
「猫を美少女に擬人化したゲームがあったら最強なのでは?」
もはや使い古されたと言ってもいい手垢塗れの安直過ぎる発想ですが、アプリゲーム市場で見ると実はブルーオーシャンかもしれません。
2023年12月12日に台湾、香港、マカオなど一部の国でサービスを開始したスマートフォン向けRPG『CAT FANTASY(貓之城)』は、まさしく“猫を美少女に擬人化”した作品です。中国(繁体字圏)では先行して配信していましたが、現在はサービス停止中。ゲーム内容をブラッシュアップし、今後あらためて提供する方針になっています。

本作は昨年9月21日に日本国内で商標登録され、今後日本展開される可能性が濃厚なタイトルの1つです。グローバルな展開も見据えているのか、人気日本人声優の起用に加えて英語字幕も収録済み。
また、世界観を彩るキャッチーな楽曲の数々は『NieR』『ドラッグオンドラグーン』シリーズで知られる岡部啓一氏と、岡部氏が率いる会社「MONACA」によって楽曲制作されているのも注目ポイントです。

ということで、今回はそんな『CAT FANTASY』を早速遊んでみました。PC版も存在していますが、本稿ではスマートフォン版のプレイレポートをお届けしていきます。
※本稿では、システム上の関係で簡体字・繁体字で表記すべき部分を異体字に置換している場合があります。
※世界観・固有名詞・ストーリーの解釈については翻訳ツールを併用しています。仮に日本向けに配信された場合に齟齬が生じる場合がありますので予めご了承ください。
◆レストラン経営やら怪物退治やらで忙しい日常と不穏な世界観

主人公は物語の舞台「新海市」の治安を守る組織に配属されたばかりの新米調査官。表向きにはレストランを営業している「チームベイカーキャット」を預かる身で、街の治安維持を生業にしています。
しかし主人公はチーム配属初日に、混沌と化した滅亡寸前の新海市と、目の前で自分を庇って倒れる仲間の姿など、将来起こり得る鮮明な予知夢を経験していました。ゲームではかつて新海市を作り出した英雄の導きによって、将来起こり得る絶望的な未来を変えるため、街で発生する数々の事件を解決に導いていくのです。


本作には人間以外に、猫のような姿をした種族「フェリニアン」が登場しています。フェリニアンは人間よりも高い身体能力を持ち、半獣人から完全な猫の姿に変身することが可能です。
言ってしまえば彼らこそ作中における“猫を擬人化したキャラクター”で、プレイヤーが率いるチームメンバーになります。街で頻繁に出現する怪物「傀(カイ)」を討伐する主戦力ですが、普段はレストランを一緒に運営していく従業員のようでもあります。


新海市は知的生命体の感情に作用する希少な資源のおかげで発展を遂げた街でした。
ですが、そこで取り扱われる資源の影響故なのか、街に住む人々の情緒を大きく揺り動かす、一種の公害病のようなものが問題化していました。これが重度に悪化すると、人間自体が傀に変化する「傀化」を引き起こしてしまいます。

そこで人々の感情を安定させる特別な「パトス料理」が考案されて以来、新海市に住まう人々の感情と生活を料理が支えるようになりました。
主人公たちは日々パトス料理を提供するレストランを経営しながら、事件があれば街を奔走して傀の討伐も行うという、忙しい日々を送っていくことになるのです。そして、その裏では予知夢で見た凄惨な悲劇へのカウントダウンも着々と進んでいき、次第に不穏な空気を漂わせていきます。
ゲーム序盤から物語の雰囲気は体感でシリアス:7、コミカル:3の割合加減です。キャラクターが持つ明るさと、ポップなBGMがなければ結構暗い作風に感じるかもしれません。



◆落ち物パズル要素もあるターン制のバトル

『CAT FANTASY』はターン制のバトルシステムを採用したRPGです。画面右側2列に並んだカードスロットの中からパーティ人数分のカードスキルを任意に選択し、そのカードに応じたスキルで戦いを進めます。
同じカード同士が隣り合うと、マージされてさらに強力な1枚のカードに進化。これがちょっとしたパズル要素になっており、毎ターン2列のスロットに上から追加されるカードだったり、選択されたカードがスロットから引き抜かれ、上のカードが一段下に落ちたりして、上手くカード同士が連鎖的にマージされると次ターンを有利に立ち回れます。


バフ・デバフスキルや、属性相性などの根本的なバトルシステムは、ほかのタイトルでも数多く見られる似た仕様ですが、パズル要素を絡めた部分だけは少し新鮮に映りました。
本作では、スロット内のカード順序を変えるようなことはできませんが、カードスキルのマージ要素に関して言えば『リバース:1999』のバトルシステムに近いものが感じられます。スキルを使用するたびそのキャラクターにエネルギーが蓄積し、最大5つ貯まると必殺技スキルが放てるという点も一緒。カード型のスキルコマンドを使うRPGタイトルで、こういったスキルのマージシステムは増えてきています。



先述した落ちものパズルのようなスキルマージ要素のほか、自分と敵の先行・後攻をチームの総合戦力が高い方で決定する点も本作の特徴的なところでしょう。
個々のキャラクターが素早い順に行動するタイムライン形式のバトルでなら、敵に先行を取られるゲームタイトルは多々見られます。が、本作のようにチーム全体が同一ターンに動くターン制バトルにて、総合戦力次第で敵に先手を取られるケースというのも昨今珍しいと感じました。


今回プレイしていて気になった部分で言えば、必殺技スキルの発動時を除き“戦闘時のカメラワークに動きがあまりない”という点。キャラクターが近接武器で攻撃する際、多少は背後から追従するかたちで動くのですが「違う、そうじゃない」と口に出したくなります。
せっかく用意されている3Dモデルのキャラクターを、バトル時は基本的に背面からでしか楽しめないのは少々残念です。ただ、スカートの短いキャラクターは非常にキワドイ後ろ姿になっているので、紳士向けの需要は大いにあるかと思います。
◆もっと猫要素は前面に出してもいい。可能性は感じられるRPG

ゲームを進めていくと、フェリニアンが猫の姿に変身できる作中の設定を活かして、ダンジョン内の仕掛けを解除しながらゴールを目指す謎解き要素が遊べます。
アドベンチャーパートともいえるこの要素では3Dマップを気ままに歩き回って、高所へ飛び移る簡単なアクションが楽しめます。猫での謎解き要素は世界観ともマッチしていて面白い試みでした。



本作は「猫」と「美少女」2つの人気カテゴリーを融合させたタイトルですが、肝心の猫要素が薄いと感じずにはいられません。というのも猫の姿になれるからといって、バトルに大きなオリジナリティがあったり、物語展開に猫ならではのドラマがあったりするわけではないのです。
まず物語では、基本的には新海市で巻き起こる事件解決に向けて、フェリニアンの少女たちと共に敵対勢力と衝突する場面がほとんどです。構造としては勧善懲悪に近いストーリーが続きます。そして随所では、未来で待ち受けるバッドエンドを避けるため行動している主人公の視点が描かれていきます。「猫かわいい!」となれる場面がストーリーに全くないとは言えませんが、ゲームタイトルで押している割には薄いでしょう。


少なくとも現状では、美少女キャラクターに「猫」という付加価値をつけた程度に過ぎず、“そういう属性のキャラクターがたくさん登場するRPG”といった印象止まりです。
しかもプレイアブルキャラクターとして最初に獲得するうえ、物語上で大きく活躍する「シロ」に関しては、もはや猫ではなくてフェリニアン型ロボット。変身するとほぼ猫型(?)ロボットになるので「もう猫じゃねぇじゃん」と思わず口に出してしまったほどでした。


本作はサービス運営型のタイトルであることから、今後ストーリーの中で猫要素をしっかりプッシュしていくことも十分可能だと思いますし、そのような構想がすでにあるのかもしれません。何にせよ、ゲーム冒頭のプロローグから3章までプレイした時点では、本当にキャットなファンタジーを楽しませてくれるのか少し不安になります。
ちなみにストーリー自体は鬼頭明里さん、内田彩さん、三森すずこさん、加藤英美里さんら人気声優陣たちがフルボイスで収録しているため、シリアス気味なシナリオ展開と相まって読み応え聞き応えがありました。作中のBGMに関してはやたら色気のあるジャズミュージックが多く、楽曲単体の完成度が高めです。

ガチャの演出や謎解きのミニゲーム、交流要素から戦闘終了後など、キャラクターが要所で猫に変身している姿は確認できますが「ゲーム的にもっと猫要素を前に出しても良いのでは?」と、今回ゲームをプレイしてみて強く感じました。

これから中国での再リリースを控えている『CAT FANTASY』ですが、今年2024年1月23日までに138件のアップデート、10件のテスト、1,428件の最適化が行われたと正式発表されています。
それだけサポートしたのに再リリース版までサービスを止めるというのはかなりの英断です。本作に賭ける開発チームの熱量が大きいことにほかなりません。今後のアップデート次第ではさまざまな可能性を感じられますね。
猫耳美少女が登場するだけでも十分と感じられるユーザーはきっといることでしょうが、ぜひスマートフォンゲームの強みを活かして、より本作ならではの切り口を突き詰めていってもらいたいものです。