生成AI各社が「めざせポケモンマスター!」彼らがゲームで競い合う理由って?

ポケモンは累計売上高15兆円超で、日本が生んだ世界最強のIPです。その知名度は、生成AIの熾烈な開発競争の中にも現れています。 Claude、Gemini、ChatGPT o3といった最先端のAIたちが、ポケモンの世界で冒険を繰り広げ、その攻略能力を競い合っているのです。

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大手AI各社「めざせポケモンマスター!」彼らがゲームで競い合う理由って?
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『ポケットモンスター(ポケモン)』は累計売上高15兆円超、日本が生んだ世界最強のIPです。その知名度は、生成AIの熾烈な開発競争の中にも現れています。 実は、Claude、Gemini、ChatGPT o3といった最先端のAIたちが、『ポケモン』の世界で冒険を繰り広げ、その攻略能力を競い合っているのです。

生成AIがポケモンマスターを目指す時代

2025年5月23日、Anthropicは生成AIの最新鋭モデルの「Claude Opus 4」が24時間以上もプレイを続けながら、ビデオゲーム『ポケットモンスター 赤』の攻略ガイドを作成したと発表しました。

これに先だってGoogleも、2025年5月3日にスンダー・ピチャイCEOが「Gemini 2.5 Pro」が「ポケットモンスター 青」をクリアできたことを報告しています。

そして5月28日には、「ChatGPT o3」による「ポケットモンスター 赤」のプレイ様子がTwitchでライブ配信されたことを、OpenAI DevelopersのXアカウントがポストしました。

このポケモンをめぐる戦いは、今年の2月26日にAnthropicが「Claude 3.7 Sonnet」の性能を示すベンチマークの一環として、1996年に発売されたゲームボーイ用ソフト「ポケットモンスター 赤」をプレイさせ、ジムリーダー3人を倒したことをアピールしたことから始まりました。このとき、Twitchで「ClaudePlaysPokemon」の配信も開始されました。

企画の開始時点では45分間の連続プレイしかできなかったようですが、3カ月後には24時間常時プレイが可能になるなど、その進化スピードは驚異的です。

実はAIポケモンプレイヤーには先駆者がいた

しかしながら、ポケモンをプレイした初めてのAIは、実はこれらの大手企業のものではありませんでした。2023年10月9日、独自開発されたAIが『ポケットモンスター 赤』をプレイする動画がYouTubeで公開されたのです。

このAIは5万時間の学習による成果で、ポケモンのレベルアップ、新エリアの探索、バトルでの勝利、ジムリーダーへの勝利など、ポイントベースのインセンティブを与えられていました。使用されたソースコードはソフトウェア開発者向けのサービス「GitHub」で公開されており、誰でも確認できるようになっています。

ポケモンとベンチマークテストの意外な関係

生成AIの性能を計測して比較するためのベンチマーク(性能測定基準)には、MMLUやHumanEvalといったさまざまな物差しがあります。しかし、これらの指標は複雑で、専門家以外には優劣がわかりにくいという問題がありました。

一方、「ポケモンをどこまで攻略できたか」というテーマは、一般消費者にとって非常にわかりやすい指標です。「ジムバッジをいくつ獲得した」「四天王に挑戦した」「ポケモンリーグをクリアした」といった進捗は、ゲームをプレイしたことがある人なら誰でも理解できます。

AI各社から公式な表明があったわけではありませんが、各社がポケモン攻略にこだわるのは、こういうブランディング面のわかりやすさがあるでしょう。もちろん各社の中の人たちが子供の頃からポケモンを遊んで好きだったからというのもあるかもしれませんが。

一方で、CPUやGPUのベンチマークと同様に、ポケモン攻略も生成AI側のベンチマーク対策が行われているので、信頼性のある性能評価とは言えないのでは? という声もあります。

例えば、Geminiの場合は、ゲーム内で切断可能な木のような「タイル」を識別するのに役立つカスタムミニマップを構築しました。これにより、Geminiがゲームプレイの決定を下す前にスクリーンショットを分析する必要性が減ったという指摘があります。

ポケモン攻略が示すAIの複合的な能力

とはいえ、ポケモン攻略は生成AIにとって複合的なスキルが求められる点で、総合的な指標として魅力的です。

必要とされる能力には以下のようなものがあります

  • 画面認識と状況判断

  • 長期的な戦略立案(どのポケモンを育てるか)

  • 短期的な戦術判断(バトルでの技選択)

  • リソース管理(アイテムやお金の使い方)

  • 迷路のような洞窟の探索能力

  • ランダム要素への対応(野生ポケモンとの遭遇)

これらは、現実世界でAIが直面する複雑な問題解決に通じる要素でもあります。つまり、AIがポケモンに強くなれば、現実世界のさまざまな問題に対処する能力も向上するはずです。

2025年になって生成AIの活用領域は、会話形式でサポートするチャットボットから、人間の指示を理解してプログラム開発や調査レポート作成など、知的で高度な仕事を自律的に行う「AIエージェント」に移りつつあります。

近い将来、人間に変わって営業活動するAIや、最先端科学の研究まで行うAIを商品化するとOpenAIは発表していますが、AIによるポケモン攻略もそのための学習なのかもしれません。

人間が勝てないAIポケモンマスターの誕生は近い?

チェスも将棋も囲碁も、もはや人間はAIに勝つことはできなくなっています。これらのボードゲームでは、AIが人間のトッププレイヤーを次々と打ち破っていきました。ポケモンでも同じことが起きるのでしょうか?

現時点では、AIたちはまだ人間の熟練プレイヤーほど効率的にゲームを進められていません。例えば、Gemini 2.5 Proは106,000回以上のゲーム操作を経て『ポケモン ブルー』のクリアを達成しましたが、図鑑登録数は26匹(全151匹中)にとどまっています。

しかし、AIの進化スピードを考えると、人間が勝てないAIポケモンマスターが現れる日も、そう遠くないかもしれません。人間がゲームでもAIに勝てなくなった近未来は、AIによるゲーム配信をみんなで見ることになるんでしょうかね……。


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《根岸智幸》

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