■リッチなゲームを“携帯して遊ぶ”スタイルの復活

スマホの普及により「場所を選ばずにゲームを遊ぶ」といったスタイルがカジュアル層にも浸透し、一方でより高いゲーム体験を求める欲求も生まれました。その要望を叶えるスイッチは、まさにうってつけのゲーム機といえるでしょう。
携帯して遊ばない人も、腰を据えて大画面で遊ぶTVモードで従来通り楽しめるため、何ら問題はありません。据え置きと携帯の両立で幅広いユーザー層に訴えかけ、今日に至る成功への道を歩み始めることとなります。
また、携帯モードによって発掘された新たな需要は、スイッチの成功だけにとどまらず、ゲーム業界に少なからぬ影響も与えました。
まず、PCゲームを持ち運んで遊べる「ポータブルゲーミングPC」の登場が相次ぎ、今では選択の幅もかなり広がっています。加えて、PS5本体とWi-Fi経由で接続し、ハイレベルなゲームを携帯ゲーム機さながらの感覚で遊べる「PlayStation Portal リモートプレーヤー」も発売されました。
スマホの台頭で絶たれたと思われた「ポータブルゲーム機によるプレイ」をスイッチが改めて切り開き、後続がその道を広げていく。この流れを作り出したスイッチの功績は、疑うまでもないでしょう。
■人気と結果が直結し、1億5千万台を突破

スイッチは、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『マリオカート8 デラックス』といった魅力的な独占タイトルを続々と展開し、携帯モードによる潜在的なユーザーの掘り起こしにも成功しました。
その結果、任天堂の歴代据え置きゲーム機として最も普及した1億5,212万台という記録を打ち立てます。しかも、今後の伸び次第では、携帯ゲーム機である「ニンテンドーDS」が打ち立てた1億5,402万台という記録すら上回る可能性が出てきました。
Wii Uで離れてしまったゲームファンを、「手元のゲームパッドでもプレイできる」というWii Uの構想をさらに進化させたスイッチが取り戻し、パワフルな任天堂が再び存在感を露わとします。業績を復活させただけでなく、ゲーム人口の拡大にも寄与し、大きすぎると思われていた期待をも上回る名機として、今日まで走り続けたのです。
■スイッチが抱え続けた浅からぬ問題も

市場的にも、またユーザーからの評価でも、これ以上ないほどの活躍を見せたスイッチですが、完全無欠というわけでもありません。低価格路線により、「一家に一台」ではなく「一人一台」の普及も可能とした一方で、ゲーム機としての処理性能は同世代のライバル機に差をつけられてしまいます。
低価格のゲーム機は、買いやすいというメリットがあるのと同時に、その分性能が下がるというデメリットが生まれます。この両要素は基本的に相関関係にあり、性能が上がれば価格も上がり、価格が下がれば性能も下がらざるを得ません。
その影響は、描画や動きの美しさ、ロード時間の長短といったプレイの快適度だけに留まりません。ハイスペックな能力を求める大手メーカーの大作ゲームを動かすには少々荷が重く、後年になるほどスイッチでは遊べない人気ソフトが増えていきました。
また独占タイトルにおいても、性能面のネックが浮き彫りになります。例えば『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』では、画面がカクつくといったフレームレートの問題やエラー落ちなど、いくつもの不具合が発生し、スイッチの限界を感じた人も少なからずいました。
こうした不具合は「性能が上がれば即解決」というほど単純ではないものの、マシンパワーがあれば対処はしやすくなり、快適なプレイに直結するのもまた事実です。
任天堂の公式サイトで公開中の「開発者に訊きました:Nintendo Switch 2」を見ると、「これまでにない新しい遊びを提案するためには、Switchの処理速度がもう少しあるといいのにな、と思うことがでてきました」といった発言が見受けられます。開発側もスイッチのパワー不足に悩まされていた、分かりやすい一例と言えます。
スイッチは、ゲーム専用機による携帯性の需要を再発掘し、独占タイトルで多くのユーザーを魅了しました。その結果、ゲーム人口や携帯ゲーム機の市場を拡大させ、ゲーム史に残るほどの功績を残しています。
一方で性能面の不足は否定できず、この問題は後期になるほど特に痛感させられました。携帯モード専用の「Nintendo Switch Lite」や一部性能を向上させた「有機ELモデル」が後に出たものの、パワー不足を解消するような方向性ではなく、問題は据え置かれたままです。
スイッチの後継となるスイッチ2は、偉大な前任を超えることができるのか。また、前任が抱えていた性能問題の不満を、どこまで解消してくれるのか。その活躍を、これからスイッチが見守ることでしょう。