世の中に不安が広がると宗教や占い、迷信などのスピリチュアルな方面が盛んになります。サイバーパンクはSFではあるものの、人間の有り様の根幹を揺るがす世界観なので、精神世界へのアプローチととても相性がいいのです。古事記にもそう書かれています。今回は『サイバーパンク2077』の世界にも関わるスピリチュアルの領域について特集します。
練習問題の解答
2、「ブレードランナー」:フィリップ・K・ディック(小説「電気羊はアンドロイドの夢を見るか?」)
3、「攻殻機動隊」:士郎正宗
4、「ニンジャスレイヤー」:ブラッドレー・ボンド/フィリップ・N・モーゼズ
人間とはいかなるものか―英語に見る魂の有り様
本作は一通りプレイしてみるとかなりスピリチュアルな領域についての物語で、生と死に関する禅問答のような会話が続きます。テクノロジーによって生死の概念が揺るがされるなか、人生はどういうものであるべきか主人公は否応なしに考えさせられます。
その中で大きな問題となるのが、チップに保存されていたジョニー・シルヴァーハンドの存在です。ジョニー本人と同一の存在なのか?体を乗っ取れば復活したことになるのか?それは魂と呼べるものなのか?現代でも簡単に結論づけられない事象にプレイヤーは付き合わされることになります。英語にも魂や精神を表すいくつかの言葉があり、それぞれに意味合いやニュアンスの違いがあります。ここでは代表的なものを見ていきましょう。
Soul
個の存在の根源としてある「魂」で、「Body」(肉体)に宿ることで現世での命が保たれるもの。肉体や記憶が失われても滅びたり消えたりしない、存在の本質と言える永久不滅のものとされています。「Soulful」というと、心や感情よりももっと奥深くもの、つまり自分の命や存在そのものに響くもの、という感じですね。
Spirit
人間の意思や気力など、主に精神的な活動を表します。"Frontier Spirit"など何かしらの理念、夢、倫理といった、信念や直感に従ったものを指すことが多いようです。「Soul」との大きな違いは、発した人物以外にも広がっていくことで、当人の死後も“~’s Spirit”として引き継がれていきます。
Mind
論理的思考や理性的なものを指します。知識や経験から考えを導き出し、直感的な「Spirit」に対して客観的な冷静さをもたらします。年齢を重ねて成長する精神、また脳の活動によるものはこちらの「Mind」に含まれるようです。
Heart
喜びや怒りなどの感情を指します。古代ギリシャより感情は心臓から発するものという考え方があり、「Mind」を司る脳とは分けて考えられることが多いです。感情によって最も反応する部位であり、「心」がどこにあるかを考えるときに最もわかりやすいのが心臓です。ですから感情と臓器が同じ「Heart」で表されるのは当然と言えます。
『サイバーパンク2077』では人格をコピーして移植する「Relic」が物語を大きく動かしていきます。その中に収められているのは果たして何者なのでしょうか……。
アフターライフで何を望む?様々な死生観
常に死と隣り合わせの傭兵は、時に自分の生きる意味について考えます。主人公「V」と相棒のジャッキーは「大物」「メジャー」「レジェンド」と、何かしら自分の名前を残したいと口にし、生き急ぐように危険な仕事に挑みました。
命を落としたジャッキーはメキシコ式の葬儀で弔われます。オフレンダという祭壇に写真を飾り、供え物をしながら身内で思い出を語り合うものです。中南米はカトリックと先住民本来の信仰が混ざり合った独特の宗教観を持っています。
Vの部屋やミスティの部屋にドクロが飾ってありますが、これはメキシコに由来するもので、家族や知人の頭骨を身近に保管しておくのが古くの習わしでした。そして日本の「盆」と同じく故人の魂が現世に戻ってくる「死者の日」には、オフレンダにそのドクロを飾りました。骸を手元に置いておくことで、メキシコにおいて死は日常のすぐ側にあるものという考えが根付いています。ですからあまり嘆き悲しむことはせず、さっぱりと明るく弔うのが普通なのです。
キリスト教では死後に天国か地獄に行くものと一般的に知られていますが、実はこの認識は聖書本来の解釈とは異なっています。信者が天国に迎えられるのはそのままですが、そうでない死者が行くのは、普通イメージする「地獄(ゲヘナ)」ではなく、それとは別の「陰府(ハデス)」という場所。最後の審判の時まで死者の魂はハデスに留め置かれます。そのため、今のところあの地獄には人間は一人もいない状態です。
そしていよいよ最後の審判の日に、ハデスに留め置かれた人間が一度甦り、天国行きか、本当の地獄行きを決める裁定が為されるです。このとき重要なのは「現世での肉体が保存されている」ことで、キリスト教はそのために土葬をしています。もし火葬で肉体がなくなっていたら、このときの復活が出来なくなってしまうのです。ただし最近では土地や病原の問題もあって、1963年のバチカン公会議で火葬もある程度許容されるようになりました。フランスではすでに半数以上が火葬されているようです。
仏教では生きることそのものが苦しみを生む根本とされています。ものを手に入れたい、生き続けたいという「欲」や死への怖れで永遠に悩み続けることになるのです。死んだとしても、また次の生を受けて苦しみ続ける「輪廻」から抜け出せません。苦しみのない浄土へ行くためには、欲や執着を全て捨て去った無我の境地に至る、あるいは念仏を唱えて如来の救いを待つなど、宗派によって様々ありますが、いずれにしても手に入れたものや成し遂げた名声は一切残りません。そう考えると少し寂しい気もしますね。
今週のキーフレーズ:The world is a fine place and worth the fighting for and I hate very much to leave it.
この世界はいいところだ。戦うに値するし、去りたくないとさえ思う。
ジャッキーの愛読書、ヘミングウェイ「誰がために鐘は鳴る」より。葬式の場面で読み上げられる一節は最後の仕事を彷彿とさせます。タイトルの「Whom the bell tolls」はジョン・ダン「瞑想録第17」からの引用です。
I am involved in mankind, and therefore never send to know for whom the bell tolls; it tolls for thee.
遠くの国で見知らぬ誰かが死んだなら、人類は皆兄姉なのだから、「誰のために弔いの鐘が鳴るのか」と問うてはならない。それはあなた自身に向けて鳴らされているのだ。つまり、見知らぬ誰かであっても他人事とせず、家族のように心を痛めるべきだ、ということです。ヘミングウェイの小説では、アメリカ人の主人公がスペイン内戦の義勇軍として戦場に赴きます。地球の裏側の出来事でも放っておくことは出来ない、そんな主人公の心情を表しています。
覚えておきたいスペイン語
- Chico/Niño:男子
- Chica/Niña:女子
- Mijo/Mija:息子/娘
- Padre:父
- Salud:乾杯
- Nuestro casa:我が家
- Gracias:ありがとう
- Ahí Te Veo:また後で
- No te preocupes:大丈夫
- Hasta la vista, baby:地獄で会おうぜ、ベイビー
練習問題
「テセウスの船」についてサイバネティクスの観点から簡潔に説明しなさい。
人体改造の問題において「テセウスの船」は重要なキーワードとして頻出します。この手のSF好きなら一度は考えたことのあるトピックなので難なくこなせるでしょう。