■『ToHeart』は「Leaf」の新機軸として登場

『ToHeart』に限らず「ビジュアルノベル」全般の共通点ですが、「ビジュアルノベル」は会話や行動の選択肢で物語が分岐し、複数のエンディングに到達します。恋愛系の作品では、シナリオの分岐が各ヒロインのルート分けと同じ意味になる場合が多く、『ToHeart』も選択によってルートが分かれ、ハッピーエンドやバッドエンドに辿り着きます。
「ビジュアルノベル」は、特別なルールを覚える必要がほとんどなく、違う作品でも概ね同じ操作感でプレイ可能。そのため、プレイヤー側の負荷がかなり少なくて済みます。また、シンプルな構造で済むため、育成シミュレーションなどと比べると開発の規模や費用を押さえやすいといった、開発側のメリットも存在します。
ですが、「遊びやすい」「作りやすい」といった事情だけでは、大きなブームには成り得ません。「ビジュアルノベル」に火が付くきっかけには、やはり魅力的なゲームの存在が欠かせません。その一躍を担ったのが『ToHeart』ですが、いきなり本作が登場して盛り上がったわけではなく、まず「Leaf」のビジュアルノベルシリーズの1作目・2作目を飾った『雫』と『痕』の存在も重要な役目を果たしました。
『雫』と『痕』は、1996年に発売されたPC向けのビジュアルノベルです。ただし、その内容は恋愛がメインではなく、『雫』は人の精神に深く関わる物語を展開し、『痕』は怪奇的な側面も伴うなど、どちらもサスペンス要素が濃厚なADVでした。
しかし『雫』と『痕』は、それぞれ強烈かつ魅力的な物語を描き、万人向けではないテーマながらも多くのファンを獲得。その抜きん出た完成度の高さで、たちまち注目を集めました。また、開発の中心的な人物である高橋龍也氏(脚本)と水無月徹氏(原画)も、作品同様に高く評価されます。(※高橋氏の「高」は、正しくは「はしごだか」表記)
この両名が手がける新たな作品となれば、当時話題にならないはずがありません。しかも、これまでの路線と全く異なる、学園を舞台とした恋愛系ビジュアルノベルという新境地です。『雫』『痕』とのギャップの大きさも追い風となり、多くのPCユーザーが『ToHeart』の登場を待ち焦がれました。