ゲーム開発者が知るべき「文化盗用」リスクと対策 ―キム・カーダシアンから『鬼滅の刃』まで【CEDEC2026】

CEDEC2026、パシフィコ横浜ノースで、野本新氏が文化盗用リスクの定義と法的・社会的リスク、各国の制度、リスク管理の手順を解説。事例を通じ表現の自由と責任のバランスを提言。

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ゲーム開発者が知るべき「文化盗用」リスクと対策 ―キム・カーダシアンから『鬼滅の刃』まで【CEDEC2026】
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2026年7月22日から24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにてゲーム技術者やコンピュータエンターテインメントのエンジニアらを対象とした、国内最大級のカンファレンス『CEDEC 2026』が開催されました。

12会場に分かれて数多くの講演が行われましたが、シティユーワ法律事務所の野本新氏が講演「文化盗用リスクの管理を考える~想定外のトラブルを避けるためにできること」をおこないました。

文化盗用の事例をあげるだけでなく、法的/社会的リスク、その対応プロセス、制作フェーズにおいてチェック・注意すべきポイントについて、さまざまに語っていきました。

野本氏は手始めに、文化盗用の定義について、多様なケースを挙げて説明していきました。

「文化盗用(Cultural Appropriation)」という言葉は法律用語ではなく、一般的には「ある文化に関するものを、その他の文化に属する人が使用すること」という非常に広い意味で用いられると説明しました。

たとえばアメリカで活躍する女性シンガーのケイティ・ペリーが、和風に仕立てたステージ衣装を着ていたことが文化盗用ではないかと指摘され、後に釈明した事例を紹介しました。すこし時代が近年になると、アメリカのモデル・ソーシャライトであるキム・カーダシアンが、新たに立ち上げた下着ブランドに「Kimono」という名前をつけたことで、日本文化の盗用ではないかと指摘され、日本を含む各所から抗議をうけ、ブランド名を変更した事例を紹介しました。

逆に日本のコンテンツで指摘をうけた例として、アニメ『鬼滅の刃』の劇伴にイスラム教の礼拝で使われる「アザーン」が使われているとして、イスラム教徒から問題視され、当該商品の出荷停止と回収が行われた事例をあげました。

ゲーム『Ghost of Tsushima』では、2018年に行われた発表イベントで白人系のアメリカ人が日本の伝統楽器である尺八を演奏したことが問題となり、アトラスから発売された『真・女神転生V』ではヒンドゥー教の神々が悪のキャラクターとして描写されているということで、ヒンドゥー教の各コミュニティから批判をうけたといった事例も紹介しました。

こういった事例をみるに、マイノリティの文化や言語などをマジョリティの人が使う場合というのが、主に問題となることが多いという点がある、両者の間に社会的・経済的・政治的権力のアンバランスがある、またはマイノリティに対する偏見や差別に基づいている場合に問題が生まれるケースが多いとしました。

ですが、他文化の表現を使用することがそのまま"悪"であるかといえばそうではなく、今まであった表現をアイディアの着想にしたり、場合によっては少し模倣したりしながら、どの国でも表現が発展してきたという歴史があり、法律でも表現の自由ということで一定の保護をしてきた流れがあります。

逆に、他者の表現を使うことがなんでも芸術のために許される、というわけではなく、著作権法に基づく一定の限界などももちろんあるといいます。

表現が自由であることを前提としつつ、一定の限界をうけつつ、行なうべき・踏むべき手順や工程について。今回のセッションではここを探求していくポイントだと、野本氏は提示しました。

くわえて「文化盗用」という言葉が、さまざまな問題を表現するのに便利なキーワードとして使われ、広まってしまっている傾向もあると指摘します。いろいろな国で先住民族とそうではないマジョリティの人たちなど、さまざまな人達が混じり合って暮らしていますが、先住民族の文化とそれ以外で区別があるなかで、「そもそもなにが文化になるのか」「そもそも文化盗用という言葉で他人を非難する資格は誰にあり、文化は誰のものなのか」そういった視点・見解がさまざまあるといいます。

自分たちの民族の独自性が失われること、他文化を使った人たちに経済的な利益はあるが文化を生み出し保持してきた側がそういった利益を得られないこと、表面的になぞっただけでさまざまな間違いが含まれていること、他文化を使いながら別の文化圏や他国を差別、攻撃することにつながっていることなど、さまざまな問題があります。

こういった文化盗用の問題は、根本的に他者を軽視する姿勢から生まれているのではないか。そのように野本は述べました。

こういった文化盗用の問題は、日本に住んでいる人々からみて正確に理解しづらく、ダイレクトに接触する機会も多くなく、被害を実感する場面も少ないことも影響しているといいます。日本の文化が西洋の文化を取り入れ、自分たちに合うように変えてきた経験が多くあり、「和魂洋才」という言葉もあるように、他国・他文化のひとがどう考えるかを分かったつもりでもまったく見当外れになってしまうことも大いにあり、日本文化を他国の人が利用することを肯定的に評価、捉えがちになっていると伝えました。

◆文化盗用と指摘されたら?

つぎに、文化盗用だと指摘された場合について話を進めました。謝罪をする、製品を回収する、CMを取りやめるといったレピュテーションリスクが発生しますが、どういったケース・リスクがあるのでしょうか。
※レピュテーションリスク:企業や商品に対する悪い評判や不祥事がSNSやニュースで広がり、会社の信用やブランド価値が下がることで、売上減少や株価下落などの損失を受ける危険性のこと

まず法的リスクについて。日本国内においては、著作権が切れていない作品に基づいてなにかを制作した場合、知的財産法による制限やリスクがありえます。逆に、知的財産権ではカバーされない文化表現の模倣について、これを禁止する一般法が国内にまだないといい、文化財を壊す行為には該当する罪状はあれど、文化を表現・模倣することを直接規制している法律があまりないという実態があります。

北海道のアイヌ民族の文化を保護するアイヌ施策推進法が定められていますが、禁止規定や法的制限は設けられておらず、先住民族の文化表現を利用するさまざまな権利について、裁判例に基づくとまだ直接禁止などに導ける状態にはないとあきらかにしました。

こういった状況を見るに、日本国内においては文化盗用のリスクに関して確立したガイドラインなどがない状況で、深刻な文化盗用・伝統文化の利用に関する固有の法的なリスクはないと、現状を説明しました。

日本とは逆に、海外では法的リスクになる国が多数あり、メキシコ、パナマ、ケニア、インドネシア、ガーナ、台湾、オーストラリア、アメリカ合衆国などには、先住民や伝統文化への権利を保つ法律・規定を置いているといいます。

メキシコの著作権法のなかに、メキシコの文化・アイデンティティを表す大衆文化・伝統文化表現を保護する規定を定めており、これらを利用しようとすると権利をもつ民族やコミュニティから権利を得なければならず、文化省に問い合わせる必要もあると説きました。

くわえて、先住民・アフロメキシカンおよびそのコミュニティの文化遺産を保護する法律も制定されており、文化表現の利用に対して政府の関与やコミュニティの許可を求める仕組みがあります。

パナマ、ケニア、インドネシアでは、先住民の知的財産権を集団的権利として保護し、利用にあたって政府への登録やライセンス取得を義務付ける法律が設けられています。各国ごとに内容は多少異なりますが、伝統文化表現を保護し、違反すると罰則を与えるという内容になっています。

オーストラリアや米国では似たアプローチを採っており、先住民の作品と偽って商品を販売する行為を取り締まるため、消費者保護法や不正表示規制法を用いた保護・罰則が行われていると説明しました。

このように、海外ではこういった法的リスクがいくつもあり、注意しなければいけない場面があると会場に集まった聴衆であるゲーム関係者にアピールしました。

◆社会的リスク・事業的リスクについて

つづいて社会的リスク・事業的リスクについて話を進めました。

先に挙げた事例のように、事業者の社会的評判、その作品やゲームタイトルの社会的評価を低下させる恐れがあり、特定の文化を侮辱してしまう内容や文化盗用も、その文化に属するユーザーや顧客からの信用低下につながり、何らかの経済的損失が出るということはありえるとしました。

そういったリスクが大いに有り得るのであれば、日本のように法的リスクが低い場合でも、なにかしらのリスク管理をしていったほうが良いと促し、いくつかの考え方を共有しました。

まず、キャラクターや音楽などゲームにはさまざまな要素がありますが、制作した際のインスピレーションや参照元となったであろう表現が何であるかを確認する必要があるとし、現代文化であれ伝統文化であれ、その性質によって法的・社会的リスクを検証することが必要だと説きました。

現代文化、もしくは伝統文化に基づく現代の創作であれば知的財産法を、伝統文化であれば国ごとの法律や規定までチェックすることが重要だといいます。

一つのケースとして2025年に問題となったアディダスのサンダルを紹介し、新作として売り出したサンダルが、メキシコの民芸品に類似したデザインと批判され、アディダス側が謝罪した事例をあげました。

このケースが難しいのは、パッと見ただけではそのデザインがその地方特有で、地域に根ざした重要な民芸品だと必ずしも分からない、分からなかったという点です。リスク管理の難しさが現れているケースとして野本氏は取り上げました。

また、参照した表現についての背景や歴史を十二分に理解しているかを確認したり、表現の必要性・適切性について吟味したりすること、その制作物に反発が想定されるか、そもそも間違いではないのかなど、制作者の自己点検も必要だと説きました。

そういった自己点検のガイドラインとして、日本では経済産業省が「ファッションローガイドブック」を公開しており、歴史的な背景や社会的意味をリサーチし、どんな例があったかを把握することを促していると紹介しました。ファッション業界では、文化への敬意を行動で示すことを提示していると話しました。

最後に専門的に取り扱っている人物の意見・監修・考証を受けることで、コントロールやケアができるとしました。


野本氏はまとめとして、リスク管理としてどういうところに多文化の表現が入っているかを確認すること、伝統文化・歴史・宗教などのセンシティブなトピックには注意をすること、法的なリスクを考えて対象となる国が浮かび上がった際には法律のチェックを行なうことをあげました。社会的リスクにかんしても、自分で確認・点検し、他人の意見・指摘を受けることをあげ、リスクへの対応を説きました。

《草野虹》

福島・いわき・ロック&インターネット育ち 草野虹

福島、いわき、ロックとインターネットの育ち。 RealSound、KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、TOKION、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。 音楽・アニメ・VTuberやバーチャルタレントと様々なシーンを股に掛けて活動を続けている。 音楽プレイリストメディアPlutoではプレイリストセレクター(プレイリスト制作)・ポッドキャストの語り手として番組を担当している。

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