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6月27日、ニンテンドースイッチ向けに発売した『岩倉アリア』は、『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』などを手掛けるMAGES.による完全新作アドベンチャーゲームです。本作では戦後・1966年の夏を舞台に、主人公「北川壱子」と少女「岩倉アリア」を中心としたサスペンス・ヒューマンドラマが繰り広げられます。
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岩倉アリアは人名であると同時にゲームタイトルにもなっていること、本作のキービジュアルを飾っていることから分かるようにいわゆるヒロインのような立ち位置。一方で主人公・壱子はそんな彼女に惹かれ、愛していきます。そう、『岩倉アリア』は女性同士の恋愛“百合”の要素が赤裸々に描かれた1本です。
とはいえただ女子同士の仲良し百合が描かれるのではなく、ゲームジャンルはサスペンス。血は流れるし物騒な武器(?)は出てくるし、憎悪に満ちた言葉なんかも飛び出します。
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それだけでなく物語全体で人間の醜さ、脆さが生々しく描写されており、ファンタジーのはずなのにリアリティなドラマが見え隠れ。今回は、そんな本作のプレイレビューをお届け……したかったのですが、早い段階で「何を語ってもネタバレになる」ということに気付きました。そう、本作は細かな謎が散りばめられており、読み進めていく内に「あのときの○○はこれか!」とパズルのピースを嵌めていく感じで点と点が繋がっていく作りになっています。
ということで本稿では極力ネタバレを避けて、ヒューマンドラマを形作る登場人物を通して『岩倉アリア』の魅力をお伝えします。
◆女中と雇い主の娘、少女2人の友情・愛情は“絵”を通して描かれる
物語は16歳の少女・壱子の目を通して語られます。彼女は戦後という背景も相まってこの年齢ですでに社会の荒波に揉まれており、前職を退職し無職で過ごしていたところ、ひょんなことから「岩倉周」と名乗る男性に声を掛けられ人生が一変。トントン拍子で周が屋敷の主である「岩倉邸」の女中として働き始めることになり、迎え入れられた美しいお屋敷で岩倉アリアとの運命の出会いを果たします。
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アリアは初対面の壱子に“画集の絵や人形のような美人”といった感想を抱かせるほど、顔面の比率は黄金比(公式設定)の超絶美人。壱子は確実に第一印象から彼女に惹かれていたものの、無機質な冷徹さも感じさせる物静かな一面を持つアリアとのファーストコンタクトは、少しギクシャクしていました。
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そんな中、あるとき壱子の描いた絵をアリアが見つけ、ふたりの距離は急激に縮まっていきます。そして壱子は一目惚れしたアリアへの恋心を自覚し、彼女を第一に考え行動するように。屋敷に閉じこもって同じ日々を過ごしていたアリアにとっても、一目惚れした“壱子の絵”を見るのは大きな刺激となり、お互いを大事に想っている様子が描かれていきます。
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アリアが惹かれたように、壱子の絵はのちに宮廷画家と評されるほどの腕前を持っており、その能力はゲーム内でも「写生帖」という壱子が見たものを書き写す要素に活かされています。現代で言う写真アルバムのようなもので、ふとしたときに写生帖を見返すと、屋敷の謎を解くヒントに繋がります。
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本作はまるで額縁に飾られた絵画そのもののように美しいグラフィックで描かれています。物語も元を辿ると周の目に壱子の絵が留まったところからスタートしており、本作において見た目でも物語でも“絵”はかなり重要な要素。屋敷での日々の中でたびたび描かれる、壱子の心情を表す絵画に着目しながらゲームを進めてみてください。
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◆女性同士の恋愛描写や人間の生き様、リアルとファンタジーの境目を表現
さて、仲が進展していくにあたり壱子とアリアは同衾(ゲーム内表記そのまま)することになるのですが、当然プレイヤーも少女2人がひとつのベッドで眠る様子を見せられます。同性同士の仲睦まじい様子が描かれ、と言いたいところですが衣擦れの音や甘い声色が大分エッ……本格的なうえに、エンディングによっては何が起きたのかはっきりと感じ取れるシーンもあり、「このゲーム、CEROいくつだったっけ……?」と思わず確認してしまうことに。なお、本作はCERO:Cですのでご安心ください。
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とにかく、壱子とアリアのやり取りはなんだか見てはいけないものを覗き見しているような……背徳感に襲われます。序盤から終盤まで描写としては圧倒的に壱子からアリアに対する愛情表現の方が多いので、プレイヤーとしてはアリアがどのように壱子へ心を開いていくのかに注目していきたいところです。
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また、壱子にとっては忘れられないひと夏の思い出を築くことになったキーパーソン・岩倉周は、名字から察せれるようにアリアの父親。
壱子とアリアの物語にはそんな周も大きく関わっており、屋敷の主である彼の動向をつぶさに観察していくと、これまた生々しいリアルな言動が見え隠れすることも。これは決して周のことを示しているわけではありませんが、人間が持つ“何かに縋っていたい脆い一面”について考えさせられる話を周は持ってきてくれます。
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◆一度見ると忘れられない『岩倉アリア』は、全編フルボイスで送られるマルチエンディング仕様
さて壱子とアリアの馴れ初めを紹介したところで、ここで筆者と『岩倉アリア』との出会いを語ろうと思います。本作を知ったのは発表時……そのあまりにも目を引く、美しいのに少し禍々しいような花に埋もれる「岩倉アリア」のビジュアルを見たときでした。一目で「これはサスペンスホラーゲームだ!」と感じ、そうしてアリアの姿はそのまま筆者の頭にこびりつくことに。
今思うと意識せずとも美と恐怖を共存させるアリアに一目惚れしていたわけですが、この状態こそが壱子のアリアに対する第一印象そのものだったのだなと感じます。読者の中にも、彼女のビジュアルに惹かれて本作に興味を持った人も多いはず。「岩倉アリア」は本当に人を惹きつける不思議な魅力を持つ少女と言えるでしょう。
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最後になりますが、本作の嬉しいポイントも紹介しましょう。本作はアドベンチャーゲームだけあってマルチエンディング仕様です。随所に差し込まれる選択肢によって、幾通りものエンディングに分かれます。
ありがたいことにクイックセーブが48個、好きなタイミングで手動でできるセーブ欄が64個もあるので、とにかくこまめにセーブを取って差分をチェックしていくのがおすすめです。ロードが長い、テキストが読みづらい、テンポが悪いといったことも全くなく、ストレスなく進められるはず。
また全編フルボイスで、かつフルオートで進行することも可能。声優陣による、感情を込めた迫真の演技は必聴ですよ。
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読み進めば進むほど謎が謎を呼ぶ、百合とリアルとファンタジーが共存したサスペンス・ヒューマンドラマ『岩倉アリア』は、ニンテンドースイッチ向けに発売中です。価格はダウンロード版が4,400円(税込)、通常版パッケージが4,950円(税込)、限定版が7,150円(税込)となっています。
壱子は岩倉邸の謎を解けるのか、そしてアリアとの運命は……ぜひ結末をその目でご確認ください。