『オーバーウォッチ 2(Overwatch 2)』では、新モード“スタジアム”や新ヒーロー“フレイヤ”など、様々な新要素を含んだシーズン16が実装されたばかりです。そんななか、4月29日から新たなコラボレーションとして「新機動戦記ガンダムW」のスキンが配信されます。
本稿では今回のコラボを手掛けたアートディレクターのDion Rogers氏と、アソシエイトディレクター兼プロダクトマネージャーのAimee Dennett氏との合同インタビューの模様をお届けします。

開発チームの誰も彼もが参加したがった!?夢のコラボの裏側に迫る!
――自己紹介をお願いします。
Rogers:Dion Rogersです。『オーバーウォッチ 2』ではアートディレクターを務めており、Aimeeと連携して開発しています!
Dennett:Aimee Dennettです。私はアソシエイトディレクター兼プロダクトマネージャーを務めています。(日本語で)アリガトウ!
――「ガンダムW」30周年に合わせたコラボかと思いますが、この企画はバンダイナムコエンターテインメント側から持ちかけられたのでしょうか? また、「ガンダムW」はアメリカで初めて地上波放送された「ガンダム」ということで、シリーズ中でも絶大な人気をアメリカで誇っています。本企画が決定した時の開発チームの反応はどのようなものでしたか?
Dennett:以前にも他作品のコラボでバンダイナムコエンターテインメントさんと協業した経験があり、常に新しい機会や、お互いが本当に気に入るアイデアについて話し合っています。私たちは、以前から「ガンダム」シリーズとのコラボレーションを熱望していました。
ちょうどその時、バンダイナムコエンターテインメントさんから「ガンダムW」が30周年を迎えるという話があり、これはまさに完璧なタイミングと機会でした。特に私たちの開発チームは「ガンダム」の熱狂的なファンなので、なおさらです。
Rogers:付け加えると、開発チームは非常に情熱的です。アーティストだけでなく、チーム全体、あらゆる部署のスタッフが「ガンダム」への思い入れが強いのですよ。だから、「ガンダムW」の世界観に関われるチャンスがあると耳にしたとき、興奮したスタッフの誰もが企画に参加したがりました。
「ガンダム」は、私たちが描くものやゲーム全般の文化に大きな影響を与えてくれています。特にスタジオのアーティストたちにとっては大きなインスピレーションの源だったので、ついに「ガンダムW」に関わることができとても興奮しています!
実際に今回のスキン制作に関わったアーティストの1人は、高校時代に「ガンダム」のファンアートを描いていたそうです。だから彼女は、このガンダムコラボに参加できることに本当に喜んでいました。

――「ガンダムW」は2025年で30周年を迎える作品で、特に日本ではリアルタイムで視聴していた世代は今や大人たちばかりです。『オーバーウォッチ 2』のプレイヤー層はかなり幅広いと思われますが、今回のコラボは特にどの世代に響くことを意識していますか?
Dennett:私たちは、あらゆるタイプのプレイヤーにアピールできるよう、様々な種類のコラボを行うように努めています。若いプレイヤー層に向けたコラボもあれば、年配のプレイヤー向けによりノスタルジーを感じさせるようなものもあるんです。
「ガンダムW」は確かに長い歴史を持つ作品ですが、特定の年齢層をターゲットにするかどうかは、それほど重要ではありません。それよりも、プレイヤーがゲーム内で自分の好きな作品を目にし、それを通じて自己表現できる機会を提供することの方が、ずっと大事だと考えています。プレイヤーが自身のファンダムをゲーム内で見つけられるようにしたいのです。
――今回、「ガンダム」の世界観を『オーバーウォッチ 2』に持っていくということで、「ガンダムW」ファンに向けた仕掛けのような部分はありますか? 効果音やビジュアルなどで、特にここを見てほしいというポイントがあればぜひ教えてください。
Rogers:ファンの方々に楽しんでもらえるよう、たくさんの仕掛けを用意しました。チームの情熱が非常に高かったので、まずガンプラをたくさん購入し、キャラクターをデザインする際の重要な参考資料にしています。
例えば、リーパーの「デスサイズスキン」。彼はゲームプレイ上では大鎌(ビームシザース)を直接武器としては使用しませんが、ハイライトイントロや一部のアニメーションで大鎌を使用する姿を見られるようにしました。このように、モビルスーツが持つ象徴的な武器をゲーム内に組み込んでいます。
また、マーシーのスキンは彼女にとって初めて全身が完全にロボット化されたスキンです。顔が見えず全身を覆うデザインは、モビルスーツ「ウイングガンダムゼロ」に完璧にマッチしていると考えました。これらのモデルをよく見ていただければ、ヒーローとモビルスーツの多くの繋がりを発見できると思います。

Dennett:他にもいくつか興奮する点がありますよ。ロビー画面のアートワークですが、これは実際にガンプラの箱絵を描かれている、バンダイナムコエンターテインメントのアーティストの方に特別に描いていただきました。『オーバーウォッチ 2』版の素晴らしいアートになっています。
そしてもうひとつ。Rogersが言及した「プレイ・オブ・ザ・ゲーム」のハイライトは、映画「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」のアニメーションを可能な限り、忠実に再現しようと試みたものです。映画のシーンからの直接的なオマージュとなっています。
――今回は「ウイングガンダムゼロ」「デスサイズ」「エピオン」「トールギス」が選ばれましたが、どのようにしてヒーローとモビルスーツの組み合わせを決定したのでしょうか? また、ダブルガトリングガンのマウガとヘビーアームズは相性が良さそうでしたが、除外された理由はなんでしょうか?
Rogers:ヒーロー選定は、ほぼ開発チームが主導しています。コラボが決定すると、多くのアーティストたちが「このヒーローにはこのモビルスーツが合う!」といったアイデアを次々と提案してくれました。
マウガとヘビーアームズの組み合わせももちろん試しています。ガトリングガンという共通点がありますからね。しかし、実際に試作してみると他のスキンほど上手く見た目がまとまらず、しっくりこなかったのです。
一方でラマットラは変形能力を持つため、エピオンとの相性は抜群でした。トールギスとエピオンに関しては、チーム内から「これらは絶対に入れなければならない!」という非常に強い要望、ほとんど要求に近い声が上がりました。そのため、この2体についてはある意味選択の余地があまりなかったとも言えます。チームの皆が熱望していた組み合わせでした。

Dennett:その通りですね。正直に言うと、私たち全員が最初はマウガとヘビーアームズの組み合わせを考えていました。武器の類似性から、それは当然の選択のように思えたのです。しかしコラボレーションにおいては、最初に明白だと思った組み合わせでも、実際にコンセプトアートを描いてみると見た目が良くなかったり、しっくりこなかったりすることがあるのです。
実は、私たちはアナでトールギスを試しました。彼女のライフルとトールギスの武器・ドーバーガンのシルエットが似ていたからです。でも、またも見た目が完全には一致せず……。
そして、最終的にソルジャー76がトールギスとして衝撃的なほど格好良く見えることに気付き、私たちも驚きました。これは試行錯誤のプロセスであり、特に「ガンダム」のような象徴的なコラボでは、最適な組み合わせを見つけるために様々な可能性を探ることが重要になります。

――今回のスキンは機械のボディということもあり、造形が今までと大きく異なっていると思います。制作していく上でどの部分が大変でしたか? こだわりの箇所も含めて教えてください。
Rogers:機械的なスキンの制作は、今回もチームが非常に情熱的だったので本当に楽しいプロセスでした。バンダイナムコエンターテインメントさんとも緊密に連携を取りながら進めました。通常、オーバーウォッチのコラボスキンを制作する際は、私たちのヒーローが他のIPのキャラクターを「コスプレ」しているようなアプローチを取ることが多いです。
しかし、今回のガンダムコラボでは、モビルスーツそのものの格好良さ、そしてガンダムという作品自体を称賛したかったのです。ですから、いつものコスプレ感よりも一歩踏み込んで、キャラクターデザインを進めました。
ガンプラをたくさん購入し、組み立て、関節の動きや内部構造などを徹底的に研究しています。もちろん、ゲームモデルとしての制約(ポリゴン数やアニメーションの整合性など)はあるので、完全に再現することはできませんが、可能な限りモビルスーツの形状言語や全体的な雰囲気を正確に捉えようと努めました。
特に、ガンダムが持つ高いディテールレベルと、オーバーウォッチの持つ独特の様式化されたアートスタイルを融合させる点には非常に苦心しました。これは大きな挑戦でしたが、各ヒーローの個性とモビルスーツのデザインをうまく組み合わせ、キャラクターをいつもより少し「推し進める」ことで、特別なスキンを作り上げることができたと思います。
チームの皆がこのプロジェクトに興奮し、情熱を注いでくれたことが、この困難な作業を乗り越える上で大きな力となりました。

――(筆者の公私混同質問)トールギスありがとうございます!!! デザインもほぼトールギスそのままで、トールギスの機動性とソルジャー76のスプリントのイメージがとてもマッチしています。トールギススキンの開発エピソードを詳しく教えてください。
Dannet: 先ほども少し触れましたが、最初はアナでトールギスを試作したんです。武器のシルエットが似ているという理由でした。しかし、どうもしっくりこなかったのです。
Rogers: そうですね、アナではうまく機能しませんでした。それに、これは多くのヒーローにとって初めてのことですが、体が完全にメカで覆われることになるので、ヒーローのシルエットや動きを維持しながらそれを実現するのが今回の挑戦のひとつでした。
そしてソルジャー76はある意味、私たちのなかで最も“解剖学的に正しい”人間に近い標準的な体型を持つキャラクターです。そのため、ソルジャー76のスキン制作に取り掛かったとき、トールギスのデザインが彼の体型や動き、特にスプリントのようなアビリティと非常にうまく適合することがわかりました。ソルジャー76が持つ「ビルド」こそ、このスキンを機能させる上で理想的だったのです。
Dennett:Rogersの話に加え、もうひとつ興味深い要素があります。それは、モビルスーツのデザインがTVシリーズ版と映画「Endless Waltz」版で異なるという点です。
私たちは開発の過程で、多くのスキンについてTV版と「Endless Waltz」版のデザインの両方を試作しました。例えば、トールギスもTV版と「Endless Waltz」版の両方を検討しています。そして、どのデザインを採用するにしても、4体のスキン全てでデザインの出典元をどちらかで統一する必要があると考えました。最終的に、私たちは「Endless Waltz」版を採用しています。

――これまでのお話から「ガンダム」に対する熱量がとても伝わってきました。本コラボの反響も大きいと思いますが、今後もしも「ガンダム」コラボ第2弾があるとしたら、どんな作品とコラボしてみたいですか? 個人的には、赤い彗星を彷彿とさせるスキンをD.Vaか他のキャラで見てみたいです。
Dennett:それは開発チームの誰に尋ねるかで全く違う答えが返ってくる質問ですね。「ガンダム」ファンはチーム内に本当にたくさんいますから! 個人的な希望を言えば、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」とコラボできたら素晴らしいと思います。もちろん、他にも魅力的な「ガンダム」作品は山ほどあります。
Rogers:ええ、本当にたくさんありますね。でも、私の個人的な一番の希望は「ガンダムW」だったので、今回でそれが叶ったんです! 実は、コラボ開発中にD.Va用のスキンもいくつか試作したんですよ。でも残念ながら、最終的にはうまくいきませんでした。私たちはガンダムの世界が大好きなので、今後ももっとコラボする機会があれば、とても嬉しいですね。
アメリカのゲーム会社では「ガンダム」の人気が高く、社内活動の一環としてガンプラ制作部も存在するほどです。 そして、今回コラボした「新機動戦記ガンダムW」はアメリカで初めて地上波放送された作品であるため、アメリカで生活していると思わぬところでファンと邂逅することもあります。車で主題歌を流して信号待ちしていたら、隣から「ガンダムW最高!」と声をかけられたこともあるぐらいです。
キャラクターデザインも重要な要素を占める『オーバーウォッチ 2』を愛するファンからは、さまざまな感想が飛び交いそうな本コラボ。開発チームはあえてモビルスーツらしさを全面に押し出したデザインを選ぶなど、とても挑戦的な試みをしています。 やはり、アーティストの方々もガンダムに触れられるのが楽しかったのでしょう。
インタビューの間も、Rogers氏とDennett氏の両者が常に笑顔を見せてくれました。今回のコラボは、チームの成果物として非常に満足できたという証と思われます。
『オーバーウォッチ 2』と『新機動戦記ガンダムW』のコラボ企画は4月30日より登場予定です。