
2026年9月、有名ダンジョンRPG「ウィザードリィ」シリーズがついに誕生45周年を迎えます。そんななか、1981年に、故・アンドリュー・グリーンバーグ氏とともに、初代『ウィザードリィ』を生み出した、プログラマーのロバート・ウッドヘッド氏が日本に来日中であるということを知った弊誌。
そこで今回弊誌では、別件のため日本に来日していたロバート氏に特別インタビューを実施しました。
シリーズ最新作『ウィザードリィ ヴァリアンツ ダフネ』を手掛け、「ウィザードリィ」のシリーズ・IPとしての舵取りも行うドリコムの社内で行われた今回のインタビューは、現在のウッドヘッド氏の暮らしなどにも触れつつ、終始穏やかながらもユーモアに溢れた、氏らしいインタビューとなりました。

以降はその様子をお届けします。
「今でもウィザードリィの話をしてくれる人がいるのか」という驚き
――2026年9月で「ウィザードリィ」シリーズ45周年を迎えますが、まずは率直な感想をお聞かせください。
ウッドヘッド氏: 今でも「ウィザードリィ」の話をしてくれる人がいるということに、ただただ驚いています。
――日本を中心に、世界中の方々が今も「ウィザードリィ」で遊んでいます。かつて45年前に初代『ウィザードリィ』を作った結果、ご自身の人生はどう変わりましたか?
ウッドヘッド氏: 「ウィザードリィ」は私の人生の本当に初期から大きな影響を与えてくれました。ゲームの成功とファンの皆さんの支えのおかげで、自分がやりたいプロジェクトに取り組む自由をずっと手にすることができた。その自由は本当に素晴らしいもので、こんな人生を送れるほど幸運だったことに、永遠に感謝しています。
――もし45年前の大学時代に戻れたとして、同じ選択をされますか?
ウッドヘッド氏: タイムトラベルものの映画を散々観てきた身としては、下手に選択を変えると、そんな気がなかったとしても気が付いたら「マッドマックス」のような世界になりかねませんから、もし戻れたとしても、タイムラインはできる限りいじらないようにしますね(笑)

現在のウッドヘッド氏―ロボコン・クラブのメンターとして
――AnimEigoなどのプロジェクトを経て、2026年現在はどのような活動をされているのでしょうか?
ウッドヘッド氏: AnimEigoは、私と同じような哲学を持つ新しいチームに引き継いでもらいました。彼らは素晴らしい仕事をしてくれています。まだ残っているアニメ関連のプロジェクトには継続して関わっていますが、最近の時間のほとんどは、高校生のロボコン・クラブ(編注:日本でも例年行われているロボコンの米国版への出場を目指す学生たちの、複数校合同で行われる部活動のようなもの)でメンター(手本となる相談相手/指導者)として過ごしています。自分でも意外なのですが、今やっていることはプログラミングよりもメカニカルエンジニアリング寄りのことが多いんです。
――教育的な役割ということでしょうか?
ウッドヘッド氏: メンタリングというのは、日本語でいう「先輩・後輩」のような関係に近いですね。教えはしますが、教師ではない。生徒たちが指10本をきちんと失わないで無事に帰ってくるのを見届けるのが私の仕事です(笑)。ロボットの部品を設計する方法や、製造の仕方を調べるための方向性を示してあげたり。彼らは本当にアメリカでもトップレベルに頭のいいティーンエイジャーたちで、特に女の子たちが恐ろしいほど優秀なんですよ。これがとにかく楽しいんです。

生成AIへの「複雑な思い」
――近年のバイブコーディングや生成AIについて、お考えがあればお聞かせください。
ウッドヘッド氏: 正直、相反する複数の意見を持っています。ポジティブな面では、私自身AIを毎日使っています。ブレインストーミングやプロトタイピングに活用していますね。
ただ、たとえばコーディングAIの場合、それ以上のことをするには、プログラミングやデザインについて十分な知識がないと、AIが出力したものを批判的に評価・レビューできません。それがなければ、セキュリティホールやバグといった大きな問題が出てきます。
実はうちの次男はシニアソフトウェアエンジニアなのですが、社内では業務のコード生成にAIを広く活用しています。彼の仕事時間のほとんどはもう、AIがハルシネーション(幻覚/AIの生成結果の極端な間違い)を起こしていないか、出力をレビューすることに費やされているんです。
あらゆる新しいツールには良い面と悪い面があります。ソーシャルメディアを見てください。初期の頃は「世界中の人々をつなげる素晴らしいもの」と言われていたのに、今や大規模な偽情報キャンペーンや政治的分極化を招いている。AIではさらに、本物かどうか見分けがつかないコンテンツを作れてしまう。社会が本当にひどいことが起きる前に、迅速に適応できるかどうか――それが問題ですね。



息子たちは「ウィザードリィ」を遊ばない?
――先ほど少しお話に出ましたが、ウッドヘッドさんのお子さんもゲーム好きだとお聞きしました。どんなゲームを遊ばれていますか?
ウッドヘッド氏: 息子たちは当然のように、退屈な父親がやってきたことはなるべく避けようとします(笑)。好きなアニメも私たちがリリースしたものとは違うし、遊ぶゲームもまったく違うタイプです。
次男はプログラマーですが、実は、全米でもトップクラスの『ファイナルファンタジーXIV』スピードランナーの一人なんですよ。最速のスピードランを実現するための「セオリーの構築」に膨大な時間を費やしていて、シミュレーション用に書いたソフトウェアは、はっきり言って『ウィザードリィ』より遥かに複雑です。しかもスピードランコミュニティの中でチーターをデータ分析で暴いたりもしていましたね。
――直接ウッドヘッド氏が関わったようなものとは違う内容である、『ウィザードリィ ヴァリアンツ ダフネ』も遊ばれていませんか?
ウッドヘッド氏: 遊んでいないですね。小さい頃からママとパパがアニメの仕事をしているのを見てきたので、自分たちのスタイルを見つけたいという気持ちが強かったんだと思います。
それでいいんですよ。彼らは自分のやりたいことをやるべきです。次男に至っては、あれだけ父親がプログラマーだから避けようとしてきたのに、結局自分もプログラマーになったことをちょっと悔しがっていますけどね(笑)

「もし自分が現代に「ウィザードリィ」を作るなら、おそらくこうなる」
――ロバートさんご自身は『ウィザードリィ ヴァリアンツ ダフネ』を遊ばれましたか?
ウッドヘッド氏: はい、サービス開始後に少し遊びました。
――大ヒットしている本作ですが、その要因についてどのようにお感じですか?
ウッドヘッド氏: 開発チームはオリジナル作品の「雰囲気」を完璧に捉えていると思います。その感覚、雰囲気を見事に再現した上で、当時は技術的に不可能だった多くのものを重ねています。グラフィックも、コンピュータの性能も、すべてが桁違いに進歩した中で、あのオリジナルの構造の上により深く、より複雑なレイヤーを積み上げ、さまざまな方向に展開している。
Redditなどを見ていると、ファンたちが「このキャラや武器はこう使うのが最適だ」と白熱した議論をしているのが面白いですね。
オリジナルの『ウィザードリィ』プレイヤーたちが議論していたこと以上に、複雑な要素について論じ合っているんです。ダフネが新しい方向へ枝を伸ばし、さまざまなことに挑戦し続ける限り、成功し続けるでしょう。
――『ダフネ』を遊んだ感覚として、これは「ダフネ」というゲームですか? それとも「ウィザードリィの延長」ですか?
ウッドヘッド氏: これは答えるのがとても難しい質問ですね。ただ、プレイしているとき本当に感じたのは、「もし自分が現代に「ウィザードリィ」を作るなら、おそらくこのような形になるだろう」ということです。
もう1マス先に進んで素敵な宝を手に入れたい――でも安全策をとって街に戻るべきか? あのリスクとリワードの葛藤を、『ダフネ』でもまったく同じように感じました。独立したゲームとして確かに成立していますが、同時に『ウィザードリィ』の進化系譜の中にしっかりと位置づけられている。遺伝子が受け継がれているのを感じます。

日本と海外のファンの違い―「情熱は一緒」
――ところで日本と海外で、「ウィザードリィ」の受け止め方に違いはあるのでしょうか?
ウッドヘッド氏: ソーシャルメディアを見る限り、『ダフネ』について投稿しているアメリカのプレイヤーたちは本当にゲームが好きだからこそ投稿しているわけで、新キャラクターが登場するたびに「このパラメータはもう少しこうすべきだった!」と熱く議論しています。(『ダフネ』の冒険者の画像が使われたスレッドの画面を見せながら)例えばこのスレッドとか。
こういった部分を見ると、日本とアメリカではファン人口に差があるかもしれませんが、ゲームへの情熱の強さ――どれだけ入れ込んでいるか――はほとんど同じだと感じています。
シリーズとしての違いで言えば、北米ではタイトル数が減っていった一方、日本ではスピンオフ作品も含めて長く続いてきたという経緯がありますね。最近は#1のリメイク版が出たことで、北米でもまた『ウィザードリィ』のファンが元気になっているとは思います。
ただ基本的に、日本のファンも海外のファンも、私とアンドリューに対して信じられないほど優しく、心温かい。それが本当にありがたいです。

アニメ「ブレイド&バスタード」への期待―「バトルシーンの限界突破を」
――直近で最も多くの人々に届くだろう「ウィザードリィ」IP作品として、アニメ「ブレイド&バスタード」も控えていますが、原作をご覧になりましたか?
ウッドヘッド氏:なかなか良い作品だと思います。面白いストーリーだし、ユーモアの一部は私好みですね。オリジナルの『ウィザードリィ』のメカニクスにつながる部分も好きです。これが存在して、うまくいっていて、さらにアニメ化されるということが、本当に嬉しいです。
――アニメ版で特に楽しみにしていることはありますか?
ウッドヘッド氏: バトルの演出がアニメでどう翻訳されるかですね。もともと戦闘シーンの表現がとても上手ですが、アニメならではの独自のビジュアルスタイルを見つけて、作品の良さを活かしつつ、さらに一段階上のものにしてほしいです。
アニメの素晴らしいところは、実写ではできないことができる点です。だからアクションシーンはぜひ10段階中11まで(限界突破して)振り切ってほしいですね。


「ウィザードリィ」の未来―「MMOをもう一度見てみたい」
――例えば、「ファイナルファンタジー」のナンバリング作品のように、「ウィザードリィ」もさらに大きく形を変えて進化していく可能性についてはどうお考えですか?
ウッドヘッド氏: MMOを見てみたいですね。かつて『ウィザードリィ オンライン』がありましたし、あれもウィザードリィらしさをちゃんと感じられるゲームでした。「ファイナルファンタジー」だってMMOを複数作っているんですから、「ウィザードリィ」にもう一度あってもいいんじゃないかと。
――ところで、もし「『ウィザードリィ9』を作ってほしい」というオファーが来たらいかがですか?
ウッドヘッド氏: 関わるとすれば、メンターという形が理想的だと思います。メンタリングの本質は、自分の考えを伝え、リソース(培った経験や知識)を示すけれど、最終的な判断と責任はその人たちが持つということ。もちろん、もし本当に興味を引かれる小さなパートがあったら「これは自分がやる!」と言うかもしれませんけどね(笑)。
「どんなゲームを作りたいか」という質問に対しては……正直、1時間ごとに答えが変わりますよ。どんなゲームかという問題よりも、誰と一緒に作るのか、どんな状況で作るのかが重要ですから。
ナンバリングシリーズの進化を振り返って
――「ウィザードリィ」ではシリーズの『6』から『8』にかけて大きく形が変わりましたが、あの進化の方向性についてはどう思われますか?
ウッドヘッド氏: 私は『4』で離れたので――『5』の開発者にツールの使い方を教える程度の関わりはありましたが――離れた当時は、正直あまり考えたくなかった。いろいろな感情がありましたから、意図的にその後の動向を追わないようにしていました。
でも時間が経って、考え方が変わりました。私はあの世界で遊ぶ機会をもらった。その後の人たちもそれぞれ遊ぶ機会をもらった。今は『ダフネ』を作っている人たちがその世界で創造する機会を得ている。
他の人たちが取ったクリエイティブな方向性について、たったひとつだけ気にかけているのは、「彼らがそれを楽しんでやっているか」どうかです。私自身、制作中は本当に楽しかった。大変な時もありましたが、全体として素晴らしい時間でした。ゲームを書くこと自体が、私にとって最高の部分でしたから。
いままでシリーズに関わってきた方々もそうであることを願っています。

50周年、そして75周年に向けて
――最後に、45周年から50周年、さらにその先に向けて、ドリコムやファンの皆さんへメッセージをお願いします。
ウッドヘッド氏: 難しい質問ですね。まず、私たちみんながさらに5年後の50周年を祝えるところにいること、そこで『ダフネ』が元気に続いているか、あるいはさらに何かに進化していることを願っています。
個人的には、75周年にもまだ元気でいたいですね。……75周年の頃には、みんなこのバカなゲームのことを忘れてくれているかもしれませんけど(笑)。

インタビューを通じて感じたのは、ウッドヘッド氏がシリーズに対して持つ深い愛情と、同時に後進のクリエイターたちへの信頼と敬意です。「メンター」という言葉が繰り返し登場したのが印象的でした。
自らが生み出したものを切っ掛けとして、新しい世代が自由に創造することを心から楽しみにしている――その姿勢は、高校生のロボット研究部でのメンタリングにも、「ウィザードリィ」というIPの未来への眼差しにも、一貫して表れていました。
「もし自分が現代に「ウィザードリィ」を作るなら、おそらくこのような形になる」。思いがけず頂いた『ウィザードリィ ヴァリアンツ ダフネ』に対する生みの親からのこの優しい言葉は、今後大きくIPを成長させるために、特定の類型だけでないシリーズの形を模索していく中において、将来の製作者やファンたちにとってこの上ない贈り物と言えるのではないでしょうか。




