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約250サークルが参加した同イベントは、商業ゲーム市場の大きなトレンドの流れに左右されない個性豊かなゲームが多数見られました。関東圏外から出展したサークルもあり、出展者同士の交流も楽しみの一つのもよう。「Twitterのタイムラインで知った」「周りが盛り上がっていた」と、人づてに初めて参加する人もいて、周知の広がりを感じました。会場内を周った中で、個性の強さ、熱いゲーム愛を感じたサークルのゲームを紹介します。
『世界の半分を商人にやろう』/overload Games
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風刺ゲーム作家でもあるぷーすけさんが直近で制作した同作は、どちらも勇者を題材にしたRPG。しかし、魔王を倒す勇者の冒険という王道ではなく、現実にありそうな矛盾や疑問という視点から生まれた独特な世界観を持っています。
まず『世界の半分を商人にやろう』は、タイトルにもある通りに商人が主人公。魔王に支配された世界では、魔王が健在である限りは武器がバンバン売れますが、勇者が魔王を倒してしまうと売上が大幅にダウンしてしまいます。
例えば「破壊は創造の始まり」のシナリオに沿ってクリアするとすれば、勇者が魔王を倒すまでに80万Gで通常勝利、120万Gで完全勝利という条件。そこで、勇者が魔王を倒すまでにできる限り武器を売りさばいて儲ける必要があり、時には勇者の妨害もしつつ、効率的な商売をしていかねばなりません。勇者がある国を魔王から解放した時の売上げ減などはかなり打撃を受けるので、勇者といえども万人に歓迎されるわけじゃないのだと改めて気付かされます。
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また、最新作の『自営業勇者』では、フリーランスである勇者が5人のクライアントの依頼をこなしていくというもの。こちらも小さな仕事の成功を積み重ねて大きな案件を受注できるというリアルさ、クライアントの利益がほかのクライアントの不利益に繋がるなど、現実では起こりえそうなリアルが面白そうでした。どちらも公式サイトから体験版をダウンロードできるのでお試しあれ。
公式サイト
『幽霊少女室』/Meim
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口べたの少女・寺生稀が引っ越してきた白山荘には、幽霊の古崎ゆいかが住んでいた。なんとか追い出そうとするゆいか、見えないふりを決め込む稀のやりとりがギャグ調で楽しめるノベルゲームです。
最大の特徴は選択肢を選べるのですが、「ちょくちょく死ぬ」ということ。かなり死ぬので一見暗めに思えますが、可愛い絵のタッチにギャグ調のストーリーと合わせて明るい作品となっています。一つのルートをクリアするのにおよそ2時間かかる同作は、なんとシナリオからイラストまで上月ケイさんが一人で担当してわずか1ヶ月で完成させたそうです。
また、ブースには最新作の『Blood Note episode2-2』も頒布されており、復讐をテーマにしたシリアスなノベルゲームとなっています。こちらはシリーズ物で吸血鬼の少女がヒロイン。話を聞いたところ、上月さんは“人外もの”がかなり好きとのことでした。ゲーム制作の熱量がすごいので、今後が楽しみです。
公式サイト
『逃亡性痛み症候群』/Number-Animal
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同作はRPGですが、敵を倒すという真逆を行く“逃げたもん勝ち”。敵を攻撃して痛みで怯ませて逃げやすさを高めてから逃げるという流れで、逃げることでお金やアイテムなどを得ることができます。「戦いなんて逃げ出してしまえ!」「逃げたってクリアできる!」という画期的な展開に加え、誘拐犯の主人公を始め、ヒロインや仲間達はそれぞれ追われている立場という「逃げる」に徹したコンセプトが面白い。
劇中では両親や兄弟など血のつながりとは別に、魂が繋がった3人目の肉親がいると信じられており、主人公達は魂の兄弟として団結していきます。ひたすら逃げ続けた先に何が待っているのか、世界の謎も解き明かされていくのです。
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これまでも多くのフリーゲームを作ってきたという製作者のナムアニクラウドさんは、「変なゲームが大好き」とのこと。これからも変わった面白いゲームを作っていきたいとのことでした。
公式サイト
『君とかける夏』/Kinoene(きのえね)
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まだ製作中ながら大きなポテンシャルを感じた高校野球シミュレーションゲームである同作。代表の桜木大地さんによると、高校野球全国大会のデータを反映した商業作品は、2004年の『栄冠は君に2004』を最後に途切れてしまっているそうです。
そこで、2004年以降も続いた高校球児の熱い戦いなどのデータを更新したゲームを作ろうと発起したとのこと。高校名や選手名は全て架空となる予定ですが、可能な限り全国の4000校近い野球部の詳細データを打ち込んで、納得いくものにしたいと熱く語ってくれました。
視点をバックネット、三塁席側、監督の居るベンチと自由に切り替えられるのも野球ファンは嬉しいポイント。普段は仕事をしながらの製作なので恐らく完成は早くて2年後とのことだそうです。甲子園大会の名勝負などのデータがどう反映されるか気になります。
公式サイト
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熱量をそのまま形にしたようなゲーム愛溢れる作品を多く見られるのが同イベントの魅力。ゲーム好き同士が交流する貴重な場として、今後もより一層規模を大きくしていくのではないでしょうか。