や、貫いている意志はどんなものでしょうか。

西尾: 「ゲームローカライズ」にはいろいろなやりかたがあって、担当者によって色が出てくることはあると思うんですが、もともとの開発チームとスタジオの皆さんが「何をプレイヤーに伝えたかったのか」というのを、なるべく忠実に日本のゲーマーの皆さんに届けるのが第一だと考えています。大前提としてあるのは、「ユーザービリティーを損なうような誤訳は避ける」というところ。昨今のゲームは容量が大きくて難しいところもありますが、常に掲げている目標はそこにあります。

――Game*Sparkには、海外ゲームのローカライズに強い関心のある方や『オーバーウォッチ』のプレイヤーもたくさんいます。何かメッセージをお願いします。

西尾: EXTREME EDGESチームには、ローカライズ愛の強いメンバーが集まって、色々な作品に注力しています。まだ発表されていない新規タイトルに関しても、ユーザーの皆様が楽しんでいただけるよう仕上げていきたいと思っていますので、今後共よろしくお願いします。『オーバーウォッチ』に関しては、プレイヤーとしても1つのタイトルに対してこんなに長く関わることってあんまりないんですけれども、仕事としてはもちろん、プレイヤーとしてもとても愛しているゲームですから、高いクオリティーを維持しつつ日本語版を提供できていけたらなと思います。

――西尾さん、本日はありがとうございました。


(取材・文 / 早川夏生 撮影・編集 / 谷理央)
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