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VTuber~バーチャルタレントシーン~のなかには、「このゲームでやっていく!」と決めた専門家が多数存在します。先行して登場していたYouTuberやストリーマーらに習った活動ともいえますが、現在では「専門VTuber」として多くの期待が寄せられ、印象的な活躍をみせています。
その中でもここ数年で注目を集めるゲームジャンルというと、「麻雀」を思い浮かべる方は多いかもしれません。2018年夏に発足したMリーグがABEMAを通して全試合配信されてきましたが、このタイミングはちょうどVTuber、バーチャルタレントが盛り上がりをみせていた頃と一緒。それに合わせてか、麻雀を愛する雀士たちが何人か活動をスタートしていきました。
今回書かせていただく千羽黒乃さんも、Twitterをスタートしたのは2018年8月8日、YouTubeで初めて動画投稿したのは8月28日と、まさにMリーグがスタートしたのと同じくして活動を始めたのでした。
◆「麻雀歴1000年の鴉天狗」の爆誕!
『天鳳』の自己最高段位は九段。『雀魂』では日本サーバーのランキング1位経験で最高位「魂天」を獲得。『セガNET麻雀 MJ』でも最高段位「最強位」を獲得するなど、千羽さんはこれまでオンライン麻雀では無類の強さを誇る実力者として知られてきました。
一人称に「儂」、他の人を呼ぶときには「殿」、語尾に「~なのじゃ」「~じゃ」などを使った老人らしい口調が特徴で、デビューから現在までその特徴的な口調がトレードマークです。
何度かビジュアルが変化していますが、薄ピンクの髪色とショートカットの髪型、赤いリボンにフリル付きのカチューシャを被っており、和服とメイド服を混ぜ合わせた薄手のオリジナル衣装、足元も白いニーソックスと草履という和洋折衷なビジュアルが特徴的です。
活動をスタートしてから1年ほどはいまほど活発な配信活動をしていたわけではなく、いわゆる「趣味の延長」として楽しみながら配信しているといった恰好でした。現在のようなタレント性やインフルエンサーとしての注目が集まる前の、インターネットのアングラカルチャーとして親しまれていた時期といっても良いでしょう。
そんななか、2019年4月25日にはオンライン麻雀ゲーム『雀魂』のブラウザ版が日本でサービスをスタートします。
日本でサービスを開始し、アニメルックなキャラクターが次々と登場し、有名声優が声を担当するなどネットカルチャーに非常に寄せた内容で、徐々に広まっていくことになります。
このゲームを通じて、今まで知られていなかった千羽さんの実力がすこしずつですが知られていくようになります。彼女の運命を変えたといっても過言ではないでしょう。
2019年5月29日、弊サイト・インサイドがYostarとともに協力開催したVTuber大型トーナメントイベント「白上フブキ杯」に千羽黒乃さんも出場しました。この大会で優勝する鴨神にゅうさんに負けはするものの、デビュー直後から繋がりがあるにゅうさんとのライバル関係はこの頃から感じられます。
配信を見てみると、ゲームがスタートして約1か月で雀聖までランクアップしているあたりでその実力がうかがい知れますが、数か月後の9月21日には最終段位「魂天」に到達。サービス開始から約5か月後、日本サーバーで3人目となる達成者となりました。
この頃は『Project Winter』にハマってコラボ配信も多かった千羽さんですが、2020年からいよいよ彼女に陽の目が当たるようになります。
何度となくこの連載のなかで書かせてもらっていますが、2020年3月ごろからは現在までつづくコロナ禍の影響をうけ、VTuberが大きな注目を集める状況へと変わっていきました。同じようにしてパソコンやスマートフォンを使ったゲームが大きな支持をうけることになり、テーブルゲームとして著名かつ新しくスタートしたばかりだった『雀魂』により注目が集まっていくことになります。
何より千羽さんは魂天として上位プレイヤーだったこともあり、老舗麻雀ゲーム『天鳳』での上位雀士や同じ魂天ランクの雀士との戦いなどを配信で行ない、徐々に注目を集めていくことになります。
2020年6月17日から21日には『雀魂』の公式大会「2020 雀魂四象戦 -夏の陣-」に出場、決勝トーナメントまで進出し、その腕前を遺憾なく発揮します。この大会中にチャンネル登録者数は2万人を超え、鴨神にゅうさんとのやりとりでその大きな伸びに感謝と驚きのツイートをしています。
数か月後の2020年8月17日、2周年を迎える時期には現在まで使用しているLive2Dモデルが登場します。1年と少し前の2019年5月にはチャンネル登録者数はわずか1000人もいなかった自分が、いまでは2万人近い登録者を持っている…その実感は千羽さんを大きく羽ばたかせるキッカケになったのかもしれません。
Live2Dボディへと新しくなった2020年秋以降、彼女はより一層のハイペースな活動へとシフトしていきます。
同じく麻雀系VTuberとして活動していた咲乃もこさんや七ツ星北賽さん、『天鳳』『雀魂』の上位雀士であるないおトンさんやゆうせーさん、麻雀専門YouTubeチャンネルを運用し解説者としても活躍している平澤元気さん。
同じVTuber、バーチャルタレントでも大きな人気を誇っていたにじさんじの渋谷ハジメさん、ルイス・キャミーさん、郡道美玲さん、774.incの因幡はねるさん。Mリーガーにして日本最強雀士のひとりとしてあげられる多井隆晴さん、彼を筆頭にしたさまざまなプロ雀士。そして自身の憧れかつ神と崇めることもある伊東ライフさんなど、それまで関わりが少なかったVTuber・実力者・プロ雀士らとコラボ配信していくようになっていきます。
この頃から、素晴らしい実力を持ち合わせた「麻雀系VTuber」としての評価が固まり始め、着実にファンが増えていくことになります。
多くの友人らに恵まれて活動が続くなか、2022年1月24日に天開司さんが主催するチーム対抗リーグ戦『神域Streamerリーグ』の開催がアナウンスされ、3月30日にはプロ雀士・松本吉弘さんが率いるチームヘラクレスにドラフト指名されると、松本さん、千羽さん、因幡さん、渋谷さんの4名で半年に渡って熱戦を繰り広げていくことになりました。
リーグ戦では戦績が振るわなかったものの、ときに冴えのある打牌で実況・解説・視聴者はおろか対戦相手やプロ雀士も納得の実力を見せつけることになりました。
2023年2月には『第二回神域Streamerリーグ』の開催が発表されたこともあり、再登場もありえるか?と期待されています
◆烏天狗、その玄奥なる打ち筋・性格・嗜好性とは?
千羽黒乃さんは現在YouTuneチャンネル登録者数11万人を超える個人VTuberですが、雀士として非常に高い実力と癖の強い趣味を持った配信者という二面性を持ち合わせた人物として支持を集めています。
ソロでの麻雀配信では、「いまこの局、この点数、この配牌から何を目指すか?」から始まり、「このツモなら何を捨てるか?相手の切った牌はなにか?その切り方からどんなヒントが得られるか?リーチをされたら何を切るか?」など、対局中に刻々と変化していく場況と自身の思考を詳らかに解説していきます。
自身の打牌を考えながらも会話を止めどなく続けていくだけでなく、時には相手の状況を読み切り、「たぶん〇と〇の両面待ちじゃないかな?」と当たり牌を当ててしまうほど。鋭い勘と読み合いに長けた打ち手なのが分かります。
相手がアガった際には「お見事なのじゃ!」と相手を称賛し、またすぐに小気味いい会話へと戻っていきます。上手くいかないと塞ぎこんでしまいマイナス思考から自棄になる方が多いなかで、配信中の彼女は常に理性的に対局に臨み、相手を煽ったり罵ることも一切ありません。
麻雀を覚えようと彼女とコラボ配信する相手に対しても、否定することなくじっくり考えを促し、正解すれば「その通りなのじゃっ!」と褒めに褒めまくります。
こういったリスナーや対局者を不快にさせないように配慮された言動は、麻雀というゲームとイメージ像からはかなり別物に見えるかもしれません。朗らかとした明るい性格、面倒見の良い真面目な気質などもあって、眩いばかりのクリーンな麻雀打ちという評価が強く、一部では「光の雀士」「師匠」「全肯定鴉天狗」とも呼ばれるほどです。
Twitterタグ「#黒乃の巣」では、リスナーからのファンアートやグッズなどが見れる一方で、「この局面はどう打てたでしょうか?」とアドバイスがいくつもあがっており、それに対して千羽さんからも返信が届いたりしています。
そんな彼女ですが、年少の男子(いわゆるショタ)が好きという一面があります。にじさんじの鈴木勝さんのようなルックスからショタっぽさを見出すこともあれば、歌衣メイカさんのようなビジュアルからではなく言動や口調の節々からショタっぽさを見出すなど、その目利き・感度の高さから「かなり重度のショタコン、BL好きなのではないか?」と同業者に疑われています。
また先述したように、成人漫画家兼VTuberとして活動中の伊東ライフさんが大好きとのこと。
千羽さんがライフさんと初めて出会ったときには感情が高まりすぎて声が上ずってしまい、会話がまともにできなくなってしまうほどに緊張してしまっています。
後に伊東ライフさんがVTuberとしてイジられるようになると、ライフさんの名誉回復に努めるべく、因幡はねるさんとのコラボ中に「みんな分かってないけど!ライフ先生はすごいんだよ!」と熱心に凄さを伝えています。
「ライフ先生がリグルのエッチな本をたくさん描いてたのを儂は知ってる」
「東方紅楼夢でサークルまで行って買いに行った。」
「東方にどっぷりハマっていた人にとっては伊東ライフ先生は神にも等しい人。即売会に行って新刊を買わなかったら何しに即売会に行ったの?ってなるくらい」
「伊東ライフ先生も大好きで、もちろん東方も大好きです!」
たしかに「東方Project」を思い出せば、千羽さんのビジュアルは射命丸文や博麗霊夢にどこか似ているところがあります。
いまでは同じVTuber、バーチャルタレント同士として冗談を言い合える間柄になりましたが、その中には深いリスペクトがあるのは間違いないでしょう。こういったこともあってか、自身の二次創作物に関しては制限せずに許可を出しており、自身の18禁同人誌を描いてもらうことが夢だと語っています。
真面目かつクリーンな印象が強い千羽さんですが、こういった側面から彼女がインターネット・アンダーグラウンドに親しみがあることも伝わってきます。
因幡はねるさんを中心に神域リーグではより他タレントと親しくなったことで、特徴的な口調やアングラかつディープな趣味性に加えて、真面目さゆえのイジられやすさも見いだされることになり、彼女がより知られ始めるフックにもなっています。
◆烏天狗、その両翼には未来への期待がある
配信から伺いしれる言語能力・麻雀知識・指導力を認められ、自身の著書「麻雀1年目の教科書」を発刊したのを皮切りに、キンマwebや近代麻雀などの専門メディアでコラムを執筆、noteに投稿するなど、ひとりの雀士としての評価・信頼感はかなり強いといえます。
ひょんなキッカケでスタートしたはずの活動が、いまでは日本麻雀シーンの一端を担うほどにまで成長するとは、ご本人も予想はしていなかったかもしれません。この1か月では自身のチャンネルから公式切り抜き動画を投稿しはじめており、2023年に入って活動にワンクッションの変化が見えており、まだまだ旺盛な活動意欲が見えてきます。
VTuberファンと麻雀ファンが共に盛り上がった『神域Streamerリーグ』の第2回目の開催が発表されていますが、彼女がどのチームからドラフト指名されるのか?そもそも出場がありえるのか?もしもそのチームに愛する伊東ライフさんがいたら…想像は膨らみます。
VTuber~バーチャルタレントと麻雀の関わりをより高みへと翔る意味でも、烏天狗たる彼女の両翼には期待が集まります。
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