■物語は控えめ、それでも「フォトセッション」は唯一無二の体験だった

会話でヒロインのテンションを十分に高められれば、いよいよ本作の要ともいえる「フォトセッション」が始まります。しかし、その魅力を語る前に、本作で気になった点に触れておきましょう。
まず、写真撮影と並ぶもうひとつの柱であるストーリーですが、人によっては少し物足りなく感じるかもしれません。恋愛ゲーム作品には、激しいドラマや涙を誘う展開を描くものも数多くあります。しかし、『LoveR Kiss EM』が描くのは、あくまで学生たちの日常の延長線上にある恋愛です。
劇的な事件が次々と起こるわけではなく、等身大の関係性を丁寧に描いていく作風は、親しみやすさにも繋がっており、決して短所ではありません。ただし、有名な恋愛ゲームのような心を激しく揺さぶるような物語を期待すると、肩透かしを覚える可能性はあるでしょう。

もうひとつ気になったのは、写真撮影の要となる3Dグラフィックです。シリーズを重ねるごとに着実な進化を遂げていますが、近年の高精細な3Dモデルと比べると、細かな部分で粗さを感じる場面がありました。また、ポーズやシチュエーションによっては、髪が衣装やオブジェクトを貫通してしまうケースも確認しています。
こうした点は、人によっては見逃せないマイナス要素になるでしょう。その評価はもっともであり、無理に擁護するつもりはありません。しかし、「フォトセッション」がもたらす体験には、それらを補えると感じたほど魅力がありました。
■カメラ越しだからこそ見えてくる、ヒロインたちの新たな表情

「フォトセッション」の詳細については、今回は割愛させていただきます。というのも、指定できるポーズや表情、姿勢だけでも非常に多彩で、細かく説明するだけでも相当な文章量になってしまうためです。
細かな調整まで可能な「PROフォトセッション」まで含めると、それだけで一本の記事が書けてしまうほどのボリュームがあります。そのため今回は、システムの説明ではなく、実際にプレイして感じた体験を中心にお伝えします。

個人的な結論を先に言えば、本作の恋愛は「写真撮影を通して完成する」と強く感じました。
「フォトセッション」は、ヒロインと遭遇した場所で始まります。教室や中庭、体育館、プールなど、学校内だけでもロケーションは実に豊富です。また、体育の授業なら体操着、プールなら水着というように、その場面に応じて衣装も異なります。そのため、タイミング次第で被写体の撮り方も変わるなど、かなり変化に富んでいます。

撮影が始まれば、ヒロインに向けてポーズや表情を指示し、ときには褒めながら、カメラとの距離や角度を細かく調整し、自分だけの一枚を撮影していきます。
この体験で驚かされたのは、撮影を通じてヒロインの魅力が大きく増したように感じられたことです。これまでいくつもの恋愛ゲームを遊んできましたが、画面に映るヒロインたちの可愛さや美しさをそのまま眺めるのと、本作の写真撮影でヒロインたちに注目する感覚は、全く異なる体験です。

『LoveR Kiss EM』のヒロインたちは、プレイヤーの指示に応じてポーズや表情を変え、そのたびに新たな魅力を見せてくれます。しかも、彼女たちは言われるまま動くだけの存在ではありません。少し身じろぎをしたり、こちらの様子をうかがったりと自然な仕草を見せ、距離を詰めすぎると頬を赤らめて戸惑う反応まで返してくれます。
プレイヤーの振る舞いによって、その瞬間ごとに異なる魅力を垣間見せ、それを写真として切り取っていく。この、言葉にならないやり取りそのものが、主人公とヒロインの関係性を何より雄弁に描いているように感じました。


分かりやすい例が、幼なじみである「日向寺南夏」との撮影です。普段は男女というより親友同士のような距離感ですが、撮影で顔を近づけると、南夏は思わず赤面し、困ったような表情を浮かべます。その何気ない変化だけに、思わずこちらも動揺し、心をくすぐられるような気持ちが湧き上がってきます。まるで、恋を疑似体験したかのように。
ファインダーを通して見えてくる、ヒロインの新しい一面。それを浮かび上がらせ、積み重ねていくことで、ゲームの中のヒロインと現実世界にいるプレイヤーとの距離が、少しずつ縮まっていくような体験を覚えました。

劇的な展開こそありませんが、等身大の恋愛を描く物語と、写真撮影を通じて深まる関係性。このふたつが組み合わさることで生まれる体験こそ、『LoveR Kiss EM』ならではの魅力だと感じました。
恋愛SLGと写真撮影を組み合わせたゲームは、遊ぶ人を選ぶジャンルでしょう。だからこそ、他では味わえない体験を提供してくれる作品とも言えます。少しでも興味を惹かれたのであれば、一度手に取ってみる価値は十分あるでしょう。



