一方で、日本には武士道文化に基づいたゲームがあるように、中国には「武侠」と呼ばれる伝統文化に基づいたゲームがあるのをご存知でしょうか。
日本においても、2019年にはPC向け武侠RPG『八仙』がサービス開始しましたし、「東京ゲームショウ2019」では、中国大手ゲームメーカー「SEASUN(西山居)」が人気武侠ゲームアプリ『JX3:指先の江湖』を展示しており、武侠ゲームへの注目と関心も年々高まっています。
しかし、日本の武士道と同じように、予備知識がなければ楽しむことは難しいので、本稿では武侠とは何なのかをお伝えします。
(1)武侠とは?
平たく言うと、主人公が任侠道を貫くために中国武術を用いて戦う冒険活劇です。定義は曖昧なのですが、近世以前の時代を舞台に、派手でスピーディーなアクションが最大の見所。中国ではテレビで武侠ドラマが放送されてきたので、多くの中国人にとって最も身近なエンターテインメント作品です。また、日本においても武侠ドラマや映画は観られてきました。
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一大娯楽ジャンル「武侠」は、武侠小説から始まりました。その後、ドラマ、映画、コミック、ゲームとメディア展開されました。同ジャンルは中華圏では絶大な人気を得ているだけでなく、韓国や東南アジアにおいてもファンを獲得しています。武侠RPG『八仙』も日本に先立って、韓国で配信されました。
(2)武侠小説最大の作家・金庸の功績
武侠小説の起源は諸説ありますが、「武侠小説」と括られる作品が登場したのは清代から民国期に移行した1920年代から1940年代にかけて。武術による闘いや恋愛などの描写を描いた小説が大衆に好まれたのです。
しかし、第二次世界大戦や国民党と共産党の内戦期を迎え、武侠小説は一旦衰退してしまいます。再び武侠小説が書かれるようになったのは中華人民共和国が成立して以降で、「武侠小説の三大家」金庸、梁羽生、古龍の作品が登場しました。
ちなみに、いまだに「武侠小説の三大家」を超える作家は登場していないと言われており、それらの名作が中国で映像化されたわけです。中でも武侠小説最大の作家と呼ばれる金庸は、国民的な人気を誇りました。

金庸は1972年に断筆するまでに、15作品を発表。『天龍八部』『秘曲 笑傲江湖』『神ちょう剣侠』『鹿鼎記』に代表されるように、それまでのライト層向けの読み物とされていた武侠小説を、豊かな教養に基づいた文学作品の域までに引き揚げ、知識人にも支持される魅力的な作品を生み出しました。多くの作品がドラマ、映画、コミック、ゲーム化されており、今日の「武侠」ジャンルの盛況の土台を作ったと言えるのではないでしょうか。
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金庸の作品は何度もリメイク映像化されましたが、近年では映像美と演出に優れた『神ちょう剣侠』、『笑傲江湖 レジェンド・オブ・スウォーズマン』、などが更なる好評価を得ています。
(3)今後の注目ジャンルは「玄幻」
近年は80年~90年代生まれの作家によるインターネット小説が流行っています。海外の映画やドラマ、日本のアニメなどに影響を受けた彼らによって、「玄幻」と呼ばれる新しいジャンルが生み出されました。
これは中華の世界観に、中世ヨーロッパ作品のようなファンタジー要素を組み合わせたものです。ドラマや映画、コミック、ゲームなどメディア展開している作品もあり、今後も勢いが続くことが予想されます。
(4)思い出の武侠ゲーム『仙剣奇侠伝』
筆者が武侠ゲームにハマったきっかけは、台湾初のRPG『仙剣奇侠伝』(1999年セガサターン移植)です。現在もシリーズとして続いており、すでに6作目までが発表されています。
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第1作では、働かない若者の逍遥が、病気になったおばさんを救うため、仙薬を求めてある島に行きます。そこで出会った美少女・霊児と恋に落ちます。しかし、おばさんの下に一足先に戻った逍遥はとあることがきっかけで、霊児との出会いを忘れてしまうのです。
島が襲われ、一人かろうじて逃げ延びた霊児と再会した時も逍遥は覚えていません。しかし、ここから物語が大きく動き出すのでした。
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物語はとても切なく、逍遥と霊児の宿命の出会いが心に響きました。日本文化とは異なる価値観や武術演出は好みが分かれるかもしれません。しかし、霊児を始めとする中華系美女のヒロインたちの魅力は日本人にも響くはず。筆者も霊児の可愛さ、切なさに心奪われた一人でしたから。