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2020年6月30日に、1995年6月30日の初代発売から25周年を迎えたフライトシューティングゲーム『エースコンバット』シリーズ。今回は25周年記念ということで、現時点でもシリーズ開発に携わる主要スタッフを中心に、過去作の主要なタイトルを振り返る形でのインタビューをリモート形式で実施しました。
なお本記事はシステム的な都合のため前後編に分割しています。後編はXbox 360で発売された『6』から最新作の『7』までを含めた内容です。初代『エースコンバット』と『2』、『3』、『04』、『5』、『ZERO』、までのPS/PS2時代を振り返るインタビュー内容はこちらのリンクからどうぞ。
動画サイトやコラボ機体など大きく環境が変わり始めた『6』の時代―今こそ再評価しよう『エースコンバット アサルトホライゾン』
――(『エースコンバットZERO』の)一騎打ちの裏側には、そんな大変なエピソードがあったんですね。それでは『エースコンバット6』の話に移りたいと思います。『6』は、画面を埋め尽くすほどのミサイルの煙や美麗な戦闘機表現が目立ちました。PS2からXbox 360へと、HD機開発へ移行する時に開発していて大変だった思い出とかありますか?
菅野氏: 技術的な話になりますが、ミサイルの煙の表現がPS2の時に比べて凄く難しくなったというのは覚えています。DirectXは半透明処理に弱いんです。
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というかPS2の半透明系の処理って、今でもエンジニアの間でも語り草になるぐらいに凄すぎて、むしろDirectXの処理の方が普通。PS2の煙を超えるエンジニアの努力が結実したのが『6』の乱戦エフェクトでした。陰影の付いた立体的な煙にみせるため、半透明になっている部分を少しでも少なくしたりとか工夫していました。
河野氏: 『6』の煙は無限に煙を出せて「凄いなXbox 360」と思っていたけれど。
菅野氏: あれは「限界突破」ですよ。
――『エースコンバット6』の乱戦表現はとても良かったです。
菅野氏: コンセプトと表現力が合致した瞬間だったと思います。もちろん機体や背景を良くするべくアーティストやエンジニアも頑張っていたんですけれど、画面のなかで小さい敵が沢山いてもあんまり実感できない。そこでエフェクトを重要視したのは正解でした。
河野氏: 『6』で幕間も全てリアルタイムレンダリングになったんでしょ?
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菅野氏: そうですね。それまで幕間はムービーでしたが、キャラクターが出てくるシーンも全てリアルタイムになりました。それに対応するため、アーティストやエンジニアの規模がさらに大きく。ただ、河野さんも糸見もいなかったので、ほぼ若人が野に放たれた状態で(笑)、私も含めて右往左往しながら頑張っていました。
――ちなみに大きな物議を醸した『エースコンバット6』の『アイドルマスター』コラボ機体が誕生した経緯は覚えていますか?
菅野氏: Xbox 360のタイトルとして先行して発売された『アイドルマスター』が非常に人気で、「コラボレーション出来ないか?」というアイデアが出たのは当時のProject ACES側のはずですね。
河野氏: 戦闘機班の人が好きで持ち込んだんじゃなかったっけ?痛車も流行っていたし。
菅野氏: 痛車がちょうど流行り始めたときでしたね。昔から「メカと美少女は相性が良い」という鉄板の組み合わせだったんですけれど、そこに力を注げたのは当時の機体・メカ班のアーティストの情熱によるものでした。
キャラクターの好きな食べ物や服・色など全部把握したうえで『アイドルマスター』のチームに監修を出すんですけれど、「ダメ!」というのはほとんどなくて「こんなによく知ってくれてありがとう!」と良い返事をいただいていたのは覚えています。
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河野氏: 良くも悪くも盛り上がったよね。
菅野氏: たぶんエースコンバットファンの間で「フェニックスマーク」と同じように相当な物議を醸し出したんじゃないかと思います。
井本氏: オンライン対戦が入ったのも『6』からですよね。自分が購入してなくても対戦相手が使っているとアイマス機が見えるんですよね。
菅野氏: (アイマス機に対して)「なんでこんな物を出すんだ」という意見もありましたが、一方で一緒に編隊を組むという新しい遊びも生まれて……。
河野氏: 煙に色が付いてたし。
玉置氏: (ミサイル発射煙に色が付いていたことに対して)某入浴剤の名前がついていましたよね。
菅野氏: ある意味、航空機やミリタリーが持つ堅苦しい部分を突破した瞬間だったのもしれないなと思います。『エースコンバット』ファンだけでなく『アイドルマスター』のファンも興味を持ってくださいましたし、ニコニコ動画でもネタにされやすかったですね。
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玉置氏: MADいっぱいありましたね!
菅野氏: あのあたりでゲームを作って送り出すだけでなく、プライヤーも一緒になってゲームを作っている感覚になったのは凄く大きな成果でしたね。
玉置氏: あのときにオンライン対戦であそこまでぶっ飛んだ仕様がいっぱい入っていたし、その結果お客様がどういう反応をするのかわかっていたから、『インフィニティ』の仕様を組むときに結構参考になったというのがありますね。先人の偉大なテストだったというのはありますね。
河野氏: 先人の偉大なテスト…?
玉置氏: そうですよ。なかったらお客様の反応を想定できずにぼんやりした仕様でやっていたかもしれないので。
河野氏: 『インフィニティ』は最終的にゴジラまで出たしね。
玉置氏: 『アイマス』コラボの流れでいけると……!
――『6』では『X』に続いて開発者同士の公式対戦動画もありましたよね。
河野氏: あれ実は凄いコストがかかってたなあ。テロップまで付けていたもんね。ヤバイよね、今のYouTubeの走りだよね。あの当時ってプロジェクト制じゃなかったっけ?プロジェクトの裁量でゲームを作るみたいな。
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糸見氏: 『6』はそうかもしれない、ブランディングとか入った時期じゃないですか。
河野氏: 普通あんなに自由に動けないでしょ。
井本氏: そうですねナガセの公式ブログとかプロジェクト側でやっていましたもんね。
玉置氏: 『6』の時マイケル・ムレイさんが「これからエースコンバットを始める人へ」みたいなのをホームページで語っていましたよね。
――なるほど、ユーザー側からの制作したコンテンツが見え始めてきたのが『6』の時代でもあったのですね。続いて『エースコンバット アサルトホライゾン』の話に入っていきたいと思います。本作は「REBIRTH(リバース)」の名の下に「『エースコンバット』を大きく変える」という目標が掲げられましたが、この変化に対して企画始動時から開発内部の反応はどのようなものだったのでしょうか?
菅野氏: プロデューサーのほうで、シリーズの将来像を考えた時に「拡大再生産を続けていくのはどうなんだろう?」と言っていたのは確かでしたね。会社側からの「変えるべき」という要請が強い時期でもありました。(※補足: 河野氏は開発の途中から参加)
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やっぱり、戦闘機ものは俯瞰して見てみるとゲームとしてニッチであると思われてしまうので、会社の内部でも「『ドラゴンボール』が何百万本だ~」と言っているところからすると、「そこまで持ち上げるためにはどうすればいいのか?」という課題を開発側が受けていた時期だと思うのです。
また今までの『エースコンバット』を客観視していた時期でもありましたね。カットシーンが別の視点だったり、画面的に戦闘機の後方視点だけでちょっと代わり映えがしなかったり、今自分達が課題だと思っているところを「どうやったら解決できるんだろう?」と1個づつ分析して自分達なりの仮説を作っていったという時期でした。
糸見氏: カットシーンも作り方を全部変えてます。今まではプレイヤーではない第三者からの少し引いた視点で語られるナレーションベースの映像でしたが、(『アサルトホライゾン』は)完全主観で1カットの長回しなど、没入感を重視しています。今までやってないことをやろうと。
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河野氏: キャラクターもいっぱいいたし、主人公も変わるし。
菅野氏:(『アサルトホライゾン』脚本の)ジム・デフェリスさんとお会いしたのは河野さんでしたよね。
河野氏: そうそう。井本も(企画)当初からいたよね。
井本氏: 僕も最初からいましたね。DFM(ドッグファイトモード)が出来上がったのって河野さんが入ってきてからですかね。
糸見氏: あれね、根本になる仕様があったんですよ。
下元氏: (河野さんが)入る前ですよ、僕が入ったタイミングですね。井本さんが仕様を書いていて…。
井本氏: DFMは最初糸見さんが映像で「こんな絵を見せたい」と……。
糸見氏: 仕様書から「どうやって実現しよう?」という話になって、河野さんと僕が入った後ですけれど「1本の映像にしてみよう」とプレビズ映像を作りました。「これなら上手くいくかな」ところまで落とし込んでいて、基本的には製品の最終版に近い内容になっていたと思います。(※補足: 開発のイメージ映像はCEDEC 2011で発表されている)
井本氏: まずあの映像をインゲームで再現するところから話がスタートして、当時のプログラマーからは「こんなのゲーム上で再現出来るわけがない」と喧々諤々しながら形にしていきました。
河野氏: 今になってやっとわかる、会社側が言っていたこと。会社側も正しいと思うんです。菅野がさっき言っていたけれど「市場を広げてお客様を増やしてIPを育てる」ことをミッションとして命じたというのは。
その考えはよくわかるし、その先のバンダイナムコを思うと育って欲しい命題や会社の戦略があって……ただそこに対してプロジェクトがまだ戦略として理解できていなかった。
プロジェクトはプロジェクトで「そのためには変えなきゃいけない」という、「変える」手段が目的になっちゃって。やろうとしていることは「お客様を増やして市場を大きくする」ことで、会社として正しいのだけれど、あのときは俺らも若かったというか……「そうするためには何をすればいいの?」というのがまだ甘かったよね。変えることばかりが頭に向かっちゃっていた。
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井本氏: 変えちゃいけないところまで手をかけてしまった。
河野氏: かけちゃったよね。でも、あれはあれで良いゲームだったよね。最後すごく苦労して調整したし。
菅野氏: 映像的にも迫力はあって、質も高いし、あの感覚だけ味わいたい人もお客様でいましたね。
河野氏: 『アサルトホライゾン』支持派がいるからね。
菅野氏: ありがたいです。
玉置氏: 破壊表現は後に引き継がれていますもんね。あのときに研究されたものが。
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河野氏: 「『エースコンバット』シリーズを語ってください」と言われると、俺の場合ポジション的にシリーズ俯瞰でみて「『アサルトホライゾン』があったのでお客様や戦略を考えるターニングポイントだった」という喋り方になっちゃうんだけど、『アサルトホライゾン』を単体で見て「好きか嫌いか?」と聞かれたら、好きだしよく出来ていると思うんだよね。
菅野氏: あのライブ感っていうのは他のシリーズに無い魅力ですよね。自分の周りにきちんと動いている空間があって、実際にキャラクターが行動しているって錯覚する瞬間というのは、他のシリーズ作と比類するのがないものだなと。
河野氏: ヘリとか超楽しかったよね!歩兵がちゃんと見えるんだもん。
井本氏: 色々な機体カテゴリーがありましたからね。爆撃機とかありましたよね。
下元氏: ヘリのバレルロール……。
河野氏: あれは怒られたよね。
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下元氏: ちゃんと総合火力演習へ取材に行ったんですよ。地上班とプログラマーさんで。
河野氏: 1回転できるって?
下元氏: 性能的にはクルンと回れるって言っていました。
糸見氏: 回れますよ、実際に映像作るとき時に参考映像を見てました。
下元氏: 結果として結構批判されちゃいましたよね。実戦で使用するかはともかく、あんなに多用しないって(笑)
河野氏: 『アサルトホライゾン』で発明されたやつで、もったいないことになっているのは多いよね。
――井本さんにお聞きしたいのですが、先に途中まで話していた『アサルトホライゾン』のDFMは企画開始時から製品版に至るまでどんな変化がありましたか?
井本氏: まずは糸見さんが作ったイメージ映像をゲームの仕様としてどうやって再現しようとしたのかがスタートです。相当試行錯誤していたのは覚えていて、結論として、ベースは逃げる敵機の軌跡をプレイヤーが半自動で追いかける形になったんですけど、それをそのままやってしまうと自分で飛ばしている感じがなかったんですよね。
最初のプロトタイプがそんな感じでした。ただ引っ張られているだけで、画面的にはそれなりに映えても、自分で飛ばしている感じがなかったので、自分の操作入力と敵機の軌跡に追従する力をブレンドして調整しました。
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そのブレンド率を調整し「引っ張られつつ自分でも飛ばしている感覚が得られる」というような塩梅に定める方向で最終的に落ち着きました。そこから更に、DFMで仕掛ける位置関係や、敵をサークルの真ん中に収めるとダイレクトシュートを撃てるなど、ゲーム的にプレイヤーのテクニックによってより有利になるようなゲーム性を入れて最終的な形になりました。
河野氏: ダイレクトシュートあったね。あのとき仕様を考えるの大変だったなあ。
井本氏: 河野さんと話していて覚えているのが、「ひとつひとつのアクションにリスクとリターンが成立しているか?」ホワイトボードに書いてロジカルにやった記憶がありますね。
河野氏: 特殊兵装1個1個についても話したもんな。結論、あんな思いはもうしたくない(笑)
――DFM解除パッチが過去計画されていたみたいですが、内容的にはどんなものだったのでしょうか?
河野氏: あれは『アサルトホライゾン』が「凄く賛否両論があったからどうするか会議」があったんだよね。そこでDFM解除パッチを任意選択制で作ろうとコスト計算したらとんでもないことになった。パッチと呼んだけれど、パッチレベルじゃない1本のゲームを作るほど作り直しになる事がわかって止めました。
井本氏: レベルデザインの大部分を変えないといけないほどでしたね。
――DFM解除パッチは驚くべき規模になりそうだったから実際に開発されなかったんですね。ちなみに『アサルトホライゾン』1080p/60fps以上で動作するPC版も後に発売されましたが、「『エースコンバット』PC版を開発する」という議題が初めて挙がったタイトルは何だったのでしょうか?
河野氏: PC版を初めて作ろうとしたのは『アサルトホライゾン』だよね。
菅野氏: 『アサルトホライゾン』は先にPS3/Xbox 360版が発売されて、PC版はかなり後から話が挙がってましたよね。
河野氏: あれは海外事業部がPC版をやりたいって話から始まったと思う。
糸見氏: 海外は(当時も)結構PC版を出していましたね。
河野氏: それも会社の経営戦略の一つだったと思います。現場からPC版を出そうという話でなく、『エースコンバット』IPを広げようかという戦略の一環だった気がしますね。
――『アサルトホライゾン』PC版が国内で出なかったのも「マーケティングに直接関与していなかったから」なんですね。
河野氏: 直接関与していないからですね。
糸見氏: あの当時、海外では固定のプラットフォームよりPCユーザーが多くて、そちらの方で販売の活路を伸ばしていこうというのが多かった記憶があります(※補足: 『アサルトホライゾン』PC版はバンダイナムコアメリカとヨーロッパから発売)
井本氏: 海外の販売会社が海外のデベロッパーに移植を担当していただいて、ビジネスとして成立するからリリースしたって感じですね。
河野氏: 今の視点からみると思うところはあるよね。
菅野氏: 『エースコンバット7』PC版もかなり広がったことを考えると会社側の当時の意図がわかりますね。
河野氏: 本物のプロデューサーが誕生しているのって『インフィニティ』からぐらいから……それまでは全員クリエイターだよね。