『大逆転裁判2』の作業量は前作の倍!? ローカライズ裏話も――『逆転裁判』特別法廷セミナーレポート・後編

総合学園ヒューマンアカデミーで、カプコンの江城元秀氏と巧舟氏による『逆転裁判』シリーズに関する講演が開催中。貴重な講演のレポートの後編をお届けします。

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『大逆転裁判2』の作業量は前作の倍!? ローカライズ裏話も――『逆転裁判』特別法廷セミナーレポート・後編
『大逆転裁判2』の作業量は前作の倍!? ローカライズ裏話も――『逆転裁判』特別法廷セミナーレポート・後編 全 3 枚 拡大写真


6月4日に東京・総合学園ヒューマンアカデミー秋葉原校で講演を皮切りに、全国のヒューマンアカデミーで開催されている、カプコン・江城元秀氏と巧舟氏による「逆転裁判特別法廷セミナー」。そのレポートの後編をお届けします。まだ前編を読まれていない方は、そちらもあわせてご覧ください。

◆プレイヤーの声を反映してブラッシュアップ! 『大逆転裁判2』の見どころは


レポートの前編では、『逆転裁判』と『大逆転裁判』に関する誕生秘話やコンセプトに関する話をお届けしましたが、次なるテーマは発売が待ち遠しい『大逆転裁判2』。巧氏は、本作の制作コンセプトを「すべての謎が解き明かされる」ことと「より遊びやすく」することだと説明し、江城氏は「サブタイトルの「覺悟」という言葉には「面白いゲームに仕上げるというスタッフの覚悟」も込められていると語りました。

大逆転裁判2』は試作版、α版、β版という何段階もの社内評価を経て開発しているそうですが、それでも、多くのプレイヤーが触ればスタッフが見落としがちな部分も見えてくるというもの。「この部分が分かりづらかった」、「会話のテンポがいまいちだと感じた」などの声を参考に、より一層のブラッシュアップを続けているそうです。

大逆転裁判』の主人公・龍ノ介はよく目を泳がせるが、これは(コナン・ドイル作品の)シャーロック・ホームズが会話中に相手の目の動きから情報を読み取ったりすることになぞらえている――そんなこぼれ話から、話題はキャラクターのモーションに関するものに移行。江城氏は「キャラクターを3Dで作成するようになって以来、モーションを調整する時間をしっかり取らなければならなくなった」と3Dならではの苦労話を披露してくれました。

巧氏はそれを受けて「モーションとモーションの繋ぎ方などもしっかり見直しましたので『大逆転裁判2』はテンポを改善しつつ、より自然な動きになりました。続編だから手間が少なく済む……ということはなく、むしろ作業量は倍近くになったのではないでしょうか」と力の入れようを強調しました。

そして江城氏は、そんな本作のポイントを「エピソード間のプレイ感覚も釣り合いが取れていて、次へ次へと遊びたくなるデキ。よりドラマチックになったストーリーにも注目してください。順次続報を出していきます」とアピール。

ところが巧氏は「ディレクターとしては、情報を極力入れず、実際に遊んで驚いたり楽しんだりしてもらえると嬉しい」とまるで正反対の物言い。製品の魅力をしっかり広報していく必要があるプロデューサーと、自分が手がけたゲームそのもので勝負したいディレクター。どちらが間違っているという話ではありませんが、奇しくも二つの職の違いが浮き彫りになりました。

◆海外でも支持を得た秘訣は? 『逆転裁判』ローカライズ事情


これまでに12タイトルをリリースし、累計売り上げは640万本になったという『逆転』シリーズ。当然、日本のみならず海外展開にも力を入れています。テキスト量が膨大な作品だけに、翻訳には時間がかかりますが、日本版の発売から時間が経ちすぎるとインターネット上で情報が拡散されてしまうため、極力間を空けずにリリースする必要があるのが悩みどころ、と江城氏。そうした事情から『逆転検事』以降の作品は、多言語への翻訳は英語のみに絞っているとのことです。



海外版では、ナルホドくんが「フェニックス・ライト」という名前になっていることは熱心なファンのみなさんならご存知かもしれませんが、ローカライズにあたっては、それだけに留まらず設定や内容にも踏み込んで分かりやすく改変しているとのこと。

たとえば、物語の舞台は日本からロサンゼルスになっているほか、真宵の好物がミソラーメンからハンバーガーに変更されています。これは「海外ではラーメンといえばカップラーメンを指すのが一般的で、外食で気軽に食べるメニューというイメージはあまりなかったから」というのが理由だそうです。そのほか、日本(語)ならではのギャグをさまざまな国の人が違和感なく理解できるようにカルチャライズしたりと、細やかな努力が散りばめられているようです。

そんなローカライズ・カルチャライズ作業を一手に支えるのが、ローカライズディレクターという役職に就くジャネット・スー氏。氏の貢献もあって、『逆転』シリーズは海外でも日本同様の活発なコミュニティや、キャラクターのコスプレに興じたりもする熱烈なファンを生みました。海外では、ジャネット氏の功績はファンもよく知るところで、今ではイベントでジャネット氏個人にサインをねだる人もいるのだそうです。

そうしてファンに支え続けられた『逆転裁判』は2016年に15周年を迎え、TVアニメ化、新たなシリーズ作品である『逆転検事』の舞台化、舞浜アンフィシアターでの「15周年特別法廷」イベントの開催、ギャラリー「逆転裁判画廊」など、さまざまな催しを展開。5月にはオーケストラコンサートも開催されましたが、これに関しては江城氏が「また開催できないかと考えています」と前向きな姿勢を見せてくれました。

来場者からの質疑応答を終えると、江城氏が「いよいよ『大逆転裁判2』の開発も大詰めです。『大逆転裁判1&2 限定版 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-』という前作とのセットも発売しますので、前作をプレイされていない方もよろしくお願いします」と挨拶し、貴重な話がたくさん飛び出した講演は終了となりました。

その後のお二人は、来場者のほとんどが思い思いに持ち寄った書籍やCDなどにサインをされたり、時間が許すかぎりコミュニケーションを取られたりして、来場者たちは『逆転』シリーズを支えるクリエイター2人との触れ合いを楽しみました。

最後に、前述した会場での質疑応答を紹介します。

Q.シナリオを書いているとき、頭の中にはどのような映像が浮かんでいますか? また、(製品版さながらの)完成した画面が脳裏に浮かぶのはどの段階においてですか?

A.巧氏:開発の最終調整の段階においてだったり、動きがついているのを見て初めて、ということが多いですね。キャラが動いているのを見て、セリフを手直しすることもあります。プロットを固めてシナリオを書く段階では、登場人物はまだ駒のようなものですから、映像などは浮かんでこないんです。もちろん、最後まで駒のままではダメなので、そうはならないための個性も合わせて考えるんですけどね。

Q.『逆転裁判』シリーズを作るとき、一番大切にしていることはなんですか?

A.巧氏:お話がミステリーであること。僕にとってはこれが第一です。制作の手順としては、まず最初に物語を考え、次にその物語にはどのような登場人物が必要か……という観点でキャラクターを考えていきます。弊社は個性的な人が多いので、キャラクター作りの際に、部分的にモデルにさせていただくこともあります。例えば、華宮霧緒の苗字は僕と同期入社だった神谷君(現プラチナゲームズの神谷英樹氏)から拝借しました。あくまで、苗字だけですけどね(笑)。

Q.制作サイドから見た「会心のデキのシーン」を教えてください

A.巧氏:『逆転裁判3』のクライマックス付近でしょうか。実は『2』を出したとき、神谷君から「ナルホドくんのテーマ曲をどうして変えちゃったの」と言われたこともあって変わらない方がいいこともあるのだなと思い、『3』のクライマックスでは『1』の彼のテーマ曲を使っているんです。

Q.『大逆転裁判』の制作時、シャーロック・ホームズを自分なりの解釈で作品に落とし込む際に苦労したことはありますか?

A.巧氏:ホームズが登場するゲームをずっと作りたいと思い続けていたこともあり、実は、あまりないんです(笑)。『大逆転裁判』に登場するホームズ像は、僕の中にずっとあったものです。

Q.最近触れておもしろかった作品を教えてください

A.江城氏:プロデューサーという役職は、今なにが面白くて、なにがそうでないのかを知っておく必要がありますので、日頃からいろいろな作品に触れています。最近は海外ドラマを見たりしているのですが、医療ミステリーの「ドクターハウス」は楽しく見ています。

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本セミナーは、総合学園ヒューマンアカデミーの「秋葉原校」、「大阪校」での好評を受け、7月以降にも「札幌・仙台・名古屋・広島・福岡・那覇」での追加講演が決定しています。この機会に、貴重な講演を聞きに行ってみてはいかがでしょうか。

『逆転裁判』シリーズセミナーの日程および申込はこちらから



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《蚩尤》

汎用性あるザク系ライター(が目標) 蚩尤

1979年生まれのファミコン直撃世代。スマホゲームもインディーズも大型タイトルも遊びますが、自分と組ませてしまって申し訳ないという気持ちやエイミングのドヘタさなどからチーム制のPvPやFPS、バトロワが不得手です。寄る年波…! ゲームの紹介記事に企画記事・ビジネス寄りの記事のほか、アニメなど他業種の記事もやれそうだと判断した案件はなんでも請けています。任天堂『ガールズモード』シリーズの新作待機勢。

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