坂本真綾 ロングインタビュー「喪失感は宝物になる」 30周年を終えて語る、「Fate/Grand Order」11年の軌跡とベストアルバム「余韻」

声優・アーティスト坂本真綾がデビュー30周年を経て語る創作の軌跡。『Fate/Grand Order』と歩んだ11年の物語、そして主題歌ベストアルバム『余韻』に込めた想いを明かす。

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坂本真綾
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デビュー30周年から先へと踏み出した坂本真綾が、11年に渡ってテーマソングで寄り添ってきたスマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』。そのすべての主題歌を収録したベストアルバムを7月29日にリリースした。

始まりの主題歌「色彩」から、2025年12月末に11年を掛けた物語が大団円を迎えた瞬間に寄り添った「時計」まで、共に歩んできた楽曲を収録。30周年のアニバーサリーイヤーの活動を終えた今の思いと共に『Fate/Grand Order』主題歌ベストアルバム『余韻』について話を聞いた。

[撮影:You Ishii]

◆ 30周年を越えて感じた“積み重ね”の重み

ーーデビュー30周年を超え、アーティストとしての歩みを振り返って 今、最も感じるのはどんなことですか?

坂本真綾 一年間に渡って展開した「30周年記念イヤー」ですが、始まる時には、とにかくいつも聴いてくださっているみなさんと仕事を一緒にしてきてくれた仲間に感謝する気持ちが伝わる年になったらいいな、という漠然としたイメージだったんです。でも最後の締めくくりとして有明アリーナでのライブを終えた時に、想像していた以上に自分にとってかけがえのない、忘れられない節目になったなと思いました。20周年、25周年、とだいたい5年刻みでやってきて、その都度振り返ったり、周りへの感謝や自分の歩んできた道を噛みしめる機会はあったのですが、やはり年数が経てば経つほど、感慨深さは増します。改めて30年ひとつのことを続けることは、自分の努力だけでもないし、運とか周りの人の導きーーいろんなことが重なって出来たことなので、本当にすごい数字だなと終わってから噛みしめた感じでした。

ーー30年前を振り返ると、どんなご自身を思い出しますか?

坂本 30年前は、まだ10代ですから何者でもないという感じで世間知らずでした。子役からこうした仕事をしていましたが、確固たる目標があって飛び込んだかと言えばそうでもなく、覚悟や信念みたいなものもまだなかったような気がします。習い事の延長のように始まった世界で経験が乏しい中、それでも人前でパフォーマンスをしたり、自分の名前で何かが世の中に出るという体験をしながら、徐々に責任感を身につけていきました。だから最初のうちは本当に何もない、ただの子供だったなと思います。

ーーこと「音楽」で考えると、向き合い方もかなり変化があったのではないかと思いますが、いかがですか?

坂本 もともと役を演じることからこの世界に入り、演技は自分じゃないものになりきることがすごく開放感もあって楽しかったのですが、歌う時には私自身が何を考えているのか・・・私は何が好きで、どうしたいかも周りは聞いてくれるし。自分で表現していかなければいけない立場になるので、改めて「自分とは」を自問するいい機会になっていました。

歌詞を書くことでも一層そういった時間になりました。いろいろなことにぶつかったり、自分の中でモヤモヤしたものが生まれやすい思春期に、詞を書き歌いながらじっくり向き合えたことは、10代の私にとっては自分のための時間で貴重なものでした。その時間がなければ、もっとぼんやり過ごして、もしかすると自分自身に向き合うことから逃げ出していたのではないかなとも思います。

ーー10代で戸惑いながら始めた音楽表現は、20代、30代、と進んでいき、その中で「譲れない部分」などは生まれていきましたか。

坂本 デビューから9年間、タッグを組んでくださった菅野よう子さんが、私の全てにおける原点になっています。菅野さんは、音楽をご自身が誰よりも楽しむ姿勢を常に持ち続けながら、嫌なものにははっきりと「ノー」と言って、周りの人に自分の気持ちを伝えるのが上手です。自分にとってのある種、メンターみたいな存在が10代の時に出会えた菅野さんだったんです。

その菅野さんと離れてから、改めて自分はどういう風に仕事をしていきたいかと考えたときに、菅野さんの素敵なところを見習いたいという気持ちで過ごしていた部分は大きいかなと思います。仕事に対しての姿勢ですね。仕事は、そもそもは自分の幸せな気持ちが全ての源になるべきだと思っています。また疑問が湧いたら近くにいる人に聞くとか、「嫌だな」と思ったら怖くても伝えるとか、「この人と一緒に仕事がしたい」と思ってもらえるような人になりたいなとか・・・そうした姿勢を心に留めながら、いろんな人と出会う中で鍛えてもらったかなと思います。

ーー振り返ると作ってきたものには年齢観が出ましたか?それとも時代観が出ていますか?

坂本 もちろん時代観はきっと含まれているのでしょうけれど、私にとっても誰にとっても、10代、20代、30代、40代、というのは本当に変わっていく時期ですよね。自分の中でも価値観が変わった部分と変わらない部分がありますが、歌詞を書く時の切り口や視点は人生経験と共に変わってきたかもしれませんね。変化は年齢に応じてあるものだと思います。

ーーライブに向ける姿勢はいかがですか?

坂本 ライブはもともとあまり得意ではないというか、最初の頃には「怖い」という気持ちがすごく強かったので、出来ればやりたくないという思いでした。緊張もすごくしますし、「自分らしさとは何なのだろう」というのがよくわからないままライブに向かうのが不安で。ずっとビクビクしていたんですけど、菅野さんのプロデュースを離れた後に、“できれば避けていきたいと思っていたけど、今の自分ならもうちょっとなにかできるかもしれない“と急に思ったことがあったんです。それが『かぜよみ』というアルバムを作った時だったのですが、そこから「もうちょっとこうしてみたい」とか「次はもっとこうなりたい」という自分の欲にも繋がっていって、やるほどに楽しさもわかっていき、いい仲間にも恵まれてすごく大事な場所になりました。

お客さんの顔を見ながら、その場所を共有していけることは特別だし、昔の楽曲も、何年も経ってから歌うとまた自分の中で変化が現れたりして。曲って、レコーディングしてCDになって完成ではないんだな、ライブでどんどん変わって、成長していくものなんだな、ということを面白いと思うようになりました。

ーーご自身と向き合って作ってきた楽曲たちは、どのように進化していきましたか?

坂本 自分で書いた歌詞でも、書いた時には思っていなかった解釈が年を重ねた後にライブで歌いながら、ふと「この歌詞ってこういう風にも捉えられるな」とか「当時とは違うけど、今の自分にしっくりきているな」とか、そうした発見はあるんですね。

もちろん誰かほかの人が書いてくれた歌詞でも、自分の経験値とか言葉の受け取り方も常に変わり続けるものなんだなと思います。一方で昔から歌詞を書くときに、たとえば流行り言葉を使うのではなくて、時代が変わっても聴けるものであって欲しいという思いは昔から持っていました。常に発見を重ねて進化していたいけど、同時に、いつ歌っても古くはならない音楽でありたいなと。

30周年ライブでもデビュー当時の曲を歌いましたが、楽曲自体が素晴らしいということもありますが、歌詞に関しても10代の私が歌っていたものを今の私が歌っても全く恥ずかしくはない、不思議なフレッシュ感がずっとあることはありがたいことだなと思います。

ーー30周年記念のライブに踏み出す際のご心境はどのようなものでしたか?

坂本 最初こそ「30周年だし、何かやらなきゃなあ」という気持ちでしかなかったのですが、たとえばアルバムが発売したばかりであれば収録曲をもっと好きになってもらいたい思いもあって新曲が多くはなりますが、周年ライブでは代表曲と言われるようなシングルのA面曲がずらりと並びますし、初めてライブに来た人でも楽しめるものにするのが役割かなとも思っていて。とにかく私のことをよく知らない人が来ても、純粋に曲だけを聴いて「楽しいな」「心地いいな」と思ってもらえるような、音楽を味わいに来てもらえるものにしたいなという思いがあったんですね。アリーナクラスという大きな会場でのライブには慣れていなかったので、「怖いな」と思いもあったんですけど、これまでやってきた自分が積み重ねてきた経験が背中を押してくれるような感覚もあって「まあ、大丈夫だろう」と思えたところもありましたし、長く続けてきてよかったと思いました。

ーー30周年から先に進んでいらっしゃいますが、ここからのことはどのように考えていらっしゃいますか?

坂本 本当に30周年を終えて、ずっと張りつめていたものから「無事に終わってよかった」と思ったあの瞬間から、全然動けていないんです(笑)。まさに『余韻』で。4月に終わって、「まだ2か月だからいいだろう」と思っていたものの、7月になりましたし、ここから動きださなければなと考えているところです。その中でアルバム『余韻』のリリースもあって、物理的には止まってはいないわけですが……。

やはり大きな節目を終えたばかりなので、シフトチェンジをするというか、ギアを変えていくのは気合が必要だな、という思いは正直あります。でももともと先々まで目標を見据え活動してきたわけでもなく、目の前のことを必死にやっていくうちになんとなく時が過ぎてきたタイプなので、今も目標はないんです。次に来る35周年などもどうなるかわからないんですよね。感覚的にはすぐに来てしまいそうですが、その時の私は50歳になっているので、ちょっと先の未来だけど自分がどういう風になっているのか様子を見ている感覚です。

◆“色彩”に始まる物語 奈須きのこ氏と交わした創作の記憶

ーー『Fate/Grand Order』主題歌ベストアルバム『余韻』がリリースされました。最初のテーマソングとなった「色彩」。こちらのオファーがあった際には奈須きのこ先生や制作陣とのエピソードがあれば教えてください。

坂本 いつだったのかはパッと出てはこないですが、ローンチされるずいぶん前に「こういうスマホゲームを作るんです」と奈須さんの方から主題歌のオファーをいただきました。それで「どんな曲がいいか」という話と同時に「どんな歌詞がいいか」というお話もしたのですけれども、奈須さんご自身が作家ですし、別の作品でご一緒して作品を読んで鋭い感覚をお持ちのことはわかっていたので、その奈須さんではなく私が詞を書くことはプレッシャーだなと思いつつ、「まだお客さんは何も知らない作品ですが最後はこうしようと思っています」、という話を聞いたので「こういう歌詞にしようかな」と持ち帰った思い出があります。

ーー今だからこそ納得されるような会話はありましたか?

坂本 そんなことばっかりです。スマホゲームのすごいところですが、最初に一応「こうなる予定です」という結末を聞いていたけれど、結末までこんなに長く時間が掛かるとは誰も思っていなかったようで。途中で詳細なエピソードが膨らんでいったのだとは思いますが、私の書いた歌詞が奈須さんの糧となったようで、エンディングは「色彩」の歌詞にかなりリンクしたストーリーにしてくださったんです。

アニメであればシナリオがあがってからテーマ曲を作ることも多く、歌詞から物語が動いていくことはありませんが、『Fate/Grand Order』の場合、同時進行という形で進みましたので、奈須さんも「すごくいい」と言ってくれた「色彩」の歌詞で、「エンディングがより明確に見えてきた」とおっしゃってくれたんです。

本当に実際にスクリプトの中に「色彩」を思わせるようなフレーズが入ってくると、ユーザーさんの「そういうことだったのか…!」や「最初から狙って書かれた歌詞だったのか!?」といった体験になっていく様子を知って、とても気持ちいいんです(笑)。そうしようと作り始めたわけではないけど、一緒に作りながらそうした着地をしたことで、すごくうまくいった一曲目の主題歌だったと今でも感じています。奈須さんが、当初の予定以上に「色彩」をフィーチャーしてくださったから、ユーザーさんにとっても印象深い曲に育ててもらったと思っています。

ーー2曲目の「逆光」は2017年に公開、2018年リリースでしたね。

坂本 はい。そんな「色彩」を受けての「逆光」だったので、どうしようと考えてしまいましたね。みんな、同じようなものを求めてしまうと思いましたから。それでエンディングがどうなるかを聞いたのですが、その時点でわかっていたことはすごい大枠だけで、詳細は未定でした。なのでこの曲は、「この人を主人公にしてエンディングのこの部分の気持ちにリンクしたらいいな」と思いながらの作り始めでした。

そもそもこの作品は誰も11年もやるとは思っていなかったんです。主題歌も6曲も誕生して歌うことになるとは、企画の始まりではまったく予期していなかった。想像以上に人気の出た作品となり、長く時をかけて、みんなで育ててきたことは思ってもいない喜びでした。

ーー「FGO」の2部のラスト(2025年12月)で全世界の藤丸を驚愕させました。そのタイミングまで、坂本さんとしても何も言えないままだったわけですね…?

坂本 「いつ終わりを迎えるのかな」って思っていて、「ネタばらしはいつやってくれるんだろう」と待っている状態でした。曲ができたのはかなり前ですし、「2部の主題歌です。結末はこうなります」と聞いてはいたけれど、しかも進んでいく中で2部の途中でとあるキャラクター(アルトリア・キャスター)のためにテーマ曲を作ってください、と言われて「エーー!?」となりました。「みんなが『逆光』のことを忘れてしまわない?」と思っちゃいました。でもちゃんと「逆光」に戻るから大丈夫と言われて作りましたが、それくらいみんなで前に進みながらもいろいろ予期せぬことが起こりながらの11年でした。2部は特に長い時をかけた気がしますが、忘れた頃に無事に「逆光」が帰着して良かったなと思いました(笑)。

ーー歌詞の仕掛けは最初から作ってあったということですか?

坂本 いえ、「逆光」については、奈須さんから事前に聞いていたお話とだいたい合ってはいるけれど、「まさかそんな展開になるの?」という驚きの方が大きかったですね。私自身が(ゲームの展開を)すごく知っていたのかなと思われているかもしれないですが、そんなことはないんです。「逆光」から奈須さんは歌詞と噛み合うようにストーリーを書いているとも思うので、餅つきみたいな感じで、「ハイ!」「どーぞ!」みたいにお互いにしながら、『Fate/Grand Order』という餅を作っていきました。

それが『Fate/Grand Order』に関わっていて、私が面白いと思うところでもあって。基本的には奈須さんが総監督で作っている作品で、そこにはたくさんのクリエイターさんが入って進めてきたストーリーで、私が関わる余地はどこにもないけれど、たまたま主題歌を担当させていただいて歌詞を書いたことで、そこにインスピレーションの欠片として参加させてもらって、物語の一部に溶け込ませてもらえたことは他では味わえない経験です。物語にも絡ませてもらったような感覚を味わえて嬉しかったです。

ーーある種のストーリーメーカーでもあったわけですね。

坂本 そこまで大きな役割ではないですが。『Fate/Grand Order』のファンのみなさんは奈須さんの作品を好んでいる方が多いからこそ、言葉にすごく敏感ですし、そこから想像力を膨らませて自分の解釈を味わうという楽しみ方をしているし、それを奈須さんもわかっていらっしゃるんですよね。単純にイメージの合う曲というよりも「色彩」での体験のように、「ここはこういう意味ではないか」と焦らされている間にどんどん想像力を掻き立てることもまた『Fate/Grand Order』の楽しみ方なのかなと思います。だから私が歌詞を書いた時に考えていたイメージと、お客さんが持っているイメージは違っていくのだと思います。『Fate/Grand Order』のファンによって、どんどん新たな解釈として加わっていくことは面白い体験でしたね。

◆広がる世界、「空白」「躍動」に込めたエールと挑戦

ーー本線とは違う、『Fate/Grand Order Arcade』の主題歌「空白」も作られました。「彼方のカルデア」での物語の主題歌として描かれる際に「色彩」「逆光」との制作時で、意識に違いはありましたか?

坂本 「空白」は難しかったです。「色彩」をTYPE-MOONの武内 崇さんと奈須さんにすごく気に入っていただけたんですね。それで「2部の主題歌も」と言っていただいたのと同時くらいに「実はアーケードゲームもありまして……」と言われたんです。第2部の主題歌を決める時にla la larksも曲を出してくださって、どちらの曲も好きすぎて選べないとなったんです。「逆光」を採用したけれど、もう一つのデモも歌って欲しいとTYPE-MOONでもなっていたので、ここでアーケードゲームのために歌詞を乗せました。

こちらは物語が明確にあるわけではないですが、イメージとしては第1部が終わった後、みたいな、1部と2部のブリッジ的な時間軸を思い描いてもらえればいいです、というところでした。「失ったものはあるけれど、前に進んでいく」みたいなテーマだったと思います。「色彩」を作った時には全然そのつもりはなかったんですけど、アーケードと第2部の主題歌の打ち合わせはほぼ同時にやっていて、「失ったものはあるけれど……」というテーマを聞いた時に「空白」というタイトルがいいなと思い浮かんで、「タイトルを全部漢字2文字にしちゃおうかな」とその場で思いつきで言ったんです。それで「色彩」「逆光」「空白」が三部作的に聴ければ面白いかなと思ったんですけど、その時点では6曲目までいくことになるとは思ってもいなかったです。奈須さんも適当に「いいですね」と言っていましたね(笑)。

ーーその2部では「逆光」があるのに“後半の主題歌”として「躍動」が誕生します。

坂本 もうだんだん「奈須さんガンバレ~!」みたいな気持ちになってきて、奈須さんが思い描く結末まで応援しなきゃという思いでした。「色彩」の時に結末を聞いているし、いつかそこにたどり着かなければいけないけれど、クリエイトしていくことは本当に大変だと思いますし、奈須さんの筆が進むためには何でもやります、とばかりに、奈須さんにエネルギーを充填するような曲を作らなきゃ、という思いでした。この頃には私も「書くことがなくなってきましたよ~」みたいな気持ちが少なからず自分の中には出てきた時期でしたね。物語としての根幹は「旅」というキーワードや、大変なことが起きるけれど前を向く姿勢の部分でも似てきてしまうので、そこでどうオリジナリティを出そうかなと悩みながら作っていました。

ーーユーザーにとっても大切な一曲になったと思います。

坂本 もちろん『Fate/Grand Order』を知っている人にとっては、奈須さんが一緒に並走して、この曲の解釈を伝えてくれるけれど、『Fate/Grand Order』をやったことがない人も私の曲として聴いてくれるので、その都度、自分からのメッセージとしても聴いてもらえるように作っています。この「躍動」を作ったのはいろいろなことが混沌としていた時期で、理屈じゃなく突き動かすもののために、もう一回必死になってもいいんじゃないかなと考えていたときでした。

個人的には歌い出しの「手に入れるのが勝利なら」からの4行をすごく気に入っていて。それが書けた時に、私個人の曲としては言葉が強いんだけど、『Fate/Grand Order』という世界観がバックとしてあるからこそ、臆せずにこういう歌詞が書けたなと思いましたし、自分の作品だけれど、ゲームのメッセージでもあるというバランスが取れた曲になりました。

◆キャメロット二部作──「独白」と宮野真守が歌う「透明」、ふたつの視点で紡いだ想い

ーー「独白」は、劇場アニメ『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編 Wandering; Agateram』の主題歌です。ベディヴィエール視点の曲であることが、これまでと大きく違っていた一曲でした。

坂本 難しかったですね。前編、後編となることが決まっていましたし、後編の主題歌を宮野真守くんが歌うことも決まっていたので、私の役割はまだ終わっていない物語のエンディングなんです。何かを解決させるわけにもいかないので、ずっと悩んでいるだけの曲になりました。暗いんです。とことんドロドロと陰鬱な曲にするしかないと思って、そのようにしました。辛いところで掛かる曲ですが、作品に寄り添えた曲になったと思います。それこそ後編の主題歌「透明」は温かい、救いのある曲だったので、対極にある2曲がいいなと感じていました。

ーー宮野さんの歌う「透明」での作詞を手掛けられることも決まっていたんですか?

坂本 そうなんです。やはりこの流れなので、歌詞は私に、と言ってくださいました。宮野真守くんが歌うけど、世界観としては共通させたいから書いて欲しいと言ってくださって、いよいよ『Fate/Grand Order』のスタッフに近くなってきたなと思いながら書きました(笑)。でも嬉しかったです。

この曲は(コロナ禍で)宮野真守くんがファンの方となかなか一緒のタイミングで楽しめない時期に作っていたので、宮野真守くんがもう一度大勢の人に囲まれて歓声を浴びて「この時を待っていたんだ」と愛されている中で歌って欲しい、というイメージを持って書いていました。一曲一曲、それぞれに人生の色んな場面でBGMになる曲になって欲しいなと思いを込めて。

◆物語の終着点。最終章「時計」に託した優しさと再生

ーーそして2部の最終章の主題歌は「時計」でした。

坂本 これだけの長い時間を締めくくるのに。「逆光」では救われないのではないかという気持ちもありましたし、私としても節目の曲を考えていました。いわゆる漢字二文字シリーズが求められるままに激しくとげとげとした曲が多かったので、最後の最後は優しい曲で終わりたいなという個人的な思いと、奈須さんをはじめとしたこの作品のラストに向けて走ってきたみなさんへのねぎらいみたいな気持ちもあって、誰に頼まれていなくとも私には書きたい思いがありました。

どんな曲を作りましょうかという話の時には「私としては優しい曲にしたい」と伝えたら、奈須さんからもいろいろとキーワードがあがってきたんですね。「日常的な一歩を積み重ねて次の世代に繋がっていくんだよ」ということ「その一歩は大きな一歩でなくてもいい」とおっしゃって。「『Fate/Grand Order』を終わらせるのがあなた自身であるということは尊いことだ」、そして「誰も知らないけどすごいことをした。それをバネにしてまた日常を生きていこう」と「喪失感が宝物になるよ」というものでした。もちろんユーザーさんの気持ちを汲む部分もあるし、「喪失感が宝物になるよ」というのは誰にでも響く言葉だなと思ったし、何でもない一歩を踏み出し続けることや、誰に知られなくても自分の信じることをテーマに書くことは素敵だなと思って、そこから作っていきました。

ーーついに6曲目がユーザーへと届いた時にはどんなお気持ちでしたか?

坂本 前告知なしに突然情報が出て、みなさんプレイしながら、早い人はもうこの曲を聴いているかもしれないと思いながらの年末でした。嬉しかったです。みんなが「終わらせたくない」と言いながら「時計」を聴いて、まさに「余韻」を楽しんでいる年末でしたね。やっとこのタイミングが来たんだな、という思いでした。名だたるアーティストに楽曲を作ってもらいましたが、最後は私の作詞、作曲の一曲であったことは、本当に嬉しかったです。30周年の節目でもあったので、そこで『Fate/Grand Order』に私の楽曲で記憶に残るものを作りたかったなと思っていました。

ーーここまで6曲、「透明」を入れれば7曲で『Fate/Grand Order』に寄り添ってこられましたが、歌詞を書く際に最も意識していたのはどんなことでしたか?

坂本 物語の主人公の気持ちや目線にはなるんですけど、やっぱりそこに自分の視点と交わるところをいつも探していました。物語の人の気持ちだから他人である、ではなく、自分と重なるから書けると思うんです。自分と重なるからユーザーさんにも響くんだと思うし、この作品はあくまでファンタジーで、いろんな偉人が出て来て、どこまでも創作物なはずなのに、読む人、プレイする人にとってはとても人間臭いドラマがあることが魅力だと思うんです。歌詞を書いている時も人間臭さや迷い、葛藤、ダメなところや弱さを曝け出すことがこのシリーズにはあったかなと思っています。

ーーゲームを終えて、「時計」が流れた時に、歌い出しの「思い描いてたさよならとは少し違ったね」と言われて「本当だ」と思いました。

坂本 ふふふ(笑)。「本当だ」。狙い通り!

ーー『Fate/Grand Order』のユーザーにとっては物語と共にある曲でしたが、先ほどもお話されていたようにゲームを未プレイ、世界観を知らないリスナーも聴く楽曲です。そうした環境のために作詞で大事にしたのはどういったことでしたか?

坂本 楽曲にもよりますが「時計」で言えば、「悲しいな」という気持ちの時に、どういう歌だったら聴きたいかなと考えたんです。受け止められない悲しい何かがあったときに、「大丈夫だよ」とか「元気出せ」と言われるのは嫌だなと。しばらくはその悲しみの中にいていい、今はその気持ちに浸っていていい、その喪失感に浸るのも大事なんだよと言いたくて。どんな人の人生にも起きうる望まない別れや予期せぬタイミングでの別れはあるなとイメージして書きましたね。

ーーDisc2に「unplugged session」が収録されています。雰囲気を変えて楽しめる楽曲群の中で、「透明」も収録されました。宮野真守さんが歌っていたナンバーのセルフカバーを改めて歌っていかがでしたか?

坂本 歌詞提供をした時にはセルフカバーする予定はなかったのですが、こうして集めてみた時に漢字二文字シリーズは網羅したいと思って、外せなかった曲だったので、セルフカバーさせてもらいました。宮野真守くんの歌とは全く違うアレンジになっているので、印象も違いますが、このバージョンも味わってもらえたらなと思います。

◆『余韻』というタイトルに込めた意味と、つながり続ける想い

ーーそんなベストアルバムに『余韻』とつけたのはどうした理由でしたか?

坂本 『余韻』しかないなと思いました。いろいろと出しましたが、その中でもみんなが「これだね」と言った言葉でした。一つの作品の主題歌だけでアルバムが出せるなんて、すごいことだなと思いますし、漢字二文字も何気なく言い出したことが一つのジャンルみたいになりました。私の楽曲は今256曲あるとのことですが、その中で『Fate/Grand Order』というジャンルができたなと思います。この作品を通して私を知って、聴くようになった方々も確実にいらっしゃるんです。私の30年の活動の3分の1の時間を共にしてきて、『Fate/Grand Order』のおかげで繋がったファンの方たちとのご縁もあるはずですし、とても広い世代の方に知ってもらえたことはすごいことだったなと、楽曲をまとめながら思いました。

ーーアルバムのスリーブがTYPE-MOONの武内さん描き下ろしのイラストジャケットとなっています。

坂本 お願いしたのは1枚だったのですが、3枚描いてくださったんです。ぜひ味わっていただきたいです。

ーー11年という時間を共に歩んできた『Fate/Grand Order』。今、改めてどんな存在ですか?

坂本 みなさんはどうだったかわからないですが、当初の私はスマホゲームでのRPGってどういう感じ?と思っていたんです。こんな風に日本だけじゃなく海外の方たちも熱中して愛される一大ムーブメントを起こす作品になるなんて想像もしていなかったですし、ゲームというよりもストーリーを楽しむ人が多いのも奈須さんの作品ならではだなと思いました。

キャラクターとしては最初に思っていたのとは全然違い、いろんなことをやらされ、小さくなったり、全然違う作品にも出て来たり・・・私の声ばっかりでデッキを組んでる人もいるんじゃないかってくらいキャラクターも担当しましたから。どう差をつけようと考えもしました。声優としてもいろいろと経験をさせてもらいました。

ひと段落がつくことはすごく寂しいですが、これだけ大きく成長した作品をちゃんと着地させることもすごくエネルギーがいることだと思いますし、クリエイターさんたちの「ちゃんと終わらせたい」という気概も素晴らしいものでした。『Fate/Grand Order』という壮大なシリーズはいかなる方向からも続くでしょうし、また新しいことがはじまることも楽しみです。

ーーこのアルバムに11年分という坂本さんのどんな表情が詰まっていますか?

坂本 いつもの楽曲の雰囲気からすれば、尖ったハードなものが『Fate/Grand Order』との出会いによって増えたなと思っています。どこか自分の中にある一部分をデフォルメして表現しているような感覚があります。最初は「これはライブで歌えるかな?」と不安になるような難しさと激しさのある曲ばかりでしたが、確実に自分の中の一部として存在していて、歌っていて独特のカタルシスがあるというか。この難曲を歌うことでしか発散できない思いがあって、なくてはならない楽曲になっています。自分の個性の一つがここに詰まっているなと思います。『Fate/Grand Order』はこれから始めたい人もいつでも始められるゲームでもあります。もしかしたらこのアルバムから興味を持って始めてくださる方もいるかもしれませんし、ずっとやってきた方はまさに『余韻』を楽しむベストアルバムになっていますので、一緒に反芻してもらいたいです。

◆リリース情報
『Fate/Grand Order』主題歌ベストアルバム『余韻』 
発売日:2026年7月29日(水)

●[初回限定盤][2CD+BD] 価格:4,950円(税込)

【Blu-ray】
・2021年に東京オペラシティで行われた無観客配信ライブ「Fate/Grand Order 6th Anniversary Special Live~Maaya Sakamoto Unplugged~」
[LIVE収録曲]1. 独白 2. 逆光 3. 躍動
[LIVE MUSICIANS]坂本真綾(Vo)、扇谷研人(Piano, Pipe Organ & Band Master)、福長雅夫(Dr. & Per)、藤谷一郎(W.B)、外園一馬(A.G)、室屋光一郎ストリングス(Strings)
・「時計」Music Video

●[通常盤][2CD] 品番 価格:2,750円(税込)

【商品仕様】
・武内崇(TYPE-MOON)描きおろし両面イラスト三方背スリーブケース付き
【収録楽曲】
<Disc1>
01. 色彩(スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』主題歌)
02. 逆光(スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』第2部主題歌)
03. 空白(『Fate/Grand Order Arcade』主題歌)
04. 躍動(スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』第2部後期主題歌)
05. 独白(『劇場版Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編 Wandering; Agateram』主題歌)
06. 時計(スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』最終章主題歌)

<Disc2>
01. 色彩 ~unplugged session~
02. 逆光 ~unplugged session~
03. 躍動 ~unplugged session~(新録)
04. 透明 ~selfcover~(新録/提供曲セルフカヴァー)

《えびさわなち》

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