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写真左からインターラクトの平林久和氏、HTC NIPPONの西川美優氏、ジャパンディスプレイの湯田克久氏
まず最初に登壇したのは、HTC NIPPONの西川美優氏。同社で「HTC VIVE」事業の責任者を務める氏は、まず海外のユーザーと、世界最大規模のゲーム開発者会議「Game Developers Conference」に参加したクリエイターたちに向けたアンケートでは、「HTC VIVE」がもっとも注目しているプラットフォームであるとの結果を得られたとのこと。好評の理由は、対角線5メートルというスペースを活かしたVR体験を提供できる「ルームスケール」。他の既存VR機器には実現できない強みが、そのまま高評価へとつながっているようです。
また、2017年のトレンドとして、同社が3月27日より販売開始した「HTC VIVE」用モーショントラッキングコントローラー「VIVEトラッカー」を紹介。これをガンペリフェラル、グローブ、消火栓のホースの先端などさまざまなものに取り付けることで、さらに優れた没入感やリアリティを得られるVR体験ができます。氏はこれを「VR市場はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)だけではない」と分析しました。
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課題としては、第一に導入の際のコストがかかってしまうことと、ルームスケールのスペースが日本の家庭事情では確保しづらいこと。これに関しては、バンダイナムコゲームスと協業して「VR ZONE」を期間限定でオープンするなど、アミューズメント施設やアトラクションとしてVRを気軽に楽しめる取り組みを行っていることを紹介。また、中国ではインターネットカフェ、アメリカでは映画館に置いてみる取り組みが進んでいるとのことです。
第二の課題は無線化の実現。今年の第二四半期にリリースする予定が少し後ろ倒しになっていると前置きしたうえで、先日プロトタイプとなる開発機に触れたところ、「レイテンシーが10~20msは出てしまうと聞かされていたが、それほどには感じられなかった」とも語りました。ただ、今後映像が高画質になるほどレイテンシーも出やすくなるので、画質向上と無線化のどちらが求められていくのかは難しいところでもあるとのことです。
ゲーム以外の活用事例としては、海外の自動車メーカーのデザイナーが業務に使用しているという実例を紹介。また、MRIのデータを3D化して患者への説明をより分かりやすいものにしたり、医師同士で手術のシミュレーションを行ったりできる医療向けパッケージの話も進んでいるとのことで、ゲームに限らない市場の開拓・訴求が示唆されました。
次に登壇したのは、ジャパンディスプレイの湯田克久氏。VRのHMD市場はまた成長初期であるため、複数の調査会社による市場予測に大きなバラつきがある、と湯田氏。もっとも、どの調査会社も右肩上がりになるという見解では一致しており、2017年こそVR元年になるのではないか、と展望を語りました。
現状のVR機器はスマートフォンをセットして遊ぶ低コストのものと、前述のHTC VIVEやPS VR、Oculus Liftのように“母艦”を必要とするが高性能のものがありますが、今後はHMDだけですべてをまかなうオールインワンモデルも登場するのではないかと予測。ただし、重量、消費電力、バッテリーなど、そうしたモデルの実現には課題も多くあると述べました。ともあれ、市場を大きく成長させるには、ディスプレイの高性能化が必須条件。VR向けディスプレイに求められるものは
1.よりリアリティを感じられる高画質の提供
2.動画ボヤケの抑制
3.レイテンシーの低減
4.装着感の低減
であると分析。「1.」の実現にはppiの向上、「4.」の実現は機器の小型化が必須となりますが、そればかりを追求すると「3.」で挙げられているレイテンシーが増大してしまいかねないとのこと。とはいえ、650~800ppiのVR HMDディスプレイは2018年には量産できるのではないかという見通しも提示されました。
「2.」に関しては、高いリフレッシュレートと応答速度を実現しつつ、インパルス駆動のディスプレイを用いれば、有機ELではなく液晶ディスプレイもまだまだいけるはず、とも分析。VR向けのディスプレイは未成熟分野であり、まだまだ技術要素の開発・結集が必要なので、みなさんと一緒に大きな市場にしていきたい、と語り講演を締めくくりました。
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最後に登壇したのは、ゲームアナリストとしても著名なインターラクトの代表取締役・平林久和氏。今後のVR市場の展望は、「綺麗な右肩上がりを続けると考えるのはいささか乱暴すぎる」としながらも、「向こう5年間で大きく伸びていくはず」と分析。西川氏、湯田氏と同じ見方を示しました。
次に、成長を続けるVRゲームの魅力について言及。既存の3D映像は「立体的であると目で見て錯覚しているにすぎない」ものであったが、VRは「脳で仮想の現実を感じている」ものであり、両者は大きく異なるものであると分析しました。また、ゲームクリエイターには、ときに利益を度外視してまで「面白そうだからやってみよう(作ってみよう)」と考える人も多いゆえに、今後魅力的なコンテンツはさらに増えるとの見通しを示しました。
平林氏が感じるVR第一の課題は「VR酔い」。これに関しては、氏も協力したデジタルハーツが、テスターからのフィードバックを元に酔いを起こしやすい16の要因を洗い出し、逐次スコアをつけることで酔いをなくす取り組みを行っていることを紹介。また、それとは別のアプローチとして、静的なコンテンツの可能性にも言及。「人狼」やリズムゲームのような、動きの少ない遊びをうまくVRに取り込めれば、次のステージにいけるのではないかと語りました。
第二の課題は、前述したVR酔いの問題もあって一回あたりのプレイ時間が短くなること。これは日本だけでなく全世界に共通した傾向で、既存のゲームと大きく異なるところだ、と平林氏。そうした観点から、一プレイに対し料金がかかる、ゲームセンターのようなアミューズメント施設での提供がVRに適しているとのこと。こうした見方も西川氏と同じくするもので、VRの現状を示す共通認識といえそうです。
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現状のVRゲームの特徴に関しては「速い、怖い、エロい」に大別されると分析。言い換えるなら「ジェットコースター、ゾンビ、ミニスカート」が好評を博しているとのこと。それ以外の、たとえば文字を読ませるような静的コンテンツなどが登場してもいいとする一方で、アダルトなVRコンテンツの集客力にも着目。そこから大きな動きが生まれることもありうる、と可能性の幅広さを語りました。最後に、Microsoftが提供する、現実の風景にホログラムを投影する「Microsoft HoloLens」にも言及。VRとARを組み合わせる複合現実という次世代への期待を語り、講演を終えました。
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さまざまな観点から、VR/ARの市場予測に関してはおおむね楽観的であるものの、それには技術や発想のブレイクスルーも必須である……という見通しが示された今回の講演。今回のテーマは「ゲーミングはその中心となるか?」というものでしたが、必ずしも用途をゲームにしぼる必要はなく、AR/VRは現状ですでに医療や工業などさまざまな分野で活用され、役立てられています。目を見張るようなVRのゲームが登場してくれればうれしいですが、新興、かつ伸び盛りの市場であるゆえに、VR/ARそのものに目を向けてみるのもおもしろそうです。