(右)JESPA委員長補佐の平方彰氏。電通のスポーツ事業局で数々のスポーツイベントを成功させている人物です
(右)日本代表選手
対戦種目はバスケットボールゲーム『フリスタ!(WindowsPC)』、サッカーゲームの『ウイニングイレブン2008(PS3)』、格闘ゲームの『鉄拳5(PS3)』です。また、エキシビジョンマッチとして、韓国で"国技"と呼ばれるほど人気のリアルタイムシミュレーションゲーム『スタークラフト』の試合が行われ、韓国リーグ最多勝のLee Yun-Yeol選手と女性プロゲーマーのSeo Ji Soo選手が対戦しました。ラストは元ロッテマリーンズの黒木知宏選手と元横綱の武蔵丸親方が『鉄拳5』で文字通りの"異種格闘技対決"を披露。プロスポーツ経験者がEスポーツを体験するというユニークな演出で締めくくりました。
(中)フリスタ! の対戦風景
(右)ヘッドフォンを外し、声で連携する韓国選手
試合に先立ち、JESPA委員長補佐の平方彰氏が挨拶し、このイベントの目的について「ひとつめはEスポーツの日本国内での認知向上とアピールの場です。本日お集まりの皆さんのご協力をお願いします。ふたつめは"脱ゲーマー"。日本ではゲームというとネガティブなイメージがあります。しかし海外では新しいスポーツとして広まっています。欧米では賞金1億円を超える大会があり、韓国ではプロゲーマーが試合を行い、12万人以上の観客を集めています。日本でもゲーマーを脱却し、アスリートゲーマーという言葉を広めたい。これが協会の使命です。3つめは韓国e-SPORTS協会の協力を得て、韓国プロゲーム選手をお招きし、(日本のEスポーツの立ち上げに)華を添えて頂いたことです」と説明しました。日本のEスポーツが本格的に立ち上がることを国内外にアピールし、韓国プロゲームリーグを手本に協会を整備していくための大会と言えそうです。
試合結果からお知らせすると、バスケットボール、サッカー、格闘ゲームのどれも総合得点で韓国チームの勝利に終わりました。韓国側選手はプロとして活動し、毎日数時間も練習しているそうですから、経験の少ない日本選手に勝つことは当然です。しかしこのイベントの意味はゲームの勝敗ではありません。Eスポーツの統括団体作り、選手を育成することの重要さが来場者に伝わること。これが本来の目的です。そして、日本チームはけして惨敗ではなかったことも希望を与えてくれました。サッカーでは2試合のうち1試合は日本選手が勝利しましたし、格闘ゲームでは2対3の1ポイント差でした。日本も協会が活動し、Eスポーツの環境を整備すれば国際試合に勝てるかもしれません。そんな期待を抱かせる試合結果だと言えるでしょう。
(右)5人対5人の戦い。武道の団体戦に準じたルールでした
一般メディアに対するプレゼンテーションとしては、Eスポーツ大会の対戦や観戦の様子を体験するという目的もありました。試合には審判がいて選手を見守り、勝敗の結果を審査してスコアにサインをすること。試合の様子は実況アナウンサーと解説者がいて、観戦者にもゲームのルールや見所、選手の様子などが解りやすく伝わること。Eスポーツを通じて日韓の選手が戦い、握手する場面を見れば、Eスポーツが従来のスポーツと同じくドラマチックであり、国際交流の役目も果たすなど、文化として可能性の多いものだと伝わったのではないかと思います。来場者はスーツを着たビジネス関係者や、いままでのゲーム大会の取材では見られないようなテレビニュース、スポーツ新聞の記者の姿もありました。
とくにサッカーゲームについては、実況解説者として元Jリーガーの波立紀夫氏が登場し、スポーツメディアの注目を集めました。波立氏はベルマーレ平塚などで13年間の選手生活を送り、現在はフリーアナウンサーとして実際のサッカーの実況中継を担当しています。ご自身もゲームに詳しく、本日の実況でははまり役でした。こういう人がEスポーツに関わってくださることが、今後の日本のEスポーツにとっては重要です。「本物そっくりですね!」と観戦を楽しみつつ「オフサイドが解りやすくていいですね。でも、これだけ選手が動いたらヘトヘトになって、次の試合じゃ使えないよ」などと笑いつつ、実際のサッカーの状況も交えて解説してくださいました。ゲーム上で動く選手の名前、それを動かすゲームプレーヤーの名前を巧みに使い分けた実況は見事でした。Eスポーツ大会が盛んに開かれると、今後も波立氏の実況を聞けるでしょう。そんな時代の到来が楽しみです。
(右)日本チームのゴールシーンに会場が沸く
Eスポーツに関心を持つゲームプレイヤーも申し込みによって見学できたようです。実は、韓国プロゲーマーが公式に日本で活動する機会は今回が初めてでした。ゲームプレイヤーの関心は韓国の"プロの戦い方"です。バスケットボールでは日本チームはチャットで仲間を励ましながら闘います。しかし韓国選手はヘッドフォンを外し、積極的に声を出してチームプレイを心がける様子が印象に残りました。
エキシビジョンマッチの『スタークラフト』では、韓国プロ選手の手さばきに見とれてしまいます。男性選手のLee Yun-Yeol選手は最多勝記録保持者で韓国プロゲーマー年俸第一位、ゲーム大会の最多優勝数記録を持つ三冠王。"天才テラン"と呼ばれている彼は右手でマウスを小刻みに動かします。その動きは必要最低限で、時にはダイナミックにスライドさせつつ、要所でピタッと静止。人さし指が左クリック、中指がスクロールボタン、薬指が右クリックと完全に分担されて、クリック後はすみやかにマウスの移動に移りました。左手はピアニストのように動き、リズミカルにコマンドをタイプし続けます。
これは女性プロゲーマー最多勝記録保持者の"女性皇帝"ことSeo Ji Soo選手も同じ。これらの操作の間、両選手の目は画面からまったく離れません。Seo Ji Soo選手の目はほとんど瞬きをせず大きく開き、丸く整った顔をさらに美しく輝かせました。キーボード上で踊る紅いマニキュアと白い指の動きも美しい。まるで水揚げされたばかりの白魚のようです。女優やモデルとは違った勝負する女性の美しさを感じます。そんな女の子が、プロリーグ最多勝の男性選手と互角に戦っています。この姿は男性の視線も釘付け。女性も憧れるのではないかと思いました。ちなみにSeo Ji Soo選手の弟はタレントとして活躍しているそうです。韓国一の人気姉妹、といったところでしょうか。
(右)Lee Yun-Yeol選手は物量作戦で観客に見せ場を提供してくれました
今日の対戦は韓国プロゲーマーの男性代表対女性代表の戦いでした。両選手とも真剣な勝負をしつつ、日本にゲーム競技を紹介するという目的に配慮し、見せ場を作る戦いをしてくれたようです。Lee Yun-Yeol選手はふだんはテランという種族を使いますが、今回はテランをSeo Ji Soo選手に譲り、プロトスで闘いました。韓国メディアのインタビューによると「ザーグは血が飛び散るような部分があるので、見栄えに配慮してプロトスにした」そうです。こういう配慮ができてこそプロと言えるのでしょう。
『スタークラフト』の実況と解説は韓国eスポーツ協会審判長のユ・ドゥハン氏と競技局長のイ・ゼオン氏でした。ふたりとも立派なおじさんです。おじさんにゲームが解るのか? 解るんです。ゲーム序盤に『スタークラフト』というゲームを完璧に説明してくれました。リアルタイムストラテジーゲームは一言で説明するには難しい分野ですが、その説明は実に的確です。また、実況も的確でわかりやすいものでした。そして、彼らのような大人がゲームやゲーマーを理解し、しっかりと見守っているからこそ韓国のプロゲームは成立し、発展してきました。
ふたりは実況の間に韓国のプロゲーム事情についての解説も行いました。現在、韓国には400人以上のプロゲーマーが活動しています。女性プロゲーマーのSeo Ji Soo選手はSTXという造船会社のチームに所属しています。韓国でプロゲームチームを運営している会社は、若者向けの商品を扱う企業が多いのですが、STXは商品広告ではなく、企業イメージアップの手段としてプロゲームチームを運営しています。STXは韓国で9番目に大きな会社で、こうした堅い大きな会社もEスポーツに注目しています。『スタークラフト』は韓国で1999年に流行し、当時500店舗ほどだったネットカフェを100倍以上も引き上げた立役者です……。こうした話はゲーム観戦をしながら聞くにはもったいない内容でした。特に企業がプロゲームチームを運営する仕組みなどが興味深く、きちんとしたプレゼンテーションをお聞きしたいところです。
12時30分から18時までと5時間以上に渡ったせいか、途中で退出していく人もいて、3/1ほどの空席ができたことが気になりました。しかし、総じてEスポーツのエッセンスをまんべんなくプレゼンテーションできたように思いました。Eスポーツに初めて触れた日本人の印象は、最後にゲストとして登場した武蔵丸親方と、元ロッテマリーンズの黒木知宏選手の対戦のコメントに現れたようです。ゲームを初めてプレイしたという武蔵丸親方は「手が大きすぎて、どうしてもひとつの指でボタンをふたつ押しちゃう」と笑いながらも黒木知宏選手に善戦。しかし残念ながら負けてしまうと思わず「もう一度やりたいなあ!」とアスリートとしての意地を見せます。。一方、黒木知宏選手は「若い選手たちはゲームが好きみたいだけど自分はさっぱり」と言いつつも、試合後は「おもしろいですね。これから本体を買って(笑)練習して、Eスポーツの仲間入りをしたい」と語りました。武蔵丸親方の「そりゃあ勝ちたい気持ちはあるよ!」というコメントは、ゲームを競技として認めたと捉えて良いように思いました。
『eスポーツ日韓戦』は土曜の夜から月曜の朝にかけて、テレビのワイドショーやニュースショー番組で紹介されたようです。Eスポーツが一般のメディアで広く紹介されるという目的は達成できました。来年は日本eスポーツ協会の設立と、さらにEスポーツを広めていくための日本公式リーグの設立が重要なテーマとなるそうです。今後もJESPAの活躍に期待しましょう。来年の流行語大賞に『Eスポーツ』が選ばれるといいですね。