8月11日から15日にかけて東京都渋谷区「note place」で開催されたチャリティRTAイベント「RTA in Japan Summer 2022」。その閉会の挨拶の中で、同イベントがチャリティイベントである理由について、主催のもか氏は以下のように語りました。
「GDQが出来る前までは、マリオを早くクリアできても何にもならなかった世界だった。ただ、GDQが出来てからは、マリオを早くクリアすれば人を救える、という価値観を生み出すことができた」(中略)この価値観を持ち込みたいと思ったのが、「RTA in Japan」がチャリティイベントであることの理由です。
GDQとは「Games Done Quick」の略で、「RTA in Japan」が発足にあたり参考にしたアメリカのスピードランイベントです。本記事では、日本に本格的にGDQの価値観を持ち込んだ「RTA in Japan」の運営メンバーの中から、今回走者としても出場した4人のメンバーと、主催のもか氏に、約2年半振りの東京開催を終えての感想や今後の展望を中心に話を聞きました。
「RTA in Japan」主催、もか氏インタビュー
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──2年半振りの東京開催を無事終えての感想はいかがですか?
もか:やはり現地はすごく良いですね。「RTA in Japan」はGDQを目標に始めたものですが、そもそもGDQがどのような起こりだったのかと言えば、会場で走者達が集まるオフ会のような感じで発足したものなんですよ。皆が一斉に観戦するわけではなく、リフレッシュスペースやゲームを遊ぶだけの場所があったりとか。今回オフラインで開催したことによって、以前のRTAイベントが持っていた「交流の場」をふたたび提供できたのは良いことでした。あとは、拍手の音が配信に乗ると良いなというのは、改めて思いましたね。
──今回は『地球防衛軍5』に始まり『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』で終わるというスケジュールでした。スケジュールの決め方について教えてください。
RTA in Japan Summer 2022 - Horaro
もか:実は「走者が参加可能な時間帯」が最も考慮される点です。視聴者からすると意外なことかもしれませんが……。
──専用サイト「Oengus」上で、参加可能な時間帯を応募段階で予め入力するんですよね。
もか:その参加可能時間に沿ってスケジュールを組む中で、連続するゲームに関連性をもたせられるように、同じジャンルのゲームを続けてみたり、ゼルダの伝説シリーズを続けてみたり。もちろん、全部を上手く繋げることはそうそう出来ないんですけれど。
──今回は最終日に『Bomb Chicken』、『爆ボンバーマン』シリーズリレーと続いているのを見て「あ、爆弾ゾーンだ!」と気付きました。
もか:他にも「ゴルフは朝」と決めているんですよ、ゴルフ中継といえば朝なので。今回の『ビッグトーナメントゴルフ』や、2019年冬の『ジャンボ尾崎のホールインワン・プロフェッショナル』も朝でした。ただ、2021年冬の『WHAT THE GOLF?』に関しては、「あれはゴルフじゃない」と運営で判断したので、普通に夜に入れました。
──最初と最後のタイトルについてはいかがですか?
もか:最初のタイトルについては、開始時に技術トラブル等でもたつく可能性を考慮して、最近は必ずシングルプレイヤー1人の単走を選んでいます。
──確かに今回も開始時刻が少し遅れていましたね。
もか:同様に、最後のタイトルについては、走者側のスケジュール的に可能な中から、単純に盛り上がりそうなものを選んでいます。
──「note place」での開催が決まった経緯を教えて下さい。
もか:去年の10月頃、noteのゲームカテゴリの方からお声かけいただいて決まりました。その時点では色んな会場を候補として調べていて、運営内で話し合っている状態でした。
──2019年の冬までは秋葉原の会場で開催されていました。同じ会場の継続利用については考えましたか?
もか:実のところ、2019年の開催後には会場を変えないといけないな、と思っていました。当時は今よりは規模が小さかったのですが、それでも入場制限をせざるを得なくなってしまったので、更に規模が拡大するならば異なる会場に移るしかないかなと。ただ、現実にはその後はコロナ禍で、2年間オンラインのみの開催が続くことになりました。
──「RTA in Japan」の人気マスコットキャラクター「RTAちゃん」が生まれた経緯について教えてください。
もか:実は、「RTAちゃん」は最初「RTA in Japan」のキャラじゃなかったんですよね。私が管理しているRTA初心者向けの「RTAPlay!」というサイトがありまして。もともとはそこのマスコットキャラクターでした。
──「RTAPlay!」はいつ誕生したのですか?
もか:「RTAinJapan」を開く前ですね。昔はGDQの日本での知名度があまりに低かったので、GDQの説明を入れつつ初心者向けの「LiveSplit」(RTAに特化したタイマーアプリ)の設定方法などを書いたらGDQが広まるのではないか、という目的でした。その後、2016年に「RTA in Japan」を開くことになるのですが、その開催を決めた時点で、将来的にチャリティーグッズを販売する計画があったんです。その際に、マスコットキャラクターがいた方がグッズを作りやすいのではないかと考え、マスコットとして既に存在していた「RTAちゃん」を「RTA in Japan」に転用した形です。
──RTAちゃんのプロフィール設定などはありますか?
もか:はじめはタイマーを走者の代わりに押してくれる妖精さんみたいな扱いでした。「RTA in Japan」の素材ダウンロードページの1番上の壁紙が第1回開催時のものなんですけれど、この画像でのRTAちゃんは、その設定を反映して、タイマーを押す係なんですよね。ただ、時を重ねていくうちに当初の設定が薄れてきて、今の色んな形に使えるキャラクターになりました。
──RTAちゃんが金髪であることから、ニコニコでたまに見る「TASさんは金髪幼女」ネタとの関連が噂されることもありますが、実際のところ関係あるのでしょうか?
もか:それは本当に関係ないですね。たまたま金髪の女の子になりました。ちなみにデザイナーさんとの最初の話し合いのときのラフ画像がありまして。6つの候補の中から今のRTAちゃんを選びました。プロパティによると2014年10月16日の画像ですね。
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もか:この時点では衣装の袖の部分が透けていたのですけど、肌色が目立つ透明は良くないよねということで修正したり、スカート部分のハートマークの穴も万人向けのイベントのマスコットとしてはそぐわないので、最近は小さくしたりしています。
──日本各地で有志によって開かれるオフラインRTAイベントが増えてきました。日本のRTAコミュニティの現状をどう見ていますか?
もか:オフラインイベントが増えてきているのは良い傾向ですね。オフライン、オンラインに関わらず、イベントが増えることは凄く良いことだと思っています。現在の「RTA in Japan」では全体の応募の量に対して10%も場を提供してあげられないので。色んな人がRTAを披露する場が増えるのはとても良いことだと思っています。
──今お話があったように、「RTA in Japan」はここ数年で応募が増え、当選することが難しいイベントになってきています。応募の傾向について感じられることはありますか?
もか:走者が増えたことによって、多種多様なゲームの応募が来るようになったと感じます。
──2月に行われた「RTA in Japan ex #1」では、いわゆるソーシャルゲームも初めて選ばれました。
もか:ソーシャルゲームの応募も増えてきていますし、スーパープレイ枠(スコアアタックをはじめとする、RTA以外のプレイ)での応募も増えました。あとは『GeoGuessr』のように、一見するとゲームに見えないようなものも披露されたりしていますね。
──話題は変わりますが「Summer Games Done Quick 2022」では、世界記録を偽装するという不正が起こりました。「RTA in Japan」では不正対策を行っていますか?
「SGDQ 2022」で更新されたRTA世界記録の一つに不正が発覚―実行者はイベントから追放
もか:特に無いですね。GDQで行われたのは、事前に録画した不正な記録を流すという不正なんですが、これは対策のしようがありません。オフライン会場ですとそういった不正は起こり得ないのですが。今のところ不正行為に関しては、発見や対処を含めて、各ゲームタイトルのコミュニティがもつ抑止力を信じています。プレイヤーの良心に任せている、とも言えますね。
──「RTA in Japan ex #1」は福岡での開催でした。exシリーズが始まった経緯や今後の展望について教えてください。
もか:福岡県のeスポーツ協会さんから「ホテルの会場を借りるけど、ブースを出してもらえませんか」とお声がかかりまして。「RTA in Fukuoka」として開催するかどうか迷ったのですが、今後も似たような機会はあるだろうから、それなら#1、#2と続けていけたら良いのではないか、というのが始まりです。ニコニコ超会議の企画「超RTA2022」も「ex #2」として開催する案はあったんですが、走者協力のみ行うという形になりました。
──遠くないうちに「RTA in Japan ex #2」の開催も期待して良いですか?
もか:そうですね、今でも声掛けはされていますが、どうしても夏~冬の間は忙しくて。タイミングがあればといったところです。
──新規に増えた視聴者の中には、RTAを走ることに興味を持つ人も多いと思います。そういった人たちに向けて伝えたいことはありますか?
もか:RTAはどんなゲームでもできるので、何から始めればいいか困るかもしれません。そんな時は、自分が遊んできたゲームの中で一番好きで、これを走りたいなと思えるゲームを素直に選んでもらうのがベストかなと思っています。皆やっているから自分もやってみようという受け身な姿勢より、自分から「このゲームを走るぞ」と決める方がモチベーションも上がりますし。それでもやりたいゲームが決まらない場合は、人口が多くて参考テキストや動画がたくさん公開されているゲームを選ぶのが、RTAに馴染む近道かなと思います。
──5月には、短期間でRTAを習得するイベント「RTAハッカソン」も開催されましたね。その後の手応えはありますか?
RTAハッカソン – RTAハッカソンは、新しいRTAを数日間で覚えてしまおうというイベントです
もか:毎回参加者が増えていっているのは嬉しいですね。中には「RTAハッカソン」で覚えたゲームで「RTA in Japan」に当選された方もいるので。そういうきっかけ作りの1つになれば、という立ち位置のイベントです。
──次回の「RTAハッカソン」も楽しみにしています。
もか:「RTA in Japan Winter 2022」が終わってから、休日が重なっている週を選んでの開催になると思います。お楽しみに。