当時、Twitter上でも「安すぎ」や『ファイナルファンタジー16』『ハリーポッター』といった関連ワードがトレンド入り。筆者も早起きして配信画面とSNSにかじりつき、流れてくる情報の数々に目を輝かせた者の一人でした。
そして、いくつも飛び交うゲーム情報の中で筆者がとりわけ「感慨深いな」と思った新作タイトルがこちら。
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『Oddworld SOULSTORM(原題)』です。
『エイブ・ア・ゴーゴー』でおなじみのシリーズ最新作、と言えばピンとくる方もいるのではないでしょうか。1ヶ月前は表立って話題に上ることはなかった隠れた名作シリーズ。あのときの熱狂が落ち着いた今だからこそ、『エイブ』について本稿で語っていきたいと思います。
見た目とのギャップが激しい!?意外に可愛らしい主人公
まずはその成り立ちから説明します。1997年にOddworldシリーズとしてOddworld Inhabitantsが開発した1作目は、上述の通り日本では『エイブ・ア・ゴーゴー』というタイトルで発売となりました。
内容を一言で説明するならば、“仲間を助けながらステージを進んでいく横スクロール型パズルアクションゲーム”という一見王道なもの。しかし蓋を開けると、普通のゲームとは一味違うことに気がつくはず。
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貧相な肢体、異様に大きな目、ヘリウムガスを吸ったかのような甲高い声…。初見プレイヤーに大きなインパクトを与えるこの生物こそが、本作の主人公エイブです。
彼の口癖は「わかんない」。プレイヤーがコマンド設定されていない操作をしようとすると、カメラを見つめて「わかんない」と訴えてきます。この時点で普通じゃないぞ…。それ以外にも「ハロー」「まってて」といった愛嬌のある台詞が持ち味であり、見た目とのギャップがかなり激しいキャラクターなのです。
そんな愛嬌あるエイブは、栄養食品工場に奴隷として働かされているマドカン族のひとり。ある日彼は、支配者グラッコンたちがマドカン族のエキスを致死量まで吸い取るという目論見を偶然耳にします。実はエイブたちが作らされている栄養食品には知らず知らずのうちに自分たちのエキスが使われていたのです。グラッコンたちの"搾取"から逃れるため、エイブは仲間を救出しながら工場を脱走する、というのが本作のストーリー。
各フロアにはスリッグと呼ばれる敵が徘徊しており、奴らの目を盗んで次のフロアへ移動していくのが序盤の基本的な流れ。スリッグに気づかれてしまうと無慈悲に銃殺されます。慎重に行動しましょう。電流やら地雷トラップも仕掛けられているので、全体的に難易度が高いゲームとなっております。
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行く先々では何の事情も知らない他のマドカン族が働かされているので、エイブの持つ超能力"チャント"を使用し、仲間たちを安全な場所へテレポートさせましょう。どれだけ多くの仲間を救ったかによって辿るエンディングが変わるのです。ハッピーエンドを見たいのなら、目指せ全員救出!
"チャント"の使い方は他にも様々。たとえばスリッグに憑依したり、内部から体を破裂させたりといった攻撃手段として用いることも。これが結構グロい。字面からして物騒ですね。なんだ「内部から体を破裂させる」って…。グロテスクな表現が随所に散りばめられているため、人を選ぶ作品でもあることはたしか。
その一癖も二癖もある世界観に、子供時代の筆者も「いったいなんなのだこれは」と毎回戸惑いながらプレイしていました。
日本でも愛好家が多い、隠れた名作
筆者がはじめて『エイブ』の世界を知ったのは、「HYPERプレイステーションRe-mix」というゲーム雑誌に付属されていた体験版がきっかけでした。この体験版ディスクには他にも『ブシドーブレード弐』や『最終電車』といったタイトルが収録されていたのですが、『エイブ・ア・ゴーゴー』はそれらの中でも群を抜いて異質な存在感を放っていたのを覚えています。
海外産の見慣れないキャラクターデザイン、映画さながらのCG、刺激的なグロ表現ーー横スクロールゲームにおいては『ロックマン』や『星のカービィ』に慣れ親しんでいた少年時代の筆者にとって、まさに未知との遭遇でした。何度も“死に覚えながら”夢中でステージの攻略に挑んだものです。
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しかしあまりにも奇妙すぎる世界観ゆえか、本作『エイブ・ア・ゴーゴー』とその二年後に発売された続編『エイブ’99(原題:Oddworld: Abe's Exoddus)』は日本での売上が振るわず、その後国内で新作が発表されることはありませんでした。こうして一部のカルトファンに愛された本シリーズは、ひっそりとゲームの歴史の中に埋もれていったのです。
が、ネットの普及とともにマイナーゲームが掘り起こされることはよくある話。それは『エイブ・ア・ゴーゴー』も同じでした。
2009年頃からゲーム実況界隈で本シリーズの動画が活発的に上がりはじめると、若い視聴者の間でエイブの知名度はじわじわと上昇。昔訳も分からずに遊んでいた方や、仲間を全員救出するまでやりこんでいたガチ勢の方もその懐かしさに引き寄せられる運びとなりました。
まるでそれが起爆剤(?)になったかのごとく、2013年にゲームアーカイブスが決定し.、2015年にはPS4にて初代のリメイク作『Oddworld: New 'n' Tasty』が日本語翻訳されて登場。スマートフォンアプリとしても移植されるなど、日本で停滞していた『エイブ』が動きを見せ始めました。
そして2020年、最新作となる『Oddworld SOULSTORM(原題)』の映像トレーラーが、多くの日本人が見ている発表会で配信されたのです。
願わくば、あの「わかんない」をもう一度聞きたい!
PS5版エイブは、2作目である『エイブ’99』のリブート作品という位置付けでありながらも、クラフト要素の追加やインタラクティブ性の向上がなされ、より現代的なブラッシュアップが施された作品になっているとのことです。
ちなみに『エイブ’99』のストーリーは、自分たちマドカン族の死者の骨がビール原料の1つにされていると知らされたエイブが、それを阻止するために仲間たちを引き連れて現地へと乗り込むというもの。前作の規模をはるかに超える300人ものマドカン族がグラッコンの奴隷として働かされているため(前作は99人)、彼らを全員救出することもグッドエンディングへの道のりでした。
本作はそのストーリーがより一層と重厚なものに変更されているらしく、どんどん期待が膨らんでしまいますね。昔ながらのファンとしては、あのエイブを最新ハード機で操作できるだけで「感慨深い」のではないでしょうか。PS4/PCでも対応予定のため、今倍率がとんでもないことになっているPS5の抽選争いに敗れたとしても遊べる可能性があります!
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晴れ舞台となったPS5発表会から一ヶ月。あの日、ほとんどの人が「なんだこのゲーム?」と首をかしげた裏側で、一部のファンが熱視線を送っていた『エイブ』。正確な発売日や、そもそも日本語版が出るのかはまだ「わかんない」ですが、今はただ、あの奇妙な世界に入り込める日をわくわくして待つことにしましょう!