「創点 弟子入りプロジェクト」で次世代を育てたいーディライトワークス塩川洋介氏インタビュー

FGO PROJECTクリエイティブディレクターである塩川洋介氏は他にも大学や専門学校などでの講演や講義も積極的に行っている。なぜここまでクリエイターの育成に注力しているのか?現在のゲーム業界を取り巻く環境も含め、話をうかがいました。

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◆ディレクターはただゲームをつくるだけではない



――先ほど作品の話をしましたが、塩川さんが刺激を受けた人はいますか?
塩川:
実際に働き始めてから刺激を受けることがありました。最初に入った会社は一年後ぐらいになくなってしまったんですけど、その後にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入り、『キングダムハーツ』や『ディシディア ファイナルファンタジー』というタイトルに携わっていたんです。そこでクリエイターの野村哲也さんに出会いました。野村さんは『キングダムハーツ』からディレクターになられたのですが、「ディレクターとは、どういう仕事をするのか?」というのを見させてもらったのが、まさにそのころでした。とても近くで仕事をさせていただいて、雛鳥が親を見て育つとでもいいますか、今振り返ってみると、そこで学ばせてもらった事が、今の自分に大きな影響を与えていると思います。

――具体的に何かを教えてもらったりしていたんでしょうか?
塩川:
何かを教えてもらうと言うよりは、普段の業務を通じてディレクターはただゲームをつくるだけではないことを学ばせていただきました。お客さまに向けてどういった仕掛けを用意するのか、どうやってお届けするのか、届いた後にどうやって話題を波及させていくのか、それらも含めてゲームディレクターはすべてを考えるんだと。野村さんはクリエイティブプロデューサーっていう職種を名乗ることが多いのですが、当時も半分がプロデューサーの仕事で、半分がディレクターの仕事をされていたのかなと思います。『FGO』で自分がやらせてもらっていること、役割は“ゲームを創る”だけじゃないというところに、かなり影響を受けていますね。

――なるほど。スクウェアといえば凄腕クリエイターが集まっている印象ですが、他にも刺激を受けたことはありましたか?
塩川:
在職途中で、アメリカのSQUARE ENIX, INC.という支部に数年いたのですが、その当時アイドスという世界各国にスタジオを持つグローバル企業を会社が買収したんです。その頃、Xbox360やPS3で“洋ゲー”が流行っていて、いろんなタイトルが世界で何百万本という本数を販売していたんですね。日本はPS2の開発からなかなかPS3の開発へシフトできなかった、まさにあの時代でした。

そこで世界で数百万本というヒットを飛ばす一流の仕事をする人達を目の当たりにできたんです。世界の中でも一流といわれる人たちの尺度を見て、今の自分がどういう位置にいるのか、これから何をしなければいけないのかなど、多くのことを考える事ができました。今の自分ではこれぐらいの距離がある。でも人間が到達できない距離じゃない、と。


――海外の一流の人達の仕事ぶりを見ることができたのは大きな経験ですね。他にはどんなことを経験されたんでしょうか?
塩川:
当時、同じような流れでハリウッドのクリエイターたちと仕事をする機会がありました。
「アバター」というアカデミー賞で複数の賞を受賞した大ヒット映画がありますが、そのアートディレクションを担当した方とも一緒に仕事をしたんです。ゲーム業界におけるグローバルの一流の人達はこの域だという感覚に加えて、ハリウッドで同じように一流と呼ばれるクリエイターの人たちが考える域、そしてどうやって仕事をするのかということをすぐ近くで見ることができたんです。日本でスクウェア・エニックスや、野村さんをはじめトップクリエイターの仕事をみていたので、日本、グローバル、ハリウッドのそれぞれの最高峰はこうだと、それぞれの側面からトップクラスのクリエイターたちと一緒に仕事をさせていただきました。こうした経験から、自分がどこまでいかなきゃいけならないのか、いきたいのかを測れたのも、良かったなと思っています。

――そして、それが今に繋がっているんですね。
塩川:
今はTYPE-MOONさんという、日本のコンテンツ業界でトップを走り続けている奈須きのこさんと武内崇さんというクリエイターたちと一緒に仕事をしています。この方々が『月姫』のころから十年以上に渡って、多くの方に支持され、ヒットを飛ばし続けてきているのはなぜなのか、一緒に仕事をさせてもらう中でひしひしと感じます。それをとても間近で見させていただいて、すごい刺激を与えてくださる方々とご一緒させていただく機会に恵まれたクリエイター人生だと……なんか終わっちゃうみたいですけど(笑)。お手本にしたい方々と常に一緒の環境で仕事をさせていただけるのは、とてもありがたいことだと思っています。

――そういう方々に出会って「まさに一流だな」って思うのはどんなところですか?
塩川:
皆さんに共通して言えるのは、“面白さ”と“品質”へのあくなきこだわりですね。創っている本人がそこをこだわらないと、クオリティが上がるわけがないんです。何かを創っているとき、色々な理由で「ここでいいや」という瞬間があると思うんです。締切日や、予算、自分も含めたメンバーの力量とか。いろんな理由を、ある種、“できない理由”として考えて、自分を納得させてしまう、というのは簡単なんです。でも突き抜けている人たちはそれをなかなかしない。それこそが、どの国でも一流と呼ばれる人たちがもつ明確な共通点です。

――すごい人たちは、ずっと面白さを追求し続けていると……。
塩川:
もちろん期限や予算などの物理的な限界はいつか来るんですけど、あきらめるポイントが良い意味ですごく遅いと思います。開発時間に対して、クオリティは順調に時間と比例して上がっていくわけではないんです。上がる時というのは、期限ギリギリの時に急に上がるんです。つまり、どれだけ長い期間頑張ってもたいしてクオリティは上がらない。でも、期限ギリギリの時は、全体の何十分の一ぐらいの時間で急に何倍にも上がるんですね。しかもその瞬間からさらに粘ればまた何倍も良くなっていくんです。それをやりきることができるか、やる覚悟があるのか。そしてそれが分かっているというのが、トップの人達を見て共通していると思った事です。

縦軸がクオリティ、横軸が開発期間。時間が経つにつれて右肩上がりになるのでなく、最後の最後でクオリティはグッと上がる。(塩川氏画)


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《タカロク》

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