■開発の裏側を聞く
―――今回は『忌火起草 解明編』に続いてWiiのプロジェクトとなりましたね
中嶋: 実はチュンソフトのチームは既に『428』にかかりっきりだったこともあって、『忌火起草 解明編』の開発は外部の会社にお願いしたんです。我々のチームとしては実質的にWiiは初めての経験でした。
―――今回、CRIの製品としてはCRI Audio(効果音)、CRI ADX(BGM、ストリーミング)、ファイルマジック(ファイルシステム、圧縮・パッキング)、CRI Sofdec(動画)といったところを採用いただいたと思うのですが、これらを採用して一番良かったのはどういうところですか?
沖邊: 一番良かったのは、どれもマルチプラットフォームをうたわれているところです。『忌火起草』も『428』も、最初からプラットフォームがきっちり決まっていたわけではなくて、当初はPCベースで制作して、それをプラットフォームが固まった段階で順次移していくという開発手法を取りました。そうしたとき、同じデータを使えるというのはとても大きいですよね。
―――まず音ですが、今回はドルビー プロロジックIIにも対応していますね。そのあたりのこだわりを聞かせてもらえますか?
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沖邊: 実際に作業したのはダイマジックさんのチームですが、ミックスやマスタリングが素晴らしい方が集まっているので、プロロジックIIでも屈指の音を聴いてもらえると思います。ぜひ実機でそれを体験してもらいたいですね。
―――効果音の作り方はホラーとはまた違うと思うのですが、こだわりがあれば聞かせてください
沖邊: 一つにはイシイから言われたことで、「〜編」(キャラクター)によって効果音も音楽も印象を変えた作りをしています。たとえば、タマ編だったら明るくポップに、大沢編だったらシリアスサウンドを増やしてという風にです。その分、数は増えるのですが、効果音やBGMにもそういう”色”をつけた方が面白んじゃないかという発想で音作りをしていきました。
イシイ: 『忌火起草』と違うのは、今回は声を入れなかったということですね。顔が出ているところに声を入れるのは実際に試してみたのですが、どうもしっくり来なかったので、今回は声はやらない、そこはSEやBGMに頑張ってもらうということにしました。サウンドノベルの主役は「音」だとプレッシャーをかけながら(笑)。
中嶋: 音の制御は『忌火起草』で鍛えられて、かなり技術的にも進歩したと思います。ここでも、CRI AudioやADXが役に立ちました。
―――演出面ではいかがでした?
沖邊: 今回は演出に、CMや映画で監督をされている方に参加していただいていて、私たちがゲームで慣れている手法と、その方が普段やっている手法の違いに驚いたことはあります。例えばゲームでは音楽のフェードアウトは操作性を優先してシステマチックに処理しがちですが、映画では演出的にもっと細かなカーブを描くといったことです。ゲームと映画の違いでもあると思いますが、演出面については刺激をもらって色々と考えさせられましたね。
■メニュー画面でアルファムービー(CRI Sofdecの機能)を使用
―――少し遊んでみて、メニュー画面は「動画」を使っているんじゃないかと思ったのですが
金田:最初にイシイの方から「メニューを豪華にしてくれ!」とリクエストがありましたので。メニューの表示中は本篇に繋いでいくためにウラで色々な処理や読み込みが発生しているのですが、メモリをギリギリまで使って実現しています。
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―――キャラクターのアニメーションはアルファムービー(※)ですよね?
金田: 良くお気づきになりましたね!背景にもムービーを流して、その手前に背景を抜いたキャラクターのムービーを流しています。メモリはかなり厳しくて、デザイナーさんにムービーを調整してもらったり、ビットレートを下げたりトライ&エラーを繰り返して何とか形にすることができました。
※アルファムービー・・・CRI Sofdecの一機能。ムービーに透過値を持たせて“抜き”のあるムービーを作り、背景画と自然に融合する手法。
イシイ: メニューは「ゲームの顔」になるので、クリエイターとしてわがままを言わせてもらったところです。時間はかかりましたし、何度か自分でもリテイクを出しましたが、その結果として素晴らしいものになったんじゃないかと思います。
―――ゲーム中でも要所要所でムービーが入りますね
金田: はい。ただ、PS3版『忌火起草』でCRI Sofdecは使い込んでいたので、ムービーのビットレートやムービー再生中のデータの裏読みなどについては特に苦労はなくスムーズにできましたね。
―――ちなみにムービーのビットレートはどの程度ですか?
金田: 大体4Mbpsから5Mbpsといったところです。最初はもうちょっと高いレートで試していたのですが、ディスク容量も楽ではないことが分かってきたので、演出さんの顔を伺いながら徐々にビットレートを下げていきました。もちろん、炎のようなアラが出やすい内容は高めのビットレートを設定しています。
―――静止画もかなり綺麗に再生されている印象でしたが
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容量に関しては、今回のプロジェクトの初期から使っている「ファイルマジック(※)」の圧縮に助けられました。『忌火起草』の頃はまだファイルマジックはなくて、AFS(CRI ADXに標準搭載されているファイルシステム)を使っていたのですが、ファイルマジックに移行するのはファイルシステムだけを入れ替えるようなイメージで、そんなに手間無く出来ました。
※ファイルマジック・・・ファイルを圧縮・パッキングするシステム。現在はディスク上のファイル配置の自動最適化やパッキングファイルへの追記など多数の機能を追加し、「ファイルマジックPRO」として好評提供中。
―――ゲーム中のロード時間が短く、ストレスを感じなかったのですが、そのあたりで工夫されている部分はありますか?
金田: データは登場人物のシナリオを1時間単位でパッキングしています。ロード時になるべくシークが発生しないように、10時のシナリオと11時のシナリオに同じ音楽データがあれば、それぞれのパッキングファイルに音楽データを含めるという形にしました。ロードに関してはストレスないものに仕上がったかと思います。
―――その他に工夫された部分はありますか?
金田: 画像については、圧縮テクスチャーで圧縮したものを、さらにファイルマジックで圧縮とパッキングをしています。最終的にディスクを残り100MBもないくらいまで使ったので、「ファイルマジック」がなければ入りきらなかったですね。
―――パッキングは大変でしたか?
金田: 全てのファイルを一つにまとめるのは、自動とはいえかなり時間がかかりましたね。
沖邊: ファイルを更新するたびにパッキングが必要になりますので・・・。
―――実は最新の「ファイルマジックPRO」ではファイルの圧縮&パッキング後の追記に対応しているので、かなり楽になっていると思います。
沖邊: 便利になりましたね!次回からはぜひ使ってみたいと思います。
■最後に
―――最後に恒例ですが、ゲーム開発者とゲームプレイヤーの皆さんに一言ずついただけますか? まずは他のゲーム開発者の方にお願いします。
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金田: 開発者同士の交流がもっと日本でも盛んになればいいなと思っています。今のところ、まだまだだと思いますが、個人的にもCEDECなどに参加するのが好きで、そういった場がもっと増えてくるといいなと思っています。
イシイ: 僕はずっと3Dではない、テキストアドベンチャーを作ってきました。その中で、音をどうインタラクティブに組み合わせていくかということに挑戦してきて、その究極的なものが今回完成したと思っています。後はどう評価してもらえるかも気になるところですが、音楽も、SEも、プログラムも全て最高の、今後のベンチマークとなる作品に仕上げたつもりです。逆に業界の皆さんは、まだまだこんなもんじゃないと、もっと先を行くもので競争ができればと思います。
―――それでは最後にゲームをプレイするお客さまに一言ずつお願いします
寺田: プログラマーとしても頑張って色々な音や映像を詰め込んだ作品です。ぜひサラウンドで遊んでみて欲しいです。コントローラー操作もみんなで話し合って考えて快適なものになったと思います。ぜひフリースタイルの片手操作を楽しんでください。
金田: 自画自賛になってしまいますが、本当に隙のないゲームになったと思います。ローディングがゲームの邪魔をすることもないですし、丁寧なチュートリアルもついています。あとは買ってさえいただければ間違いのないものになっています。沢山の方の目に触れればいいなあと思っています。よろしくお願いします!
沖邊: 『忌火起草』同様、効果音制作頂いているダイマジックさんは、ハリウッド映画のメイキングであるような、砂の上を歩いたり、走ったり、扉を開いたりといった音を収録できるフォーリースタジオを持っています。今回も基本的にはフォーリーで全て新しく収録した音素材を使って、効果音作りをしています。ぜひ音の質やクオリティを楽しむためにプロロジックIIで遊んで貰えればと思います。また、業界全体でもいい音にコストをかけて作り、効果音の地位と質の向上ができればと思います。
中嶋: 先ほどのイシイの話と重複しますが、サウンドノベルとして色々な作品を作ってきた中で、その集大成であると自信を持って言えるタイトルになりました。音楽とSEのクオリティやそれぞれの音量バランスなど、細部に至るまで丁寧に調整しています。サウンドノベルの新しいスタンダードを是非一度体験してみてください。
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―――ありがとうございました!
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12月3日 チュンソフトにて |
株式会社CRI・ミドルウェア
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