本作では、「カットインアニメーション」と呼ばれるバトル中にテレビアニメのワンシーンのような演出がキャラクターの魅力を引き出し、バトルコンテンツを盛り上げています。しかし、ソーシャルゲームの開発体制とアニメの制作体制の親和性は高いものではなく、アニメの表現をゲームに組み込むことは容易ではありません。
9月2日~3日までオンライン上で開催された「CEDEC 2020」では、株式会社Cygamesのインタラクションデザイナーチームに所属する工藤瑛子氏が「『プリンセスコネクトRe:Dive』が目指した、アニメRPGとしてのゲーム演出制作事例 ~テレビアニメとゲーム演出、二つの制作手法を融合して生まれたカットインアニメーション~」のセッションを実施。
カットイン演出において、テレビアニメで利用される「手描きアニメーション」と、ゲームで利用される「パーツアニメーション」を融合し、ゲーム演出として最適化された高品質なアニメーションの制作手法を紹介しました。
カットインアニメは「2秒のキャラPV」
本作ではカットインアニメを「2秒のキャラPV」と捉えており、キャラクターの表情やしぐさをアニメの強みを活かして最大限に見せて、もっと好きになってもらうことを狙いとしています。
さらに、バトルの最中にもアニメが流れることでアニメRPGであることを強調でき、ストーリーアニメと連動した演出で世界観を繋げています。
『プリコネ』のカットインアニメは、パーツアニメで作られている
バトルはSDキャラクターが画面一杯に動き回り、「ユニオンバースト(必殺技)」発動時にカットイン演出が入ります。
当初のカットインアニメは、全て手描きアニメーションで制作していましたが、SDキャラクターの動きとテンポがズレてしまい、動きの滑らかさに違和感がありました。本作は気持ちの良いバトルのテンポが肝なので、前作(『プリンセスコネクト!』)のユニオンバーストが全てパーツアニメで動いていることに注目しました。
パーツアニメは描き分けたパーツを組み合わせて動かしており、SDキャラクターと同じ「Adobe Flash」で制作されていること、カットインが入ってもテンポ感が崩れない、手描きよりも少ない枚数で絵を動かせるなど、大きな利点がありました。
TVアニメの場合は、原画と原画の間に中割の絵が必要でしたが、パーツアニメであれば原画をパーツ分けしたものだけで済むので、必要枚数が少ないからこそ社内にアニメーターをアサインしたカットインアニメ制作特化チームを作ることができました。アニメ制作フローを外注しないで済んだことで、円滑な意思疎通とトライアンドエラーをしやすくなり、制作スピードとクオリティーが向上しました。これによって、毎月新しいキャラクターをリリースすることができるようになったのです。
ネネカの演出プランの場合
8月31日に実装された“チート”と言われるほどの強キャラクター・ネネカを例に制作工程を見ていきましょう。
まず、プランナーから提出された演出プランを元に、どんな色感・方向性にするのか、SDの演出とどう関連付けるのか、どこからどこまでをカットインで見せるのか、ユニオンバースト全体の共通イメージをすり合わせます。ネネカの場合は、ディレクターなどがフィードバックする内に「万華鏡」と演出テーマが膨らみました。
演出プランが決まったら、実際の完成形が想像しやすいビデオコンテで案出しをします。今回は、チート能力を感じさせるデジタル的なエフェクトやモチーフ、クリスタルからヒントを得た万華鏡のような演出、ラストカットがネネカのバストアップで終わるので次のSD演出への期待感が高まる点からC案が採用されました。
ここではSDにも両方に特徴的な演出を入れる、全体の流れをバトルの進行方向と同じにするなど、共通のイメージを確立することでユニオンバーストの世界観を固めることができるのです。
クオリティーの高いアニメを量産する
案が決定して原画からパーツアニメにする段階では、普通のアニメよりも使用枚数が少ないので、1枚ごとにブラッシュアップの時間を多く取ることができ、細部へのこだわりとスピードを両立できます。
監修においてはも、キャラクターに合った表情をしているか、デザインは間違っていないか、設定資料をもとにチェック。特に目はそれぞれ形が全く違い、ほんの数ミリのまぶたの深さ、目に入るハイライトまで気を使い、キャラクターらしさを損なわないように気をつけます。
この点も、原画枚数が少ないので1枚の絵に注力する時間が取れる、社内監修で意思疎通がしやすいため、キャラクターの魅力を崩さないでいられます。クオリティーを高く保ったまま、量産する体制があるのです。
モーションに愛を込める
原画からモーション制作する際は、「Adobe After Effects」を使用します。メッシュ機能が優秀で柔軟なアニメーション表現が可能であるのと、唯一外注する工程の撮影作業でも同じツールを使用するからです。
アニメーションは視線誘導を意識した作りで、アップや引きなどのカメラワークで動きを追加し、髪やマントなど揺れものの動きにも予備動作を加えて滑らかにします。顔や武器などの動きは見安くするように、小さな動作に止めます。
一方で、メインエフェクトはできるだけ手描きにこだわっています。そうすることで手描きアニメっぽさが増すからです。3フレームに1枚の割合で絵を描いており、軌跡が画面に長く留まるようにし、散らしやちぎれといった見栄えの良い表現を採用しています。
最後の撮影は基本的に外注ですが、色味や線画を綺麗に慣らして、映像感を増してリッチにすることを目的としています。また、逆光・フレアやモーショングラフィックなどの特殊な撮影をすることもあります。
新たな挑戦「SDとカットインアニメの融合」
本作では「プリンセスフォーム」と呼ばれる特別なユニオンバーストがあります。ここでは、「従来のカットシーンよりも豪華に!よりアニメらしく!」をコンセプトとした新しい挑戦をしました。
従来では、カットインアニメとSDは別々の制作なので、アプリ、動画、アプリといった形です。しかし、プリンセスフォームでは1本の動画にして、SDとカットインアニメを融合させて境界を無くしました。
さらに、背景要素も関わる大きなスケール感を感じさせ、画面を縦横無尽に動き回るカメラワークで演出を見せます。
制作工程は、コンテを元に同時進行でSDとカットインアニメを制作し、モーションをまとめ、エフェクトを描写し、撮影作業にてエフェクトを仕上げます。
従来のユニオンバーストと比べて尺が長くなるため、テンポ感を重視してカットチェンジを細かく調整します。また、エフェクト飛ばしでは、SDと分割していないため単純にカットインアニメだけを飛ばさず、キリの良い所から再生する形に。
課題もありましたが、今までにない規模感で従来よりも豪華で、SDとエフェクトも一体となった新しい演出の見せ方ができるカットインアニメになり、アニメとゲームが同じ演出であることで繋がりをより強調できました。
アニメRPGにこだわった本作は4月から中国でも配信されましたが、事前登録が650万を超え、リリース直後の中国App Storeダウンロードランキングでは1位にもランクインしました。プレイした中国のユーザーからも従来のソーシャルゲームと比べて「アニメ演出がすごい」との声が聞かれています。まさに、日本の持ち味を最大限に活かしたゲームといえるでしょう。
※UPDATE(2020/09/10 07:48):キャラクター名に誤りがあったため修正しました。