
NC CorporationとDynamis Oneがおくる新作スマートフォンゲーム『アストラエ・オラティオ』。
本作は、どこか懐かしさを感じさせるキャラクターデザインと、平成初期のアニメーション作品を思わせる空気感など、随所に“平成レトロ”なエッセンスが散りばめられた新伝奇魔法RPGです。
そんな本作は、2026年8月15日~16日の二日間にかけて開催された「コミックマーケット108(C108)」にも出展し、約160ページにおよぶアートブックをはじめとする、さまざまなグッズが販売されていました。
インサイドでは今回、コミックマーケット108の出展にあたって、来日されたDynamis Oneで本作のアートディレクターを務めるキム・イン氏にインタビューを実施しました。なぜ’89年の東京を舞台に選んだのか、そして同氏が考える「新伝奇」とは何なのか。
キャラクターデザインに込めたこだわりや、長期的な“連載作品”として描く『アストラエ・オラティオ』の展望など、じっくりとお話をお伺いします。

◆“魔法×新伝奇”を描くために選んだ「’89年の東京」
ーー本日はよろしくお願いします。はじめに、本作においてキム・インさんがどのように関わられているのか、改めてお聞かせください。
キム・イン氏:『アストラエ・オラティオ』でアートディレクターを担当しています。アート全体の方向性を決めたり、クオリティを確認したりすることを主に担当しています。
ーー7月に公開されたPVでは、RPGらしいゲーム内容も一部確認できました。発表からまだ半年ほどですが、現在のゲームの完成度は何%ほどなのでしょうか?また、開発はいつ頃始まったのでしょうか?
キム・イン氏:開発は2024年9月からスタートしました。ゲームの完成度についてですが、本作はライブゲームなので、パッケージゲームのような完結性を追求するものではありません。
漫画の連載にたとえるなら、まず「第1話」から連載できるだけのものを用意する、という方向で開発を進めています。そういう意味では、連載を始められる時点に近づいていると言えると思います。

ーー現時点での手応えはいかがでしょうか?
キム・イン氏:難しい質問ですね(笑)。
クリエイターとしては、自分が作っているものに満足できているかと言われると、いつも何かが足りないように見えて、満足できないという渇きがあります。今回の作品についても、そういう部分は常にあると思っています。
それでも、一緒に作っているメンバー全員で共感しているのは、「市場になかったもの」「何か新しいもの」を届けられる作品には到達しつつある、ということです。
ーー本作は’89年の「東京」が舞台であると明かされています。日本のファンとしても嬉しい設定ですが、なぜこの時代を選んだのでしょうか?
キム・イン氏:設定については、私よりもシナリオディレクターのほうが正確に答えられると思います。今回はアートディレクターとしての立場からビジュアルの面でお話しします。
最初に「魔法」と「新伝奇」という二つのテーマが決まっていました。そこで、「新伝奇」というジャンルの魅力を最もうまく伝えられるのはどの時代だろうと考えたときに、昭和末期から平成初期にかけての、アナログレトロがまだ生きている時代が最も適していると考えました。それが、この時代を選んだ理由です。

ーーキム・インさんが考える「新伝奇」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
キム・イン氏:ジャンルとしての系譜をたどれば、『魔界都市〈新宿〉』のような作品まで遡ることになると思います。
ただ、そうした学術的な話というよりも、私個人が「新伝奇」というものに感じている根源的な魅力についてお話しすると、“昼は日常を生きている主人公が、夜は都市の隠された神秘的な世界”へと入っていくーーそういったプロットを持つ作品を、個人的には「新伝奇モノ」と認識してきたように思います。

2000年代初頭のライトノベルなどにもあったと思うのですが、日常を生きる都市の普通の主人公が、自分の知らなかった世界へ入っていき、そこで新しいことを知ったり、危機を経験したりしながら、自分自身を証明していく。そういったところに、広い意味での「新伝奇」の魅力を感じています。
ーー本作のアートデザインやキャラクターデザインにおいて、アートディレクターとして特に意識している癖のポイントや、譲れないこだわりはありますか?
キム・イン氏:私がこだわっているのは、キャラクターたちが、あまりにも着飾った振る舞いやビジュアルでこちら(プレイヤー)に向き合わないようにすることです。
たとえば、モデルがステージの上で作った笑顔を見せるようなものではなく、その世界に実在している人物として、自然に触れ合えるようなものにしたい。それは、個人的にかなりこだわっている部分のひとつだと思います。


これはアートディレクターとして作品全体の方向性を導くうえでの、私なりのガイドのようなものです。一方で、一緒に制作している仲間たちには、それぞれのこだわりがありますので、それは最大限尊重したいと思っています。
たとえばキャラクターの衣装を見るときには、「この服は誰かに着せられたものではなく、このキャラクター自身が選んで着ているように見えるだろうか?」といった問いかけをしながら、方向性を調整しています。
ーーちなみに、現在アート制作に携わっているメンバーは何人くらいいらっしゃるのでしょうか?
キム・イン氏:最近では、アート制作に携わるメンバーは40人を少し超えるくらいになっています。そのうち、キャラクターデザインを担当しているのは8人ほどですね。
ーーPVやキービジュアルでは、夜や夜明けのような印象が強く感じられました。こうした時間帯は、実際のゲームにも関わってくるのでしょうか?
キム・イン氏:アートディレクターとして、夜や夜明けといった時間帯を取り入れている理由については、先ほどお話しした「新伝奇」というテーマがやはり関係しています。
私の考える新伝奇では、日常を象徴するのが昼であるのに対して、戦いや神秘的な出来事が起こるのは主に夜です。そのため、ゲームの中で戦闘を繰り広げる基本的な舞台や時間帯についても、夜や明け方を中心にしたいと考えてディレクションしています。
ーープレイヤーとなる「主任」や「特区庁」のほか、魔法使いとして9人の少女が発表されています。どのキャラクターもかわいらしく、1990年代末から2000年代ごろのアニメを思わせるような懐かしさを感じました。こうした作品からの影響はあるのでしょうか?
キム・イン氏:鋭く見ていただいてありがとうございます。
実際、キャラクターデザインを中心になって担当しているクリエイターたちは、1990年代末から2000年代ごろの作品をたくさん見ながら育ってきた世代です。その時代の作品に感じていた「良さ」を再現したいという思いは、基本的に持っています。
そのため、当時のジャンル作品に見られたようなキャラクターや衣装の魅力は、本作でも伝えていきたいと思っています。
ただ、ここで「この作品から影響を受けました」と具体的なタイトルを挙げてしまうと、映画を見る前に解説を聞いてしまうようなものだと思うんです。ですので、実際に作品を楽しみながら、「こういう作品の良さを取り入れているのかな?」と皆さん自身に想像してもらうほうが、より楽しめるのではないかと思っています。
ーー日本のユーザーからすると、1990年代から2000年代の日本のアニメが、当時の韓国でどのように受け入れられていたのか、なかなかイメージしにくいところがあります。実際、韓国ではどのような状況だったのでしょうか?
キム・イン氏:私より上の世代、たとえば1980年代生まれのクリエイターたちの場合は、当時、韓国で日本文化が制限されていた時期がありました。そのため、日本で放送・連載されている作品にリアルタイムで触れるのではなく、少し遅れて触れることもあって、日本と韓国で流行している作品に違いがあったと思います。
ただ、私がちょうどそうした作品に触れていた2000年代初頭くらいからは、リアルタイムでも日本の作品に触れることができるようになりました。ニコニコ動画のようなサービスも流行し、日本で話題になっている作品と韓国で話題になっている作品に、それほど大きな差はなかったように感じています。
日本で話題になったものを、そのまま韓国でも受け取って吸収していた世代と言えるかもしれません。そのため、「韓国ではこの作品だけが特に人気だった」というものは、今すぐにはあまり思い浮かばないですね。
ーーつまり、現在クリエイターとして第一線で活動している世代は、日本のカルチャーをほぼリアルタイムで受け取ってきた世代ということなのでしょうか?
キム・イン氏:そうですね。だからこそ、現在クリエイティブの最前線にいる私たちが作る作品も、日本のトレンドからそれほど離れることなく、同じ時代の感覚を持ったものになっているのではないかと思います。
これは韓国だけではありません。台湾や中国からも最近さまざまなサブカルチャー作品が出てきていますが、そうした地域でも、同じようなものを同じ時代に楽しんできた世代が、クリエイターとして集まり始めている。その結果として、現在のような現象が起きているのではないかと感じています。
ーー開発チームの中でも、「あのアニメはどうだった?」といった作品についての会話をすることはありますか?
キム・イン氏:もちろんあります(笑)。
毎クール新作が出ると、「これはぜひ見てほしい」と、お互いに自然と作品をおすすめし合うような文化があります。
ーー現在公開されている9人のキャラクターは、勢力ごとに学生やお嬢様など、それぞれ異なる特徴があります。これまでに公開されている「港区少女たちのまほ活」「清蘭同友会」「アキナ怪談研究所」の3勢力には、それぞれどのようなコンセプトが込められているのでしょうか?
キム・イン氏:少し背景からお話しすると、『アストラエ・オラティオ』はパッケージゲームのように完結する作品ではなく、「連載作品」としてスタートすることを目指しています。今後5年、10年と続く長期連載になる可能性もありますから、その場合はビジュアル面での“パワーインフレ”も考えなければなりません。
たとえば『ドラゴンボール』でも、最初は特別だった超サイヤ人が、連載が進むにつれて多くのキャラクターがなれるようになっていきました。そうした長期連載を前提にすると、最初に公開するキャラクターや勢力では、「どこまでシンプルにして、どこまで理解しやすくできるか」が非常に重要だと考えています。

『ポケットモンスター』の最初の3匹も、とても分かりやすくシンプルですよね。それと同じように、まずは『アストラエ・オラティオ』が持つ最もシンプルで簡潔な魅力を伝えたい。それが、今回最初に公開したキャラクターたちの基本的な考え方です。
そのうえで、「港区少女たちのまほ活」は誰が見ても主人公グループらしく、「清蘭同友会」は主人公たちのライバルになりそうなグループとして設計しています。そして「アキナ怪談研究所」は、その主人公とライバルという関係から少し離れた、料理でたとえるなら口直しや食欲を刺激するような、カジュアルなグループです。
最初の3勢力には、そうした基本となる「3つの味」を配置した、と考えていただければと思います。
ーー本作の3Dモデルについてお聞きします。PVを見ると、2Dのキャラクターデザインを3Dへ落とし込むのはかなり難しそうに感じました。開発チームでは、どのような方針で3Dモデルを制作しているのでしょうか?
キム・イン氏:最初に悩んだのは、2Dイラストをメインとする作品で3Dを取り入れるときに、「2Dをそのまま再現するのか」、それとも「3Dならではの魅力を出すのか」ということでした。
当初は2Dをそのまま再現するのがいいのではないかとも考えていましたが、最終的には、3Dには3Dならではの良さを追求したデフォルメやアウトプットがあったほうがいい、という方向で進めています。

たとえば『ストリートファイター』や『ザ・キング・オブ・ファイターズ』のような格闘ゲームでも、イラストと比べて3Dモデルのほうが誇張されている部分がありますよね。格闘ゲームでは、打撃感や画面上での充足感を出そうとすると、イラストをそのまま3Dに移しただけでは、細く見えてしまうなど、ゲームとして物足りなくなることがあるからです。
『アストラエ・オラティオ』にも、重要なキーワードとして「決闘裁判」があります。そこでキャラクター同士がぶつかり合う感覚は、ゲームとしても非常に重要なポイントです。
ですから3Dについては、単純にイラストを再現するのではなく、そうしたゲームシステムやアクション的な見栄えをしっかり成立させられる、3Dならではの魅力を追求しています。

ーーここまで9人の少女についてお聞きしましたが、先日公開された「京都」の着物姿のキャラクターなど、それ以外にもさまざまな人物が登場しています。9人以外のキャラクターについては、どのようなデザインコンセプトを考えているのでしょうか?
キム・イン氏:『アストラエ・オラティオ』が持っている大きな拡張性のひとつは、「大都市・東京」を扱っていることだと思っています。
最初に公開した9人の学生だけを見れば、「学園ものなのかな」「美少女だけを扱う作品なのかな」と感じる方もいるかもしれません。ただ、大都市という舞台の本当の魅力を伝えるためには、「年齢も含めて、ここまで広げられるんだ」という広がりを見せたいという思いがあります。
そのため、先日公開した京都のキャラクターなど、学生だけではなく別の地域にいるキャラクターも登場しますし、年齢層についても、かなり幅広く展開していきます。
大都市で出会えるさまざまな人々、いわば「群像」としてのビジュアルの楽しさを用意しています。ただ、ここであまり先のことまで話してしまうと、かえって楽しみを損ねてしまうと思いますので、今後の展開を見ながら楽しんでいただければと思います。
ーーゲームのリリースに先駆けて、今回コミックマーケットへ出展されました。販売されているアートブックには、具体的にどのような内容が収録されているのでしょうか?
キム・イン氏:まず、アートブックを作ったきっかけからお話しすると、もともとコミックマーケットなどのイベントで販売するために作ったものではありませんでした。
『アストラエ・オラティオ』はオリジナルIPなので、作品について考えている方向性がディレクターの頭の中にだけあるのではなく、一緒に仕事をしている人たちとも素早く共有できるものが必要でした。そのための「マニュアル」として、アートブックという形を取ったんです。
ゲームのリリースが近づいていくなかで、これを自分たちだけで見るのはもったいない、ファンの皆さんにも事前に楽しんでもらいたいと思うようになりました。
今回コミックマーケットで販売したアートブックは、映画でたとえるなら「映画のパンフレット」に近いものだと思ってください。「この作品の基本的な魅力はこういうところにある」「こういうことを知ったうえで楽しむと、もっと面白い」といった内容を収録しています。

ーーアートブックには、ゲーム本編のネタバレにあたるような内容も含まれているのでしょうか?
キム・イン氏:見る人の捉え方によっては、ネタバレと感じるものもあるかもしれません(笑)。
ただ、アートブックに収録しているということは、開発チームの中で「このくらいなら見せても大丈夫だろう」という共通認識ができたものでもあります。
実際のゲームには、アートブックに収録されているもの以上に、さらに面白い物語やビジュアルをたくさん用意しています。ですので、このアートブックは、ある意味では「前菜」のようなものとして楽しんでいただければと思います。
ーーアートディレクターという立場から『アストラエ・オラティオ』で期待している“今後”についてお聞かせください。今回のお話では漫画やアニメのような「連載作品」であることを強調されていました。やはりそうしたゲーム以外の方向へと展開していくことも期待されていますか?
キム・イン氏:私自身、ゲーム開発に携わる以前からさまざまな媒体の作品を楽しんできましたし、同人創作の魅力や楽しさも十分に知っている人間です。
そのため、『アストラエ・オラティオ』についても、ゲームだけのための作品ではなく、ゲームの外でもさまざまな形で楽しめる「原作」としての魅力を、しっかりと持たせたいと考えて設計しています。そこは、私たちがこだわっている部分のひとつです。
実際に本作がリリースされ、さまざまな方向へ展開していくなかで、何より楽しみにしているのは、この原作に対してユーザーやクリエイターの皆さんがさまざまな視点を持ってくれることです。私たちとは違った解釈も見てみたいと思っています。
そういう意味では、最初のオフラインイベントとして、二次創作の聖地ともいえるコミックマーケットに出展したことも、将来的にそうした楽しみが生まれることを期待しているからだと考えていただければと思います。
ーーでは、二次創作についてはかなり歓迎されているということでしょうか?
キム・イン氏:はい、もちろんです(笑)。
ーー最後に、『アストラエ・オラティオ』を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。
キム・イン氏:先ほどからお話ししているように、本作は本当に長編漫画やアニメーションを「連載する」ような気持ちで作っています。
そうした作品には、実際に連載や放送を追いかけながら、そのとき、その瞬間のおまつり感をみんなで共有する楽しさがあると思います。『アストラエ・オラティオ』でも、私たちが用意しているものを、いわば「コース料理」のように、冷めないうちにその時々の盛り上がりと一緒に楽しんでいただけたらと思っています。
今回のコミックマーケットでは、まずビジュアルを中心としたものを用意していますが、今後は東京ゲームショウやCBTなど、ゲームシステムとしてどんなところが面白いのかを体験していただける機会も準備しています。
そうした展開も一緒に追いかけながら、リリースを楽しみにしていただければ嬉しいです。

『アストラエ・オラティオ』は、現在開発中でリリース時期は未定。8月19日から9月21日まで、クローズドβテストの参加募集が実施中です。詳しくは公式サイトをご確認ください。



