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A-1 Pictures&Wright Flyer Studiosがタッグを組んで贈る『ららマジ』。そのオリジナル・サウンドトラック発売を記念して、メインシナリオ・西村悠氏&ノイジークローク・いとうけいすけ氏が、サントラに収録された全59曲を順に解説していく、「ライナーノーツ」をお届けします。
本稿では、Disc2収録分(30~59曲目)を掲載。サントラを聴きながらお楽しみください。ラストのボーナストラックは必聴です!
◆Disc 2
1.東奏の街・夕方
西村氏:
夕方はセンチメンタルな感情を引き起こすとよく聞きますが、この曲もそんな気がします。
日常系の楽曲は「これから楽しいことが起きそう!」というイメージを喚起させるものが多い気がするのですが、この曲は1日の満足感とか、家に帰ってゆっくりしよう、というイメージがより強くなっている気がしていました。
いとう氏:
Disc1の「東奏の街」を午前の音楽とすれば、これは午後の音楽という位置づけで作り始めたんですけど、なかなか上手い具合に午後のニュアンスを出せず、最終的には夕方の雰囲気で、さらには花火イベントという特別な場所までもらってしまった。そういう事情の曲です。
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2.解放戦・FIELD
西村氏:
神秘的で冷たく、物語の背後に秘められた歴史を語るのが似合うような雰囲気です。
敵か味方かも定かではない戦乙女に導かれて、チューナーは異界を訪れるのですが、その異界の雰囲気そのものといった感じです。
強力な敵に満ちた危険な場所、しかしそれだけではない秘密がこの場所にはある、というそんな印象を受けています。
いとう氏:
ついにコアドレスが実装されるぞ!ということで私も楽しみながら作った曲です。
どのように能力が解放されるか全く分かりませんでしたが、普段とは全く異なる世界に眠る未知の力、という想定でファンタジーRPG全開の音楽になっています。
3.解放戦・BATTLE
西村氏:
「解放戦・FIELD」をバトルステージ用にアレンジされた曲ですよね。
第二部からの楽曲は、同じ旋律をアレンジして、テーマを一貫させるという手法を取られることも
多くなっていますよね。
そのテーマ感がいつもストーリーの芯を捉えていて、曲を聴くたびに、このお話はこの曲を聴きながら制作したかった!となっていました。
いとう氏:
異世界バトル!
衣装をコアドレスに換装、というのはロボットアニメで考えれば主人公機がチェンジ!というくらいの衝撃と格好良さが必要なのかなと思い、ものすごくストレートに格好良さを追求してみました。
強敵の重圧よりもプレイヤーサイドの新たな力を求める前向きな欲求に寄せた曲です。
4.解放戦・BOSS
西村氏:
上記2曲とは打って変わって、いよいよ現れた脅威の壮大さを描いているような気がします。
まさしく「神話の怪物との戦い」という感じです。
女性の歌声とコーラスが重なって、対決しているようにも聞こえるのですが、これは意図されたものでしょうか?
またこのコーラス、何か歌詞があるようにも聴こえるのですが、ぜひとも内容を伺ってみたいです。
いとう氏:
新しい魔法の力を手に入れるためのボス戦闘曲であるならば、さながら大作RPGのラスボス戦を受け持つことが出来る神話の世界の神々と死闘を繰り広げるようなイメージのような、そういう懐の大きさが要るんじゃないかと思い作った曲です。
今後もしこれよりも大事な戦闘局面があれば当然これより激しい音楽を作らないといけませんね。
BGMにおけるインフレです。
ちなみに神々しさの演出として合唱が入っていますが、歌詞に意味はありません。
逆に歌詞に意味を込めてしまうとそれがストーリーなどとズレてしまった時が怖いなと思って敢えてそうしています。
5.南 さくらのテーマ
西村氏:
さくらの登場時に使用された曲、であると同時に、第一部のエンドロールでも使用された曲でもあります。
そのせいかどこか、満足感や達成感と共に、思い出を振り返るような雰囲気を感じていました。
結菜と出会うまでの過去を踏まえた、さくらの現在、という感じに捉えることもできるのかなと思います。
いとう氏:
「考え事をしている。活発に物事に取り組んでいる。ギャグじゃないけどコミカル音で」というオーダーを受けて作曲しました。とても難解なオーダーだと思います(笑)。
ギャグ系の曲でよく使いがちな音色でメロディを作ってみたんですけども、曲調がギャグじゃなければやっぱり音色から受けるイメージも変わりますね。
思考に耽る姿勢がアグレッシブな様を表現できればと思いました。
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6.眠りについて
西村氏:
優しく包み込んで、癒すようなイメージの曲ですよね。
希望をもたせて前に進ませるというより、現在の状態に安心感をもたらしてくれるというか。
結局、癒しというイメージには、前提条件として、傷ついているなにかが存在しており、そういう意味でタイトルの「眠り」というのは、ぴったりの言葉選びではないかと思います。
いとう氏:
オーダーの時点では明確に「夜の曲」という話でした。
作曲にエネルギーを注ぎすぎると聴き手が眠れる音楽にはならないので、こういうものは眠い時に作るに限ります。朦朧としながらピアノを弾いていました。
なんだかイベントの印象で今では「翼のテーマ」みたいになってませんか?
7.綾瀬 凜のテーマ
西村氏:
オルゴール調のメロディで壊れやすい、傷つきやすい雰囲気、繊細さを感じさせつつ、それを管楽器が受け止めて、その後、一緒に音を作っていく感じが、ふたりの凜が登場する、7幕のストーリーをそのまま表現しているような気がしています。
すごく凜にぴったりくるイメージです。ありがとうございます。
いとう氏:
7幕以降、追加BGMがどんどん投入されていきましたね。
ここからは世界観も今までのシナリオの流れもバッチリ把握していましたので、さっそくクラリネットに旋律を担当してもらいました(汎用性など考慮せず)。
凜は真面目なのでこの曲もとっても真面目に作られています。
一時転調もせず、借用和音も使わず和音転回もせず、必ず調性内の音のみで収まる規律正しい音楽です。
属和音で少しだけ逸脱した音を入れることで小さな抵抗を表したりもしています。
自己満足の世界だと思いますが作曲が凄く楽しかった記憶がありますね。
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8.lay a plot
西村氏:
作戦会議という雰囲気がありますよね。
落ち着いた場所で、これから激しく動く状況について思考を巡らせて、なるべくいい結果を導くために、推測を重ねたり、そこから対応を決めたりするようなニュアンスがあるように思います。
使いどころが多くありそうな曲ですね。
いとう氏:
日常曲バリエーションとして若干シリアス寄りなものを想定して作りました。
確かにリズムを多めに入れてしまったせいで作戦会議の印象があるのも分かります。
個人的にはちょっと使いにくいものを作ってしまったかな?と反省してたりします。
リズム抜きVer.でもあると、だいぶ印象が変わると思います。
9.夜宴の狂想曲
西村氏:
7幕の主に1場で使用された楽曲ですね。7幕、8幕、9幕の一部の楽曲には私も発注イメージの部分で関わらせていただいております。
怪盗と警察、イタリア、追いかけっこ、などのキーワードを出させていただきました。
いただいた楽曲はイメージぴったりで、まさしく7幕「マランドリーノ」のために作られた曲、という気がしています!
いとう氏:
「ヨーロッパ・タンゴ」とワードを頂き、夢世界の出来事なので本編の雰囲気を意識しなくてよいとも言われていたのでかなりのびのびと自由に作らせていただきました。
夢世界ならではの得体の知れない狂騒と滅茶苦茶な有様を余すところなく詰め込んでいます。
この7幕からだんだんと物語の内容が独特なものになっていって、私も次回ストーリーが待ち遠しい日々を送っていました。
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10.身をひそめる一行
西村氏:
一方こちらは、少しスローペースで、怪しげで、かつどこかユーモラス。こちらも7幕で使われています。
追いかけっこというよりはかくれんぼ中の、とぼけたコメディのイメージが浮かびます。
「しーっ!」というヒロインたちの言葉が聞こえてきそうな雰囲気ですよね。
いとう氏:
変な曲ですねこれは。
11.戦慄の背中
西村氏:
こちらは7幕2場の推理ノベルゲームっぽい展開の中で使用されています。
旋律部分の音が、どこか古き良きコンシューマ機を思わせます。
殺人事件の場面で使われているのですが、シナリオ上ではシリアスになりすぎないよう、かなりギャグっぽいやりとりに寄せており、その分、ミステリーっぽい雰囲気は、こちらの楽曲に助けていただいたなあ、という気持ちがあります。
いとう氏:
完全にオマージュですね。
ただメロディの音程を分かりやすく揺らしてみたりして、コメディとホラーをなんとか両立させられないかなと足掻いた形跡はあります。
殺人事件とはいえ軽妙なやり取りも多く、シナリオプレイ時には絶妙なマッチング感に驚いていました。
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12.荒ぶる館
西村氏:
こちらは7幕終盤で使用されています。
最終決戦へと向かう主人公たちの前に立ちふさがる凶悪ななにか。
夢世界のほとんどを掌握している呪いそのものを表しているように思います。
7幕は全体に劇中劇というか、劇場っぽさを意識して作られており、そういう意味でも、この格調高いホラー映画のような雰囲気は合っていたなと思っております。
いとう氏:
ここまでのBGMの流れから、どうやら7幕は全力で遊びにかかっていると思えたのでこの曲は全身全霊でゴシックホラーをやろうと決めて作っています。
そんなわけで7幕は壮大なギャグ回だと決めつけてプレイしていたところ、最後、凜の救いエピソードでは完全に心を掴まれましたね。
私の推し幕です(現在13幕まで配信中)。
13.伊藤 萌のテーマ
西村氏:
とてもかわいい曲で、萌のちんまい感じ、ちっちゃいもの、かわいいもの好きなところなどに焦点を当てていただいたのかなと思います。
声が小さく、ぼそぼそと喋るキャラなのですが、単純に根暗なキャラという記号を貼り付けられるのは避けたいと思っていたこともあり、萌のテーマが、このかわいらしい曲でよかったなと思っております。
いとう氏:
それですそれです。「ちんまい感」!
まずはキャラクターの外見的特徴を分かりやすく出すためにキラキラした音色で可愛らしい曲調で。
でもそれだけだときっと意外な傷が表面化して全然違った結果になってしまいそうだなと思って、対照的な太いシンセベースなんかが入ってます。
「本編を予想して作る」というなかなか他に類を見ないけどなんだか凄く楽しい。そんなお仕事になってます。
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14.出囃子
西村氏:
8幕のタイトル画面で、落語家が登場する際の出囃子を使いたいとお願いしておりました。
タイトルの入りで落語っぽさを出すことで、その直後に出てくる地獄の風景が「不気味」ではなく、落語の舞台のように感じられましたし、主人公たちが亡者になっている設定の無茶さもうまくカバーできたように思います。
いとう氏:
長い事このお仕事をしていますが「落語の出囃子を作って」というのは初めての経験でした。
落語のCDを聴いてみたりもしていました。ああ8幕は落語回なのか、と。
まさか西村さんは落語の台本も書かれるのだろうかとひたすら驚いていたのを覚えています。
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15.緊迫の瞬間(三味線)
西村氏:
和風の雰囲気で、かつ、聴き手の気持ちをとても盛り上げてくれています。
繰り返されることで耳に残る三味線のフレーズがとにかくかっこいい!
バトルを大いに盛り上げてくれる素敵な曲です。ありがとうございます!
いとう氏:
ここから運営さんによるBGM演出の新たな一手が登場しましたね。
同じ曲の三味線アレンジとオーケストラアレンジを鳴らし分けて臨場感を煽る手法でしたが、想像以上の効果を生み出していたと思います。
三味線ソロでの戦闘曲は音数的に少し寂しいかなとは思いましたが、萌回なら楽器編成の規模もちんまいものでもいいかな、ということでこういう形になりました。
プレイ時は戦闘中のキャラ会話による大喜利大会に釘付けでした。
16.緊迫の瞬間(オーケストラ)
西村氏:
8幕終盤で使用された楽曲です。
和風な雰囲気を残しつつ、8幕バトルステージの楽曲を見事にオーケストラ風味にアレンジしており、ディスコード戦に向かうにあたって、戦地に赴く者たちの勇壮さや激しい戦いをイメージさせてくれます。初めて聴いた際に「うわ、かっこいい!」と思わず呟いてしまったくらいの熱い曲です。
いとう氏:
同様にオーケストラの方は「三味線のフレーズを無理やりオーケストラに落とし込む」というのをかなり強引にねじ伏せる形で作っています。
出来る方はぜひ15曲目と16曲目を一緒に再生してみてください。
新しい発見があるかもです。
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