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Valve Corporationが手掛けるオールインワン携帯型ゲーミングPC「Steam Deck」。欧米のみでリリースされていましたが、ついに日本国内向けの予約が開始となります。
今回、Game*Spark編集部は何とアメリカのワシントン州ベルビューにあるValve Corporation本社に招かれ、Steam Deckの開発者と対面でのインタビューを敢行。
本稿では、Steam Deckに関する開発秘話から実際に遊ぶ際のオススメの設定、さらに今後の展開まで飛び出したインタビュー内容をお届けします。そこにはValveの並々ならぬ自信が見え隠れしていました。
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今回インタビューに答えてくれたのはエンジニアのPierre-Loup Griffais氏(写真右)とデザイナーのJay Shaw氏(写真左)。お二方ともこちらの質問に対し非常に真摯に回答してくれました。
ーーまず、Steam Deckのコンセプトをお聞かせ下さい。
Griffais氏:Steam Deckの構想自体は10年前から考えていました。またSteam Deckの目標としてはPCプラットフォームの拡大を狙っています。その為に今までValveではSteamOS、Steamコントローラ、Steamマシンなど開発しており、集大成として作ったものがSteam Deckとなります。
10年前はまだPCハードウェアの面が未成熟だったので、SteamコントローラーやSteamマシンを制作しましたが、PCハードウェアの制作面が成熟してきたので今度はポータブルハードウェアを自社で開発することを目指しました。Stream Deck自体の開発に着手したのは4年程前からとなります。
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ーー開発は4年前から開始されたとのことですが、その間にコロナの影響や半導体の供給不足など世界的に大きな問題が発生したと思います。それによって開発に影響はありましたか。
Griffais氏:多少の遅延はありました。当初の計画では2021年の12月に販売を開始する予定でしたが、今の時期の発売になってしまっています。ですが概ね計画通りに進行したと思っています。
Jay氏:ローンチ時に用意しようとしていた台数より少なくなってしまったのも事実です。ですが現在は生産ペースが上がり、当初の生産予定台数に追いついてきています。
ーーSteam DeckはなぜAMDのAPUを採用したのでしょうか。
Griffais氏:一番最初の段階ではプロトタイプとして色んなチップを検討しました。その結果、パフォーマンスと電力のバランスが取れていたのがAMDのAPUだったので採用しました。
ーーSteam DeckのOSであるSteamOSはLinuxベースですが、どのようにWindows向けのゲームを動かしているのか、その仕組みについて詳しく聞かせてください。
Griffais氏:エミュレーションしているわけではなく、Steam DeckのOSの上にProtonというレイヤーを追加して動かしています。ProtonはWineの派生アプリで、Windows向けのアプリを他OSでもネイティブに起動出来るソフトウェアです。それをSteamOSとゲームアプリの間に挟むことで、Steam Deck上で問題無くゲームを動かしています。
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ーー「Deckで快適に動作」タイトルの基準や、最適化のためにゲームデベロッパーとはどのようなやりとりをしているのでしょうか。
Jay氏:まず前提として、デベロッパーが特に何か作業をしなくともSteam Deckで快適に動作出来る状態になっていることが理想です。
快適に動作するかの基準としては、Steam Deckのコントローラーの操作がスムーズに行えること、Steam Deckでしっかりとパフォーマンスが出ているかどうかです。
さらにゲーム独自のランチャーが正しく起動するか、テキストがしっかり読めるかも基準の1つになります。他にも最低限の審査基準はありますが、デベロッパーが特別な対応をする必要が無いことが大きな基準指針です。その点をクリアしていれば、後はデベロッパー自身に対応をお任せします。
審査はSteam Deck用の審査ツールがあり、それを用いて審査を行います。そこで問題が発生した場合はデベロッパーとValve社でやり取りを行い問題を解決していきます。
Griffais氏:問題の解決といってもSteam Deckの為だけの修正は求めません。基本的にソフトウェアなどに問題があるわけではないので、全てのPCゲームプレイヤーがより良い体験を行える形で修正されることを望んでいます。また、FPSが30以上出ることも基準の1つになっています。
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ーー Valveのハード展開で思い起こされるのはSteamコントローラですが、SteamコントローラのノウハウはSteam Deckにどのように活かされているでしょうか。そして今の時点でSteamコントローラを総括するとValveとしてはどういう評価になるでしょうか。
Griffais氏:Steamコントローラというハードウェアを制作した経験がSteam Deck制作の礎になっています。この経験があってこそ、携帯デバイスでハイパフォーマンスなPCゲームを動かすことが出来るハードウェアの開発が可能になりました。
従来、マウスを使うようなゲームはPCとモニターの前で遊ぶ必要がありましたが、そういったゲームがテレビで遊べるようになったというのは1つのポイントになったと考えています。
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ーーSteamコントローラはアナログスティックを排除していますが、Steam Deckではアナログスティックが採用されています。これはSteamコントローラのユーザーからアナログスティックを搭載して欲しいという要望があったのでしょうか?
Griffais氏:Steamコントローラを使用しているユーザーからその様な要望はありませんでした。Steam Deckはそもそものコンセプトとして全てのPCゲームを遊べるコンソールマシンとPCゲームマシンの両方を兼ね備えたものとして開発しているので、アナログスティックを搭載しています。
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ーーSteam Deckは3種のストレージバージョンがラインナップされています。その中でも64GBのものを買ったユーザーほどmicroSDカードの購入が必須になってくると思います。Steam Deckはどの種類のmicroSDカードが最適なのでしょうか。
Griffais氏:SDカード自体の読み込み速度の制限はありますが、現在市販されているSDカードは全てSteam Deckで使えるかテストしており、どれも問題無く使用できることを確認しています。
ーーSteam Deckはアメリカなどではすでに発売されていますが、購入したユーザーからはどの様な評価を受けていますか。
Griffais氏:現状は良い感触の意見を多くもらっています。ただSteam Deckはこれで完成ではなく、これからさらに多数のフィードバックを貰って改善し続けていきます。
Jay氏:現在は、(アジアなどの)地域特有の問題も見えていない状態です。その様な問題も発覚すれば当然対応していきたいと考えています。とにかく改善し続けていきますので、ユーザーからのフィードバックを頂きたいです。
ーーSteam Deckの日本展開にはどのくらいの勝算がありますか。また、どのようなユーザーに購入してもらいたいと考えていますか。
Griffais氏:日本ではPCゲームをプレイする人が現状そこまで多くありません。その様なPCゲームに興味はあるけど、プレイしたことが無いという人に是非試して欲しいですね。Steam Deckはその様な人にこそ非常にマッチしていると思うので、PCゲーム未経験者を取り込むことが成功に結びつくと考えています。
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ーー今後Steam Deckは、例えば iPhoneのようにハードウェアの更新はあるのでしょうか。それともソフトウェアの作り込みとゲームデベロッパーとの連携を深めていき、マシンスペックに依らない一つのハードで何年も戦うニンテンドースイッチのような事業展開を考えているのでしょうか。
Jay氏:今日の段階でははっきりとした回答は出来ませんが、色んな可能性を模索していきたいと思います。
ーー今後Steam Deck以外のコンソールハード展開の予定は無いでしょうか。
Griffais氏:今後も色んなゲームが遊べるようなコンソールハードなどもまた開発していく予定はあります。
ーーSteam DeceはFSRなどのAMDの技術に今後対応していく予定はありますか。
Griffais氏:FSRについてはすでに対応しはじめています。それ以外の技術についてもシステム的にサポートしていく予定です。
ーー実際にSteam Deckを使用した感想なのですが、バッテリーの消費が非常に早く、長時間のプレイがし辛い印象を受けました。バッテリーの持ちが良くなるような設定があれば教えてください。
Jay氏:ゲームタイトルによってバッテリーの減りは違うのですが、ユーザー間ではリフレッシュレートを調節することでバッテリーの持ちを良くすることが共有されています。例としてリフレッシュレートとfpsを両方とも40にすることなどです。
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ーーモニターの明度を下げることもバッテリーの持ちを良くすることに有効でしょうか。
Griffais氏:有効です。最大明度と最小明度では消費電力に1W程度の差があります。
ここで2人の予定時間が終了。残りの質問は別の担当者に訊きくことになりました。
Steam DeckはSteamの全ての機能を実装させたい
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続いてインタビューを受けてくれたのは、プログラマーのTom Bui氏(写真右)とデザイナーのLawrence Yang氏(写真左)。
こちらのお二方も気さくにインタビューに答えて頂き、終始和気あいあいとした雰囲気で進行していきました。
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ーー早速ですが、十字キーやボタンなど自分で交換できるアタッチメントの展開は考えているのでしょうか。
Tom氏:まず追加アタッチメントとしてドッグを販売予定です。また修理パーツとして各ボタンの交換パーツも用意しています。またサードパーティ製のアタッチメントも現在開発中と聞いています。
ーードッグの発売日は今年春と宣伝されていましたが、実際の販売はいつから開始になりますか。
Tom氏:そう遠くない時期に販売予定で、少なくとも年内には発売されます。日本でもアメリカの発売時期とは少々ズレる可能性はありますが、日本でのSteam Deckの販売をサポートして下さっているKOMODO社を通して販売する予定です。
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ーー今後Steam Deckに特化したゲームソフト、もしくは専用タイトルなどの予定はありますか。
Tom氏:その様なタイトルはユーザーの利益にならないので考えていません。Steam DeckはPCなので、PCゲームを遊ぶユーザーが楽しめるように作っていきたいと考えています。専用タイトルはPCゲームの強みを奪ってしまうので制作しないと思います。
ーー実際に触ってみてSteam Deckはコンソール機に近いと思ったのですが、ValveとしてはあくまでゲーミングPCとして考えているということでしょうか。
Tom氏:必ずしもそういうわけではありません。バランスの問題ですね。コンソール機の様にユーザーが何か設定しなくともすぐにゲームを遊べるような設定にしていますし、それと同時にPCの様に使うことも出来る設計にしています。
ーー現在日本は円安傾向のためiPhoneなどの製品が大幅に値上げされましたが、Steam Deckに関しても日本上陸時において値上げなどは検討されていますか。
Tom氏:KOMODO社と相談しつつにはなりますが、なるべくアメリカでの販売価格に近い価格帯で提供したいと考えています。
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ーーこのゲームをぜひSteam Deckで体験してほしいタイトルがあれば教えてください。
Tom氏:私はやはり『ELDEN RING』です。
Yang氏:Steam DeckをTVに繋いで子供と一緒に『Teenage Mutant Ninja Turtles: Shredder's Revenge』で遊んでいます。5人とか多人数で遊べるんですよ。Steamには3万以上のタイトルが存在しているので、自分の好きなタイトルで遊んでみてください。
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ーーValve製のタイトルでSteam Deckで遊ぶと体験が変わるというタイトルはありますか。
Tom氏:ある程度はどのタイトルであっても動くことは確認していますが、完璧に動作するものは今のところ少ないです。ただ『CS:GO』と『Dota2』に関してはかなり時間をかけて調整しています。
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ーーずばり、Steam Deckの未来の展望図と最終的な目標を教えてください。
Tom氏:数字的な具体例は出せませんが、とにかくユーザーの需要に応えていきたいと思っています。Steam Deckは私達が自信を持って世に出しているものなので、日本の皆様にも喜んで貰えると期待しています。
またこれが最後というわけではなく、これからもソフトウェア・ハードウェア両方ともずっと改善を続けていくので最終的な目標というものは現状ありません。ただ、PC版で実装されたSteamの機能はSteam Deckでも随時使用出来るようにアップデートしていく予定です。例としてWorkShopで導入したMODはSteam Deckでも動作できるようになっています。
ーーなるほど。Steam Deckの今後の展開に期待しています。本日はありがとうございました。
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今回、4名の開発者にインタビューを実施しましたが、全ての人が共通して口にしていたことはSteam DeckはValveが長年温め続けてきたものの集大成であるということ。そして確かな自信が言葉の数々から伝わってきました。実際に筆者もSteam Deckを触ってみましたが、PCゲームをプレイしたことが無い層にとって革命的なハードになっていることは間違いないと感じています。
そんなSteam Deckは日本でも予約受付となります。Valve社10年の叡智を感じたい人は勿論、PCゲームに興味があったけどゲーミングPCが無くて手を出せないでいた人はぜひ予約して、新たなゲーム体験の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
¥6,100
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)