■ポケットペアの代表・溝部拓郎氏が提唱する“掛け合わせ”手法
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元々ある作品に新たな要素を足すことで、爆発的に面白くなったというゲームはいくつもあります。『パルワールド』を開発したポケットペアの代表・溝部拓郎氏は、Game*Sparkが行ったインタビューにて、こうした制作方法を“掛け合わせ”と表現しました。
ハードウェアが劇的に進化する一方、アイデアを抽出する方法自体に大きな変化はなく、そして時間が経つごとにアイデアは次々と実現されていきます。そうした現状を踏まえ、溝部氏は「現実からゲームを作ることに限界が来ていて、“ゲームからゲームを作る”ようになっていると考えています」と明言しています。
また、掛け合わせや組み合わせでゲームを作る手法は一般的になっていると指摘し、「英語で「ゼルダ・ミーツ・〇〇」みたいな表現がそのままSteamのストアページに載ることもあるくらいです」といった見解も述べました。
■“掛け合わせ”がゲーム体験を広げた一面も
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“掛け合わせ”のケースとしては、「メトロイドヴァニア」が広く定着した好例といえるでしょう。「メトロイドヴァニア」は元々公式の用語ではなく、『メトロイド』と『キャッスルヴァニア』(悪魔城ドラキュラ)の両シリーズが持つ特徴的な要素を備えた作品に対して、ユーザー側から生まれた俗称でした。
「メトロイドヴァニア」の確固たる定義はありませんが、「行き来できる広いマップの探索が楽しめる、横スクロールの2DアクションRPG」を指す場合が多く、インディーゲームを中心に数多くのメトロイドヴァニア作品が生み出されています。
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また近年では、異変の有無で進むか引き返すかを選択し、怪奇渦巻く地下通路からの脱出を目指す『8番出口』の大ヒットを受け、同作のゲーム性をモチーフにした“8番ライク”作品が多数登場しました。
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シンプルに模倣した作品もあれば、独自の要素を加えて新たな刺激を作り出した作品もあり、その多様性に驚かされるばかりです。例えば、『8番出口』の枠組みに恋愛要素を加えた『8番彼氏』も、かけ合わせたことで生まれた斬新な作品のひとつと言えます。
改めて『ポケモン』に焦点を戻すなら、メインシリーズの最新作『ポケモン スカーレット・バイオレット』では、歴代で初めてオープンワールド制を採用しました。このゲーム性を導入するにあたり、これまでに作られた数多のオープンワールド作品を研究し、その魅力を解析・昇華して作られたのは間違いないでしょう。
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このように、要素を掛け合わせることで新しい体験が生まれる一面があるのは、否定できない事実です。だからといって、野放図に行っていいわけでもありません。パクリと“掛け合わせ”の境界線はとても曖昧なので線引きには困難ですし、また各社の方針によっても対応が変わります。
今回、任天堂がポケットペアを訴えましたが、その内容は「特許権の侵害訴訟」と明かしたのみで、詳細はまだ未公開です。訴えにある通り、特許の侵害──技術的なパクリがあったのか、それとも訴えが退けられるのか。今後の続報にも、関心が集まることでしょう。