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2019年5月16日(木)、株式会社よしもとゲームズは3本のスマートフォン用ゲームを発表しました(レポート記事はこちら)。同社がよしもとゲームスタジオの名でゲーム業界への参入を表明したのが2018年10月のこと。その7カ月前となる2018年3月には、芸能界初のe-Sportsプロチーム「よしもとゲーミング」が発足しています。一見すると「よしもとがゲーム業界に?」とクエスチョンマークが浮かびますが、何を思ってこの業界に参入し、そしてどう見ているのか? よしもとゲームズの代表取締役社長・斎藤祐士氏にお話をうかがいました。
◆休日は『ディビジョン2』三昧、思い出の一本は『ポリスノーツ』。ゲーム業界に20年以上身を置く斎藤氏の人となり
――本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは簡単な自己紹介をお願いできますか。
斎藤よしもとゲームズの代表取締役、斎藤祐士といいます。ゲーム業界歴は23年ほどになります。役職でいえば、これまでにプロジェクトマネージャーやプロデューサーという立場で、ゲーム制作の品質や進行の管理などを主に手掛けてきました。
――いきなり話題が逸れて恐縮ですが、お気に入りのゲームタイトルを挙げていただくならどの辺になりますか?
斎藤時代を問わず……ということでしたら、小島秀夫監督の『ポリスノーツ』には大きな衝撃を受けました! 世界観、キャラクター、シナリオ……どこを取っても深く心に刻み込まれたタイトルです。ここ最近は、ずっとPS4で『ディビジョン2』を遊んでいます! それと、まだ序盤ではありますが『SEKIRO』も少しずつ始めました。『ダークソウル』シリーズともども、フロム・ソフトウェアさんの作品も大好きなものでして。家に帰ったら、まずはPS4かニンテンドースイッチの電源を入れるところからスタートしますよ。
――いきなりの"ガチゲーマー"ぶりをうかがえて、失礼かもしれませんが、なんだか安心してしまいました。それではあらためて、そこまで長年ゲーム業界に身を置かれた方が吉本興業に入社された経緯からお聞かせください。
斎藤よしもとゲームスタジオの設立が2018年8月で、私が吉本興業にジョインしたのがその2カ月ほど前なのですが、その頃に大崎(吉本興業 代表取締役会長の大崎洋氏。崎の字は、正しくはたつざきとなります)と話をさせていただく機会に恵まれまして。その内容は、「ビデオゲーム事業を前向きに展開していきたいが、諸々のめぐりあわせがない」というものでした。
――ビデオゲーム業界はエンターテイメントの業界としては若いかもしれませんが、確かに今から新規参入するとなると、ハードルが高いように感じられます。斎藤氏がその申し出を受け、入社を決められた理由はどのようなものでしたか?
斎藤ひと言でいってしまえば、大崎の話に計り知れない可能性を感じたんです。今の(日本国内の)ゲーム業界は、新作をなかなか出しづらく、シリーズモノの続編が売れやすい傾向にあります。スマートフォンゲームはすでにレッドオーシャンという見方もありますし、リスクがあるということはわかっていました。
それでも、吉本興業という独自のブランド力を持ち、かつビデオゲーム業界と深い関わりを持たずに来たここからゲーム事業を展開することで、業界活性化に寄与できる部分があるのではないか、そしてそれが自分自身にとってもプラスになるのではないかと判断しました。
――とはいえ、いきなり子会社設立までいかずとも、新たな部署のひとつとして始めるという選択肢もあったのではないでしょうか。
斎藤企業内の一部署としよりは、企業単位で動いて法人同士のやりとりをしっかり表に打ち出していくことが、私たちの"本気度"が伝わりやすいかなと。
よしもとゲームスタジオは4月1日付けでよしもとゲームズに社名変更させていただきましたが、これも似たような理由で、弊社の存在や社名をより浸透させやすくするためなんです。現状では外部のデベロッパーさんとパートナーシップを組んでパブリッシングメインでゲームを展開していきますので、"スタジオ"という言葉が入っているとそれが伝わりづらいかもしれないなと。
◆モバイルだけでなくコンソールも視野に。"3本の柱"を軸にあらゆる可能性を模索
――5月16日の発表会では『くっきーの進化論』や『対決!よしもと大運動会』など、"お笑い芸人"という御社ならではのIPを用いたスマートフォンゲームが発表されました。今後はどういったゲームをリリースされていくのでしょうか。
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斎藤それに関しては、弊社は3本の軸を掲げています。
1.よしもとのIPを用いたゲームを制作する
2.よしもとのIPに限らないゲームを制作する
3.よしもとならではのゲームを制作する
というものです。
――それぞれに関してお話をうかがえますでしょうか。
斎藤「1」の「よしもとのIPを用いたゲームを制作する」というのは、今回発表させていただいたようなタイトルです。弊社が持つお笑い芸人などのIPを、ゲームという媒体にどう落とし込んでいくかが課題です。
「2」は逆に、それだけに縛られることなく、その時々のユーザーのニーズに合致するタイトルも制作するというものです。もしかしたら今後弊社から、よしもとのIPがまったく絡まないタイトルがリリースされることもあるかもしれません。そういう可能性を排除しない柔軟性は担保してあります。
「3」は、弊社ならではの取り組みや座組をうまくゲーム制作に活かすことができないか、というものです。これは大崎が常々言っていることなのですが、「芸人としてだけで食べていけるのは結局ごく一部だけ」なんですよ。だから、芸以外にもマルチな才能を持つ人がいたら、よしもとの中だけでそれを活かして生きていく仕組みの一つにできれば、という思いもあります。
――競合他社も多い中で、よしもとゲームズならではの独自色をそうした手段で出していかれるというわけですね。
斎藤とはいえ、先ほども述べたように国内モバイルゲーム市場はすでにレッドオーシャンだというのも承知しておりますし、そういう意味では「どうすれば他のゲームメーカーさんたちと対等に戦えるのか」というのはあまり考えていないんです。
それよりはまず、私たちが「タレントやお笑い芸人の名義貸し」のような軽い気持ちで参入しているわけではないということを、おもしろいゲームをリリースしていくことでみなさんに知ってもらうべきだと考えています。お笑い芸人やお笑いを好む方たちにゲームを届けるという意味では、私たちに一日の長があるだろうとも思いますし、そういったところからも仕掛けていきたいなと。
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――先ほど『くっきーの進化論』を少しだけ遊ばせていただきましたが、つい黙々と続けてしまうパズルゲームでした。
斎藤そうですね。「おおっ、これはおもしろい!」とのめり込むタイプのものより、まずはそういうカジュアルなものがよいだろうと。お笑いなどの公演を見に来ていただいたお客様に、座席での待ち時間にちょっと手に取ってもらえたらいいかなと。
――『くっきーの進化論』ではマネタイズはどのようになっているのでしょうか。
斎藤ゲーム中で表示される広告を見ていただいたり、クリックしていただくことで、収益を得る広告モデルになっています。これから先、要素の開放に若干の額をお支払いいただく事も想定はしておりますが、ガチャなどの類は予定していません。基本的に無料で遊んでいただけます。
――今後の方向性やビジョンはどのように考えておられますか?
斎藤まだ具体的にお話できることはないのですが、よしもとゲーミングとはシナジーを生まないといけないなと考えています。よしもとゲームズのタイトルでe-Sports展開し、そこによしもとゲーミングが参加する流れなどを先々作れたりするといいのかなと。
――プラットフォームはやはりスマートフォンでしょうか?
斎藤コンソール機やPC(Steam)も常に視野に入れています。もしかしたら、VRやMR対応でリリースすることもあるかもしれません。スマートフォンでしか展開しない、というのは今のところは考えていません。
――ゲーマーには、「2」の「よしもとのIPに限らないゲーム」が気になりそうですが、いつまでにリリースするというような見通しなどはありますか?
斎藤まだ確定しているわけではないですが、2年以内にはリリースしたいですね。よしもとゲームズ内だけで作る、というわけでなく、様々なゲームメーカーの皆様とコラボができれば、と思っています。
――もしかしたら今後、芸能人やお笑い芸人というIPに頼らないPS4のゲーム……などという、一見しただけでは御社の作品とは気づけないタイトルがリリースされることもあるかもしれないということですね。期待しています。
斎藤まずは、先ほどお話した「3本の軸」を活用したタイトルをリリースしていきます。まだフタを開けてみないとどうなるか分からないという側面もありますが、今はとにかくチャレンジしていくフェイズだとも捉えています。吉本興業としてもゲーム業界への参入に大きな可能性を感じていますので、中長期的な視野を持って、じっくりと取り組んでいきたいと思っています。
――ありがとうございました。
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